異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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平凡故の苦悩

 その日は丸一日、霧島さんを相手に演習をし続けた村雨。1回戦ってはダメ出しを喰らい、菊月の『心眼』も加えた指摘で悪いところを矯正。より戦いやすく、より負けない動き方をこれでもかというほどに身体に染み付けられていった。

 合間合間に私、陽炎を含めた参加者も霧島さんと演習を行ない、それを見てもらうという形でも成長を促す。人の戦いを見てそれを取り入れることも重要だ。特に同じ気質である夕立の戦い方は、村雨にも参考になるところが多いだろう。

 

 伸び代しかないと霧島さんに称されただけあり、この1日で村雨の実力はぐんと上がったと感じられる。やはり直感タイプはそういうところが凄まじい。2人目の夕立だと思えば村雨の恐ろしさがよくわかる。

 

「疲れた……今日は本当に疲れた……」

 

 今日の訓練が終わったところで、本当に疲れたという表情を浮かべる村雨。艤装を下ろしてお風呂に向かうにもフラフラ。

 それもそのはず。今日一番演習をしたのは間違いなく村雨であり、私達が戦ったのも村雨に見せるため。当然本気でぶつかり合っているが、その間に村雨が休憩出来ていないようなものだから、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積してしまっているだろう。

 とはいえ、昨日までと違い寝不足気味でも無かったようなので、ただ単に今回の演習で疲れ切っているだけということで少しだけ安心。

 

「あとは栄養のつくものを食べて、ゆっくり身体を休めれば、自然と身になるわ」

「確かに、これだけ疲れても食欲だけはちゃんと残ってるのよね……」

「それだけ消耗しているんだもの。カロリーは度外視のほうがいいわよ。極端な話、好きなものを好きなだけ食べることをお勧めするわ」

 

 演習で消費したカロリーをしっかり摂って、明日に備えろと言っているわけだ。むしろこれを守らないと、明日の訓練は耐えられないぞと忠告しているようなもの。

 多分言わなくてもそれなりに多めに食べていたと思う。あの運動量はそれだけ栄養を求めている。

 

「むーさん、夕立と一緒にガツガツ食べるっぽい! お肉、お肉!」

「はいはい……私としても、今日はちょっとガッツリ系を食べたいところだわ……」

 

 夕立に引っ張られてお風呂に直行。私達は置いていかれてしまった。よくもまぁそんなに元気があることで。

 今日の演習でさらに仲の良い姉妹となったようである。やはりタイプが似ているというのは、それだけでも意識してしまうものなのだろう。ただでさえ毎晩同じ部屋で眠っているのだし。

 

「貴女達もしっかり休みなさい。陽炎も菊月も、大分消耗しているでしょう。1日村雨に付き合ったんだし」

「ああ……やはり霧島さんには勝てないな」

「だねぇ。1対1(タイマン)だとどうしても艦種の差が出てきちゃうよ」

 

 私と菊月も、1人では霧島さんに勝つことが出来ず。私の場合、『蜃気楼』での撹乱は出来ても、どうしても火力不足により盾で防がれてしまい、ジリ貧状態に。菊月も砲撃の隙を見つけることは出来るのだが、どうしても盾を突破出来ない。

 アクィラさんからの指摘された癖、移動方向に視線をやってしまうことに関しては意識して直してはいるのだが、駆逐艦の火力で盾が抜けないことに関しては一筋縄ではいかない。霧島さんが実力者なのだから尚更だった。

 

「1人で戦うのにも限界があるのはわかるんだよね。サウスダコタさん相手にした時もそうだったけど、火力不足はどうにもならないから、そこを仲間に補ってもらうっていうのが一番早い」

「確かにな。出来ることならば自分のみで突破したいが、霧島さんは隙が無くて困る。だからやりがいがあるんだが」

「わかる。意地でも突破してやるって思えるよね」

 

 こんな過酷な演習でも、もうやりたくないとは思えなかった。次の機会で霧島さんを超えるんだと躍起になれた。強くなることが楽しいのかもしれない。

 

「貴女達くらいにまでなると、2人がかりだと少し怖いわね。『心眼』と『屈折』を重ねられると、どれを防げばいいのかわからなくなるもの」

「それはいい情報だ。陽炎、今度は組んで戦おう」

「だね。そろそろ霧島さんには私達に負けてもらわなくちゃ」

 

