異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
経験を積むためにあらゆる訓練をしていくことになった私、陽炎。砲撃訓練から一時的に離れ、まずは雷撃訓練をこなした。木曾さんの教え方がいいのか、丸一日かけた自走式の標的に命中させる訓練のおかげで、魚雷に関してはかなりコツを掴んでいる。
このコツを砲撃に活かすことが出来れば、備え付けの主砲は勿論のこと、手持ちの主砲もそれなりの命中率になるのでは無いかと思う。要は、ちゃんと敵の動きを見て、次の動きを予測しようねということだ。
いくら艤装を私の支配下に置いているのだとしても、予測やら何やらは私が自力でやらなくてはならない。艤装が周りを見ているわけでは無いのだ。私が見て、その情報を艤装に送り、イメージして実行する。ただそれだけ。それが難しいわけだが。
「お疲れさん」
「うん……本当に疲れた」
「お疲れ様、陽炎ちゃん」
沖波と一緒に疲労困憊で訓練終了。木曾さんホント容赦ない。おかげで動いている的相手にある程度の確率で当てられるようになった。私にはそれくらいスパルタで身体に叩き込んだ方が身につくのかもしれない。艤装との連携もより強く出来るようになったようにも思える。
「これなら主砲より上手く使えるようになったんじゃないか?」
「かもしれない。このノウハウを砲撃に持って行けたらいいかなぁ」
「だな。何でも経験するってのはいいことだ」
この案を出してくれた阿賀野さんに感謝。何事も経験である。
「明日は何やるんだ?」
「明日は確か潜水艦対策のヤツ。海防艦の子達とやるって聞いてる」
「ああ、対潜か。あれは逆に大変だぞ。目じゃないところ使うからな」
潜水艦は海の中にいるため、目では見えない。故に、音を聴いたり、電波を飛ばしてその反応で場所を調べたりになるらしい。しかも潜水艦への攻撃は艤装とか関係が無い、手で投げるという原始的な方法。おそらく私が一番苦戦するであろう訓練である。
そこは海防艦の子達に懇切丁寧に教えてもらうことにしよう。ああいうのは年齢とか関係ない。知る者に聞くのが一番の近道。
「じゃあ、明日に備えてしっかり休めよ。やることが変われば疲れ方も違うからな」
「うん、そうさせてもらうね。今日はありがとうございました」
「おう、またシゴいてやるから覚悟しとけよ」
本当に覚悟が必要な気がする。体力も付けないといけないと実感。ただの女子高生では普通に耐えられない運動量な気がする。さすが世界を守る仕事。やることがやることだけに、世界レベルの体育会系にも思えてきた。
「お、ちょうど哨戒部隊も帰ってきたみたいだな」
終わり際に工廠から見える海の向こうに一部隊が帰投するところが見えた。午後イチに出て行った6人の艦娘、本日の哨戒部隊である。
訓練に必死だったため今の今まで気付かなかったが、遠目でもわかるくらいに黒煙が上がっていたので何事かと思った。深海棲艦を発見した哨戒部隊のうちの1人が被弾したようだ。
それを事前に報告されていたか、帰投のタイミングに合わせて空城司令もしーちゃんを引き連れて工廠に現れる。
「さくせんがかんりょうしたとぃぅほぅこくが……くかー」
「加古、寝るんじゃないよ!」
哨戒部隊の旗艦である重巡洋艦の加古さん。帰投するや否や、艤装も下ろすことなく眠ろうとしたため、空城司令が思い切り張り倒す。艤装を装備しているため、ビンタを受けても痛くも痒くも無いのだが、眠気覚ましにはなったようで、眠気を隠さず欠伸をしながら状況報告。
「みっけたのは……あー、何だったっけ?」
「重巡2体と軽巡1体、あと駆逐艦3体ね。旗艦なんだからしっかりしてよ」
「だぁからあたしが旗艦はダメなんだって。そういうのはガサにやらせりゃいいのさぁ」
加古さんの補佐のように立ち回っているのは同じく重巡洋艦の衣笠さん。加古さんと違ってとてもしゃんとしている。何故か衣笠さんでなく加古さんが旗艦なのには、空城司令なりの考えがあるのだと思う。
