異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
午前中の衣笠さんの訓練は、本人が納得が行かないままに終了。私、陽炎と沖波が交互に相手をしていたわけだが、常に引き分け。元々私達の弱点を知っている状態での演習だったとはいえ、しっかりと抑え込まれたのは自分としても少し悔しい。
戦っては頭を悩ませ、その都度戦い方を変えてみる。一度やった戦い方をもう一度やってみたり、同じことを何度も繰り返して馴染ませてみたりと試行錯誤を繰り返したものの、やはりしっくり来なかったようである。衣笠さんがそう言うのだからそうなのだろう。
「困ったなぁ……どうしたもんかなぁ……」
昼食中も頭を悩ませている衣笠さん。モリモリ食べながらも考え事をしているので、注意力が散漫。お茶を溢しそうで周囲がハラハラする始末である。
「私、『空』の回避使ってもいいようにあしらわれた気がするんだけど」
「私もだよ。『蜃気楼』使ってたんだけどさ」
事前に知っているからといっても、普通に戦えている時点でいろいろと感じるものがある。私達ももっと強くならなくてはと思えるくらいに。
「Hi、キヌガサ。今日は迷える子羊かしら」
「ピッドさん……話聞いてもらえる?」
「あらあら、本当に悩んでるのね。OK、お姉さん聞いてあげましょう」
そこに声をかけてきたのはイントレピッドさん。あまりにもうんうん唸っているのが放っておけなくなったか、ニコニコしながら近付いてくる。
衣笠さんの悩みは周知では無いので、イントレピッドさんの問いかけに衣笠さん自身が悩みを打ち明けた。いろんな人に話を聞いてもらえば、何か答えが見つかるかもしれない。
「なるほどねぇ。私は、キヌガサが平凡だなんて思ってないわ。というか、平凡なんて誰にも当てはまらないもの。私にも、貴女にもね」
「そうかなぁ。衣笠さんの力で最終決戦に行っても、足を引っ張るようなことに」
「ならないならない。むしろ気にしてる方が良くないわ。嫌なことって、思ってると本当に起きちゃうものよ」
思い悩んでいる衣笠さんに対して、母性本能全開で話を聞いてあげているイントレピッドさん。完全にお悩み相談室である。悩みの解決まで持っていけるかはわからないが、話すことで気が楽になっていくのはいいことだと思う。
しかし、その悩みは深刻。イントレピッドさんに話しても、あまり解決にはなっていない様子。やはり自分の力に納得していないようである。
「Uh.キヌガサ、午後からも時間あるかしら」
「大丈夫。午後からも陽炎と沖波に鍛えてもらうつもりだったから」
「そのTraining、私も参加させてもらっていいかしら」
突然の提案。今日のイントレピッドさんの日程は確か演習だった気がする。支援艦隊はアクィラさんが毎日哨戒任務に出ているため、それなりに自由に過ごしている。全員が私達の強化に乗り気であり、手が空いている者は何処かの訓練や演習に交じっている姿が散見された。
空城司令も鎮守府の地力を上げてもらえるのなら万々歳であると容認している。当然事前に申請を出すようにはしているようだが。
「んー、じゃあ、お願いします。違った感覚も必要だと思うしね」
衣笠さんは了承。私と沖波ばかりとやっていても、何の解決にもならない気はする。午前中ずっと納得出来なかったのなら、別の刺激も必要だ。
「カゲローとオキナミも、急に言い出しちゃったけどいいかしら。キヌガサの力になってあげたいし」
「私は別に構わないかな。私達だと衣笠さんの悩みが解決させられないかもだし」
「そうですね……お願い出来ますか」
「OK. なら、ここのAdmiralにお願いしてくるわね。あと、参加するのは私だけじゃないからお楽しみに!」
そう言って申請を出しにさっさと行ってしまった。誰が追加で参加してくれるかはさておき、新しい訓練で衣笠さんが納得してくれるのならありがたいこと。これでもまだしっくり来ないとなってしまったら、また別の人に訓練を頼むしかないか。
そして午後。午前中と同じように工廠に向かうと、万全の準備を整えたイントレピッドさんに加え、青葉さんとプリンツさんも立っていた。イントレピッドさんだけではないと言っていたが、この2人も手伝ってくれるらしい。
