異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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外れた道

 太陽の姫の巫女『黄昏』との戦いは、意外な伏兵である松輪の覚醒により大番狂わせが起こり、撃破は出来ずとも撤退することが出来た。『黄昏』は最後に次は全員殺すとまで言ってきたが、今はそんなことを気にしている余裕は無かった。

 まず怪我人が多い。私、陽炎も脇腹をやられたことでまだ吐き気が止まらず、沖波は腕を衝撃にやられて負傷。衣笠さんは緊急回避で水没することになったため、艤装にガタが出るほどに。

 そして一番の問題は由良さんだ。松輪を庇ったことで『黄昏』の砲撃をまともに喰らうことになってしまった。ヒトミによる体当たりで射線が少しズレたとしても、半身が焼かれ、血塗れになっている。今でも満身創痍であり、自分の足で撤退出来ずに菊月が運んでいる程だ。

 

「すぐに診せてください!」

 

 『黄昏』が追ってこないことを確認した後、護衛艦隊と合流。こちらの状況はアクィラさんが確認出来ていたらしく、すぐに速吸さんが由良さんの状態を確認してくれる。さすがに立ち止まっての診察はまずいということで、菊月が抱きかかえながら確認出来るところを手早く確認していく。少しでも鎮守府に近付きながらでないと、取り返しのつかないことになりかねない。

 当たり前だが、この海のど真ん中で治療出来るような道具は持っているわけもなく、そもそも速吸さんがそこまでの医療技術を持っているかどうかもわからない。

 

「ごめんなさい……あんな戦い方をされたら、空爆も仕掛けることが出来なくて……」

「ううん、あれは仕方ないよ。あの状況で爆撃があったら、多分こっちが巻き込まれてたから」

 

 戦闘に参加出来ず、私達が傷を負っていくのを見ていることしか出来なかった空母達が、悔しさを滲み出していた。特にアクィラさんは、鷲の目で常にこちらの状況を見ていたはずだ。隙さえあればすぐにでも空襲を仕掛けていたのだろうが、結局最後にしか繰り出せなかった。

 赤い海には近付かず、近接戦闘が出来るわけでも無いため遠くで見ていることしか出来なかった。空爆をしようにも、とんでもない速さで動き回り、さらには砲撃のみならず近接戦闘を頻繁に仕掛けてきたせいで、空爆していたら私達も巻き込まれていただろう。

 

「ゆらおねぇちゃん……たすかりますか……」

 

 かなり危険な状態の由良さんを触診している速吸さんに、松輪が縋り付くように問う。自分を守ったことでこうなってしまったのだと、ずっと泣きそうな顔で見ていた。

 さっきまではその力の覚醒により撤退の糸口を作ってくれた松輪だったが、安全な位置にまで来ることが出来たことで、張り詰めていた糸が切れてしまったように震えていた。

 

「……相当危険です。折れた骨が肺を傷付けているかもしれない。すぐにでも入渠しないといけないくらいの傷なのに、ここから鎮守府までは遠すぎます」

 

 全速力で鎮守府に戻ったとしてもギリギリ間に合うか間に合わないかの瀬戸際だと速吸さんは言う。

 

 遠くの戦場の弊害が今まさに出てしまっていた。万全の準備をしても、こういうことが起きてしまう可能性は常に付き纏っているのだ。軽傷ならいいし、重傷だとしても命に別状が無いのなら艤装のサポートで何とか鎮守府までは移動出来るが、今の由良さんはその段階を超えてしまっていた。

 

「ま、まつわが……まつわがもっとつよかったら……ゆらおねぇちゃんはこんなことに……ならなかったのに……」

 

 堪らず涙が溢れ出していた。あの時の松輪は、私達でも出来なかった『黄昏』の撃退をやってのけたわけだが、そのきっかけは由良さんの重傷。覚醒がもう少し早ければ由良さんはこんなことにはならなかったと、松輪は大きく悔やんでしまっている。

 そんなことは無い。『黄昏』が異常過ぎるというのが一番だ。誰も松輪のことを責めやしない。当事者である由良さんだって、松輪を守るために身体を張って、松輪を責めるようなことをするわけがないのだ。

 

「……松輪ちゃん……泣かないで……」

 

