異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
鎮守府の現状を知ってもらったところで、颯元帥は帰投。あまり長居するわけにもいかないというのは、立場もあるからこそである。これが大本営とかそういうので無ければもう少し長めに滞在まで考えられたが、よりによってトップなのだから仕方あるまい。
大和さんをここに出向させるという話も出たのだが、それはそれでまた手続きが必要なので残念ながらそれは叶わず。むしろ、大本営トップの鎮守府から艦娘が出向するのは今までに無いことのため、手続きそのものも慎重にならざるを得ない。
とはいえ、深海棲艦のラスボスと言ってもいいくらいの敵との最終決戦だ。激戦になることは必至なので、大本営としてもそれなりに手を貸す方向に持っていきたいようである。
「深夜の電話の件はこちらで調査しておく。教祖と依代の件はそちらに任せる。それで構わないか」
「ああ、任せておくれ。物部にも情報を渡して、関係性について調べておく。深海日棲姫のおびき寄せ方は、また追々考えていくことにするよ。時間はあまり無いがね」
「そうしてくれ」
端的に言葉を並べていくのは、颯元帥の癖みたいなものなのかもしれない。感情を押し殺しているのも相まって、事務的なところに関してはロボットみたいなイメージにさえ見えた。
だが、本心はわかったので、それでも構わない。あの謝罪はしっかり心に響いた。行き過ぎた正義感でも、これ以上無い愛国心あってこそ。褒められはしないが、罵るのも違う。元凶は教祖なのだ。
「大和、行くぞ」
「はい。では、失礼します」
また颯元帥には頼る時が来ると思う。今回の戦いは内容が内容なのだから、大本営としても動向が気になるだろうし。
ここからは頻繁に連絡を取ることになる。あちらでも調査してもらっていることがあるのだから、そういうところの連携は必要だ。
颯元帥が帰投したことで、鎮守府はまた平常運転に戻る。とはいえ、なんだかんだ哨戒に行くことは出来ないくらいの時間になったため、残った時間は急遽お休みということになった。アクィラさんがお休みということなので、哨戒部隊は全員それに便乗する形に。休息に使うのもいいし、鎮守府で行なわれることに便乗してもいい。
「村雨は午前中何してた? 今日はお休みだったでしょ」
私、陽炎は、一緒に説明の場にいた村雨と行動していた。アクィラさんはせっかくの休みなのだからと、間宮さんのところで甘味を楽しむとのこと。
村雨は艦娘となって初めての休日だったので、何をしたらいいものかと悩んでいた。午前中は何とか時間を潰しただろうが、午後から潰す手段が無いのなら、私のお休みにでも付き合ってもらおうかと思っている。
「みんな何かしらお仕事してたし、夕立は本当にずっと寝てたから、沖波にオススメされた資料室に行かせてもらったわ。ほら、私10年分空白があるし」
「あぁ、確かに」
自分でそういうことが言えるくらいには、村雨も吹っ切れているようである。毎晩夕立と五月雨が一緒に寝ているだけはあるのかもしれない。1人でいる時間が基本的には無いので、心を落ち着ける余裕はある。
資料室で本を読んでいる間はどうしても1人になってしまうが、それでも取り乱すことが無かったようなので、充分に回復したと言えるだろう。訓練中は余裕も無いだろうし。
「午後はどうしようかしら。やっぱり急に休みってなっても暇を持て余すのよね」
「私は散歩とかしてたかな。あと、外で昼寝とかしてた」
「昼寝かぁ……それもいいかもしれない。身体はそんなに疲れてないんだけどね」
夕立以上に疲れているであろう村雨なのだから、部屋でグッスリ眠ってもいいと思う。お風呂の力で疲れが取れていても、無自覚で蓄積されていくのが疲れだ。私だって、脚を酷使しすぎて2日でダウンしてしまったことがあるし。
村雨は改二に向けて短期間で詰め込んでいるのだから、私の脚と同じことが全身で起きていてもおかしくないのだ。やるだけやって突然倒れたら、それこそ訓練の意味が無くなる。入渠すれば何とかなるかもしれないが、そういうことじゃない。
「ちゃんと身体のケアはした方がいいよ。私も脚の件で何度も速吸さんにマッサージしてもらったし」
「私もお願い出来るかしら。でも、速吸さんが暇ならでいいんだけれど」
