異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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圧倒する悪夢

 赤い海で撤退を妨害してきた戦艦レ級。それは自ら太陽の姫に分霊された巫女『黄昏』であると名乗った。巫女であることを証明するかの如く、酷いスペックをこれでもかというほど見せつけてきた挙句、隙をついてこの戦場から離脱しようとした由良さんと松輪を狙って眼前にまで移動してしまった。

 私、陽炎からは少し遠く、『蜃気楼』による高速移動でも届くかはわからない。だが、やらなければ2人の命がまずい。出来る限り速く、私は海面を蹴った。

 

「マズ、2ツ」

 

 しかし、私の移動が間に合う前に、由良さんと松輪を狙った砲撃が放たれてしまった。

 どうやっても直撃コース。由良さんがその身を挺して松輪だけは守ろうと、抱きつくように覆い被さった。せめて艤装で守ろうと背中を向けたのはわかったが、あの威力の砲撃は軽巡洋艦の艤装では耐え切れるとは思えない。このままでは由良さんは確実、最悪松輪も纏めて超火力に呑み込まれる。

 

「ダメぇーっ!」

 

 それをどうにかしたのは、私達の砲撃でもなく、当然由良さんや松輪でも無かった。唯一、私達の視界に入っていない仲間、ヒトミだ。

 

 魚雷を破壊されてしまった後、海中を限界の速度で駆け抜けて『黄昏』の真下にまで移動していた。本当にギリギリ、放った瞬間に『黄昏』の足下に体当たりを仕掛けていたのだ。

 魚雷では間に合わないと考え、自ら突撃することで最高速のまま『黄昏』の攻撃を僅かにズラした。放とうとした瞬間だったおかげで、『黄昏』はヒトミにまでは対応出来なかったのも大きい。

 

 しかし、放たれてしまった砲撃は止まらない。直撃コースからは辛うじてズレたかもしれないが、由良さんの半身を抉るかのように砲撃は通過した。

 

「っあっ……っ!?」

 

 明らかにまずい音だった。衝撃で骨も折れ、インナーで守られていた肌もズタズタ。余波で艤装もバチバチと電気が走るくらいに破損。幸いにも腕が無くなるようなことは無かったにしても、由良さんの半身は真っ赤に染まっていた。

 それでも、松輪を守りきっていた。衝撃でフラついてはいるものの、由良さんのおかげで松輪は無傷だ。

 

「松輪ちゃん……大丈夫……?」

「ゆ、ゆら、おねぇちゃん……まっか……に……」

 

 もう由良さんは満身創痍だった。それなのに、松輪を守ろうとずっと抱きしめて、『黄昏』からの盾になり続けていた。

 

「ふざけんな……!」

 

 由良さんへの砲撃には間に合わなかったが、『黄昏』をその場から退かすために砲撃を放った。私だけではない。『心眼』によりその隙をつこうとしていた菊月も、この中では一番火力が出る衣笠さんも、みんなが2人を救うために撃っていた。

 私達の放った砲撃で『黄昏』はその場から離れていたが、由良さんはその場から動けないでいた。松輪はそんな由良さんに抱かれ、震えるしか出来なかった。

 

「マァ、ソノ内死ヌデショ。放ッテオイテ、次ニ行コウカ」

 

 そんな由良さんを一瞥した後、もう用は無いと足下から現れたヒトミに対しての対潜攻撃を始める。ありったけの爆雷が海中へと落とされ、逃げ道を潰すかのようにばら撒かれた。だが、ヒトミならあの程度の対潜攻撃は回避出来るだろう。そこは殆ど心配していない。

 問題は全て由良さんに集約している。このまま放置していれば、まず間違いなく命を落とす。ダメージがあまりにも大きすぎる。しかし、そこに『黄昏』がいたままでは撤退すら出来ない。すぐに入渠が必要なのはわかっているのに、鎮守府までは遠く、さらには逃げ道すら封じられている。

 

「潜水艦ハ面倒ダネ。ナライイカ。先ニ陽炎ヲヤッテオコウカ」

 

 限界が近い由良さんを放って、『黄昏』は私の眼前に現れた。この中で真っ先にやっておかなければならないのは私であると理解して、この状況でも任務を遂行するべく私を狙ってきた。

 そうする理由は理解出来る。太陽の姫の巫女としては順当なやり方だ。手近から片付けつつ、持てる力を全て使って私達を全滅させる。最優先は私かもしれないが、この場から逃げようとする者は優先順位が変わる。誰1人として逃がさないという信念が見て取れた。

 

 だが、私としてはそんなこと関係無い。由良さんをああした怒りが、恨みが、憎しみが、私を動かした。脱力による移動では無い。無意識下での移動に近い。感情に任せて『黄昏』を撃っていた。

 

「オット」

 

 それも簡単に擦り抜けられる。自分が出来るのに思うのはなんだが、こういう時にこの回避方法は厄介極まりない。特に今は冷静でいられない状況だ。ムキになろうなんて思ってはいないが、由良さんの状況を考えると手が怒りで震えてくる。

