異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
赤い海への哨戒は無事終了。実験のために踏み込まなければ、何事もなく確認することは出来るようで何より。
想定通りの拡がり方をしていることが確認出来ただけで、より悪化しているようなことも無かった。それならタイムリミットは変化無し。計算してから少し時間は経ったので、残り時間は1週間強といったところ。それまでに、最終決戦に向かえる準備を整える。
D型異端児への対策インナーは配布されたので、ここからは通常の艦娘。順序をどう考えているかはわからないが、おそらく戦場で重要な立ち位置に置かれる順になるだろう。差しあたっては、戦艦を優先するとかが妥当か。
「うーし、鎮守府見えてきたなー」
哨戒経路をグルッと回って鎮守府が見えてきたところで、旗艦である加古さんからのほぼ終了の報告が聞こえる。後は気を抜かずにちゃんと鎮守府に到着し、艤装を下ろして、これで初めて哨戒は終了。
結局最後まで磯波は私、陽炎の側から離れず。アトランタさんからインナーのことで詰め寄られたというのもあったが、それとは関係無しにただ隣にいたかったみたいな気持ちが見え隠れしていた。
「ん? なんか鎮守府がおかしくないかい」
と、突然加古さんが呟いた。遠目に見て何かわかるとしたら。鎮守府の外周辺りに見たことのない車が停まっていたくらい。いや、それが充分おかしなことなのだが。
あとは、訓練なり何なりが何処かでされていてもおかしくないのに、鎮守府近海がやけに静かな気はする。全員が鎮守府の中に入るにはまだ時間が早いと思う。
「何かあったのかしら……今日は何も予定が無かったはずだけど」
「影野提督みたく、アポ無しでいきなり突撃してきたとかなんじゃね? あの車、今まで見たことないヤツじゃんよ」
「今うちに来る人なんて誰になるかしら……」
霧島さんと加古さんが考察する中でも、鎮守府には近付いている。そろそろ工廠の中が見えるとなった辺りで、いつもなら哨戒の帰りを待っている空城司令としーちゃんの姿が見えないことがわかった。
代わりに待っていたのは、今日はお休みになっていた陸奥さん。少し困った顔をしている。
「何かあったの? やけに静かだけど」
「お帰りみんな。ちょっと困った来客があったのよ。あんまり煩く出来ないから訓練も取りやめ。整備班すら待機状態よ」
霧島さんの言葉に、心底困ったような声で反応。その人が来たことによって訓練すら取りやめになるとか普通では無い。そこまでの相手とはどういうことか。
「私としては少し予想していたんだけど、もしかしてその来客って」
「まぁ、普通はこんなところに来ないような人よ」
はぁと溜息をついて、ぼそっと一言。
「
哨戒任務が終わった私達は、いつも通りお風呂に入った後に自室で待機することになっていた。普通別の鎮守府の司令官が来るくらいなら、訓練を止めたりなんてしないし、むしろこちらがやっていることを見てもらうくらいするのだが、相手が元帥、つまり
今は空城司令としーちゃんが話をしているようだが、どんな理由でここに来たかは今のところ不明。少なくとも、こちらが呼び寄せたわけでもない。そうだったとしたら、事前に伝えられて然るべきだろうし。
部屋から出なければいいだけなので、異端児駆逐艦は相変わらず私の部屋に集合していた。今回は夕立と村雨も参加。部屋が少し狭いから、寝るわけではないのである程度は緩和されている。
「こんな時に何の用で来たんだろうねぇ」
「大本営の人なんだし、ゲロ様狙ってたりして」
大本営から私の身柄の要求があったし、その線も考えられる。直に来て、その権限を使い、私の所属を無理矢理変えるだなんて芸当も、元帥という立場を使えば不可能では無いように思える。私としてはお断りなのだが。
「探ってることを勘付かれて口封じとか……」