「ネルソンとダコタはナガートに付き合いたいみたいだし、アトはハツヅキとの防空訓練が楽しいらしいから、プリンツしか連れてこれなかったわ」
「で、アオーバは私が連れてきちゃった。キヌガサとは艤装姉妹なんだよね?」
「そうですよぉ。青葉がお姉さんになります」
ネルソンさんとサウスダコタさんは、同じ戦艦ということもあって長門さんの訓練を手伝っているらしい。アトランタさんは初月のことを気に入っているらしく、自分の防空の技術を叩き込んでいるのだとか。
そしてアクィラさんは哨戒任務。潜水艦の2人はこういう訓練には向いていないし、そもそも潜水艦同士での付き合いがあるようなので、結果的にプリンツさんしか空いていなかったとのこと。
で、たまたま空いていた青葉さんをプリンツさんが捕まえたらしい。諜報部隊としてのお仕事が空いたことでフリーになっていたところだったのと、他ならぬ艤装姉妹である衣笠さんの悩みとあらばと手伝ってくれるそうだ。
「私もアオーバも同じ重巡だし、力になれるかもって思って」
「です。もう、悩みがあるなら青葉にも相談してくれれば良かったのに」
「ごめんごめん」
艦種が同じのため親身になってくれるというのはありがたい。うちの鎮守府の重巡は加古さんしかおらず、その加古さんは哨戒任務の旗艦として今はここにいない。都合よく外からの部隊に重巡洋艦がいて良かった。
「それじゃあ、演習をしていきましょう。変則だけどチーム戦ね。キヌガサはアオバと、プリンツはカゲローと組んでね。私とオキナミは1回お休みってことで」
ルールは2対2。先程までやっていた1対1ではなく、チーム戦で衣笠さんを追い込む。仲間がいる状態での立ち回りになれば、先程とはまた違った動きになるだろう。それは私にも言えること。
イントレピッドさんが加わると、片方に空母ということで戦力が一気に変わる。なら、衣笠さんと対峙する側に入るのだが、それはもう少し演習が進んでからということに。数は均等にした方がいいため、今回は沖波がお休みとなる。この演習が終わったら、私と沖波が交替とかすることになりそうである。
演習の準備をしている内に、プリンツさんからちょいちょいと手招きされる。おそらくこの演習でどう動くかの相談だと思われる。プリンツさんと組んで戦うなんて当然だが初めてのこと。ちゃんと意思疎通をしておかなければ、連携なんて出来たものではない。
「これ、ピッドからの指示なんだけど……」
あちらには聞こえないように小声で伝えられたその指示というのに少し驚いた。この演習は衣笠さんのために行なわれるようなものなのに、そんな戦い方で本当に大丈夫かと疑う程である。
「これね、さっきアクィラからもアドバイス貰ってるの。だから、多分大丈夫」
「そうなの……? それだけ言うのなら従うけど……」
みんなが悩める衣笠さんを思って考えた作戦だ。なら、それに従う以外に無い。
「ちなみにこれ、青葉さん知ってるの?」
「勿論知らない」
「ですよねー。知ってたら
ちらっと見たら、イントレピッドさんが沖波に何やら説明しているのが見える。あちらもこちらと同じ段取りを聞いているようだ。沖波が少し怪訝そうな表情をした辺り、私と同じように考えたのだと思う。
「はい、では演習を始めます。カゲロー、1人だけ駆逐艦になっちゃったけど問題無いかしら?」
「大丈夫。私の訓練にもなるから、むしろ願ったり叶ったり」
「
イントレピッドさんの合図と同時に演習開始。プリンツさんはネルソンタッチの一員として、サポーターの役割を多く受け持つことが多いとのこと。そのため、今回の作戦は、私が前衛でプリンツさんが後衛である。
最初の指示は、私は好きに動いてくれて構わないとのこと。『蜃気楼』だろうが『屈折』だろうが好きにやれというのが私に課せられた仕事である。
ただし、
「じゃあ、行くよ!」
「
即座に『蜃気楼』による高速移動。その場に影を残すかの如く移動し、向かった先は青葉さんの真横。
「うぇっ!? 直で見ると速すぎじゃないですかね!?」
「そういうものだからねっ!」
