異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
最終決戦に向けて準備を続けている鎮守府。戦力増強を続けている中、私、陽炎は衣笠さんから訓練の相手をしてもらいたいと相談を受けた。M型異端児として決戦の場に立つことが確約されているのに、自分の力は平凡すぎて足手まといになるのではないかと悩んでいたからだ。
私としては足手まといだなんて微塵も思っていない。だが、本人がそう思ってしまっているのだから、何も言い返すことが出来ず、その訓練に付き合うことになる。本来哨戒任務だった日程ももう変更されており、明日は衣笠さんの訓練に尽力することになる。
「衣笠さんがそんなことを……」
夜、いつものように私の部屋に集まる異端児駆逐艦。私と一緒に訓練相手を務めることになっている沖波も、衣笠さんがそんな悩みを持っていることは知らなかったらしい。
「いつも哨戒部隊の旗艦をやってくれてるし、頼りになる先輩って感じだったんだけどなぁ」
「……尖った特技を持っていないのは確かですけど……」
萩風がボソリと呟く。それを言い出してしまえばおしまいな気がするが、私もあの時はそれを考えてしまっている。私も含め、他のM型異端児がいろいろとありすぎただけ。私と沖波が尖りすぎているだけである。
だが、本人にそういう悩みがあり、それを私達で解消出来る可能性があるのなら、出来る限り力を貸すのが仲間というもの。わざわざ元巫女を訓練の相手に選んできたのだから、私達にも本気の演習を望んでいるはずだ。そこから自分の中にある何かを見出そうとしている。
「衣笠さんがダメなら、私はどうなっちゃうんだろう……」
「『雲』の時に菊月の後を継いで『心眼』みたいなこと出来たでしょ。私は磯波のこと本当に頼りにしてるんだから」
「……そう言ってもらえると嬉しいかな」
衣笠さんの悩みを知り、磯波も少しだけ落ち込みそうだったが、私としては磯波も衣笠さんと同じように頼りになる仲間だと思っている。私に出来ないことが出来る時点で、誰もが頼れる仲間だ。
「私もひーちゃんも、回避は一人前でも攻撃が……ね」
「ホントそれ。『屈折』も霧島さんやサウスダコタさんには効かなかったからね。駆逐艦の火力不足は、仲間にフォローしてもらうしかどうにも出来ないよ」
「だよね。私も同じ。フォローしてもらって、何とか勝ちを拾うってイメージだよ」
霧島さんとの1対1の演習といい、少し前にやった支援艦隊との演習といい、私は1人だけの力では勝ち切れないことの方が多い。避けてるだけで勝てれば苦労はしないのである。
それに、戦場でも仲間には何度も救われたし救っている。その存在の偉大さはそういうところで理解しているつもりだ。
「とにかく、明日は衣笠さんに自信を持ってもらえるといいね。手を抜くつもりは一切無いけど」
「だね。私もリクエストされたからには、全力でぶつかることにするよ。その方が衣笠さんのためだもんね」
全力で訓練することで悩みを解消する何かを見つけてくれればいいのだが。それは私や沖波が背負えない問題だ。
「ところで……村雨さんはどうだったんです?」
不意に聞いてくる萩風。なんだかんだ村雨のことは気になっている様子。
「霧島さんに可愛がられてたよ。あれはもう2人目の子分になることが決まったようなものかな」
「村雨さんが霧島さんのこと親分と呼ぶようになるんですか」
磯波が久しぶりに破裂。ただでさえ夕立の親分呼びに対して笑いが堪えきれなかった時期があったのに、それがあまりにも似合わない村雨のそれを想像してしまったのだろう。確かにその光景はちょっと面白い。
「そ、想像したら、それ、ホント」
「村雨って夕立に似てる部分結構あるけど、そんなところまでは似ないでもらいたいなぁ」
明日もかわいがりは続くので、より霧島さんを慕っていくことになりそうである。本当に親分と呼ぶことになる気がして、私も少し笑ってしまいそうになった、
