異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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真の愛国者

 執務室で颯元帥から話を聞いた後、この真相を知ってもらうため、艦娘全員を集合させた。これは私、陽炎からの、この事件に巻き込まれた私達に謝罪をしてほしいという強要である。

 国を守るためとはいえ、教団を消すために執行された鏖殺が深海棲艦を生み出し、全く無関係だった私達の家族が死ぬことになったのだ。特に私も含めた元深海棲艦組は、家族を失い、人生が壊されている。私はまだマシな方で、萩風達は戸籍すら失った()()()()()()()()()()()になってしまっている。そのことについて、何か言ってほしいと思った。

 真相について淡々と話してくれるのはいいが、その辺りに対して全く触れることが無かったため、罪悪感を持っているのかもわからなかった。上辺だけなのではと勘繰ってしまう程だった。

 

 集められた艦娘達の前に颯元帥が現れた途端、大本営のトップを前にすることで空気が張り詰める。事の重大さを理解しているのか、海防艦の子供達も少し震えて静まり返っていた。

 

「今から元帥閣下が話すのは、今回の事件の真相、深海棲艦が何故生まれたのかに関わることだ」

 

 空城司令が前置きをし、そこからは颯元帥が一度私達に話している事の真相が語られる。勿論、大和さんが元々教団の一員だったことも改めてである。

 

 話が進むにつれ、みんなが複雑な表情を浮かべていく。この国が混乱しないように、国の平和を守るため、客船にいた教団全員の命を奪うという行為に対して、どんな感情を持てばいいのかがわからないのだと思う。

 改めて聞いても、私の思いは複雑だった。それくらいしなければ止まらないくらいに膨れ上がった教団を対処するには、鏖殺以外の道が無かったのかもしれない。だが、相手は国を揺るがす存在とはいえ相手は人間だ。平和のために命を奪い、それを良しとするのはどうかと思う。正義のための人殺しだなんて、反吐が出そうになる。

 正しいか、正しくないかは、私には判断出来なかった。どれだけ考えても正解なんて出てこない。

 

「私から話せることは以上になる」

 

 室内は静まり返っていた。今まで調査してきた真相があまりにも重くて、それに合わせて空気まで重たくなっている。

 目の前にいる者は、私達がここで艦娘として活動し、平和を守るために戦うことが出来る場を守ってくれているトップの人。しかし、この戦いのきっかけを作ってしまった、言うなれば正義のための殺人者でもある。

 正直、どういう感情で見ればいいのかわからなくなっている。善悪両方を内包している人物だ。

 

 そんな重たい空気の中、颯元帥はさらに続ける。

 

「私はこの国の平和のために、教団を正義の名の下に滅した。だが、その結果が深海棲艦の誕生となり、教団が暗躍している時以上の被害をもたらしてしまった」

 

 ほんの少しだが、颯元帥の手が震えたように見えた。どんな感情で震えたかはわからないが、淡々と話している時よりも感情を表に出そうとしているのかもしれない。

 

「そのせいで、何人もの人生が壊れてしまった。ここにも該当する者が何人もいるだろう。本当に申し訳ない」

 

 その場で、深く頭を下げた。大本営のトップが、艦娘達に向けて謝罪の言葉と共に頭を下げるなんて前代未聞。その姿に慌て出す者まで出る始末。

 

「私がいくら謝罪したところで、失ったものは戻ってこない。その責任すら取れない。だから、今の私には謝罪しか出来ない。申し訳ない」

 

 私が強要した謝罪だが、これには心がこもっているように見えた。執務室で話している時とは、全く違うようにすら思えた。この言葉は建前ではない。まるで、抱え込んでいたものが解放されたかのように。

 その姿を見て、先程は怒りを露わにしていた空城司令も何か考えるような仕草をしていた。私と同じように思っているのなら、今と先程では颯元帥の心持ちに変化があると勘付けたはずだ。

 

「貴方はそれを、ずっと自分だけで抱え込んできたのか」

 

 その謝罪の言葉に対して、長門さんが尋ねる。謝罪を受けたことで何かしらの感情を得たかもしれないが、それを押し殺したかのような質問。

 

