異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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一歩ずつ確実に

 翌日以降も多種多様な訓練を繰り返すことになった私、陽炎。

 

 まず翌日は木曾さんにも話した通り対潜訓練。占守筆頭の海防艦の子供達に教わりながら、またもや夕張さん謹製の潜水艦ラジコンに向けて、ダミーの爆雷を投げるという訓練となった。それを見てくれるのは海防艦だからというのもあり大鷹。

 私は初心者というか本当に初めてのため、ソナーという装備の使い方から開始。その時に使ったのは音で感知するタイプらしく、砲撃や雷撃とはまた別のベクトルの難易度の高さだった。

 

「よくこれでわかるね……」

「慣れっしゅ!」

「慣れだぜ!」

「なれ……です……」

 

 子供達に一斉に言われたため、これも慣れるしかないと実感。音で感知した後に、次の場所を予測し、爆雷の沈んでいくスピードまで加味して、的確な位置へと爆雷を投げ込む。考えることが格段に多い。

 海防艦という艦種はそこに特化されているらしく、この艤装を装備した時点で、その影響によりある程度耳が良くなっているらしい。そういう艦娘もいると知る。

 

「かげろうおねぇちゃんは……まつわがおしえますね……」

「うん、よろしくお願いね。ちょっと私、前途多難だわ」

 

 少し自信が無さげな松輪も、今は私の大先輩である。慣れと言うだけあって、大鷹が操縦する潜水艦ラジコンに対して器用に爆雷を当てていた。いつもの少し後ろ向きな態度は何処へやら、手早くその位置に近付いて対潜行動を繰り出す姿は、子供とはいえ戦場を駆ける艦娘である。

 

「すごいね。今の私にはまだ難しいかも」

「だいじょうぶ……です。おねぇちゃんも、できるようになります」

 

 ニパッと笑顔で激励してくれる。先日の夜もそうだったが、この子は本当に笑顔が可愛いのだから、もう少し自信を持ってもらいたいものだ。松輪こそ、外出出来るのなら孤児院に来てもらいたいかも。友達が増えればよりいっぱい笑顔を見せてくれそうだし。

 

「まずはじっくり見て覚えるかな。魚雷の時とかもそうだったし」

「じゃ、じゃあ、まつわのを……もういちどみててください」

 

 同じことをもう一度やってもらうのだが、やはり軽やか。ソナーを使って私にもある程度の潜水艦の場所はわかるのだが、それを目で追うことは出来ない。

 それを松輪は私よりも早く発見し、ほとんど真上に陣取った後にその動きを予測して爆雷を投下。場所も落下速度も完璧なタイミングで、海中の潜水艦にコツンと当たった。本来ならここで大爆発を起こして潜水艦を一撃の下で沈めるのだろう。

 

「お見事。なるほどね、真上に立ちつつ、移動の方向に投げるのか」

「まつわは……そのほうがやりやすくて……」

 

 対潜行動も千差万別。松輪はこの方法が一番自分を出しやすいということだ。占守は遠目に場所を把握した後、爆雷を思い切りぶん投げるし、大東は殆ど追いかけっこのように向かっては真下に向けて叩きつけるように投げる。爆雷自体もその艦娘ごとに爆発する時間とかが設定されているようだ。

 

「かげろうおねぇちゃんは……かげろうおねぇちゃんで……やりやすいやりかたをみつけてください」

「うん、ありがと。私は松輪のやり方が一番わかりやすいと思ったよ。丁寧で、確実。でも、技を感じた。すぐには真似出来ないだろうけど、必ずモノにするよ」

「は……はいっ」

 

 私に褒められたことを心の底から喜んでいるように、満面の笑みだった。なら、今度は私がちゃんと出来ているところを見せて笑顔にしてやらなければ。すぐには無理でも、なるべく早く。でも焦らず。

 

「よーし、じゃあ私も! 大鷹、お願い!」

「はい、では参ります」

 