翌日、予定通りに工廠で衣笠さんと合流。沖波と共に訓練を始めるのだが、ひとまずは普通の戦闘訓練からということになった。私と沖波を相手にしてどれだけ動けるかを知りたいとのこと。
「とりあえず1人ずつやっていく感じでいいかな」
「そうだね。いきなりハードル上げるのは良くないし、じゃあ沖波からお願いしていいかな」
「了解です。まずは私から」
流石に衣笠さん1人で私と沖波を相手取るということはしないようだ。いくら艦種としては駆逐艦よりも火力も耐久力も高い重巡洋艦だとしても、2対1というのは圧倒的不利。それでも飄々とやってのけるのは霧島さんくらいだ。
まずは沖波が相手として衣笠さんとの戦場へ。私はそれを遠目で眺めながら、何かわかることがあれば指摘する。私は衣笠さんほど観察眼には長けていないし、菊月の『心眼』のような動体視力も持ち合わせてはいない。なので、素人目から見てもおかしなところがあるのなら、それを伝える。
「沖波の特性は『空』の回避だったね。全部が紙一重になる」
「そうです。簡単には攻撃は当たりません」
「オッケー。ならその辺りを頭に入れておこう」
早速演習開始。沖波からしてみれば、衣笠さんの砲撃も霧島さんのそれと同様に、確実に当たってはいけない。戦艦主砲と違い、掠める程度ならまだ致命傷にならないかもしれないが、それでも駆逐艦同士の撃ち合いとは雲泥の差だ。故に、多少は撃ちつつも、回避に専念する。
衣笠さんは、沖波の動きを持ち前の観察眼で確認している。菊月の『心眼』はその類稀なる動体視力で動きの一瞬の変化を判断するが、衣笠さんは全体的な観察からそれを判断する。
「本当に当たらないねっ」
「それが今の私の取り柄ですから!」
当然直撃コースで砲撃を繰り出しているのだが、沖波にはまるで当たる気配がない。紙一重で避けられ、ジリジリと距離を詰めている。
沖波からの砲撃も衣笠さんには当たらないのだが、あちらは何というか普通の回避。飛んできたからそこから退くのみ。そのため、近付けば近付くほど回避が難しくなっている。
「真正面から来るとか、さっ!」
そこへ魚雷。砲撃を全て回避しながら近付いてくる隙を狙って、今度は足下への攻撃。
実際、沖波の回避は
「っとと」
これは自力での回避になるので、『空』の回避は使わず通常の回避。だが、そこは見逃さずに回避先に砲撃を放っていく。
通常の回避を併せてやらせることにより、本来消耗を抑えているはずの『空』の回避が逆に激しい消耗に変化する。沖波が夕立と演習をした時のそれを知っているからこそ、あえてブレ弾を使わずにそれを再現していた。想定外による消耗ではなく、想定出来るのに消耗せざるを得ない状況に持っていっている。
「どちらも使わなくちゃいけない状況だと、倍疲れるんだったよね」
「そ、それをわかってて」
「ズルイかなとは思うんだけど、一皮剥けるためにいろいろとやりたいんだよねっ」
さらに魚雷。『空』の回避先に置くように放たれた雷撃は、回避方法が跳ぶくらいしか考えられない。もしくは砲撃で破壊するか。
「それなら!」
ここで沖波、回避ではなく破壊を選択。回避行動で消耗するのなら、回避行動をしないで障害を排除する方向に移行した。海上の攻撃は『空』の回避、海中の攻撃は砲撃による破壊。この流れは考えることは本来よりも多くはなるものの、2つの回避を選択するよりは消耗は少なめ。
代わりに魚雷を破壊したことで、爆発によって立った水柱で視界が塞がった。つまり、次の攻撃は沖波にとって全てが
「まぁそれを狙って魚雷使ってるんだけどね」
そこを見逃さずに、水柱に対して砲撃を撃ち込んだ。その先には勿論沖波がいるわけだが、自分の弱点を理解していない沖波ではない。想定外と言えど、ブレ弾よりはまだ予測が出来る。撃ち込まれることも想定し、すぐにそこから逃げるように加速した。
おかげで衣笠さんの砲撃は水柱を散らすだけで終わり、沖波は本来よりも消耗が激しいものの無傷。小さく息を吐いたのも見て取れた。
