異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

215 / 284
艦隊の頭脳

 悪夢を見続けているせいで寝不足気味だった村雨も、速吸さんのマッサージと、その後の爆睡でようやくスッキリと眠れたようだった。午後の残った時間は夕立も一緒に昼寝をして、心身共に回復出来ていた。

 

「艦娘になって初めて悪夢見なかったかも」

「ぽい! むーさんグッスリだったもんね!」

「夕立もね」

 

 暗くなるまで眠っていたため、私、陽炎も一緒にそのまま食堂へ向かって夕食。その頃には鎮守府で行なわれていた業務も全て終わっていたため、訓練で外に出ていた沖波と萩風や、花壇の手入れをしていた磯波とも合流。

 全員有意義な1日が過ごせたようで、特に磯波は何だかキラキラしていた。趣味に勤しみ、休みを休みらしく使えたのは心の癒しとしては最高だ。

 

「明日からはまた訓練なのよね……でも、今日は本当にしっかり休めたし、もっと強くなれそうな気がする」

「ぽい! 明日からは実戦訓練だと思うよ」

「実戦……ガチで戦うってことだよね。あの砲撃だけのとは違うの?」

「全然違うっぽい。砲撃も雷撃も全部やるガチのぶつかり合いっぽい!」

 

 今までの訓練でガチガチに詰め込まれ、駆逐艦として出来ることを全て出来るようになっている。多少は端折っているところはあるかもしれないが、砲撃と雷撃は最優先に鍛え上げ、既に夕立程に動けるところまで来ているのが村雨だ。

 だが、まだ実戦訓練まではこなしていないらしい。訓練の一環として多少の対戦くらいはしたようだが、持てる技術を使った実戦となると話は別。それこそネルソンさん達とやったガチのぶつかり合いなんてものも、村雨は今後体験していくことになるだろう。

 

「まずはアレじゃないの。霧島さんとガチでやり合うヤツ。私らもやって、ボッコボコにされたじゃん」

「ああ……もう結構前になるけど、やったね。何でもありの1対1」

 

 あの頃の訓練を思い出して、沖波が苦笑した。磯波も苦笑気味。私もあの時はいきなり生贄にされた挙句、一番の初心者だったにもかかわらず、容赦なくこっ酷くやられた。

 1対1とはいえ、こちらは駆逐艦なのに相手は戦艦。しかも、この鎮守府の最高戦力の1人であり、攻防一体の盾と駆逐艦とは比べ物にならない威力の主砲を操る大親分。代わりに、的確に次の課題を教えてくれるので、あの()()()()()もしっかり次へと進めるステップになっている。

 

「1人で戦艦とぶつかるの……!?」

「あり得るよ。急ピッチな訓練だからね」

 

 訓練開始から僅か数日でそこまで進めるというのは、今までで見ても最速記録であることは間違いない。それもこれも、村雨の才能あってこそな部分もある。夕立と同じくらいの戦闘の才能があるのは、元々巫女として活動させられていたからというのもありそうである。

 これは普通に喜んでもいいことだ。戦いたいと思って努力していることが、才能も加わって思い通りに行っているのだから。最初の海上移動で苦戦したこと以外は全てトントン拍子というのも恐ろしい。

 

「そうでなくても、ここからさらにハードになるでしょうね。戦いはもう間近ですから」

 

 萩風も近日中に戦いが始まるということで努力を欠かしていない。今日の訓練も実戦訓練でしごいてもらったらしく、より強く動けるように身体に刻み込んでいるとのこと。沖波が感心するくらいなのだから、それは相当である。

 

「でも、焦らずに行くっぽい。大丈夫、むーさんヤバいくらい強くなってるから」

「そ、そう。なら、今のペースで頑張るわ」

「その調子っぽい! 今のスピードなら改二もすぐっぽいよ」

 

 ものの1週間ほどで改二というのも恐ろしい話だ。急ピッチにも程がある。しかし、それくらいやらなければ最終決戦には間に合わない。出来ることは全てやり、自分の全てをその日にぶつけるのだ。

 そういう意味では、私も訓練は欠かせない。今以上に動けるように、今以上に耐えられるように。『蜃気楼』のための下半身強化は必須だし、『屈折』のための命中精度向上も必須。私もやることは多かった。

 

 

 

 翌日、訓練再開。今回は私も村雨の訓練に便乗することになっていた。面子としては、私と夕立が村雨の補佐。そこに菊月が加わっているため、今からの訓練に『心眼』が必要であることがわかる。

 そしていつもなら教官役として砲撃の阿賀野さんや雷撃の木曾さんが前に立つのだが、今回は案の定と言った感じであった。

 

「そこの異端児2人は予想していたようだけれど、今回の教官は私よ」

 

