異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
瀕死の状態だった由良さんの入渠は無事完了。本当にギリギリだったが、私、陽炎の分霊による巫女化を使わずに治療が出来ることが確定したのはありがたかった。人としての死か人を捨てさせての生を、私の手に委ねられるのは流石にキツかった。内心物凄くホッとしている。
入渠自体が完了するのは明日の朝では無いかという計算に。一晩で死にかけの身体を完治させることが出来るとは、相変わらず妖精さんの力は凄まじい。ドックを閉じる時に、妖精さんが任せろと言わんばかりに親指を立てていたのが印象的だった。
お風呂の後、松輪はまだ目を覚ましそうにないので、速吸さんや夕張さんにも手伝ってもらって服を着せ、私が抱きかかえたまま工廠へ。その頃には、私達が置いてきてしまった実験部隊と護衛艦隊も帰投が完了していた。
由良さんが無事入渠出来たことを知り、みんながみんな安堵の息を吐いていた。私達と同様にどっと疲れが来たか、フラつく者まで。
「後から話を聞く。アンタ達はまずは休みな。沖波、アンタは入渠だ」
「はい……すぐに向かいます」
沖波は『黄昏』の砲撃の衝撃で、武器が持てない程にダメージを受けてしまっている。命に別状は無いにしろ、かなり大きなダメージのため、すぐに入渠が必要だろう。
「司令官、陽炎もいることだし、先に実験の成果を見てもらっていいだろうか」
菊月が進言。疲れているだろうが、菊月としては新型のインナーであるために結果が早く知りたいようである。同じようにヒトミも小さく挙手してアピールしてきた。
「アンタ達がいいならやっておこうか。陽炎、いいかい」
「了解。じゃあさくっと見させてもらうよ」
片手が使えればいいので、松輪を抱きかかえながらまずは菊月の魂を確認。しーちゃんの憶測ではあったが、現場でも菊月は侵食を受けている感覚は無いと言っていた。胸さえしっかりと覆っていれば魂は守られると考えていいかは、この結果次第。
魂の確認も手慣れたもので、真っ直ぐ指を突き入れ、そのまま魂に触れる。前回のインナーでも綺麗なものだったが、今回も穢れ1つ無い綺麗なものだった。水着型でも効果的であることがこれで証明されたわけだ。
「菊月はオッケー。綺麗なもんだよ」
「なら……次は私を……」
今度はヒトミ。海上と海中では影響がかなり違うことは既に実証されていること。今回は沈没船にまで近付いたわけではないが、
ヒトミの胸に指を突き入れ、魂に触れた。ヒトミも以前に治療をしているため、前回どのような状態で終わっているかは覚えている。今見た感じ、その時から何ら変わらない綺麗なものである。海中でもインナーは効果的だ。
「ヒトミも大丈夫だったよ」
ほんの少しだけヒトミがガッカリしたような顔をしたが、そこは触れないことにする。イヨがやたらとバラそうとする
「なら、あとは由良の状態が確認出来ればこのインナーの量産を進めていくことにする。タイムリミットは近付いてきているが、それでもまだ時間はある。それまでに全て用意するよ」
由良さんも現場で何も感じなかったと言っていたので、おそらく大丈夫だったと考えていい。実際に見てみなければわからないが、8割方成功と見ていいだろう。
これで実験が終わってくれたのはよかった。またあの場所に行けと言われても、正直もう実験は難しいと思う。『黄昏』が確実にこちらを狙ってくるだろう。今回以上に危険な戦いになるであろう場所で実験なんてもう出来やしない。
「話は後から聞こう。アクィラ、頼めるかい」
「
鷲の目で見ていたアクィラさんが一番説明が出来るだろう。私は松輪のこともあるし、ここは一番理解力のあるアクィラさんに任せよう。今日はちょっと疲れすぎている。
その日は松輪があまりにも疲れていたので、私の部屋で眠ってもらうことにした。なんとか夕食の時には目を覚ましたのだが、食べたらまたうつらうつらし始めてしまったので、一緒にいた方がいいだろうということに。