「ちょっと探してみる?」
速吸さんがいるとしたら、やはり医務室。そこにいなかったら訓練などのために外を見てみるのがいいだろう。
その流れで、一旦医務室に。正直いたらラッキーくらいで考えて中を見てみたら、なんだか随分盛況だった。大鷹率いる海防艦達が、医務室に勢ぞろいしていたのだ。対潜部隊として一緒にいることの多い五十鈴さんと龍田さんは別件でここにはいない。
速吸さんもその中にいた。今は大東の身体測定中。
「あれ、みんな揃って何やってんの?」
「海防艦は定期的に健康診断をしているんです。この子達は成長期ですし」
大鷹が言うには、海防艦ならではの恒例行事らしい。私達くらいの歳になればそこまで重要視はしていないようだが、海防艦は普通に子供。成長期というのもあるが、体質の変化とかに敏感になる年頃でもある。それに、艦娘という特殊な仕事をしている以上、何かしらの影響があってもおかしくない。例えば、成長が阻害されるとか。
そういった部分を調べるためにも、数ヶ月に1回のペースで健康診断をやっているそうだ。この鎮守府には、そういうことが任せられる速吸さんがいるため、外から医者などを呼ぶ必要も無い。自由なタイミングで行なえる。
「はい、大東ちゃんも健康そのものですね」
「やったぜー! 背も伸びてたしな!」
「占守も成長してたっしゅよ!」
「ま、まつわも……!」
身長体重で一喜一憂する感じが子供らしく、見ていて微笑ましく感じる。見た目ではそう変わった感じには見えないが、まだ私も日が浅い方だし、この子達がここに配属された時よりは大きくなっていたりするのだろう。
「さて、では最後に同期値を見ておきましょう。機械を繋ぎますから、じっとしていてくださいね」
「はーい」
健康診断の項目に同期値があるのも艦娘の特徴。そうそう変わることは無いのだが、成長に合わせて同期値に変化がある可能性は無いとは言えない。
もうそろそろ終わるようなので、少し待たせてもらうことにした。これが終われば速吸さんもフリーになるようなので、村雨のマッサージを依頼出来るかも。
しかし、ここで誰も予想していなかった事件が起きる。松輪の同期値を計測しているときだ。
「……んん?」
その数値を見て、速吸さんがどうもおかしな顔をする。今までそんなことが無かったので、急に不安になる松輪。
「あ、あの……はやすいおねぇちゃん……まつわになにか……」
「同期値が上がってる……」
戦いの最中に同期値が増減することは別に珍しいことではなく、戦っているうちに艤装が馴染み、その型の同期値が上昇するというのは今までにも幾度となくあったことだそうだ。占守や大東だって、当初に比べれば1とか2とかの僅かな数値で上がっていたりする。
だが、松輪の場合は、それとはまるで違うらしい。数値を見ているのは速吸さんだけなので、それがどれほどのものかは私達にはわからない。とはいえ、ここまで驚いているのだから、その上がり方は普通では無いのだろう。
「松輪ちゃんの前の値は……400ちょっとってところですね。でも今は……
松輪だけではなく、ここにいる全員が目を見開いた。僅かな上がり幅だったから笑って済ませる同期値の変動が、いきなり10倍となったら話が変わる。そもそもがM型異端児である松輪でそれなのだから尚更だ。
「松輪、身体がおかしいとかないっしゅか!?」
「気持ち悪いとかないか!?」
「う……うん……」
取り乱したのは占守と大東だが、松輪自身は頭にハテナマークが大量に浮かび上がっているだけ。何故自分がそんなことになっているか理解が出来ない様子。慌てふためく2人を余所に、数値を聞いた後は茫然とするのみである。
今までやってきた健康診断の結果も良好であるため、この同期値の急上昇が身体に影響を与えているところは無さそうである。顔色も悪くないし、疲れなどがあるわけでもない。
「D型同期値が上がってるわけではないので、そこまで心配は無いと思います。ただ、沖波ちゃんよりも高い値に急上昇しているので、原因は知りたいところですね」
沖波のM型同期値は2500ちょっと。村雨が来るまでは鎮守府のM型同期値最大値をマークしていたくらいの高すぎる値。元は2000だが、私がそこを少し上げてしまったのは申し訳ない。