「……ああ。この事実を知る鎮守府関係者は、私と大和だけだ。私の鎮守府に所属する艦娘もこのことは知らない。拡げて見るのなら、私の独断を容認してくれた国のお偉方と、客船の襲撃に協力してくれた者はいるが……誰も大本営には参加していない。それに、それが誰かは公表するつもりもない。このことは、発案者である私が全てを抱えることにしている」

 

 今まではずっと1人で、いや、大和さんも含めた2人で、この事実を隠し切ろうとしてきたのだろう。国民がこの真相を知ったら、国は確実に混乱する。それこそ、先程空城司令が言っていた通り、鎮守府の運営にすら支障が出るかもしれない。

 それを防ぐため、颯元帥は感情すら押し殺し、悟られないように生きてきたのではないだろうか。あくまでも国のため、国民のために、自分1人が全てを被って。ずっとずっと、ついさっきまで。

 

「私は国のために手を汚し、国民の平和を願い続けた。しかし、私のやったことは、行き過ぎた正義だと断じられた。確かにそうだ。本来なら私は大量殺戮をした咎人だ。死罪にすら値するだろう。なのに、それを国のために必要だったとお咎め無しとされているのは都合が良すぎると言われても反論は出来ない」

 

 手の震えは明らかにわかるほどになっていた。感情の昂りからではなく、昂るのを抑え付けるために力んでいる震えであることがようやくわかった。この場でも、必死に感情を押し殺している。

 

「私は必ず地獄に堕ちるだろうが、それで国民が平和に生きていけるのならそれで構わない。だが、その道で不幸になってしまった者には、謝罪をするべきだった。全てを隠し通そうと考えたことが間違いだった。ここで気付かされた」

 

 もしかしたら、このことを話せる相手がもっといれば、こうまでならなかったのかもしれない。全て自分で抱え込んで、誰にも相談出来ずにいたことで余計に深みにハマっていき、結果的にこんな事態に陥ってしまった。

 この場に現れ、空城司令に全てを話したことで、颯元帥の中で何かが変わったのではないだろうか。ずっと抱え込んできた感情を表に出したことで、隠し通す苦痛から解放されたのだから。

 

「取り返しのつかない事態になってしまったのは、全て私のせいだ。どれだけ謝罪しても意味はないかもしれない。自己満足と断じてくれても構わない。許されるだなんて断じて思っていない。だが、今は言葉だけは紡ぎたい。申し訳ない」

 

 改めて長門さんに向き直る。長門さんだけではない。今回の件で人生が壊された者達全員を視界に入れて、もう一度頭を下げた。

 

 言い方は悪いが、ここまでバレなければ颯元帥は最後まで抱え込んでいただろう。自分1人の責任として、全てを隠しきり、誰にもその苦悩を知られることなく、戦いが終わるまで。

 颯元帥の信念は、この2度目の真相説明である程度理解出来た。ただただこの国を愛し、その手を汚しながらも平和を守り続けた、()()()()()なのかもしれない。

 

「決して許されるようなことでは無いわよね……平和のための鏖殺なんて。理由はどうであれ、殺人で解決しているんだもの」

「だけど、そうまでしないと国そのものに危機が訪れていたというのなら、選択肢としては充分に考えられるわ」

「そうなのよねぇ。私が同じ立場だったらどんな選択していたかしら。説得でどうにか出来る相手でも無かったら……うーん、難しい問題ね」

 

 陸奥さんと霧島さんが口を開く。我が鎮守府の戦艦、リーダーみたいなものなのだが、その2人も困り果てたような口振りだった。

 

「元帥閣下は愛国心の塊だったのでしょう。それが行き過ぎた正義だとしても、国のためを思って最善を尽くしている。とはいえ、隠し続けるのは無理があった。そこの選択は間違えていたんじゃないかしら」

 

 これまでの話から、霧島さんなりに分析をしていたようである。私が思っていたことを全て口にしてくれた。

 最初から全てを公表していたら、こんなことにはなっていなかったかもしれない。第二第三の教団が出来ることを恐れて、秘密裏に始末したと言っていたが、そもそもそれを恐れずに国民にその存在を知らしめていたら、事態は全く違う方向に行っていたかも。

 そう考えると、最初の選択が一番間違えていたと考えられるのも仕方ないことである。国の混乱を全て取り除くなんて出来やしないのだから、教団については全て公表しておけばよかったのだ。こんなことになるなんて思うはずがないから秘密裏に終わらせようと考えるのも無理はないのだが。

 

