異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
第二次実験で赤い海へと赴いた私、陽炎と実験部隊。以前よりも防衛線は本拠地寄りに下がってはいたが、赤い海自体は拡がっており、これならば戦闘すら行なわずに実験を終わらせられると思っていた。
しかし、現実はそんなに甘くない。防衛線からは何も無かったが、突然の殺意の篭った視線を感じたかと思ったら、撤退する間も無く眼前に深海棲艦が立っていた。
「オ前達、ココニ何シニ来タ」
その深海棲艦、戦艦レ級は冷静にこちらに問うてきた。知っているレ級とは違う、まるで
元々知性を持っている戦艦レ級という脅威はあった。それは、気が狂ったような笑い声と言葉で、戦うことにだけ知性を偏らせているようなモノだった。しかし、今目の前にいるレ級はそれとは一線を画している。賢いとかそういう問題ではない。表情すら違った。知性がありすぎる。
だからだろう、誰もが構えることが出来なかった。まるで太陽の姫の巫女と対面したときのような緊張感に支配されて、動くことが出来なかったとも言える。あちらが殺意はあれど攻撃の姿勢を見せていないため、この状態で膠着状態に。
「マァ、ドンナ理由ガアッテモ関係無イケドネ。僕達ノ縄張リニ入ッテキタンダ」
レ級特有の尻尾のような艤装が正面に構えられた。その口内からは戦艦の主砲が現れる。瞬間、全員が一斉に臨戦態勢へ移行。ここで確実に撃ってくると理解したことで、射線上から離れることに全力を尽くす。
「ドウセ、死ヌコトニナルンダカラ」
そして、予想通りぶっ放してきた。こんな間近なところからでも当たり前のように。
すぐに反応出来たおかげて、直撃どころか掠ることも無かった。衝撃は相当なものだったが、怪我に繋がるようなことにはなっていない。危なかったのは小さいが故に衝撃にも弱い松輪だったが、あちらの思惑に気付いた時点で手を繋いで一緒に回避したので無傷。
「撤退に専念するよ! こんな奴に構ってる余裕なんて無いんだから!」
幸い、防衛線から援軍がやってくることはない。レ級1体のみで実験部隊全員を相手取ろうとしている。それならば、まだ逃げ切れる可能性はある。
かなり前な気がするが、同じようにレ級に追われて撤退をする時があった。あの時は、逃げながら鎮守府に連絡を取り、戦艦を含めた重量編成の援軍を待った。今回もその方向で行くはずだ。
「逃ガスワケ無イデショ」
だが、その声が聞こえた時には、レ級は私達の撤退しようとする進路を妨害するように立ち塞がっていた。
まただ。また動いた瞬間がわからなかった。私の『蜃気楼』のようなものだとは思うのだが、言っては悪いが巫女でも無ければ姫ですらないイロハ級の動きではない。そもそもが姫より強いイロハ級とは聞いているものの、ここまででは無いはずだ。それがどれだけ知性があろうとも、これは明らかにおかしい。
「アイツ……まさか、
「ちょっ、それって」
「あのレ級、
衣笠さんがそこに気付いた。私もそこに辿り着いた。あのレ級、元人間とかではなく、この赤い海で生まれた怨念の塊とも言える深海棲艦に対して分霊された形だ。
この赤い海では、少数ではあるもののレ級すらも無限に湧いていた。そのうちの1体が太陽の姫の手で分霊され、元人間とは違った形の巫女にされているのだと気付いた。
分霊によりさらなる知性を得て、もう人間とは見紛うばかりの成長を遂げてしまっている。太陽の姫の一部を体内に取り込んだようなものなのだから、あの気質を引き継いでいてもおかしくはない。
「アア、ソウダヨ。僕ハ姫カラ分霊サレタ」
海面に擦らせるように尻尾を大きく振り回したことで、大きな波が発生した。姿を全て覆い隠すほどの大波は、駆逐水鬼の使ってくる水飛沫をさらに激しくしたようなもののように見えた。
ということは、この波の向こう側から攻撃が来る。先程の砲撃かもしれないし、自ら突撃して近接戦闘を繰り出してくるかもしれない。どう来てもおかしくない状態ではあるのだから、止まっていてはやられるだけだ。