沖波が念のため一晩ドックで過ごすということで、今回は久々に松輪を抱き枕にして眠ることになった。なんだか物凄く深く気持ちよく眠れた気がする。
翌朝、私達が目を覚ました時には沖波帰還。しかし、由良さんの入渠はまだ終わっていなかったという。やはりあれだけの重傷を負ってしまったら、簡単には治療は終わらないようである。計算は計算、多少ズレるのは当然のこと。
それでも治療中ということは、そのまま残念ながらもう目覚めないということにはなっていないので、少しだけ安心している。時間をかければ元に戻る保証があるということに他ならないからだ。
「大丈夫、由良さんはもう少ししたら目を覚ますから、それまでは待ってようね」
「……はい」
目覚めてから由良さんが心配で仕方ない松輪。私の手を離さず、いつも以上に俯いている。元気な姿を見ない限り、ずっと不安を抱えることになるだろう。
確実に完治するとわかっていても、今目を覚ましていないのだからこうなってしまうのも仕方ない。ただでさえ松輪は子供なのだから、そう考えてしまうのは無理もないのだ。
「朝御飯を食べたらきっと終わってるよ。松輪ちゃん、みんなで一緒に待とうね」
「……ゆらおねぇちゃんは……だいじょうぶですよね……」
「勿論。私が目を覚ました時には、もう9割くらい終わってるって言ってたからね。もうちょっとだよ」
現場を知っている沖波も慰めた。私達の言葉よりも、そこを見た沖波の言葉なのだから、信憑性が高い。松輪もそれで納得はしたようで、表情は浮かないものの朝御飯を食べることが出来た。
そしてその後は私の手を引きつつ工廠へ。気が気でないようで、ドックの横で待ちたいと、ここに来て初めて我儘を言った。空城司令は快く了承。私も由良さんが目を覚ましたら魂の確認をする必要があるため、松輪と一緒にいてあげればいいと許可された。
今日は元々、実験部隊は全員お休みの予定。危険なところにいなければ何をしていてもいいような日だ。由良さんが目覚めるまで待機していても、何も問題が無い。
「ゆらおねぇちゃん……」
ドックの前で今にも泣きそうな顔で立ち尽くしている。治療が終わるのを今か今かと待ち続けている姿は、やはり痛々しかった。かける声も無く、せめて側にいてあげようと手を繋ぐ。
その手はずっと震えていた。大丈夫とわかっていても、不安で頭がいっぱい。松輪は最年少に近い子供なのだから、こんな状態で1人でいられるわけがない。
そんな中、ドックの隙間からひょっこりと妖精さんが現れた。私達の姿を見たことで、満面の笑みで親指を立てた。無事治療が終わったということだろう。その姿を見て、松輪はどうしていいかわからないような素振りで私の方を見てきた。
「無事に終わったってことだよ。もう少ししたら、由良さんの元気な姿が見られるからね」
「は、はいっ、まつわ、まちます」
その瞬間が近いとわかって、不安から緊張感に変化。ドキドキしながら由良さんの目覚めを待つことになった。
ドックを開けるには司令の許可が必要。それまでの時間が無限のような時間に思えるのだろう。早く早くと落ち着いていられないようで、司令が来るであろう工廠の入り口を見たり、ドックをまた見たりと忙しない。
そこから少しして、空城司令としーちゃんが工廠にやってきた。ずっとここにいた私達にはわからなかったが、妖精さんから何かしらの手段で報告があったようだ。
司令の姿を見た瞬間、松輪が大きく反応したのは言うまでもない。無事な姿がようやく見られると喜び半分、本当に無事かもわからないため不安半分と言ったところ。
「治療完了だ」
空城司令の許可でドックが開いた。その中から出てきたのは、あの時の大惨事が嘘だったかのような綺麗な身体になった由良さん。もう大怪我を負っていたという痕跡も無い。
見た目ではわからないが、内臓や骨も全て完治している。死にかけが健康体になるのだから、これはもう魔法の類としか思えない。
これで初めて、松輪から不安が全て取り除かれた。