 疲れは酷くても、笑って終われているならそれで良し。今日は私もグッスリ眠れそうである。

 

 

 

 私達がお風呂を終わらせた時、ちょうど哨戒部隊も帰投。赤い海は確実に拡がっており、それは予想の範囲内とのこと。昨日の午後はアクィラさんが哨戒に出ていないので少しだけ誤差が出そうではあったが、今のところは計算はまだ外れてはいない。タイムリミットは今日からカウントするなら後1週間前後である。

 対策インナーも生産は続いており、今日でまた8人分が完成。優先順位が高い、火力が高いものに順々に配布されている。援軍も込みにすると、戦艦が長門さんを省いた4人、空母が天城さんを省いた4人。大鷹も空母として先行して配布されていた。

 

「あ、ちょうどいいところにいた。陽炎!」

 

 浴場から外に出た直後、入れ替わりにお風呂の時間になっているであろう哨戒部隊の面々の中から私を呼ぶ声。

 その声の主は衣笠さんだ。今日の哨戒部隊の旗艦を務め、私達が霧島さんの演習を受け続けている間、ずっと海の平和を確認し続けていてくれた。

 

「ん、衣笠さん、どうかした?」

「明日の日程なんだけど、本来から変えて1日衣笠さんに付き合ってもらえないかな」

 

 本来の私の日程は哨戒。今の衣笠さんと同じように、赤い海がどれだけ拡がっているかを確認し、それ以外のいつものルートを回る大事な仕事。逆に衣笠さんの日程は申し訳ないが何かは知らなかった。

 うちの鎮守府では、重巡洋艦が結構哨戒任務に駆り出されることが多く、日替わりで2人の重巡洋艦が旗艦を務めている。だから明日は加古さんが旗艦。衣笠さんはお休みだったり訓練だったり。

 

「哨戒だったはずだけど、何に付き合うの?」

「実はさ、ちょっとガッツリ訓練したいのよね。で、陽炎と沖波にお願いしたいんだ。さっきちゃんと提督にも話はつけてあるから」

 

 私と沖波ということは、つまり元巫女を相手取りたいということに他ならない。私と沖波がやれることといえば、やはり回避性能。それの対策を知りたいということ。

 

 今までの傾向から、太陽の姫はM型異端児の攻撃しか効かない可能性が高いため、最後の部隊はM型異端児全員集合の状態で向かうことが確定しているのだ。D型が交ざってはいるが、磯波までもがそこに加わることがほぼ確定しているくらい。

 衣笠さんもM型異端児。太陽の姫との最終決戦には確実に駆り出される。この部隊の中で唯一の巡洋艦であるため、どう考えても火力がトップ。故に、その戦場では特に重要な位置に立つことになる。

 

「日程変更だね、わかった。でも、すごく急だね」

「松輪の件、聞いたよ。これは嫌でも強くならなくちゃいけないでしょ。今度の最終決戦、松輪を守りながらの戦いになりかねないんだから」

 

 以前の10倍に跳ね上がっていた松輪の同期値から、太陽の姫は松輪を排除するために動き出すのではないかという予測を村雨と話していた。それが正解だった場合、対潜部隊として出撃することが確定している松輪が、他の対潜部隊と一緒に太陽の姫自身に狙われる可能性すら出てきてしまった。

 さらには、『黄昏』が松輪のことを目の敵にしているのも忘れてはいけない。松輪の姿を戦場で見たら、最優先で狙ってくる可能性は非常に高いのだ。

 

 どういう部隊で出撃するかは空城司令が決めることになるのだが、作戦の都合上、M型異端児のみで部隊を組む際に松輪までそちらに加えた場合、まず間違いなく松輪を守る役目を持つのは衣笠さんだ。それを見越して、準備のために猛特訓がしたいと申し出たわけだ。

 

「太陽の姫との直接対決をするってなって、そこに松輪の力も必要っていうなら、あの子を守ることが出来そうなのはM型異端児で一番()()この衣笠さんになるでしょ。だから、今の状態から出来る限り底上げしたいんだ。頼まれてもらえる?」

