異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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無意識の守護者

 衣笠さんの悩みを解決するために演習を続ける私、陽炎。今はイントレピッドさん発案のチーム戦で、プリンツさんと組んで衣笠さんと青葉さんのチームと対戦をしている状態。

 そこで私は1つの指示を受けた。それは、あちらのチームのうち、青葉さんのみを狙えというものである。最初は衣笠さんのための演習なのに何故だと思ったが、やってみたらその真意が理解出来た。そうすることで、衣笠さんの持つ異端児としての力が露見するからだ。

 

 衣笠さんの力、それは哨戒任務の旗艦として培った観察眼、その視界の広さから繰り出される、仲間を守るために特化した力。1人で戦っているよりも仲間と戦っている方が強く発揮される力である。

 事実、私もプリンツさんも青葉さんを狙っているのに、そのことごとくを衣笠さんに妨害され、未だにお互い傷は無し。『屈折』すらも回避されたため、ここからはうまく連携しなくては全て衣笠さんに防がれると考えてもいいくらいである。

 

「青葉、狙われてる!」

「て、手近だからですかね!?」

 

 青葉さんにこの指示のことは伝わっていない。そのため、私とプリンツさんの意図など関係無しに、ただただ衣笠さんが青葉さんを守るために動いたに過ぎない。

 まだ衣笠さんは自分の力に気付いていない。無意識にでも仲間を守るために身体が動くというのは、破壊者ではなく守護者であるという艦娘の心得を体現しているようなもの。それにしても、その反応速度は目を見張るものがある。

 

 ただの砲撃だけでなく、『蜃気楼』や『屈折』、それに合わせて連携するプリンツさんの突撃にすら即座に反応してくる程の()()()()()()を持つのだから、それで平凡だなんて絶対にあり得ない。それを知ったら怒る艦娘も沢山いるだろう。

 だから、この演習で必ず気付いてもらう。勝っても負けてもいい。無意識下で動けるからこそ出来ると言われたら困るが。

 

「なら今度は……!」

 

 真正面からの『屈折』。狙いは勿論青葉さんだ。ここまで青葉さん狙いをしていれば、衣笠さんは無意識に守っているのだから気付かないかもしれないが、青葉さん自身は気付くかもしれない。

 しかし、衣笠さんの()()()()()は止まるところを知らなかった。私が撃とうとした瞬間には、既に衣笠さんがこちらに照準を合わせていたのだ。そのせいで『屈折』は不発にさせられた。

 

 私もそういうところがあるから、今の衣笠さんの状態がわかる。初めての脱力回避の時に近い。無意識下で動くから、反応速度が異常に速くなっている。

 私が青葉さんを狙ったと、その広すぎるくらいの視野に入った瞬間に動いているようなもの。

 

「えっ、速っ!?」

 

 さっきまであんな速度で動くことは無かった。無自覚な守護者の力を発揮してもらうためにこの演習が組まれたのだが、今までの戦闘とも違う。今この時に衣笠さんは瞬く間に成長していっている。

 自分のことを平凡と思い、悩みに悩んでいることが、この激しい成長に繋がっているのかもしれない。新しい自分を見出そうと必死になった結果、本来持っている力がガンガン伸びていく。

 

 おそらくだが、これは2対2だからここまで出来ている力だ。守るべき仲間が1人しかいないため、最大限の力がその対象に遺憾無く発揮される。

 逆に、どんな状況でも自分が狙われているのならここまでの力が発揮されない。それでも私や沖波と対等に戦えているので充分すぎるほどの力を持っているのだが。

 

「青葉、先に陽炎潰すよ!」

「了解ですぅ!」

 

 やはり私が厄介と睨んだようで、今度は私が2人から集中砲火を受ける羽目に。プリンツさんも青葉さんを狙って砲撃を繰り返してくれるが、集中砲火で無いのなら、青葉さんだって普通に回避出来る。諜報部隊は実力者揃いなのだからそれは仕方ない。

 そういう時こそ私の回避技の真骨頂である。2人同時に撃たれてもある程度は大丈夫。魚雷も織り交ぜられるが、今度はそこも考慮に入れての脱力回避。砲撃を潜り抜け、魚雷を確実に回避して、青葉さんに急接近した。

 

 砲撃はことごとく衣笠さんの守護者の力に止められ続けたが、近接戦闘に対してはどうか。それでも力が発揮されるのか。

 

「ちょっ、脱力回避……!?」

「もらっ」

「あげない」

 