しかし、松輪はそれすらも追い抜いてしまった。つい最近までそんな傾向が無かったのに、それこそ突然である。
そして、その理由は私にはすぐにわかった。おそらくここにいる者には誰にもわからない。
「松輪、多分あの時に覚醒したんだ。由良さんが『黄昏』にやられた時」
私の言葉に、松輪がビクンと震える。辛い戦いを思い出させてしまったか。
あの時の松輪は、今までとは違った。私達が束になってかかっても傷一つつけられなかった『黄昏』に、由良さんを守るためにたった1人で立ち向かって善戦した上、撤退のチャンスすらも作ってくれた。
松輪はその時に覚醒している。選ばれし者としての力が目覚め、あのとんでもない危機回避能力と、去り際の爆雷による一撃を手に入れた。殆ど無意識にそれを繰り出してしまった辺りがまさに選ばれし者。
「あの時の松輪は本当に凄かったからね。松輪がいなかったら撤退すら出来なかったよ」
「あ、あう……」
茫然としていたところに私が畳み掛けるように褒めちぎったことで、今度は恥ずかしそうに顔を伏せた。
「おー、松輪凄いっすねぇ。占守も見たかったっしゅ」
「マツの活躍するところとか、あたいも超見たかったぜ!」
占守と大東はそれに嫉妬などをすることなく、さらに褒め称える。そのせいで松輪はどんどん赤くなっていくが、そういうところは一切気にせず容赦なく褒める。
この3人、本当に仲がいい。喧嘩とかも多分したことが無いくらいに素直で良い子に育っている。この鎮守府での教育方針は間違っていないようだ。命の危険があるとはいえ。
だが、ここで少し不安そうな顔をしたのは村雨だった。
「そのM型同期値っていうのが急激に上がったのよね……それだと、太陽の姫に狙われるようになるんじゃ……」
「あ、確かに」
「その『黄昏』って奴がどういう動きをするかはわからないけど、少なくとも私は、沖波に分霊が効かないってわかったときは太陽の姫に報告したもの。アイツは選ばれし者だって」
その不安は当然のものだ。分霊が効かない沖波の存在を知ったことで、わざわざ鎮守府まで乗り込んできたくらいなのだ。あの赤い海の近くで『黄昏』と戦い、さらにはそれを撃退する程にまでの覚醒を見せた松輪を、太陽の姫が放っておくとは思えない。
今は赤い海を拡げることに専念しているかもしれないが、松輪がまた戦場にいるのなら確実に狙われるだろう。『黄昏』の宣言通り命を奪おうとするかもしれないし、沖波の時のように太陽の姫直々の分霊により新たな巫女に取り込もうとするかもしれない。
とにかく、松輪の身が途端に危険になったことは間違いなかった。戦場に出ようが出まいが、確実に狙われる。特に『黄昏』は松輪のことを目の敵にしているし。
「……すごく悪いこと考えちゃった」
「奇遇だね。私もだよ」
ここで、私と村雨は同じことを考えたのだろう。今は太陽の姫をどうやって誘き寄せるかという問題があるのだが、この松輪の存在がその問題を解決出来るのではないかと。
松輪を狙ってくるのなら、それを
前者も当然ダメだが、後者はさらに問題だ。心優しい松輪が巫女の記憶を持ち、さらには死による解放までされてしまったら、元に戻れたとしてもトラウマが酷すぎる。私達でもなんとか吹っ切れることが出来たくらいなのに、こんな小さな子に同じ荷を背負わせるのは苦行以外の何物でもない。
「大丈夫っす! 松輪が狙われても、占守達が守ってあげるっしゅ!」
「そうだぜ! マツはあたいらのエースだかんな! 任せろってんだい!」
こういうところで子供達の元気は励みになるというものだ。私達が何かを言うよりは一番親しい同年代にこういうことを言われた方が、松輪としては元気に繋がるだろう。
狙われるかもしれないという事実に不安がっていた松輪も、2人の親友に励まされて最後は笑顔を取り戻していた。
選ばれし者、松輪は今後の戦いのキーになってくるだろう。それを良しとするのなら、ではあるが。
松輪が覚醒したことを太陽の姫が理解していないわけもなく、赤い海拡張が無かったらまず間違いなく鎮守府に攻め込んできていたでしょうね。
支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/88534762
MMD静画のアイキャッチ風霧島。親分と子分のコンビは、このまま巣にカチコミに行く感じでしょう。