「僕ハ、日没ニ現レルモノ、『黄昏』」
弾けるように波が吹き飛んだと思った瞬間、巫女と化したレ級、『黄昏』が一番手近だという理由で私の眼前に現れた。こういう動きは駆逐水鬼と殆ど同じ。
「『陽炎』ダロ、オ前。知ッテルヨ。最初ニ見初メラレタモノ。巫女ダッタノニ、今ハウチノ姫ノ天敵ダ」
「よくわかってんじゃん」
「全部、姫ニ教エテモラッタンダ」
近くにいた松輪を押し出すように『黄昏』の攻撃範囲から外し、超至近距離での一騎討ちの様相へ。
あちらの方が火力が高いのはわかっている。尻尾の薙ぎ払いは出るのが遅い分、直撃を貰えば重傷は免れない。主砲は速攻で出て致死率も高すぎるくらいの威力。それ以外にも魚雷も爆雷も持ち合わせている。航空戦すらやってのけるのがレ級だ。
何が来ても回避する意気込みで、まずは脱力。自然体によって、あらゆる状況に対応する。それが知らない攻撃だった場合は危険だが、レ級の行動は一応全て知っているのだから、対応出来るはず。唯一の怖いのは、距離が近過ぎることだ。
「ッフ……!」
飛んできたのは、やはり尻尾の薙ぎ払い。長さもあるので至近距離でやられると回避がかなり難しい。咄嗟に後ろに下がっても、尻尾の先端が脇腹に直撃するような距離だ。
正直殴れば届くような位置だった。それでもあえて尻尾を使ってきたということは、それなりに慎重に戦っているということなのだと思う。なるべく避けづらいところをその場で判断出来るくらいに知能が高い。
ならば回避するしかあるまい。脱力回避のさらに上、『蜃気楼』による緊急回避。アクィラさんに教えてもらった弱点を克服するため、移動する方向を見るわけでもなく、完全に
結果、私だけは赤い海に深く入ることになってしまう。まぁこれは仕方ない。あの一撃に当たるよりは全然マシ。どちらかといえば、孤立する方が問題。仲間達はもう赤い海から抜け出てくれたが、私だけはより奥の方に行ってしまった。
「当タラナイカ。ワカルヨ、巫女ハ
薙ぎ払いが力業で私の真正面で止まった。遠心力に振り回されることすらなく、ピタリと私に照準が合った。あんなこと、深海棲艦の身体で無ければ出来やしない。
撃たれると思った瞬間に脱力。連続使用は下半身への負荷がかなりキツいが、サポーター代わりのインナーを身につけたままなので、二度三度の連続使用くらいなら脚は耐えてくれる。
しかし、私に照準を合わせていたはずの『黄昏』は、主砲を放つことなく移動していた。私に構っていると見せかけて、撤退を目論んでいた私の仲間達の方にも目が行っている。
回避は不発だが、次に向かう場所へ『蜃気楼』を使って突っ込む方がいい。アイツの動きはまだ読めない。
「オ前ハ『空』。僕ノ前ニ見初メラレタモノ。陽炎ノ覚醒ヲ促シタ、
次のターゲットは沖波。私と同様に巫女の経験がある分、奴からは狙われやすいということなのかもしれない。
私の時のように眼前に立ち、今度は尻尾ではなく手を伸ばす。分霊するわけでもなく、捻り潰すために首を狙って。
だが沖波だって巫女にされた苦い経験からその時の技を再現出来るように努力している。手を伸ばされたくらいならば、沖波には当たらない。紙一重で避け、その手は空を切る。
「その程度なら当たりません」
そしてお返しとばかりに殆どゼロ距離で砲撃。いくら『黄昏』が戦艦であり、強靭な肉体を持っているとしても、あの距離ならまず間違いなく致命傷になる。
「僕ニモソレハ当タラナイ」
しかし、放った瞬間にその砲撃は
一度ならず何度も見ているその回避方法でも、レ級がやってきたとなると話は変わる。眼前でそれを見てしまった沖波は、驚きで一瞬動きが止まってしまった。『黄昏』はその瞬間を見逃さない。
「オ前ハ、陽炎ト同ジクライ危険視サレテイルンダ。ミンナココデ死ヌケド、オ前ハ優先順位ガ高イ」
「殺させて堪るか!」
