異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
哨戒任務に行っている間に鎮守府に来た、大本営のトップである颯元帥とその秘書艦である大和さん。颯元帥は、太陽の姫が生まれたきっかけであろう客船羽裏号の沈没に深く関わる者、客船を沈めた張本人であった。そして大和さんは元教団の一員である。
私、陽炎は、その2人がいる執務室に呼び出され、話を聞くことになった。何故船を沈めるまでしたか、それを全て話してくれるそうだ。この世界の裏側で何が起きていたのか、この戦いが何故起きてしまったのか、それを颯元帥が知る限りで全てを。
「君達は……教団については何処まで調べた」
「まだ細かくは調べ切れていないね。何せ、情報が徹底的に封鎖されているんでね」
当て付けのように言い放った空城司令に、颯元帥は小さく息を吐き、話し始める。
「ここは知っていると思うが、
「ああ、政界にまで手を伸ばしていたとは聞いているよ」
「まさにそこが問題だった。閣僚の1人がやられたのだ」
やられた、という表現が正しいのかはさておき、その宗教の勧誘に閣僚が乗っかってしまったとなれば、これは由々しき事態であることは子供の私でもわかる。表には見えなくとも、これは国が傾くような事件と言っても過言ではない。
「今ではもうそれが誰かはわからない。だが、教団の教祖と呼ばれる者は、人心掌握術に長けていたのは火を見るより明らかだった」
「心の弱さを感じ取れるのではないかと思える程でした。私も……その類でしたので」
大和さんが顔を伏せる。元教団の一員だっただけあり、その教祖とやらとは面識がある様子。大和さんも心の隙間にスルリと入られ、あれよあれよと崇拝に向かってしまったらしい。その教団に従っている間は幸福だと思える程だったと。
それこそ、日常的にストレスを抱えているような人が簡単に傾倒してしまうようなものだというのだから、それは今この世に存在しているのなら恐ろしい存在になっていただろう。
「教祖がどんなヤツだったかなんて、アタシにゃどうでもいいこった。知りたいのは、何故客船を沈めるまでしなくちゃいけなかったかだ。聞いている限り、教団を野放しにしておいたら国が傾くってのはアタシにもよーくわかった。だが、そこまでやらなくちゃならなかった理由を話してもらいたいね」
さっさと本題に入れと促す。相手が大本営のトップであろうが、一切臆する気配がない空城司令に内心ヒヤヒヤしていた。立場があまりにも違う相手だというのに、今はこちらに強みがあると押せ押せである。
「……教団が政界に手を伸ばしたのは、資金源の確保だ」
「そういえばそんなことを聞いたねぇ」
政界では悪名高かった教団からの勧誘を突っ撥ねたという、影野司令のお爺ちゃんから手に入れた情報。政治資金の横流しまであったというのだから目も当てられない。
裏から手を回されてそれなりの額が動いていたということなのだろう。お金については申し訳ないが私は疎い。
「その資金を使い、この国のみならず、外の国にまで手を伸ばそうと考えていた。そんなことがこの国から起きたとなった場合、外交はどうなる」
「まぁ滅茶苦茶になるだろうね。一個人が勝手にやっただけでなく、国の人間までそれに加担してるってなっちゃあ、国そのものが下に見られてもおかしくはない」
国家権力で抑えられない宗教が、他国にまで影響を与える上に、それに国の者が手を貸していると知られたら、外からの印象は今までがどうであっても最悪になるだろう。
他の国には他の国の在り方というのがあるわけで、よりによって邪教崇拝が国境を越えて侵略しに行くようなもの。どうにかしてでも食い止めたいと思うのはわからなくはない。
「言い方が悪いのは承知で言うが、
「だから鏖殺ってわけかい」
「あの教団は政治資金の横流しのせいで、力を持ち過ぎていたんだ。官僚の一部やマスコミ以外にも、警察組織にも入り込んでいた。今ほどの力は無かったが、自衛隊の一部にも教団の一員がいたくらいだ」