 衣笠さんの蹴りが思い切り脇腹に入っていた。近付きすぎたとは思ったが、まさかそこまでしてくるとは思っても見なかった。そのせいで、ガードが間に合わず脱力回避にも至らなかった。

 艤装のおかげである程度は耐性が出来ているとはいえ、モロに蹴りを喰らえばそれ相応に痛いし、その衝撃で吹っ飛ばされる。吐き気までしてきた。

 

「Stop! 演習中断!」

 

 イントレピッドさんの声で、この演習はここで止められる。予想外のことが起きてしまったというのはダメージを受けた私が身に染みているところ。

 繰り出した衣笠さんはというと、自分でやっておいて唖然としていた。演習でこんなことをするのは初めてなのだろう。そもそも近接戦闘相手に近接戦闘で返すというのを即座に判断したことが無い人だ。

 

「Ah...キヌガサ、気持ちはわかるけど演習でそれはFoul(反則)よ。Paint bulletでも当たりどころが悪かったらああなるかも知れないけど、Kickは本番でも使うくらいの痛みでしょう」

「ご、ごめん、陽炎大丈夫!?」

 

 気を取り直した衣笠さんの声もあり、小さく手を挙げて無事であることは伝えた。脇腹は物凄く痛いけど、死ぬほどでは無いし、何処かに損傷があるかと言われればそれも無い。

 今だけは声も出なかった。モロに喰らった脇腹を押さえて、何とか立ち上がる。これ、霧島さんの砲撃をまともに受けた時よりも痛い。どういう形であれ、足には海上に立つための艤装が装着されているので、その分強くて硬くなっているし。

 

「ひーちゃん!」

「だ、大丈夫……折れてはいない……」

 

 フラついたところで沖波が肩を貸してくれた。酷い吐き気だったが、何とか抑え込む。ここで吐くのは流石にまずい。出そうものなら沖波に引っかかってしまう。

 

「カゲローは休憩が必要でしょうね。一度工廠に戻りましょ」

「そうさせてもらえると……ありがたい……かな」

 

 息も絶え絶えであるため、一旦休憩。せめて痛みと吐き気が引くまでは待っていてほしい。

 そうこうする間も、衣笠さんは自分の行ないを省みて、何でこうなってしまったのかを考えていた。

 

 無意識下で仲間を守るという行動が、私にまで発揮されるとは正直思っていなかった。これは私の慢心かもしれない。

 

 

 

 演習のメンバー全員で工廠で一休み。蹴られた脇腹を見ても、ありがたいことに痣の1つも出来ていなかった。さすが艦娘の身体、あれくらいなら何ともない。骨も強ければ肉も強い。砲撃で無ければ簡単には傷がつかないようで何よりである。

 それをチェックしている間に、イントレピッドさんが衣笠さんの前へ。少し複雑な表情をしていたが、衣笠さんのことを責めるわけでもなく、小さく苦笑しながら話しかける。

 

「キヌガサ、この演習で何かわかった?」

 

 無意識下で発動してしまう守護者の力のことを少しでも掴めていてくれればいいのだが、衣笠さん的にはこの()()()()がどうしても引っかかってくる。

 

「……無意識だった。青葉が狙われてるって思った時には、陽炎を蹴ってたの」

 

 守るために身体が勝手に動いたという自覚はあるようだ。あの瞬間だけは演習であるということを忘れていたような動きだったが、無意識ならそうなってもおかしくはない。無意識下で移動するだけの私とは違う、無意識下での仲間防衛システム。

 顕著に現れるようになったのは、自分が平凡だと悩み始めたからだろうか。平凡なんかじゃないんだぞと、衣笠さんの中の力自体が呼応するかのように発揮され始めている。これも一種の覚醒かもしれない。きっかけは反骨心か。

 

「あー、これ言っていいのかわからないんですが、あれ意図的に青葉ばかり狙ってましたよねぇ?」

「流石アオバね。そう、キヌガサのその力を前面に出させるために、わざとアオバばかりを狙うように仕向けていたの。プリンツとカゲローには、その意図も織り込み済み」

「ですよねぇ。手近とかそういうの関係なしに、ちょっと作為的な部分も見えましたもん」

 

 流石は諜報部隊。あれだけの演習でこちらの指示を看破していた。演習中はおかしいなくらいだったのが、ここに来て確証を得たようである。

 

「ガサ、青葉的には守ってくれてありがとうなんだけど」

「でもそれで陽炎に怪我させちゃったら意味ないでしょ……演習で実戦と同じことやらかすなんて」

 