 霧島さんである。ある意味、基礎が出来ているという証明であるとともに、ステップアップへの過酷な壁が現れたわけだ。昨日の夕食の時に少し脅してしまった感じになっていたが、それが本当になるとは。

 やることは簡単、私達が前にやっていたことと同じで、霧島さん相手に1対1。何でもあり(バーリトゥード)の戦い。霧島さんもその分何でもやってくるわけで、初心者の村雨相手にやるかどうかはわからないが、あの盾による攻撃も入れてくるかもしれない。

 

「じゃあ、早速村雨がやってみましょうか」

「え、えぇっ!?」

「基本的には貴女の訓練なんだもの。勿論残り3人もしごくけれど、最優先は貴女。今の実力を見てから、次は3人の戦い方を見て学び、自分に活かす。当然、私の戦い方を盗んでくれても全く構わない」

 

 私の時と同様、一番の初心者が最初の生贄となる流れ。だが、私としても今の村雨がどれだけやれるのかを知っておきたい。

 巫女の時とは艤装の扱いがまるで違うのだから、艦娘としての村雨がどのように成長したかのテストをするようなもの。戦い方がわかれば連携もしやすくなる。菊月がいるのはそれも兼ねているからだろう。

 

「村雨、諦めなよ。私もその洗礼受けてるから」

「むーさん頑張って。親分も鬼じゃないっぽい」

「いいじゃないか。今より強くなれるのなら、この菊月は万々歳だぞ」

 

 三者三様で言うものの、後から自分でやることになるにもかかわらず他人事の言い方である。村雨も流石に諦めて前へ。その時には覚悟も決めて、やる気で進んだ。

 戦艦相手に1人で立ち向かうというのは恐ろしいとは思うが、強くなりたいという気持ちは本物だ。これを乗り越えて、技術と精神を鍛える。霧島さんとの1対1(タイマン)は、そういうところの訓練にもなる。

 

「それじゃあ、お願いします……!」

「ええ、好きに戦えばいい。実戦と同じだから」

 

 こういうときは審判というか開始の合図は菊月が出すようで、戦いを見学する私達から一歩前に出る。

 

「両者準備はいいようだな。ならば、始め!」

 

 菊月が開始の合図を出した瞬間、霧島さんの主砲が全て村雨の方に向いた。いきなりの砲撃。私達の時もそうだったが、開始の合図が砲撃の合図となっているくらいに先制攻撃をぶちかましてくる。

 とはいえ、かなり大振りな一撃であるため、見てからでも避けられる砲撃だ。霧島さんもそこは本気ではやっていない。テンパってなければ確実に判断出来る。

 

「いきなりっ!?」

 

 勿論村雨もそこは見てからでも判断出来たようで、しっかり確実に砲撃を回避。

 当たり前だが、村雨は『雲』の回避方法はもう使えない。あれはあの艤装と、深海棲艦のフィジカルがあってこその技。私の脱力回避や、沖波の空を切る回避とは依存度が違う。

 

「敵は待ってくれないもの。だから、私も待たない。近づくなり、隙を見つけるなりして、私に1撃当ててみることね」

「め、滅茶苦茶ね! でも、やってみせる!」

 

 回避しながらでも、視線は霧島さんから外さない。その動きを見ながら撃つタイミングを計り、着実に前へと進む。ジリジリと間合いを詰めながら、砲撃の隙間を狙う。

 しかし、霧島さんはそういうところはガチ。砲撃を撃った瞬間の隙にちょうど村雨の砲撃が重なってしまった場合は、きっちり盾で防いでいる。下手をしたら回避行動すら取らず、ただそこに立ったまま撃ち続けるのみ。つまり、()()()()()()()()()()()

 まぁここ最近一気に成長しているとはいえ、霧島さんからしてみればまだまだひよっこ。これだけやってきた私達ですら1対1だと本気を出してもらえるかわからない。私達が強くなると同時に、霧島さんも強くなっているのだから。差は簡単には埋まらない。

 

「親分、むーさんの動きもここで頭に入れてるっぽい」

「さすが艦隊の頭脳……ちゃんと見てるってわけだ」

「ぽい。むーさんまだ雑になっちゃうから、指摘するポイントをいくつも見つけてるんだと思う」

 

 私達が初めて霧島さんに相手をしてもらったときも終わった時にいろいろと指摘を受けたものだが、村雨も同じようになるのだろう。

 村雨は現状でも大分詰め込み。指摘部分は私達の時以上に多そう。いくら戦闘の才能があったとしても、付け焼き刃の部分もまだまだ多い。似たような夕立だってさんざん指摘を受けていたし。

 

