異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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期待の新人

 由良さんの入渠が終わり、命の危険がある程の重傷が完治したことで、鎮守府は改めて最終決戦への準備が始まった。

 やらなくてはいけないのは大まかに3つ。1つ、対策インナーの量産。2つ、村雨と長門さんの特訓。そして3つ、新たに浮上した『黄昏』対策となる。

 

 まず1つ目、すぐにでもどうにかしなくてはいけない対策インナーだが、2度の実験により瘴気に対して効果的であると判断されたことで、鎮守府に所属する艦娘からM型異端児を省いた人数分量産している。

 全てが本人にピッタリ合うように作られたオーダーメイド品。全身を覆う形から、腕や脚の分が不要となった水着型に変更出来たおかげで、予想では1日に8人分近くは作れるらしい。人数的には約5日、まずは今日1日D型異端児の分を作っていくそうだ。

 

「夕立達が最初に貰えるっぽい?」

「みたいですね。万が一の時にD型異端児は侵食が早いですから」

 

 昼食の場での話題はやはりそれ。やる気満々の夕立と、いろいろと恨みがある萩風は、先に貰えることを喜んでいた。もし何らかの事情があって、全員に行き渡る前に決戦になってしまった場合でも、真っ先にインナーが貰えていれば確実に戦場に出ることが出来る。

 磯波もあまり態度には出さないが、それなりに嬉しそうではあった。太陽の姫に対して心の底から憎いと言い放っただけある。真っ先に出撃出来るようになるのはありがたいところ。

 

「そしたら、むーさんと一緒に戦えるね!」

「え、ああ、うん、そうね」

 

 村雨に話を振った。その村雨はというと、午前中の訓練が相当厳しかったのか、食べながらも少しグッタリしていた。薬湯で体力回復は出来ているようだが、精神的に少し疲れが溜まってきているようである。

 2つ目、村雨と長門さんの特訓も、今のところはすこぶる順調のようだ。誰からもスパルタ教育されている村雨だが、そのおかげでメキメキと強くなっているようで何より。

 

「明日はお休みっぽい。だから、今日までファイトっぽーい」

「もう少しお手柔らかにお願いしたいわ……今の私が夕立と同じ程度でやれるわけないでしょうに」

 

 特に鬼教官となっているのは夕立のようだ。まだ艦娘として戦えるようになったのが数日前だというのに、自分についてこれるように最初から飛ばしているせいで、村雨としては迷惑を被っているのではないだろうか。急ピッチな訓練が必要かもしれないが、段階というのはある。

 

「姉さん、村雨さんはこんなこと言ってますが、夕立さんに普通についていっていますので、別に容赦しなくてもいいです」

 

 萩風の発言に驚きそうになった。たった数日で夕立に追いつけるとか、どれだけ才能があるというのだ。ついていくだけで必死かもしれないが、必死になれば追いつけるということが恐ろしい。そう言われてしまうと、訓練も容赦なくていいのではと思えてしまう。

 

「えー、村雨それは凄いじゃんさ」

「その結果がこれなんだけど……足腰立たなくなるまでしごかれてるんだから」

「いや、それでも追いつけてるって凄いことだよ。私、村雨くらいの日数の時、やっと主砲での戦い方がわかってきたくらいだもん」

 

 こんな相手なら教え甲斐があるだろう。雷撃訓練の木曾さんとか、やりたい放題やってツヤツヤしてそう。

 

「まぁ明日が休みなら今日は頑張ろうね」

「それは、うん、そうね。私だって戦いたいもの。仇を討たないと」

 

 村雨だって太陽の姫のせいで全てを失っているのだ。戦えるものなら無理をしてでも戦いたいというのが本音。そしてその力も持っているのだから、努力しないわけにはいかない。詰め込めるだけ詰め込んで、あの戦場に艦娘として立ちたいと思って当然だった。

 立場は違えど、村雨の気持ちは痛いほどわかる。だから、その努力を応援したい。手伝えることがあれば、出来る限り手伝ってあげよう。

 

「インナーは今も量産中で、村雨もモリモリ強くなってるからまぁ良し。あとは『黄昏』かぁ……インナーがあれば全員で出撃出来るからいいけど、あれは厄介だよなぁ」

 

 問題の3つ目、『黄昏』対策。戦艦レ級が巫女になっているなんて想定外すぎた。あの時の部隊では、まず間違いなく勝ち目が無いような敵。松輪が覚醒してくれたおかげで撤退が出来たが、それが無ければ残念ながら全滅だっただろう。それくらいに洒落にならない相手だった。