「こんな大胆にやるかな。下手したらここの艦娘が一斉蜂起しちゃうよ」
本当にまずいことが起きた場合は、立場とか関係無しにここにいる全員が叛乱を起こす可能性だってあり得る。それこそ、空城司令やしーちゃんに危険が及んだ場合は、相手が何であろうが問い詰めるだろうし、最悪手を上げることにだってなる。
そんな危険を冒すようには正直思えないが、万が一を考えておくことは必要。真正面から乗り込んできてそれは無いと信じたいが。
「……私達を見に来たとか」
「元々深海棲艦だった子をってこと?」
「無くは無いと思うの。あちらから見れば、私達なんて理解出来ない者なわけだし」
少し自虐的ではあるが、村雨の言い分もわからなくはなかった。今でこそ魂の穢れを中和し、魂そのものに分霊をしたことによって心への影響も取り除いているが、そもそも分霊と言われても理解出来ないのが実情だ。
村雨もそうだが、最初からカウントするのなら、萩風や長門さんだって要注意人物だし、深海棲艦化する様子が動画として残っている私だって、大本営からしたら得体の知れない者。同期値が変動している記録は残っているとはいえ、操作された値とかイチャモンをつけることは簡単である。
「どう考えてもマイナスの方向に行くなぁ。もう少しポジティブに行きたいよ」
「なら、今までのことを褒め称えてくれると嬉しいっぽいね。太陽の姫相手に健闘してくれてるからご褒美とか」
そうなってくれたら嬉しいものである。そんな都合のいい話があるかはわからないが。
などと話している間に、部屋をノックする音が。扉を開けると、そこにいたのはしーちゃん。
「陽炎さん、来てもらっていいですか。少しお話が」
「う、うん、私だけ?」
「はい、
非常に怖い呼び出しである。この状況でしーちゃんからの呼び出しとか、確実に元帥のところに連れていかれる。
私に何の用があるというのだ、と考えたものの、思い当たる節がありすぎて困った。深海棲艦化した者、M型異端児を増やせる者、始まりの襲撃の被害者、そして太陽の姫と対となる者と。大本営が欲しがる要素をこれでもかと詰め込んだ人材。
私を前にして何を話すというのだろう。いいことなのか悪いことなのかは、今の私にはわからない。
しーちゃんについていくと、案の定辿り着いたのは執務室。奥からは小声ではあるが、2人の話し声が聞こえた。片方は明らかに聞いたことのない男性の声。
「連れてきました」
しーちゃんが扉を開けてくれた。少し緊張しつつも中に入ると、そこには見たことのない中年の男性と、秘書艦であろう艦娘の女性がいた。
鎮守府に指示を出す大本営とはいえ、艦娘は持っているらしい。深海棲艦が大本営そのものを襲撃する可能性だってあるのだし、それも当然か。
「君が……
重々しい声と共に私の方を向く。その顔からはいろいろな感情が感じ取れた。
「私は
「えーっと、つまり、一番上の人……!?」
「そうなる」
大本営を創設した者、
見た目的には空城司令と大差ないくらいに見えるのだが、その立ち位置のせいか、天上の人のようにすら見える。
「私は元帥の秘書艦、大和です。よろしくお願いしますね」
「は、はぁ、よろしくお願いします」
そしてもう1人は秘書艦の大和さん。話によると、うちの戦艦である陸奥さんや霧島さんよりも強い力を持つ大戦艦らしい。見た目はその名の通り大和撫子なのだが、人は見かけに寄らないものである。艦娘にはそういう人が沢山いるが。
「空城君からある程度話は聞かせてもらった。あまり褒められたものでは無いが……私にそれを言う資格が無いということも自覚はしている」
「それはどういう……」
「前々から言っていたろう。アタシらは裏で何をしていたか、アンタ達にも教えているじゃないか」
司令としーちゃんが裏でやっていたことといえば、当然あの沈没船と大本営の繋がりの調査だ。元帥の言う褒められたものでは無いというのはまさにそれのこと。上の許可もなく、むしろ上に疑いの目を向けていたことは、本来なら褒められたことでは無い。