そんなもの、宗教がどうとか最早関係ないではないか。客船を独自に扱える程の資金もあったわけだし、邪教崇拝とかそういう枠組みを大きく越えようとしていたのではないか。
今となっては真相は闇の中かもしれないが、それこそ世界中から信者を募って、最終的には戦争でも始めようとしていたのでは。教祖は何を考えてそんなことを。
「幸いにも、教祖を乗せた客船が、深夜海上に現れるという情報を入手した。その日を逃せば、国が傾くと判断した」
「で、その日に決行したということかい」
「……ああ。私の指揮の下、客船を沈めた。秘密裏に事を済ませ、その事実そのものを隠蔽した」
客船が妙に綺麗に残っているのは、その手際の良さだったようである。あちらにも相当な力があったようだが、電光石火の進軍により、反撃すらさせずに機関部を破壊し、一部は手ずから命を奪い、残りは客船と運命を共にさせようと画策したと。
その時の颯元帥にしてみれば、客船にいる者達はどういう意思を持っているにしても国家転覆に加担しようとしている
反吐が出そうであるが。
「これにより、この国の平和は守られた。見えないところで病原菌のように拡がる邪教崇拝は失われた。この大和のように、あの客船に乗らなかったものは、我々が探し出してケアをした」
「……そのおかげで、私は解放され、正しい生活に戻ることが出来ました。あの頃の私は、すべきことに抵抗など一切ありませんでした。その教えを、この国のみならず外の国にも伝えることが、至上の喜びとなっていました。ですが……今ならそれが間違いであったことを理解出来ています」
当事者である大和さんからの言葉。教祖が消え、教団そのものが終わると聞いて、とてつもない喪失感に襲われたらしい。だが、メンタルケアをしてもらえたことで、どうにか正常に戻れたのだとか。
そういう得体の知れない宗教に傾倒するというのは、人生そのものを壊しかねないことを実証してしまったわけだ。大和さんの黒歴史と言ったところ。
「つまり、だ。客船を沈めたのは、この国を守るため。そのことが表沙汰になるわけには行かないから、全ての情報を揉み消した。客船そのものがこの世に存在しないものになったわけだ」
「……ああ、その認識で構わない。教団のことを表に出すわけにはいかなかった。そんなことがあると知られることで、第二第三の教団が生まれてしまいかねないからだ」
邪教崇拝なんてファンタジー集団が実際にいることが世の中に知れ渡ったら、それこそまたそれに倣ったおかしな集団が増える可能性がある。ただでさえ、教団が政界にまで入り込んでいたのだから、今後のことを考えればそれくらいに警戒するのは無理もないのかもしれない。
だが、だからといって全員を殺す必要があったのだろうか。説得に応じる可能性があるか無いかは確認したのだろうか。問答無用で皆殺しにしたのでは。
「だが、結果的に深海棲艦という新たな脅威が生まれちまった。で、その対策本部を受け持ったのが、客船のことを知っているアンタだったってことかい」
「ここから教団のことが表沙汰になることを防ぐため、あの件を知っている私に任された」
「てことは、だ。太陽の姫が教団絡みってことを知っていて、それを一切公表しないでアタシらに尻拭いをさせてきたってことで間違いないね?」
少しずつ空城司令の言葉尻に怒気が垣間見えるようになってきた。その言葉に対して、颯元帥は沈黙。大和さんも顔を伏せるのみ。
「わざわざその話をしに来たのは何故なんだい。どうせこのままだったらそこまで辿り着くだろうから、先に全てを話して公表を阻止しようってことかい」
「君は……勘が鋭いな」
「それくらいしか思い浮かばないだろうさ。こんな木っ端な鎮守府に、滅多に大本営から動かない元帥様が来たんだ。裏があるに決まっているだろう。しかもそれが、アタシらが突き止めようとしていた深海棲艦の謎をペラペラ話してくれてるんだからね」
確かに、調査した結果この事実に辿り着いた場合、大本営の制御が利かずに公表されてしまうと考えるのが筋か。そうなったら最後、この国どころか深海棲艦に襲われている全ての国が混乱する。この国で余計なことをしたせいで生まれたバケモノが、世界を破滅に導いているのだ。
