異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
私、陽炎のお休みの日も終わり、みんなの訓練が終わったところで、D型異端児用のインナーは完成。必要なものには配布された。
少なくとも必要なのは7人。夕立、磯波、萩風、阿賀野さん、由良さん、天城さん、そして現在も特訓を続けていた長門さんである。最優先で配布されたものの、一度試着するだけはして後は本番でのみ着るということになる。あのインナーは、私が以前に使っていたものと比べると、普段使いがかなりしづらいため、その時までは自室で保管という形に。
「どうっぽい? どうっぽい?」
その日の夜、あとは寝るだけというところになって、早速着込んで私に見せに来る夕立。後ろからは苦笑しながら夕立についてきた村雨と五月雨の姿も。この格好で廊下を普通に歩いてきたのかと思うと、相変わらず夕立は羞恥心とかそういうものが何処かに行ってしまっているような気がする。
「なんか、夕立はそういうの結構似合うよね。水着とかもそうだったけど」
「でしょー。よく言われるっぽい」
夕立はスタイルがいいからこういうのがやたら似合う気がする。本人がそういうのに対して無頓着なのもあるが、見せることに全くの抵抗が無い。ちゃんと言っておかないと、最悪このまま日常を過ごしそう。子供達の部屋で寝るってなっても、殆ど全裸で寝ようとしたくらいだし。
「ソナーとハギィも着てたんだね。どうっぽい?」
「ピッタリ過ぎてちょっと驚いています。胸の下までしっかり張り付くんですね」
身につけた状態で驚いている萩風。この子も夕立に負けず劣らずのスタイルのため、こういうのは妙に似合うように見えた。とはいえ、夕立とは違って、少し恥ずかしげにしているのは仕方ないことだろう。今の夕立のように、インナー姿で出歩くなんて以ての外。それが普通の反応。
夕立と萩風のそれを見て、沖波の目から光が失われかけたのは見て見ぬ振りをしておいた。私がかけられる言葉は無い。むしろ私にも噛みつきかねないし。
そして磯波も同じ姿である。スレンダーな磯波だと、これはこれで似合っている。というかこれが似合わない人はこの鎮守府にはいないと思う。遠泳の時にみんなで競泳水着で泳いだものだが、そういう話題は出なかったくらいだし。
ただ、磯波は少しだけ複雑な表情をしていた。インナーをところどころ撫でては、嬉しそうにしたり悲しそうにしたり。
「どうしたの磯波。実はサイズ合わなかったとか?」
「えっ、あ、ううん、そんなことは無いよ。ビックリするほどサイズが合ってる。技術すごいなって感心しちゃった」
明らかにそれだけじゃない感情を持っている。
「その……ね。この格好って……私が
言われたことで全員が納得してしまった。そして私はちょっと申し訳ない気分になった。
巫女にされた私の分霊により深海棲艦化した磯波は、レオタード型の装甲というやたらスタイルを出す姿にされている。しかも、後遺症でその時の姿を模すことを喜ぶようになってしまっていた。それがあるから夕立はあれからスパッツを穿くようになったし、磯波はニーハイソックスを普段使いするようになってしまっている。
このインナーは素材こそ違えど、あの時の姿に磯波を近付ける品になっていた。後遺症のせいでこの姿を喜ぶが、トラウマを穿り返されるような気分にもなってしまう。変な気分になってもおかしくはなかった。
「物凄く落ち着くの……
「ぽい。夕立も滅茶苦茶わかるっぽい。夕立、いつも制服の下に着てるからね。寝る時もだし」
夕立は本当に隠さない。それで落ち着けてまとも以上に戦えているのだから否定も出来ない。一時私が首に着けていた自爆装置みたいなものだと考えると納得出来てしまう。
私は対となる者として覚醒した時にあの時のしがらみは全て払拭出来たのだが、この2人はまだ苛まれているのだ。本人は気にならないくらいのものではあるが、不治の病と言ってもいいくらい。時間経過で多少は緩和されていくかと思っていたが、今になってコレ。むしろインナーが再発を促してしまったのかもしれない。
「……私、これ普段使いさせてもらおうと思う」