 か細い、とてもか細い声がした。息も絶え絶えの由良さんが、泣きじゃくる松輪に微笑みながら語りかけていた。

 

「大丈夫……由良はこんなことで……死なないから……」

 

 本当にギリギリなのに、松輪を悲しませないようにと痛みに耐えながら諭す。しかし、言葉とは裏腹に、由良さんは指一本動かせない。全く力を入れることが出来ず、完全に菊月に身を任せることになってしまっている。

 

「せめて止血をしましょう。垂れ流している状態はダメです」

 

 ズタズタになっているものを止血と言われてもどうしたものかと思ったが、速吸さんが着ていたジャージを脱ぐと、傷口に縛り付けて行く。鬱血するほどにまで強く締め付けたことで、由良さんが辛そうにくぐもった声を上げるが、死ぬよりはマシ。

 医療従事者だった速吸さんの的確な応急処置でどうにか延命する。これだけやっても鎮守府まで保つかはなんとも言えない。由良さんの気力はまだまだあるが、身体がそれについていってくれるかはわからないのだ。

 

 ここで、私としては最悪なことを思いついてしまった。本来なら私から考えてはいけないこと。強要されてもやってはいけないこと。

 

「……分霊して、巫女にすれば、怪我は治るんじゃあ……」

 

 私が()()()()だった時、夕立に対して分霊をした際に、抉れていた腕が治療されていった。分霊によって()()()()になるときは、十全の状態にするということを実証していた。

 今、ここまでの重傷を負っている由良さんだが、私が分霊をして()()()()()へと変えてしまえば、同じ効果が現れて傷が完治するのではないか。そう考えてしまった。

 

「……ダメだよ……それをしたら」

 

 私の呟きが聞こえたか、由良さんが今度は私に向けて語り出す。もう話すこともキツイはずなのに。

 

「由良は……耐えられる……誰にも悲しませない……だから……分霊はしなくていいから……ね。ねっ」

 

 激しい痛みに耐え、朦朧とする意識を繋ぎ止めながらも、由良さんは間違った考えに辿り着きそうになった私に対して、やんわりと正しい道を示してくれた。

 当たり前だが、この行為は由良さんの命を救うと同時に、由良さんの心を破壊する行為に他ならない。いや、壊れるかどうかはやったことがないのだからわかりやしないが、僅かにでも可能性があるのだから、絶対に選択してはいけない。

 

「由良さん、傷に障ります。今は静かに」

「……道を……踏み外しちゃダメ……ねっ」

 

 こんなギリギリな状態でも、私のことを思いやってくれていた。私の方が泣きそうだった。

 命を救うためという免罪符があるとはいえ、自分のモノにするというのは許されざる事。他ならぬ施術を受ける者がそれを諭してきたくらいなのだから、私は踏み止まらなくてはいけない。由良さんが、命を懸けて私を正しい道に戻してくれた。

 

「本当に危険だと思ったら、分霊も視野に入れます。でも、そんなことにはしません。この速吸が、必ず命を繋ぎ止めます。出来る限りの応急処置を続けますから」

 

 その時が来るかもしれない。そうならないことを祈るが、万が一の時には、私が最後の決断をすることになる。人のまま死んでもらうか、陽炎の巫女という()()()()()()()()()にするか。

 私に1人の命の行方を委ねられる。あまりにも重すぎるそれに、私は押し潰されそうになっていた。どちらも救われない道に、私は止まらない吐き気が悪化するような感覚に襲われる。

 

「鎮守府にはもう連絡してるわ。援軍としては間に合わなかったけど、怪我人が出た時のことを考えて動いてくれてるらしいから、どうにかしてくれるはずよ」

 

 アクィラさんがその辺りの根回しもしっかりしていた。だからだろう、もう遠くの方から何者かが猛スピードでこちらに来ているのが確認出来た。

 

「怪我人がいるって聞いたよ!」

 

 それは、大型の大発動艇を普通ではありえない速度で操縦している夕張さんだった。他にも援軍はいるらしいが、急患がいると伝えられたようで1人だけ先行してきてくれたようだ。今回は怪我人を運ぶためにここまで持ってきてくれたようだ。それにしても速すぎるくらいではある。