ちなみに衣笠さんはM型の異端児である。私もそうだが、異端児だからといって外見や内面に何かあるようには見えない。普通の艦娘だ。
「ちゃんと逃さず倒しといたよー。D型のドロップは無し」
「そいつは仕方ないね。で、怪我人は」
「あっち」
黒煙が上がる艤装はすぐに整備員の人達が回収。艤装は滅多なことでは爆発しないらしいが、完全に被弾しているため慎重に運ばれていった。
艦娘と違って整備員はただの人間だ。もし間近で爆発しようものなら、艦娘以上に危険。艦娘だって艤装を装備していない状態で巻き込まれたら大怪我は免れない。これはこれで恐ろしい職場である。
その艤装の持ち主は、先日訓練に付き合ってくれた菊月。何でも、重巡洋艦の敵から不意打ちを喰らったらしい。
いくら古参の熟練者だからといっても、砲撃を喰らってしまえば経験など関係なしに怪我を負うことになる。それに、深海棲艦も馬鹿ではない。人型に近付けば近付くほど、高度な知能を有するのだとか。真正面から突っ込んでくるだけの獣とは違う。
「しくじった……この菊月が手傷を負うとは……」
「艤装の状況から見て中破ってところだね。菊月、骨は」
「そこは大丈夫だ、だが、腕の肉を抉られてしまった。骨が見えるほどではないが、血がどうしても止まらない」
説明を聞いているだけで緊張感が漂う。菊月は私よりも長くここにいるとはいえ、私よりも歳下。なのに既に戦場に出ており、今は肉が抉れるほどの怪我を負っているという。それなのに、飄々と現状報告をしていた。
艤装を装備しているからその程度で済んでいるというのは理解している。無かったら腕そのものが無くなっていただろう。それに、過剰過ぎる痛覚は一時的に遮断される仕組みにもなっているらしい。そうで無ければ戦場で動けなくなる可能性まであるため、命を守るための機能である。
しかし、今は艤装を下ろしているため、徐々に痛みは戻ってきていることだろう。艤装を下ろして艦娘から人間に戻るまでは、おおよそ5分程の猶予はあるとのこと。その間に治療なり何なりを始めるのが一般的。
至れり尽くせりだが、酷使を許容しているようなシステムだとは思った。やろうと思えば限界を超えて働かせることも出来てしまう。空城司令は絶対にそんなことしないと信用出来るが。
「ドックの使用を許可する。すぐに治してきな。女が傷を持ってちゃいけない」
「傷は戦場を駆けた証だと思うが」
「随分と余裕そうだね。ならドック無しで治すかい?」
「やめておこう。そろそろ余裕が無くなってきた」
余計なことを言うのはやめて、そそくさと工廠の奥の方へと向かった。腕の痛みが完全に戻ってくる前に治療に入りたいのだろう。
治療するための施設、ドックというのはまだ私も見たことが無いのだが、要するに超再生治療を実行するカプセルみたいなものらしい。中に入っている間はまた艦娘としての身体となり、妖精さんが
「他に怪我人はいないかい。擦り傷程度ならさっさと薬を使うんだよ。痛い目見たくないならすぐにやんな!」
この薬というのも、使えば即座に痛みと傷が消えるという、聞くだけだとどんな成分使ってるんだと勘繰ってしまうような逸品だそうだ。
多かれ少なかれ全員が傷を負っている。我先にというわけではないが、バタバタとみんなで工廠の奥に向かった。やることをやったらそのままお風呂という流れらしい。
私もそのうちああなるのだろうと考えると、私の中に1つの感情が膨れ上がってきた。
「怖いか」
木曾さんに言われて、私は無言で頷くしかなかった。
戦場に身を置くというのはそういうものなのだ。敵も味方も命を張って勝利をもぎ取ろうとしている。勝てば生き、敗ければ死ぬのが摂理というもの。敗走という形で命からがら救われることもあるだろうが、怪我をすれば当然だが痛いし苦しい。
訓練しかしていない私には、まだそんな痛みはわからない。だが、そのうち実戦に出て、同じように怪我をして、死ぬような思いをする。それを今、他人のものとはいえ実際にみてしまったことで、どうしても怖くなる。手が震え出したのが自分でもわかったので、ギュッと拳を握る。