もう一度手を伸ばそうとしたため、『蜃気楼』による高速移動で『黄昏』へ接近。勢いそのままに体当たりでもなんでもして、沖波から突き放そうと画策した。いくら戦艦だろうが、私自身がぶつかりに行けば体勢を崩すはずだ。
だが、『黄昏』はそこまで読んでいたようだった。私が沖波を助けると理解した瞬間、またもやその場から消えていた。
いや、消えたのではない。
音もなく、海面に波すら立たせず、気付けば上。私のやる高速移動を、横ではなく縦にやることで、そんな芸当をやってのけている。跳ぶというのはレ級の常套手段なのかもしれない。
先程に何度かあった、いきなり私達の目の前に現れるというのはおそらくこれだ。跳んでいるから視界から消え、気付いたら降りてきているようなもの。全員を跳び越えてきているのだから、突然眼前というのもわからなくはない。
「ッハ!」
そして、真下に向けて凶悪な砲撃。そこにいるのは当然、私と沖波だ。戦艦主砲による直撃コースの砲撃を上から受けるなんて聞いたことがない。
ここに陸奥さんや霧島さんがいれば、空中を撃退するなんてことが出来たかもしれないが、今の私達には相当難しい状況だ。火力が無いために迎撃すら弾かれる可能性は高い。
「沖波!」
「避けられるよ!」
回避だけなら出来る。あんな砲撃、直撃どころか掠ってもまずい。沖波の紙一重の回避は、火力が高い相手には少し不利だ。だから、撃たれたと思った瞬間に散らばるようにその場から離れる。
砲撃が着水した瞬間、とんでもない水柱を作ることになったが、回避行動が早い段階で出来たおかげでノーダメージ。海面が大きく揺れるが、この程度なら回避行動は妨げられない。
そして、今度は別の手段の対処法。上にいるのだから、当然『黄昏』は見上げる位置にいる。つまりそれは、
「空にいるのなら、僕が撃ち墜とす!」
砲撃が私と沖波を狙っていたため、他の仲間はフリー。故に、ここで動き出すのは初月である。艦載機を撃ち墜とすかの如く、全力の対空砲火を『黄昏』へとぶちまける。
空中で身動きが取れないことなんて、今までに何度も見てきているのだ。これまでのレ級はそれで倒されてきたようなもの。ならば今回も。
「
対空砲火に合わせて、今度はあの尻尾から尋常ではない数の艦載機が溢れ出た。深海棲艦特有のドローンのような挙動をする艦載機が、まるでカラスの群れのように『黄昏』の前に集合して、対空砲火を全て防ぎ切る。何機も墜としたが本体には届くことなく、結果的に海面に降り立つまでの時間を与えてしまった。
だが、今度はまた別ルートからの攻撃。こうやって戦っているのは何も海上にいる者だけではない。現状がこうなっていることを衣笠さんから伝えられ、海中でヒトミも動いていた。
降り立った瞬間を狙った雷撃。潜水艦の魚雷は私達が扱えるものよりも強力なものであり、威力がかなり高い。ヒトミの持つものは当然それだ。
「潜水艦ガイルコトモワカッテル」
しかし、対潜攻撃すらも出来る『黄昏』には通用しなかった。降り立つ寸前のところで爆雷を放り込んでいたのだ。魚雷が届く前に破壊され、水柱が立ったものの『黄昏』は無傷。むしろその姿が水柱によってさらに見えなくなってしまった。
「逃ガサナイッテ、言ッタヨ」
こうやって戦っている間にも、ここでは一番分が悪い松輪は由良さん付き添いの下で戦場から離れようとしていたのだが、『黄昏』はそこに目を向けた。誰1人として逃がすつもりは無いと、即座に2人の前へと移動し、主砲を構えていた。
今の私からは少し遠く、『蜃気楼』による高速移動でも届くかはわからない。だが、やらなければ2人の命がまずい。出来る限り速く、私は海面を蹴った。
「マズ、2ツ」
しかし、私の移動が間に合う前に、由良さんと松輪を狙った砲撃が放たれてしまった。
先日、またもや支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/88243974
MMD静画のアイキャッチ風沖波。視線の先にはひーちゃんがいるのかな?