 私、陽炎まで含めた今までの巫女の中で、一番の性能を持っているのではないかとまで思える。というか、今までの巫女のノウハウを全部結集したようなスペック。

 

「『黄昏』……? 初耳なんだけど」

 

 村雨がそう言うということは、あの『黄昏』はつい最近生まれた巫女であると考えられる。『雲』が知らない巫女というのはいるかもしれないが、太陽の姫をあんな感じに守っている巫女のことを知らないわけが無い。

 それが戦艦レ級が巫女になっていたと話すと、現場にいなかった夕立達は勿論のこと、太陽の姫のことについて最も詳しいであろう村雨までもが驚いていた。

 

「え、それはどう考えてもおかしいわよ。レ級とかいうのはアレでしょ、黒いパーカーの子」

「そうだね。狂った笑い方するような奴。『黄昏』はそういうことすら無かったけど」

「分霊は人間にしか出来なかったはずだもの。レ級は人間の要素無いから、普通なら分霊なんて出来ない」

 

 少なくとも、『雲』は人間にしか分霊が出来ないということのようである。なら、太陽の姫はまたオリジナルな分、特別な力を持っているのかもしれない。

 M型異端児に対して分霊が出来るという滅茶苦茶な力を持ち合わせているのも太陽の姫なわけだし、知らないだけで元から出来たのかもしれない。巫女には見せていないだけで。

 

「あのレ級は特別製なんじゃないかな」

「そう考えるしかないね。でも、巫女の力使えるレ級ってだけで相当ヤバいよ。分霊とかはしてこなかったけどさ」

 

 奴がどんな存在かは一旦置いておいて、奴にどうやって勝つかの話。少なくとも、駆逐艦でどうにかなる相手では無いというのは確かである。

 異常な回避性能、耐久力もあり、遠近両方の戦いが出来る。正直隙が見当たらないレベル。あの時は慢心故に松輪を嘗めてかかってくれたから隙が生まれただけであり、今ならそれも失われているだろう。ただでさえ敵わないような奴が、より強敵になってしまった。

 

「それはそこまで心配してないっぽい」

「勝算があるわけ?」

「うん。夕立だけだとダメかもしれないけど、その『黄昏』とかいうのに適した人がいるっぽい!」

 

 その人こそが、今も訓練の後だというのに食堂の手伝いまでやっている長門さんである。下手をしたら村雨よりもハードな訓練を続けているというのに、ピンピンしていた。大人とかそういうのはあまり関係無いと思う。長門さんが特別強靭なのでは無いだろうか。

 

「ながもんさん、むーさんよりヤバいよ。教官がとんでもない人ばっかりだもん。それに、やっぱりあの痴女の経験が活きてるのかも」

「言い方」

 

 長門さんの教官は、鎮守府の守護者である間宮さんに伊良湖さん、そして陸戦最強の援軍神州丸さん。そこに艤装姉妹の陸奥さんまで加わり、その技を丁寧に教え込まれているわけだ。確かにヤバい。

 それに、南方棲戦姫だった時の、艤装の形や主砲の扱い方は違えど海面に足を着けて2本の脚で立ち、その大きな反動を抑え込みながら戦っていたという経験は、今もしっかりと活かせていそうである。

 

「やっぱりレ級には戦艦をぶつけるのが一番手っ取り早いっぽい。ながもんさんが()()したら、その『黄昏』とかいうのにもぽぽいのぽいっぽい」

「夕立、あまりプレッシャーをかけないでくれないか」

 

 流石にここまで話していたら長門さんにも聞こえてしまうだろう。手伝いに少し手が空いたか、こちらの話に入ってくる。夕立の持ち上げに少し恥ずかしげだが、嫌な気分では無いようだ。

 

「夕立は嘘ついてないっぽい。むっちゃんさんと、親分と、ながもんさん、それに今はネルソンターッチがあるから、向かうところ敵無しっぽいよ」

「そこに並び立つにはまだまだ先は長いんだ。今から煽てるのはやめておいてくれ」

 

 謙虚な長門さん。だが、艦娘としての訓練を始めてから、明らかに身体つきが変わったのが見て取れる。ぱっと見筋肉質というわけではなく、全体的に鍛えられているというか、引き締まっているというか。流石艦娘、成果がすぐに出るだけあった。

 というか、夕立がここまですぐに認めるくらいなのだから、長門さんは相当やると思われる。プレッシャーに繋がらないように表には出さないが、これは期待したいところだ。期待の新人の力で、戦艦の戦力が増えることはいいことである。

 

 

 