「それが普通の反応だ。勢い勇んでこの世界に足踏み入れて、実際戦場でブルっちまって動けないって奴は何人でもいる。なぁ沖波?」
「はい……私も初陣で足が竦んでしまったのを覚えています」
苦笑しながら沖波が話してくれた。今だからこそ笑えるのかもしれないが、当時は吐きそうなほど怖かったそうだ。
「訓練したことがまともに出来なくて、敵の砲撃をもつれる脚で必死に逃げて、あの時は半狂乱だったと思います。挙句に艤装は破損するし、みんなから慰められて散々でした」
今の私のように事前に
そういう意味では、私は運が良かったのかもしれない。覚悟の時間がこれで出来た。しかし、まだ震えは止まりそうにない。覚悟にも時間は必要。
「木曾さん、ちょっとだけ耳塞いでてもらえますか?」
「耳? まぁいいが」
沖波に言われて素直に耳を塞ぐ木曾さん。
「大丈夫だよ、ひーちゃん」
私の震える拳を包み込むように握ってくれる。ああ、なるほど、これはあまり聞かれたくない言葉。私のために禁止事項を犯してくれたわけだ。
「みんな怖いし、今でも怖いよ。出撃って言われたら内心ヒヤヒヤしてるもん。もしかしたらこれで死んじゃうかもしれない、そうでなくても怪我するかもしれないって」
「おっきー……」
「でも、私達がこの世界を守ってるんだもん。やらないと他の人達が死んじゃうかもって思ったら、力が湧いてくるの」
私達がもし戦場で志半ばで散ってしまったとして、そうなったら次はどうなるかと言われれば、当然陸に住む人達が被害を被ることになるだろう。死ななくてもいい命が散り、壊されなくてもいいものが壊される。それは確かに許せない。
私と同じ境遇の子供を増やすのも良くないことだ。それが止められるのなら、私が命を張るのは嫌ではないと思う。当然命を散らすなんて考えてはいないが。
「覚悟出来ないなら今からでもやめるっていうことは出来るけど……ひーちゃんはそんな人じゃないよね。少しの間一緒に暮らしたんだからわかるよ」
「あはは、おっきーにそんなこと言われたら、逃げられなくなっちゃった」
「言わなくても逃げないくせに」
自然と震えは止まりつつある。たったこれだけ話し合っただけなのに、心の奥では覚悟が出来始めている。
「もういいか?」
「あ、はい、大丈夫です。おかしなこと言ってすみません」
耳を塞いでいた手を下ろした木曾さんが、いきなり私の肩を組んでくる。急なことで驚いたが、木曾さんはニンマリと笑って頭をぐしゃぐしゃと撫で回してきた。
「覚悟決まった顔してるな。お前、
「素質?」
「おう。赤の他人を守るために命を張れる奴だ。本質がわかってるじゃねぇか。俺達は命を奪う存在じゃない。命を守る存在なんだってことをな」
空城司令が話していた艦娘の心得だ。破壊者ではなく守護者。命を守るために命を張る。それが私達艦娘だ。
これで覚悟は決まった。恐怖を感じないわけではないが、それを乗り越える力は心に出来たと思う。今の心持ちなら、敵を目の前にしても足が竦むことはないはずだ。きっと。
「よし、じゃあさっさと風呂に入ってこい。俺も後から追う」
「うん、わかった。なんかいろいろありがとう」
「後輩に叱咤激励するのは先輩の仕事ってな。それに、沖波の禁止事項は目ぇ瞑っといてやるから」
耳を塞いでいても聞こえはするか。少し戸惑うが、木曾さんの優しさに感謝しつつ、私は沖波とお風呂へ向かった。この頃には手の震えは完全に止まっていた。
死と隣り合わせの戦場が怖くない人間なんていない。いくら昂揚していても、いくら強くなっても、そんな命の終わりは見たくないに決まっている。それを引き起こさないためにも、私達は訓練して強くなり、深海棲艦を倒しているのだ。
それを改めて自覚して、私は次のステップへと足を進める。世界を守るため、私は強くならなくてはいけない。
木曾さんの言う艦娘の素質というものが、私にしっかり芽生えたと思う。心得と共に、決して忘れないようにしなければ。
15歳の女の子が命懸けの戦場に行くんだから怖くないわけがないんですよ。あ、夕立は例外ね。