「由良、気分はどうだい。何か不備は」
「うん、何も無いみたい。大丈夫ですね」
抉られて酷いことになっていた腕を伸ばして、綺麗になったことを確認する。指も手首も肘も動くようで、後遺症なんてものも残らない。あの時の疲れすらも無いのだから、入渠により出撃前の状態に戻ったと言える。
「ゆらおねぇちゃん……っ」
「松輪ちゃん、心配してくれたんだね。ありがとう。もう由良は大丈夫だからね。ねっ」
ドックに飛び込もうとした松輪を今は静止しておく。感極まるのはわかるが、服とかを着た後に思う存分甘えればいい。
しーちゃんが用意してくれていた服をさっと着た後、待ちに待っていた松輪を抱き上げた。
「ほら、もう大丈夫でしょ?」
「はい、はい、ゆらおねぇちゃん、よかったぁ……!」
堪えていた涙がまた溢れ出し、無事を喜びながらも大泣きしてしまう松輪。それを抱きしめて、背中を摩りながらあやす由良さん。
「由良、すまないがまずは魂を見せてもらっていいかい」
「あ、そっか、実験の成果。陽炎ちゃん、お願い出来るかな」
「うん、ちょっと正面を見せて」
松輪には少しだけ退いてもらって、手早く由良さんの魂を確認。これで上手く行っていたら、D型異端児も戦線に投入出来るようになる。
由良さんの魂はD型なだけあって、菊月やヒトミとは少し違う。それでも穢れは一切無い綺麗なものだった。一度治療した時に見たときと同じ。
「オッケー。綺麗な魂だよ」
「なら、インナーは2作目にして大成功というわけだ。量産を進められるね」
最初の沖波の思い付きがこうも上手く行くとは思わなかった。私の魂の匂いを封じ込める処理が、瘴気を跳ね返す効能があるなんてパッとは思い付かない。オカルトにはオカルトをぶつけるという考えが綺麗に決まった。
「由良、今日は念のため休むといい。松輪を見ておいてくれるかい」
「了解、松輪ちゃんには心配をかけちゃったし、今日は1日一緒にいます」
「そうしてやってくれ」
松輪が離れそうにないので、2人は揃ってお休みということになる。今は松輪のためにも、2人で仲良く休んでもらいたいところだ。
由良さんの件が終わったことで、一緒に休みとなっている沖波と合流。今日は丸一日資料室で読書のつもりらしい。最近出来ていなかったから、蔵書も増えていると何やらツヤツヤしている。
「そっか、由良さん治ったんだね」
「うん、それに魂の穢れも無かったよ。あのインナー、大成功みたい」
「ならみんなで最終決戦に行けるんだね。あんな思い付きだったけど、上手く行ってよかった」
これは喜ばしいこと。D型異端児は赤い海に入った時点で相当危険なのだが、それを回避出来るということは、鎮守府の全戦力を投入しても問題ないということ。M型も混ざっている磯波や貴重な航空戦力である天城さんが戦線に立てることは、作戦を立てるのも楽になるだろう。
「今も夕立ちゃんが村雨ちゃんをしごいてたよ。みんなで一緒に行くんだーって」
「はは、夕立らしいや。夕立も一緒に行けることがわかったんだから、やる気も出るよね」
村雨の強化も進んでいるようだ。私達が実験であの海域に向かっている間も、下手したら私達以上にハードな訓練を続けていたのだ。タイムリミットまでには仕上がるのでは無いだろうか。
「私も、M型異端児として頑張るよ。ひーちゃんと一緒にね」
「そうだね。一緒に頑張ろ。M型異端児はキーパーソンだからさ」
太陽の姫にはM型異端児の攻撃しか効果がない可能性がある。それを考えれば、私も沖波も戦線の一番重要なところに置かれることが確定している。特に私は対となる者。キーパーソン中のキーパーソンである。
これだけ準備が出来れば、あとは最終決戦まで研鑽を続け、最善の結果を掴み取るだけだ。
先日、またもや支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/88359509
MMD静画のアイキャッチ風磯波。花壇で育てている花を花束に。磯波is天使。