 そんな私の感情を読み取ったのか、『黄昏』は鼻で笑いながら私に向かって言い放ってきた。

 

「マサカ、仲間ガヤラレタコトガ気ニイラナイノカ? 僕達ノ仲間ヲサンザン殺シ回ッテ、姫カラ巫女モ奪ッテオイテ。オ互イ様ダロ」

 

 大本営と教団の繋がりのことがあるのだから、あちら側にも正当な理由があるのかもしれない。それこそ、私達の方が大きな罪と言える程の何かが。まだ全容が掴めていないのだから、細かいことは私にもわからない。

 だが、それを言うならこちらにも言い分はある。巫女はそもそも全く無関係な人間だし、無関係な私達の家族を皆殺しにしているのだ。その上仲間をやられれば、気に入らないに決まっているだろう。

 

 復讐の連鎖であることは理解しているが、今の私にはそんなことを弁解する余裕が何処にもない。朦朧としている由良さんと、泣き叫ぶ松輪を見ているだけで、『黄昏』に対する憎しみが膨らんでいく。

 

「なら、アンタが殺されても文句は無いね」

「殺シ合イナンダカラ文句ハ無イナ。僕ハ死ナナイケドサ」

 

 限界まで感情を抑えて、せめてもの強がりを言い放つが、『黄昏』からしたら何も痛くない言葉だったようだ。

 

 その死なないという意味がどういう意味で取ればいいのかは理解し難いが、自分は強いからお前達になんて負けないという意味ならば、こちらを見くびり過ぎなのでは。

 しかし、それほどに実力があることも確かだ。今までの動きから、全ての巫女と分霊の力を持っているようなスペックだ。私1人じゃ確実に敵わない相手。回避をし続けても最終的にはジリ貧になるだろう。

 

「慢心ハシナイ。ココデオ前達ニハ死ンデモラウ。ココニ来タカラニハ、逃ガスワケニハ」

「アンタに構ってる暇は無いんだ!」

 

 避けることはわかっていても、最低限ここから何処かに行ってもらわなければ困る。

 手持ちの主砲を乱射して、最低限ここから違う場所に行ってもらうことを望むが、あの擦り抜けはそんなことでは止まらないことくらい理解している。だから、この砲撃は牽制だ。『屈折』も今はしづらい状態なので、まずは『黄昏』のスペックの全容を知らなくてはいけない。

 

「ソンナモノガ当タルトデモ? 元巫女ガ笑ワセルナ」

 

 当たり前のように擦り抜け。それは構わない。どれだけ擦り抜けてもいい。これを今この場で、()()()()()()()()()()ことに意味がある。

 

 正直、現状は菊月の『心眼』が頼りだ。あの戦い方をされている以上、擦り抜けの原理を解明することが勝ちへの一歩だ。『雲』との戦いの時のように、あの移動をキャンセルすることが出来るところからがようやくスタート地点。

 だから、好き勝手撃って回避させ続ける。脚の運びや視線、わかることは全てこの場で見てもらうしかない。

 

「1人でダメなら、2人!」

 

 そこに沖波が加わってくれた。私と沖波は回避の技を手に入れている者同士、敵の回避行動の()()も比較的掴みやすいはず。菊月でわからないものを私達がどうにか出来るかは何とも言えないが、やらないよりはマシ、

 

「2人纏マッテクレテアリガタイナ。ドッチモ殺サナイト」

 

 2人がかりでも当たり前のように避け、沖波の真横へ。その時には尻尾を振りかぶっていた。あちらも沖波の特性をもう理解してしまっているのだろう。尻尾による薙ぎ払いは紙一重で回避するには荷が重過ぎるもの。砲撃なら殆どゼロ距離でも避けてしまうのが沖波だが、アレは簡単にはいかない。

 そして位置的に、沖波と同時に私も薙ぎ払われる。私は悠々と回避出来る自信があるが、沖波を見捨てることになってしまう。それはあまりよろしくない。だが、ガード出来るほど軽いものでもない。

 

 それなら、やることは決まっている。避けるのではなく、()()。高速移動の勢いをそのままに体当たりを決めて、攻撃をキャンセルさせつつ沖波から突き放す。

 

「オ前達、体当タリ好キスギジャナイカ?」

 

 だが、よりによって尻尾の攻撃をキャンセルし、そのまま私の体当たりを両手で受け止めてきた。まるで壁にぶつかったような衝撃とともに、ビクともしなかった。肩まで掴まれて、完全にロックされたような状態。

 この期に及んで膂力も並み以上。見た目は私と同年代か歳下くらいなのに、戦艦という名の通りの力。何もかもが、駆逐艦如きでは太刀打ち出来ないスペック。

 

 その代わりに、ここで私を止めてくれたおかげでほんの一瞬隙が出来る。尻尾での攻撃も止めてくれたから、沖波は離れることが出来たし、仲間達が狙い撃てる瞬間が生まれていた。