しかし、自分でそれに対して文句を言う資格が無いとまで言ってしまっているということは、つまり……。
「アタシらの予想が当たっちまった。
船が沈められたことがあまりにも情報が揉み消されすぎているため、裏側で誰かが手を引いているというのは確定していた。そしてそれが大本営の手が入っているのではないかということまで話していた。
そうなんじゃないかとは言っていたが、本当に組織のトップがやっていたという事実を突き付けられると、驚きを隠せない。
「アタシらも昨日までにそこら辺は突き止めてたんだよ。元帥閣下が裏で手を引いているってことはね。事実を突き付ける前に、御本人が登場ってわけさね」
「そちらが調査をしていることは、こちらにもわかっていた。いや、むしろわかるようにやっていたのだろう。事態がこう動くように」
「さて、どうだろうねぇ」
私達の知らないところでも、太陽の姫攻略のために沈没船のことについては調査され続けていた。邪教崇拝をする教団が扱っていたというところからは、私達の与り知らぬところで先へ先へと動いていた。
結果、あの船があの場所にある理由そのものが、颯元帥が原因であるところまでは突き止めていたそうだ。数多の証言が細く細く繋がって、そこに辿り着いたのだとか。
「大和はそのことは知っていたのかい」
「……はい。うちの鎮守府……颯元帥の統括する最後の鎮守府の中では、秘書艦である私だけが知る事実です」
「全部自分の胸に秘めているものだと思っていたが、ここに大和を置いて話をしているんだからね。そうだとは思ってはいた」
大和さんはこの事実を知る極々少数の1人。だが、知っていて当然である事実が伝えられる。
「大和は……
「私は当事者の1人ですので……」
「は……!?」
申し訳なさそうに目を伏せる大和さん。空城司令としーちゃんも、さすがにそこまでは追い切れていなかったようで、そのカミングアウトには驚きを隠し切れなかった。
あの船の中で行なわれていたミサは、別に教団員全員が参加していたわけでは無い。選ばれた者のみが参加する特別なものだったらしく、まだ普通に教団の生き残りは各地に存在するとのこと。
大和さんはそのうちの1人。今は宗教とかそういうのからは足を洗い、艦娘として世界の平和のために戦っているのだそうだ。それは、
「私はあの頃、狂っていたのだと思います。当時は中学生でしたが、今思えば本当に馬鹿なことをしていたのだと自覚しています。いわゆる厨二病なんかでは片付けられないくらいのものです」
「洗脳が解けた、みたいなものかい」
「そうですね……何故あんなことをあんなに熱心に願っていたのか」
邪教崇拝というだけあって、その辺りはやはり何かおかしな集団だったと、客観的に見たらそう思えるとのこと。内部にいるのなら、それが当たり前と思ってもおかしくないのかもしれない。そうすることで救われるというのなら縋りたくなるのもわからなくもないし。
もし私が両親を失ったあの時、孤児院に拾われずにそういった宗教関係に傾倒していたら、同じようになっていたかもしれない。神を信じれば両親は戻ってくるとか言われたら、コロリと転がっていたかも。
「で、私がここに呼ばれた理由は」
「君には全てを知る権利があると、空城君から聞いた。最初に巻き込まれた者。運命を乗り越えた者。対となる者。君の力が無くては、この戦いは……私が引き起こしてしまったこの戦いは、終わらせることが出来ないと。だから、君には全てを知り、その上で君の言葉を聞きたい」
何故船を沈めるまでしたか、それを全て話してくれるそうだ。この世界の裏側で何が起きていたのか、この戦いが何故起きてしまったのか、それを颯元帥が知る限りで全てを。
ようやく、この戦いの裏側がわかる。それがわかれば、これからの戦いに役に立つかもしれない。