「回避は出来ているが、攻めあぐねているな。訓練とは違うから、2つのことを同時にやるのがまだ慣れていない。雷撃のことも頭から抜けているんじゃないか」

「砲撃訓練の時はそんな感じしなかったっぽいよ?」

「アレは駆逐艦同士でやっていたからだろう。相手が誰だと思っている」

 

 観察し続けている菊月も、村雨の戦闘にはいろいろと思うところがあるのだろう。この演習は、初心者を卒業して中級者になるための戦いだ。見る場所も多い。

 駆逐艦と戦艦の砲撃の威力は雲泥の差。正面に立たれるだけでも萎縮してしまいかねない威圧感があるのに、紙一重で避けても衝撃でダメージを受けかねない攻撃を撃たれ続けるというのは、それだけでも戦い方がまるで違う。

 

「だが、よく見ているな」

「ぽい。夕立仕込みだからね」

「それがよくわかる。直感から動きがどんどん良くなってるのはわかるぞ」

 

 菊月の言う通り、時間をかければかけるほど、村雨の精度は良くなっていった。夕立の獰猛さを冷静に抑え込んで使っているようにすら見える。直感で回避方向を判断し、分析で砲撃するタイミングを見出す。そういう意味では夕立よりも厄介かもしれない。練度が低いからまだまだではあるが。

 

「ふむ、数日でコレなのね。確かに夕立と似たような才能の持ち主であることはよくわかったわ。でも」

 

 霧島さんの砲撃の質が変わった。まるで陸奥さんの一斉射に合わせる時のように、回避先を潰すかの如く広範囲にばら撒く。見てからの回避だとまず避けられない。

 そこで直感が活きる。ここだと見つけた場所は、砲撃の隙間。しっかりとそこに向けて回避し、さらには主砲を霧島さんに向けていた。

 だが、相手は霧島さんである。直感によって選択する場所を()()()()()()()()()()()()ということに気付くのは、広範囲の砲撃を回避した直後だ。

 

 夕立ならここで足は止めない。主砲を眼前にしても、身体を捻るなり思い切り蹴り飛ばすなりで、回避しながらの攻撃を見出す。それこそ獰猛に、野生の動物のように。飛んだり跳ねたりして、スタミナ度外視の行動をこれでもかとやる。

 しかし、村雨はまだそこまでには至らない。自分の戦い方がまだ出来上がっていないのだから、主砲を突きつけられた瞬間に足が止まってしまった。息を呑んだ瞬間は最悪な隙となる。

 

「経験はどうしても、ね」

「っあうっ!?」

 

 そして、砲撃。村雨がちゃんと撃てていたとしても、その砲撃すら呑み込む戦艦の砲撃が、村雨の胸に直撃した。私も受けた()()であり、ペイント弾であるが故に強烈な圧となって吹っ飛ばされた。

 

「初めて訓練で相手した時の陽炎と夕立を足して2で割ったみたいな相手ね。だけど何より経験不足。付け焼き刃だから半端な部分も多い。でも、やり方を身体が覚えてるのはいいことね。伸び代しかないもの」

「ゲホッ……は、肺の空気が、全部出ちゃった……っ、かはっ」

 

 その一撃をまともに喰らったせいで息も絶え絶えである。呼吸を整えるのに少し時間が必要だろう。受けたものにのみわかる苦しみである。

 

「村雨、私がしっかりと叩き込んであげるわ。貴女にやる気があるのなら」

「やる気、やる気なんて、あるに決まってるでしょう! せっかくここまでやってきたんだもの。私だって()()()()()の端くれなんだから……!」

 

 出鼻を挫かれた感じになりそうだったが、村雨のやる気はこんなことでは折れない。むしろさらにやる気を増して、霧島さんに師事するかのように立ち上がった。

 

「その意気や良し。なら、この私、霧島が、村雨を鍛え上げましょう。夕立にも敵うくらいに」

「ぽい!? 夕立、まだまだむーさんには負けないっぽい!」

「すぐに追いついてやるんだから!」

 

 夕立も巻き込んで、村雨の演習は苛烈さを増していくのは目に見えていた。これは全身ペイント塗れになるまで演習を続ける気満々だ。やる方も、やられる方も。

 

 

 

「これ、もしかして子分が1人増えたんじゃない?」

「菊月もそう思った。まぁ……いいんじゃないか」

 

 それを遠目に見ている私と菊月は、苦笑するしかなかった。本人が楽しそうならまだいい。この演習を苦行と思っていないのなら、やれるだけやるべき。

 




霧島組に新たな構成員が追加。本人がやる気満々なのだから、否定しちゃいけない。



支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/88585070
MMD静画のアイキャッチ風むっちゃん。あの人これくらいの鉄アレイなら余裕でこういうことしそう。見た目は女性らしくても筋肉は鍛えられてる人だし。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。