颯元帥はそれを阻止したがっている。隠せることは全て隠そうと尽力している。あくまでも全て国を守るため、ある程度の汚いことも目を瞑るという意思が感じ取れた。既に深海棲艦のせいで混迷を極めているのだが、それ以上の悪化を防ぐために動いているのだろう。
「平和を維持したいという気持ちはわかる。そんな事情が表沙汰になれば、少なくともこの国は混乱するだろう。鎮守府の運営に支障をきたす事態になるかも知れない。それで一番迷惑被るのは、他でもない艦娘だろう。見ず知らずの奴の
しかし空城司令は、颯元帥のその行き過ぎた正義に対して怒りを露わにしている。言葉尻の怒気を一切隠すことなく、相手が元帥だろうがお構い無しに、上から叩きつけるかのように言葉を紡ぐ。
「そりゃあ、教団を潰すことが国の平和に繋がるのはわかる。潰した結果、深海棲艦が生まれるだなんて思いも寄らなかっただろう。むしろそれを予測して動ける奴なんていやしない。余計な悪化なんてたられば論だからね」
「……ああ」
「だがね、アンタのやったことは許されないことだ。平和のためならどれだけ命を奪っても罪に問われないだなんて、ふざけてると思わないかい。そこに罪悪感が無いってんなら、余計にタチが悪い」
空城司令の拳が震えているのがわかった。どうにかして自分を抑え付けている。我慢しなくては、そのまま胸ぐらを掴んで殴っているのだ。
「自分が滅茶苦茶なことを言っている自覚はあるのかい。人を沢山殺しても、国のためだから罪には問われない。それを知った者も、国のためだから黙認しろ。これは悪事ではない、正義の執行なのだ。納得出来ると思ってんのかい」
颯元帥を睨み付ける空城司令。それだけ言われても、颯元帥の中の正義感は揺らぐことが無いのか、睨まれてもそれに対してただ目を合わせているのみ。
この颯元帥も、何処かおかしい人間なのではないかと思う。正義のためなら犠牲も厭わないというのは、ただのいい人とは到底思えない。
「で、これだけの話を陽炎に聞かせて、アンタはどういう返答を望んでるんだい。自分の正義が正しいと信じてやまないアンタに陽炎が賛同して、その力を振るってくれるとでも?」
「理解してくれると思った。陽炎の力は、この国を守るための素晴らしい力だ。だから、私が引き起こしてしまったこの戦いを、その力で終わらせてもらいたい。国のために」
私に向き直り、頭を下げてきた。本来、元帥という最高の立場の人が一艦娘である私に対して頭を下げるなんてとんでもないことなのだろう。普通なら恐縮してしまう。
だが、今の私にはそれすらも建前に見えてしまった。国のためなら何をやってもいいと考えている組織のトップなんて、言うことを聞く価値があるのだろうか。そういう疑問しか浮かんでこない。
だが、この戦いを終わらせない限り、世界に平和は訪れない。始まりは最低ではあるが、今や全てを巻き込んだ大戦争である。この人の思惑通りになるのは癪ではあるのだが、ここで私が動かなくては戦いが終わらないことくらい理解している。
「真相がどうであれ、私は戦うよ。私にしか出来ないことがあるんだから」
「……そうか」
「だけど、この戦いのせいで私の両親は死んでるの。私だけじゃない。萩風も、長門さんも、村雨も、みんなそれで苦しんだ。それについて謝罪して。みんなの前で」
自分が引き起こしてしまったと言う割には、自分がやったことは正義だからという気持ちが強いせいか、謝罪の言葉の1つも無いのが気に入らなかった。
だから、私はそれを強要する。私が許しても、他の人達が許すとは限らない。自分がしでかしたことを、この場でしっかりと理解してもらわなくてはいけない。
「……了解した」
思ったより素直に応じてくれた。不服そうにはしていない辺り、私の言葉で何かしら気付いてくれたのかもしれない。
ようやくわかった真相は、国を守るために執行された行き過ぎた正義だった。正しいか正しくないかは私には判断出来ない。