 私はどうにか避けるから、気にせず撃てばいい。私が避けられるなら『黄昏』も避けられるだろうが、それならそれでまだいい。負けはないのだから。

 

「魂胆ハ見エ見エナンダ」

 

 しかし、本当に上手く行かない。キャンセルされた尻尾による薙ぎ払いは遠心力すらお構い無しにピタッと止まり、尻尾の先端が完全に沖波の方を向いていた。

 まずいと思った瞬間、尻尾から主砲が放たれる。回避性能に特化した()()()である沖波なのだから、その砲撃自体は紙一重で避けられるだろう。だが、この威力の紙一重は、それだけでも大きなダメージになる。

 

「っああっ!?」

 

 直撃は免れたが、その衝撃だけで大ダメージを受けるほどだった。制服は引き裂かれ、肌にまで傷を付けることになってしまう。艤装などに損傷は見られなかったが、主砲を持つ腕がやられてしまったせいで、攻撃がままならない。

 

「おっきー!?」

「余所見シテル余裕アルンダ。流石ハ天敵ダ」

 

 掴んだ肩を振り回して体勢を崩され、キャンセルしていた尻尾による薙ぎ払いが再開。最初ほど勢いは無かったにしろ、それがモロに脇腹に入ってしまった。直前まで掴まれていたせいで、脱力回避すら出来なかった。

 幸いにも骨には影響が無かったが、内臓が揺さぶられて猛烈な吐き気に襲われる。

 

 さらには私を薙ぎ払いつつも尻尾から夥しい数の魚雷が吐き出される。その威力はわからないが、速度は普通では無かった。魚雷なんて普通なら悠々と避けられるはずなのに、数と速度のせいで回避にも必死に。

 

「すぐに処理する!」

「この……っ!」

 

 それをどうにか処理してくれるのは衣笠さんと菊月。自分達に辿り着く前に、その全てを破壊しようと砲撃を連射している。その策は何とか上手く行っており、致命的な問題になる前に全てを破壊してくれた。

 だが、その行為は諸刃の剣でもある。魚雷が破壊されたことで水飛沫が舞い上がり、視界が塞がれてしまうのだ。

 

 だからだろう、『黄昏』の次の動きがあちらには見えていない。一番身近な私にしか見えていない。

 魚雷を撒き散らした直後、再び尋常ではない数の艦載機が飛び立っていた。急上昇したかと思いきや、菊月の真上を陣取り、一斉に急降下爆撃を始めた。

 

「やらせるか!」

 

 当然ながら、それに対応するのは初月だ。爆撃も、艦載機自体も、全てを破壊するために対空砲火を繰り出した。演習による練度上昇で大量の艦載機は次から次へと墜とされていくものの、どうしても漏れが出てくる。それは自分の脚で避けるしかない。

 

「ヘェ、スゴイナ。アレモ墜トセルンダ。ヤルネ」

 

 しかし、それを見越していたかのように主砲を初月に向けていた。魚雷でも空爆でもダメだった時のことをしっかり考えて次の行動に出ていた。対空砲火に専念している初月には、回避するだけの余裕が殆ど無い。ギリギリで避けられたとしても、沖波のように衝撃にやられた挙句、対処出来なくなった空爆に呑み込まれるだろう。

 

「やらせるかっての!」

 

 そこにすかさず砲撃を撃ち込んだ衣笠さん。水飛沫の中でも、『黄昏』が主砲を初月に向けたところが見えたのだ。せめて射軸をズラそうと、渾身の砲撃を放っていた。

 

「残念、ソレハコッチノ台詞ダ」

 

 初月に向いていた主砲が、突然衣笠さんに狙いを変えた。そして砲撃。衣笠さんの砲撃自体を呑み込んで、真っ直ぐ衣笠さんに向かっていく。撃った直後のせいで回避に転じることが相当難しい状況だった。

 

「我慢して!」

「ちょっ!?」

 

 そこに現れたのが、先程対潜攻撃で退避させられたヒトミだ。急浮上して衣笠さんの脚を掴んだ瞬間、艤装のことなど考えずに急速潜航。本来海上で活動する艦娘を水没させるのはどういう影響があるかは全く想像が付かないが、生きているのならまだ先がある。

 

「ウワ、ソレハ考エテナカッタ。咄嗟ニシテハヨクヤルネ」

 

 小さく笑みを浮かべた『黄昏』が憎たらしくて仕方なかった。感情的になってはいけないとわかっていても、手が震える程に怒りが湧き上がってくる。

 

「デモ、ジリ貧ナンジャナイカナ。ソレナラ、全員纏メテ」

 

 御高説を垂れていた瞬間、『黄昏』の背中が突然爆発した。それは砲撃でも何でもない。本来海上では使われない、()()()()()。そんなことがこの場で出来るのは1人しかいない。

 

 

 

「ゆるさない……ゆらおねぇちゃんをこんなにして……みんなを……みんなをいじめて……ゆるさない!」

 

 それは怒りに顔を歪めた松輪による一撃だった。

 

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