 やられた私としては、とてつもなく痛かったけどお風呂に入れば何とかなる程度のダメージなのでそこまで気にはしていないのだが、衣笠さんとしてはそれすらも大問題。

 確かに、あの蹴りの当たりどころが悪かったら、私は演習で入渠という不名誉な実績を更新するところだった。だが、今これなのだから問題はない。吐き気はまだあるが、痛みは大分引いてきたし。

 

「衣笠さん……自分でもわかったと思うけど、それでまだ平凡とか言わないよね?」

「……そうね。仲間にまで危害を加えちゃう力を持ってたんだ」

「いや、それは違うでしょ」

 

 プリンツさんがそれを素っ気なく返す。

 

「私とカゲローはあの時は敵として相手してたわけだし、その範囲の外に出ちゃうのは当然。まぁカゲローはちょっと近付き過ぎた感じはするけどね」

「いやぁ、面目ない。絶対仕留められる位置に行こうと思ったからさ。あそこまで反応されるとは思ってなくて。慢心慢心」

「キヌガサがいなかったらそれでも大丈夫だったかもだけど、あれはダメだったねー。でも、キヌガサの力、痛いほどわかったからいいよね」

 

 その通り、身を以て知った。衣笠さんの守護者の力は、遠近構わず対象になった仲間を完全に守る力と考えていい。無意識だからこそ加減が出来なかっただけ。

 むしろ加減をしてはいけない力だ。敵相手になら振り抜けるくらいがちょうどいい。咄嗟にガード出来なかった私にも問題があるとさえ思う。

 

「だから、気にしないこと! カゲローがプンスカしてるなら反省した方がいいけど、ほら、何も言ってこないんだから。それに、アオーバも守ってくれてDankeDankeしてるんだから、むしろそれはキヌガサのCharakteristisch(持ち味)でしょ」

 

 これだけ慰めても衣笠さんの表情は暗い。悩みが別の方向に向かってしまっている。

 

「なら、ちゃんと自覚してcontrol出来るようにしちゃいましょう。キヌガサ、貴女は自分の力が何かこれで理解したわよね?」

「……仲間を……守る力?」

「That's right」

 

 無意識だからこそ発揮される力かもしれないが、それだと演習で仲間すら傷付けてしまうというのなら、しっかり意識してコントロール出来るようにしてしまえばいい。意識出来るようになると応用も利く。それが私の高速移動にも繋がっているわけだし。

 そしてこれは実戦訓練で無ければ磨けない技だ。仲間の協力あればこそ育つ力。仲間を守るために、仲間の力を借りて、仲間のために努力する。それでいいじゃないか。

 

「……わかった。こういう力を持ってるってことは自覚出来たし、まだまだ迷惑かけちゃうかもだけど、自分で制御出来るように頑張ってみる」

「Good job! その調子よ! 今度はKickも黙認してあげる。みんな、キヌガサのために痛い目に遭ってもいい子ばかりだから」

「誰もそんなことは言ってないよね!?」

 

 軽く冗談を交えてくるイントレピッドさんの茶目っ気に押されて、衣笠さんも少しだけ笑顔を取り戻した。

 

「衣笠さんが一番艦娘してるよ。守るためにアレだけ力が出るんだもん。すごく頼りになる。足手まといなんて絶対にあり得ない」

「そう言ってもらえると嬉しい、かな。よーし、絶対制御してやるんだから!」

 

 空元気かもしれないが、やる気を出して立ち上がった衣笠さん。その姿は、守護者としての自覚を持った艦娘そのものだった。

 

 

 

 ここからは衣笠さんの守護者の力を成長させる演習となる。チーム戦であれば力を発揮するということで、どんどんハードになっていったのは言うまでもない。途中からはイントレピッドさんの空襲まで入る程であった。

 この中でも何度か制御しきれずに痛い目を見る羽目になったが、衣笠さんはもう折れなかった。これは仲間を守るための力。艦娘の心得を体現した、守護者の力なのだと自覚したことが大きい。

 




衣笠はこれから、守護者の力を制御し、M型異端児の守護者として最終決戦に臨むことになるでしょう。自覚出来たからには、完璧に使いこなしてもらわなくては。



支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】


【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/88663377
MMD静画のアイキャッチ風対潜組。こうやってみると、大鷹もちゃんと保護者出来ていますね。占守と大東が制御出来るかはさておき。
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