「そうなんだ……私はとやかく言えないからさ。磯波がそれでいいなら、そうすればいいと思うよ。あ、でもいろいろと不便だと思うんだよなぁ」
「そこは……そこはどうにかするよ。私が選ぶことだもん。陽炎様は気にしないで」
私が認めたからか、複雑な表情から悲観的な部分が取り除かれたように見えた。磯波としては以前よりも悪化してしまったかのようにも思えるが、本人としては今まで以上に活躍出来るというのだから、私としては正直複雑だった。
とはいえ、夕立にも許した手前、磯波を否定するわけにはいかない。本人が喜んでいるのなら、私はそれを祝福してあげなければならない。これでより前向きになれるというのなら、それは私達も喜ぶべきことなのだと思う。
翌日、磯波は宣言通り、対策インナーを普段使いするようになった。制服を上から着ても首下でどうしてもわかってしまうため、鎮守府の全員が察することになるが磯波としては素知らぬ顔。むしろちょっと機嫌がいいようにすら見えた。
だからだろう、誰も問いただすようなことはしなかった。何か理由があるのだろうと察するだけで、わざわざ話題に上げるようなことではない。夕立と一緒に、後遺症でいろいろと変わってしまった時にも誰も触れなかったくらいだし。イメチェン程度で終わっている。
朝食は相変わらず異端児駆逐艦で纏まって。食べながら今日の予定の確認。
「今日は陽炎様と哨戒だったよね」
「だね。アクィラさんと赤い海の様子を見に行く哨戒ね」
準備しつつも、赤い海の状況は確認する必要はある。領域の拡張のスピードは随時確認したい。それこそ、少し見ない間に拡がるスピードが上がっていたら、タイムリミットまでの時間を見直さなければならなくなる。
とはいえ、あの防衛線には『黄昏』という新たな最難関が生まれてしまっている。哨戒自体もかなり慎重に行かなくてはいけなくなってしまった。実験とかそういうことは考えていないため、大分離れた位置からの確認になりそうではある。
インナーを手に入れたことで、磯波はより前向きになったと同時に、私と組むことに対して単純に喜ぶようになっていた。あの時の主従関係は全く存在しないのだが、友人として深く仲良くなった感覚。
これくらいなら後遺症とは言わない、と思う。元々私の魂の匂いで狂わせてしまっていた部分はあるが、それよりはまだ軽い方だ。寝る時に思い切り匂いを嗅がれることがある程度。それはもう慣れた。
「今日は私はお休み……なのよね」
「ぽい。夕立とむーさんはお休みだから、好きにしたらいいと思うっぽいよ。夕立はご飯食べたらまた寝ると思う」
「それが一番困るのよねぇ……」
艦娘として戦う決意をして、初めての休日を貰えた村雨。今まで訓練詰めだったところで急にお休みと言われると、何をしていいかわからなくなる気持ちはよくわかった。
私はその時は資料室で本を読んだり、散歩したり、お昼寝したりと、いろいろとやってみたものである。海防艦と遊んだりもした。やりたいことがあれば自由にやればいいだろう。夕立は相変わらず寝るらしいし。
「私は萩風ちゃんと訓練だから付き添うことは出来ないけど、ゆっくり休んでね」
「んー……わかった。こういう時にどうすればいいか探してみるわ」
私も付き添いは出来ないが、この鎮守府にいる人達はみんな優しい。何かしらの道を示してくれるだろうし、村雨自身でも見つけ出せるだろう。だから何も心配はしていない。夕立のようにお昼寝に興じるなんてこともあるだろうし。
「それじゃあ、私と磯波はそろそろ準備しないとね」
「うん、気をつけてね」
私と磯波は哨戒だ。先日のこともあるし、本当に気をつけて行動しなくては。磯波のテンションがやや高めであるため、少し意識しておかなくては。
午前中の哨戒を開始。旗艦は加古さん。随伴が霧島さん、アクィラさん、アトランタさん、そして私と磯波。万が一『黄昏』がまた現れてしまった時に撤退がしやすいメンバーということになっている。霧島さんは万が一の時はガチでぶつかる気満々のようだが。
赤い海に入るつもりは無いため、対策なども無し。遠目から確認をする程度で終わらせる予定。だからか、今までの実験部隊とかよりは緊張感が少ない。たまにはこれくらいの心に来ない任務でもいいと思う。