「流石に対策してるか」
「当たり前です。自分の弱点のことですから、そのままにしておく理由はありませんし」
「いいね、そういうの。向上心って大事だと思う」
仲間の成長を素直に喜ぶ衣笠さん、それが衣笠さんの悩みの種にもなっているのだが。
そこからは互角の戦いが繰り広げられる。回避特化の沖波には攻撃が一切当たらないが、沖波に攻撃をさせないように立ち回ることによって、お互いに完全に無傷な状態で時間だけが経過していくような戦いに。
砲撃と魚雷を巧みに織り交ぜることで、沖波は防戦一方にされていた。2つの回避を使いこなすために、攻撃が疎かになってしまうのはまた新たに判明した沖波の弱点。とはいえ、激しい猛攻を避けながら攻撃するというのは難しいだろう。
「ちょっと一回止めない? なんかこれ、永遠に終わらない気がしてきた」
あまりに戦況が変わらないため、訓練を一度止める。本来なら既に終わってもおかしくないくらいの時間が経っているのに、何の進展もないというなかなか無い演習となってしまった。
私の声にすぐに反応してくれた2人は、確かにと納得して演習を中断。水飛沫やら何やらで髪や服は濡れてしまっているものの、どちらもペイントすらついていない。
「いや、あの、衣笠さんを相手にするの普通に辛いんですが」
沖波の第一声がコレ。沖波だって今までの戦闘経験から成長しており、自分の弱点を理解してそれを補っている。なのに、それを感じさせないくらいに抑え込まれているというのは確かに辛い。
普通なら紙一重で回避し、撃った隙を突いて攻撃に転じるとかするのだが、衣笠さん相手だと回避一辺倒にされていた。攻撃に転じることが出来ないくらいの猛攻を受け続けている。
止め処ない攻撃を的確な位置にし続けるというのも、普通では無い集中力が必要だろう。それが出来ている時点で、平凡なんて言葉では括れない。
「でも、沖波の弱点とか知ってるからこういうことが出来るだけなんだよね。初めての相手だとこうもうまく行かないよ。それに、それでも勝ち切れないんだからまだまだだしね」
それに対し、衣笠さんはまだ納得がいかないようである。事前に対策を知っているからこういうことが出来るだけであり、初見の相手にはここまでは出来ないと苦笑。
「M型異端児のみんなが回避に尖ってるから、攻撃に尖った方がバランスがいいような気がするのよね……。今回それを意識して攻撃を続けてみたけど、沖波には通用しなかったか。さすが回避特化ね」
自分のことを平凡と揶揄する衣笠さんだからこそ、やれることをいろいろとやってみたいと考えているようだ。納得がいくまで、自分がどんなタイプの戦い方が合っているかを探っているようなもの。
攻撃特化でやってみたものの、回避特化にはあまり通用しなかったとまた頭を悩ませてしまった。
「ちょっといろいろと試させてもらっていいかな。今回はこんな戦い方をしてみたけど、また違った戦い方もあると思うし」
「いいよ。じゃあ、次は私が相手する」
「うん、お願いね」
悩んでいるのなら悩みが晴れるまでやりたいことをやればいいと思う。暴れ回って鬱憤を晴らしているわけではないが、好き勝手な戦い方で自分の道を探してみるのは普通にアリだろう。
今は誰もが強くなるために努力する時間。この演習は私や沖波にもいい影響を与えると思う。
しかし、衣笠さんはなかなか納得の行く戦い方が見出せずにいた。演習を繰り返しても、何かが違うと頭を悩ませる。この悩みは相当根深いものなのかもしれない。それに対して、私達は余計なことが言えず沈黙するしか無かった。
こればっかりは、衣笠さん自身の問題だ。私達の意見で納得出来るようなことは無いと思う。信念とか、そういったところに直結する部分。口を出すわけにはいかない。
衣笠さんの苦悩は続く。でもお互い無傷とはいえ、沖波と対等に戦えているっていうのは結構なことなのでは。