「断らないよ。それに、もう日程変わってるんだよね」

「あはは、そうだね。指示が来るんだから避けようがないかな」

 

 そもそも私が断るとは思っておらず、先んじて手を打っている。断る理由がないし、仲間を守るために強くなりたいというのなら、喜んで手を貸すのが私達である。

 

「あ、でもあの松輪の回避術だと、守る必要ってあるのかな」

「あー……あの危機回避ね。当たる前にはもう避けてて、爆雷を置き土産してくヤツ」

「そうそう。あれ、衣笠さんもしかして空回りしちゃった? いやいや、これはこれで必要な技術よね、うん」

 

 確かに、松輪のあの危機回避能力は目を見張るものがある。自分への脅威を先んじて感じ取っているのか、攻撃をした瞬間にはもうその場所から離れており、あの『黄昏』の攻撃すら全て捌き切っていた。あの戦いを無傷で乗り越えてしまえる程の力をあの場で得ていた。

 だが、その力に覚醒したからといって、それが常時使えるかどうかはわからない。あの時のような絶体絶命のピンチの時にのみ発動するような力だったとしたら、出来るようになる前に死んでしまう可能性だってある。それだけは避けなければならない。

 そうならないためにも、衣笠さんが松輪の守護者としての役割を持つのは間違いではなかった。空回りでも何でもない。艦娘の心得、破壊者ではなく守護者であるという思いが真っ先に出たからこそ、この考えに至っている。

 

「まぁ本音を言うとさ、衣笠さん多分M型異端児の中で一番平凡だと思うのよね。で、あの戦場に出るわけでしょ。今よりももっと強くならないと、足手まといになっちゃうかなって考えたわけよ」

 

 そんなことは無いが、衣笠さんはそれについて少し思い悩んでいたようだった。

 別に足手まといになるだなんて微塵も考えていない。『黄昏』との戦いでも、的確にサポートをしてくれていた。ただ、衣笠さんは自身が言った平凡という言葉に対しては、私は言葉が返せなかった。

 

 今いるM型異端児は、磯波を省いたとすると衣笠さんを含めて5人。私は言わずもがな、対となる者としての力。分霊もそうだが、『蜃気楼』と『屈折』がある。沖波は『空』の回避。想定外で無ければ全ての攻撃が空を切る。村雨は今絶賛特訓中ではあるが、夕立と同レベルの天賦の才が見受けられ、太陽の姫のことを一番理解しているという知識もある。そして松輪がつい最近覚醒した。

 そうなると衣笠さんはどうか。哨戒部隊の旗艦として何度も何度も同じルートを回り続け、変化を見逃さないくらいに観察力がついている。これは私達には無い力だ。戦う力ではなく、戦局を観る力が群を抜いているのは間違いない。しかし、戦闘面で言えば重巡洋艦の域だ。こんなこと考えてはいけないと思うが、衣笠さんは本人が言う通り()()かもしれない。だから、一皮剥けたいと考えるのは当たり前のことだった。

 

「いや、足手まといは無いでしょ。衣笠さんのサポートは私にとってもありがたいよ」

「あはは、そう言ってもらえると嬉しいよ。今まで頑張ってきた甲斐があるってもんだし。でもさ、ちょっと平凡すぎるってのは納得しちゃわない?」

 

 言葉が返せず。他のM型異端児が、私も含めておかしいだけなのだが。

 

「ということで、明日はよろしく!」

「うん、わかった」

 

 ニコニコしながらお風呂に入っていく。悩みはあるが、少しだけ晴れたような表情。まるで、自分の中に燻っていたものが口に出せたことでスッキリしたかのような清々しい表情だった。

 

 

 

 衣笠さんだって、私にとっては頼りになる先輩だ。だが、あんな悩みを持っていたなんて気付かなかった。

 なら、私は力になってあげたい。そんな悩みが吹っ飛ばせるくらい、私が出来ることをやってあげたいと思う。

 




衣笠といえば、重巡洋艦の中でも火力が控えめな代わりにローコストであることが特徴。作者はMO作戦の重巡枠とかに起用しています。ある意味、重巡の睦月型枠だったり天龍型枠だったり。それはそれで重宝するんですけどね。
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