そして備え付けの主砲を青葉さんに向けた。命中精度に長けたそちらなら、この高速移動後の砲撃でも定めた位置に確実に撃ち込める。
これが私の常套手段であることは、青葉さんは元から知っているのだが、こうして相手をするのは実は初めてで、直に見るのも当然初めて。見るのと受けるのとではまるで違うことを実感してもらった。
「させないよ」
だが、私の砲撃は衣笠さんによって阻まれる。私がこう来ると予測していたかのように、私が照準を合わせた時には衣笠さんの主砲が私に向いていた。
午前中の1対1の演習でもそうだったが、どれだけ高速移動しようが衣笠さんは追いついてくる。それは菊月の『心眼』に近しい何かな気がした。
「それなら私が! Feuer!」
そこを見計らってプリンツさんの砲撃。狙いは勿論青葉さんである。
今回の指示は、
衣笠さんの悩みを解決するための演習なのに、何故その相方を狙うのかというのは疑問だったが、こうやって演習をしていると何が言いたかったかがわかってきた。
「青葉、ちょっと我慢!」
「っはいっ!?」
プリンツさんが砲撃を放った瞬間、衣笠さんが青葉さんの腕を取って思い切り引っ張った。結果、射線上から青葉さんがズレることになり、砲撃は回避。私の砲撃も衣笠さんに阻まれたことで、青葉さんを狙い撃つことは出来ず。
「た、助かったよガサ」
「わざわざ離れて攻撃してきたからね。まずは2人がかりで集中砲火ってところだったのよ。チーム戦だから片方落とせば後は楽になるだろうし、さ!」
青葉さんに説明しながらも雷撃を私に対して繰り出してくる。青葉さんも負けじと雷撃。かなり近付いている私にとっては、魚雷は結構面倒くさい。2人がかりとなると回避もかなり厳しくなる。そのため、もう一度『蜃気楼』で後退して、砲撃で魚雷を処理。
「Feuer! Feuer!」
そこから今度はプリンツさんが突撃しながらの砲撃。まるで1人ネルソンタッチであるが、魚雷も織り交ぜての突撃であるため、火力がただの重巡とは違う。
そしてこれも、わかりづらくはしてあるが青葉さん狙い。魚雷を放った瞬間を狙っているため、先程よりも回避しづらくなっているはず。
「青葉、砲撃と魚雷来てる!」
「了解ですぅ!」
この衣笠さんの言葉、
それが何かはさておき、プリンツさんの突撃も事前に回避することで事無きを得ている。1対1でも互角に戦ってきたのに、2対2になってもそれは健在。むしろさっきよりも手強くなっている気がした。
対する私達は即席のコンビであるため、連携らしい連携は出来ていない。それでもプリンツさんがしっかり合わせてくれているので、連携らしく見えるだけ。いつも組むのは同じ駆逐艦だったからか、やはり慣れないとなかなか厳しい。そういう意味でもいい訓練になっている。
「それなら……!」
ここで私ならではの技を出す。プリンツさんが作ってくれた隙を突いて、渾身の『屈折』。回避した瞬間なら防御もしづらいはず。それに、いくらなんでも盾を持っているわけでもないし、霧島さんやサウスダコタさんみたいに当たってもダメージにならないなんてことは無いはず。
だが、これすらも、衣笠さんの視界に入っていたらしい。
「青葉!」
私が放った瞬間に、それをどうにかズラそうと私に対して砲撃してきていた。今プリンツさんの突撃を躱したばかりだというのに。
実際、私の『屈折』は、青葉さんに命中することは無かった。撃った瞬間に射線をズラされたせいで、ギリギリ当たらないところにズレてしまった。
ここで完全に理解した。衣笠さんの異端児としての特性は、その観察眼、視界の広さから繰り出される、
よくよく考えてみれば、『雲』との戦いの時も、『黄昏』との戦いの時も、衣笠さんは誰かがピンチに陥った瞬間にそれを打開しようと動いてくれていた。それが無意識に他者の危機を感知出来る力だったとしたら、それこそまさにM型異端児たる力、選ばれし者の力ではないか。
しかし、衣笠さんはその自分の力に気付いていない。この演習は、それを自覚させるための演習になっていたのだ。
『雲』との戦いでは、分霊治療中の陽炎と菊月が狙われた瞬間に盾になり、『黄昏』との戦いでは、対空砲火中に狙われた初月を守るために狙いを自分に移し替えています。衣笠の真の力は、仲間を守る力です。