「……巻き込まれた側は堪ったものじゃないですけどね」

 

 ボソリと萩風が呟いた。それは勿論その通り。私も巻き込まれた側だから、萩風の気持ちだって痛いほどわかる。

 

「ですが、それは教団とやらの教祖が暗躍したことが問題なんですよね。今は生きてるか死んでるかは知りませんけど。むしろ、村雨さんが言っていた太陽の姫の依代というのが、実はその教祖なんじゃないですか?」

「依代はヒトの形をしていたけれど……私は教祖の顔も何も知らないわよ」

 

 そういえば、村雨は太陽の姫の依代を知っている唯一の艦娘だ。もしかしたら、これで依代のことが繋がるかもしれない。ちょうど教祖のことに詳しい大和さんもいることだし、そこから絵に起こせる秋雲もいる。それについては後からでも良いからやっておいた方がいい。

 

「深海棲艦が生まれたきっかけを作ったのが元帥かもしれなくても、()()()()()()()()()を作ったのはその教祖なんですよね。事の始まりがその教祖だというのなら、そちらを恨むことにします」

「そうね……私もそちらかしら。平和のために動いていた結果でこんなことになったとはいえ、そう動かした教祖に問題があると考えるべきだものね」

 

 元深海棲艦組である萩風と村雨がそう言ったことを皮切りに、今回の事件の問題は教祖にあるという意見で一致しようとしていた。特に一番酷い目に遭っている村雨がその発言をしたことが大きい。

 勿論、颯元帥の選択が正しいとは誰も言わない。しかし、間違っているとももう言わなかった。考え抜いた末の選択が予想外のオカルトなのはもう回避出来ない。それを落ち度とは流石に言えなかった。

 

「……最初から話していれば良かったのか」

 

 その流れに颯元帥が驚いていた。ここまで言っているのだから、全ての憎しみが自分に向くと覚悟していたのだと思う。

 

「あー……アタシも申し訳ない。元帥閣下にあそこまで(のたま)っちまった。信念を何も理解していなかったことはアタシの落ち度だ。感情に任せて暴言を吐いたことを謝罪させてほしい」

「いや……君にああ言ってもらえたのは、私が変われるきっかけになりそうだ。ここに来て全てを明かして良かったとさえ思う。私にとっては、あの解決方法は()()()()以外の何物でもない」

「意趣返しかい。参ったなこりゃ」

 

 小さく、本当に小さくだが、颯元帥が笑みを浮かべたように見えた。今まで長年感情を殺し続けていたことで、表情がうまく作れていない感じ。

 

「青葉、今のこの話、録画しているのかい」

「諜報部隊として、全て録画録音しっかりしてますよぉ。いざという時はこれを説得の材料に」

「データを削除しておいてくれ。この件、アタシらは公表しないことにする」

「了解です!」

 

 ニッコリ笑ってカメラの電源を切った。あとからみんなの前でデータを消し、この話は()()()()()()()()()

 

「だが、沈没船のことを公表したくないからと言っても、陽炎の力を使って無理にでも早く終わらせようとしたのはいただけないね。深夜に電話をさせて嫌がらせみたいなことまでしてきたのはさ」

「……ちょっと待て。それは私も知らないことだぞ」

 

 空気が変わる。

 

 以前、私の分霊の力を知った大本営が、わざわざ深夜に電話をしてきて、判断能力が低下しているタイミングを見計らって私を手に入れようとしてきた。あれは沈没船のことを知られる前に事を済ませようとする黒幕の仕業だと思っていた。

 しかし、颯元帥はその事を知らなかったと言い出した。そうなると、大本営の誰かが独断で動いたということに他ならない。

 

「それについては私が調べておく。客船関係なしに、分霊の力を狙っている者がいるのかもしれない」

 

 ここに来てまた違う問題が出てきてしまったが、これに関しては颯元帥に任せることでどうにかなるだろう。大本営の問題は、大本営のトップに解決してもらう。

 

 

 

 建前ではない感情を見せてもらえたおかげで、私も颯元帥の愛国心を知ることが出来た。やったことは問題だし、巻き込まれた私として複雑な感情ではあるが、戦いを終わらせるために太陽の姫をどうにかするのは変わらない。

 




先日、またもや支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/88486621
MMD静画のアイキャッチ風駆逐隊。この菊月の身長差がとても良いです。
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