「うーん、赤い海が拡がる速度は昨日と同じ、かな。想定通りの場所に端っこがあるもの」
アクィラさんの鷲の目で確認してもらい、相変わらずの速度で領域が拡がっていることがわかる。タイムリミットはまだカウント開始から2週間前後という方向で変化無し。
ただ、確認している場所も前回よりは確実に前の場所からになっている。防衛線そのものは相変わらず沈没船に近い位置を陣取っているようだが、領域そのものは拡がる一方。
「ここに踏み入れたら『黄昏』が出てきてもおかしくないんだよな?」
「だね。実験してたら突然視線を感じたし、赤い海の中にいるってことが視界に入ることになると考えていいかも」
「まぁあたしらは対策してないから入りようが無いんだけどさ」
水平線の向こうにある赤い海を眺めながら加古さんが面倒臭そうに語る。このまま突撃はまず無い。というか必要が無い。
今この部隊で赤い海に入っていいのは、M型異端児である私と、対策インナーを着ている磯波のみ。流石にそんな状態で入る理由は無いし、まだ『黄昏』の攻略法すら考えられていないのだから、入ること自体が自殺行為に等しい。
「巫女になったレ級だなんて、ちゃんと対策しないと勝ち目は無いもの。私でも
「霧島さんでも難しい……よね」
「命を懸ければ相討ちくらいには持っていけるかもしれないけど、一筋縄ではいかないでしょうね」
霧島さんですら強く警戒している。今までに何度もレ級とは戦ってきているが、毎回1人でどうにか出来るような相手では無かった。とある時は陸奥さんと霧島さんで一斉射。とある時はネルソンタッチ。戦艦2人以上を使って上から押し潰すというのが一番手っ取り早い。
そんな相手が超強化されているのだ。いくら霧島さんといえど、1人でどうにか出来るとは思えない。今のメンバーも、撤退がしやすくなるようにと選ばれたメンバーである。倒すつもりはなく、撃退のつもりなら、6人がかりでどうにか出来ると判断された。
「触らぬ神に祟りなし。今は悔しいけど、遠目にすら視界に入らないように準備を進める方がいいわね」
「面倒くさいねぇ。もうちょい雑に勝てる相手ならいいんだけどさぁ」
「誰でもそう思ってるわよ。私だって頭を使わずに戦えればそれに越したことは無いもの。いざとなったら真正面からぶつかるけど」
ちょっとスイッチがOFFになっている加古さんがぼやく。それに対して霧島さんも苦笑しながら返した。
「これを着れば入れるんだよね……不思議」
「あ、あの、アトランタさん……そんなにジロジロ見られると……」
一方、少し暇を持て余していたアトランタさんが、磯波の首下に見えるインナーをジロジロ見ている。ここまでされると磯波もタジタジ。妙に興味があるらしく、前から見たり、横から見たり。水着型であることがわかっているため、スカートまでめくろうとしたので思い切り手を叩かれている。
「どんな感じなの。着心地」
「えっ、ま、まぁ……いい具合ですよ。とてもフィットするので、動きに影響は無いですし」
「ふぅん」
奥に秘めた感情は口には出さないようにしていた。ここで後遺症云々の話をする必要は無いし。
自分もこれを使うことになると知っているので、このインナーについて気になるのはわかるが、磯波はそういうことがあまり得意では無いので、だんだんと萎縮し始めている。
「こらこらアト、イソナミが困ってるわ。そういうのが好きなのはわかるけど、あんまりちょっかいかけないの」
「はいはい」
そこにアクィラさんが仲介に入ってくれて、事なきを得た。あまりにねちっこい視線だったか、磯波がさっと私の側に寄ってくる。さりげなく私の手を取っていたのはまぁいいだろう。
「とりあえず、鷲の目からは以上。赤い海は拡がってる。防衛線は奥のまま。『黄昏』からの襲撃はここでは無い。これでいいわね」
「あいよ。じゃあ、哨戒ルート引き返すぜー」
哨戒はこれで一旦終了。ここから帰る時も、結局磯波は私から離れない位置を維持するようになる。アトランタさんの視線を受けたことで、これ幸いと私の側をキープし続けた。
インナーを着たことで、
アトランタも普段着にレオタード使ってる疑惑があるんですよね。確かにあの服の透け方といい、防空巡棲姫の見た目といい、その要素は見え隠れしてます。