 そして、その怪我人が由良さんだと知るや否や、形容し難い表情をした。仲のいい友人が、出撃前とは変わり果てた姿で死にかけているのだ。そんな顔にもなる。

 

「由良!?」

「夕張さん、時間が惜しいのですぐに輸送を。速吸が相乗りして、応急処置を続けますので。必要な機材はありますか」

「必要かと思って、応急処置の道具と念のため輸血バッグとか」

「上出来です。処置を続けます」

 

 流石に乗せるのは動きながらでは難しい。一時的に止まって、大発動艇にゆっくりと乗せる。

 

「陽炎ちゃん、相乗りしてもらっていいですか」

「……うん。いざという時に分霊するためだよね。わかった」

 

 それもあるが、治療中に由良さんの身体を動かないように固定する役が欲しいとのこと。高速で駆け抜ける大発動艇は嫌でも揺れるし、邪魔でも艤装は外せない。装備していること自体が延命措置になっているのだから、外すわけにはいかないのだ。

 速吸さんと私が大発動艇に乗り込み、どれだけ速く動いてもビクともしないように固定する。その時、おずおずと、だが決意したような強い眼差しで、松輪が大発動艇に近付いてきた。

 

「は、はやすいおねぇちゃん、まつわもいっしょに、のせてください」

「……そうですね。由良さんの固定には2人いた方がいいでしょう。松輪ちゃんもお願いします」

「は、はいっ」

 

 ほんの少し迷った速吸さんだったが、松輪の今までにない程の強い意志を見て、一切の否定をせず松輪の便乗を許可した。

 私が右側、松輪が左側を支えて、由良さんを完全に固定する。こちらは艤装のアシストもあるのだから、海が荒れていても速吸さんの治療には支障をきたさない。

 

「夕張さん、オッケーです。最大戦速で鎮守府に戻ってください。あの速さからして、新型缶とタービンですよね」

「勿論。こういう時のために準備してきたんだから」

 

 整ったところで夕張さんに合図。小さく迂回させた後、鎮守府への海路を一直線に行けるように、一気に速度を上げた。小回りが利く私達でも本来出せないような速度を装備で実現しているらしく、猛烈な勢いで突き進んでいった。

 今の部隊ではこんな速度は出せない。その上で応急処置を進める速吸さんは、風やら何やらを何も気にしていないかのように手を動かしていた。念のためと持ってきてもらえた輸血バッグを使って足りなくなった血を補い、ただでさえ流れ出て行く血はどうにか止血。

 当然処置は由良さんに痛みを与えるが、死ぬよりはマシだと耐えてもらう。むしろ反応が無くなった時の方が怖い。

 

「ゆらおねぇちゃん……がんばって……がんばってください……」

 

 祈るように呟き続ける松輪。しかし、私の頭の中はそれどころでは無かった。私自身の問題にずっと向き合っていた。

 分霊が必要になったときに本当にするのか。由良さんは拒んだし、私が道から足を踏み外すことを良しとしなかった。だが、だからといって治せるのに見殺しにしていいのか。人として死ぬことを良しとしていいのか。

 

「陽炎ちゃん、その思いを無駄にしてあげます。さっきも言いましたが、この速吸が、由良さんを必ず助けます。これだけお膳立てが揃ったんですから、ギリギリ間に合わせますよ」

 

 もう身体中由良さんの血で塗れた速吸さんが、自信満々に言い放った。高速で動く大発動艇の上でも、速吸さんの手際は変わらない。出来ることが限られているとしても、それで最善を尽くすのだと手を止めなかった。

 

「……うん、お願い。私には決められない」

「陽炎の巫女なんて作り出しませんよ。それは貴女のためにもなりません」

 

 もう、全てを速吸さんに託すしか無かった。私は松輪と一緒に祈ることしか出来なかった。

 

 

 

 由良さんが命を落としてしまったら、松輪も立ち直れなくなる。だから、助かってほしい。

 




この時の夕張は大発を装備するために改二特。タービン×1の新型缶×3で特大発装備。残り1つのスロットは適当な攻撃用装備だとしても、速度は高速+までしか行きません。最速と大発の併用は出来ず。



先日、またもや支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】

昭和映画ポスター風。キャッチコピーがある感じがとてもそれっぽいですね。
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