 午前中は沖波と一緒に資料室に篭って読書タイムで心を落ち着けたが、午後は散歩で外の空気を吸って心を落ち着ける。いつもの散歩コースを歩いて、伸び伸びとするだけでも気分が違った。

 幸いなことに、今は気持ちが沈むような事柄は無い。勝ちを掴むために邁進する日々だ。勝てるか勝てないかの不安を持ち続けるのは非生産的。これくらい軽い気持ちで生きていくのがちょうど良い。

 

「お、やってるやってる」

 

 散歩コースは当然海沿い。前にもそうだったが、訓練の様子を眺めることが出来た。その先に見えるのは、噂の長門さんも訓練中だった。

 私達駆逐艦の訓練はやることが多いが、戦艦の訓練は割と単調。雷撃も対潜も出来ないため、それを全て砲撃訓練に回しているくらいだ。代わりに反動軽減やら命中率やらを徹底的に仕込まれるわけだが。

 

「来たか、陽炎」

「菊月も見てたんだ」

「ああ、ここからが一番見やすいし、頼まれていたんでな」

 

 散歩コースで待ち構えていたかのように菊月が訓練を眺めていた。なんでも、陸奥さんから長門さんの砲撃に対して何か無いかを見てほしいと頼まれていたそうだ。菊月の『心眼』はこういうところでも役に立つ。

 

「付け焼き刃でどうにかなるものでは無いとは思うが、あの人は凄まじいな。南方棲戦姫だった経験を見事に活かしている。姿勢制御も完璧だ」

「トラウマな経験なのにね」

「吹っ切れたあの人は強い。一番新人とも言えるが、一番大人とも言えるだろ」

 

 流石に年齢までは聞けないが、長門さんはまず確実に艦娘の中では一番年上になるだろう。あの見た目で7年間止まってしまっているわけだし。その波乱万丈過ぎる人生経験を、今に活かそうと躍起だ。

 実際、長門さんの砲撃は普通では無かった。よく見せてもらっている陸奥さんや霧島さんの砲撃と互角か、下手をしたらそれ以上のものを連射してしまっている。あんなのを私がやったら間違いなく制御出来ずに吹っ飛ぶだろう。

 

「だが、あれだけだとダメみたいだ。ほら、見てみろ」

 

 連射は出来ているし、的も粉々にするくらいの精度を誇っているのだが、この訓練を見ている間宮さんからはダメ出しがかなり多い様子。何を言っているかわからないが、長門さんは困ったような表情でその話を素直に聞いていた。

 

「瞬間の照準合わせがまだ下手なんだ。戦艦主砲のゴリ押しでどうにかしてしまっている」

「そんなところ、よく見えるね」

「この菊月の『心眼』だ」

 

 ふふんと自慢げに語る。『心眼』はいつも頼りにしているので、このドヤ顔も否定は出来ない。

 ふと、そこで思い立ったことを聞いてみる。あの時もずっと『心眼』で観察してくれていたはずだ。打開策を何かしら思いついていればいいのだが。

 

「『黄昏』はどうだった?」

「……ヤツは段違いだ。不意に消える瞬間に癖が無い。お前のように力を抜く瞬間が見えたり、『雲』のように艤装が稼働する瞬間が把握出来るわけでもない」

 

 流石に一筋縄では行かないか。

 

「だが」

「ん?」

「ヤツは()()()()()()()あの動きを再現しているのはわかっている」

 

 癖が無いだけで、そこまでは突き詰めていたようだ。

 足首の力、つまり膝や全身の力の移動とかは一切しておらず、足だけを少し動かすだけであの速さが出ていると。例えば、背伸びする動きをした瞬間に空中にいるとか。

 だが、戦艦レ級の脚の形は少し特殊だ。足首のようなパーツは無いというか、膝から下は棒状になっているというか。

 

「動く時だけ、一瞬関節のようなものが見えた。見えた時には次の位置だったんだがな」

「流石、よく見てる」

「菊月の最大の技だからな。そうでなくては、ここまで生き残れない」

 

 ドヤ顔は止まらない。それをさせるだけの経験を積んでいるのだから、誰も文句は言わないだろう。

 

 

 

 結果的に、時間が来るまではずっとここで訓練を眺めていた。私の目では菊月ほど何かわかるようなことでは無いのだが、見ているだけでも結構楽しいものだった。

 心身共に休まっている。万全な態勢で最終決戦に向かうことが出来るように、今の時間を過ごせている。

 




長門もモリモリ強くなって、最終的には鎮守府最強になってしまうのでしょうか。ここの長門はゴリラじゃないので。
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