 大鷹に合図を送り、潜水艦ラジコンを操作してもらう。ソナーでその位置を頑張って把握し、その近くまで移動。そしてそのまま爆雷を投げる。松輪に倣って次の位置を予測した少し前への投下だったのだが、ソナーで音を聴く限り、爆雷は潜水艦ラジコンの遥か後方に沈んでいったようだった。

 

「あ、あの……もうすこしまえです……せんすいかん……いがいとはやい……」

「なるほど、速度を見誤ったか。よし、次!」

 

 その日は松輪に徹底的に教えてもらい、何とか対潜というものが何たるかを知ることが出来た。爆雷を命中させられる確率は低い方だが、出来なくはないという程度にまではなったので、初めての対潜訓練としては上々だったと思う。

 松輪も私が初めて潜水艦に爆雷が当てられた時は、飛び上がるくらいに喜んでくれた。偶然ではなく、命中させようとして命中したのだから、私も声を上げそうになったものだ。

 

 

 

 さらにその翌日は防空訓練。空母の飛ばす戦闘機を撃ち墜とす訓練。空母の人に飛行機を飛ばしてもらって、それを高角砲という主砲とはまた違った武器を使って訓練。さらにはソナーと逆で空を見る電探というものまで使うようで、これに関しては対潜訓練の後で良かったと思った。

 

「艦載機は私が飛ばしますね。初月ちゃんは陽炎ちゃんにいろいろと教えてあげてください」

「了解だ。陽炎、よろしく頼む」

「うん、よろしくね」

 

 戦闘機を飛ばすのは空母である天城さん。そして、防空訓練そのものを教えてくれるのは、私と同じ駆逐艦である初月。防空駆逐艦という特殊な駆逐艦で、今からやる対空砲火のスペシャリストになる艤装を身につけているそうだ。

 それ以上に気になったのは、その艤装に接続されている高角砲。どう見ても生きているのだが。

 

「こいつは長10cm砲。相棒だ」

「うん、まぁ、うん。それはいいとして、その子はその、生きてるのかな」

「生きているという考え方があっているかはわからないが、意思は持っている。僕と接続していなくても、自律的に活動出来る武装だ」

 

 艦娘の扱う武器の中でも特に特殊な部類に入るらしい。普段は初月の部屋に住んでいて、たびたび工廠でメンテナンスされつつ、初月が出撃する時になったら今のように接続されるとのこと。

 

「こいつのことは今はいい。陽炎は防空訓練が初めてだろう。ここでしっかり覚えてもらう。僕に任せろ」

「頼りにしてるよ」

 

 当然初めてであるが故に、電探の扱い方から始まり、高角砲の撃ち方や狙いの付け方などなど、こちらも覚えることが多い。でも対潜よりはマシかなと思えてしまう辺り、あちらは本当にやることが多かった。撃つのが艤装経由なだけで相当楽。

 

「今日中に1機くらいは墜とせるようになってもらおう」

「だね。私もそれくらい行きたい」

 

 焦らず、だがなるべく早めに。覚えることが沢山あるのだから、1日で出来る限り詰め込むイメージで。昨日の潜水艦と対潜行動もそうだが、空母が飛ばす艦載機というものだって初めて見る。

 何をやるかは何となくわかる。防空、空を防ぐと書くのだから、飛んでくる飛行機をこの高角砲で撃ち墜とすわけだ。

 

「まずはお手本見せてもらっていいかな」

「ああ、その方が覚えがいいんだったな。話は聞いている」

 

 私の訓練の仕方はもうみんなに広まっているようである。まず見る。そしてイメージする。艤装に接続されている部分は、それだけで全て実行可能。高角砲を撃つだけなら、おそらく見ればすぐに出来ると思う。空に止まっているもの相手なら百発百中にすらなり得る。

 

「天城さん、いつものを頼む」

「はい、じゃあ初月ちゃん用のをまず見てもらいましょうね」

 

 天城さんが持っている旗の付いた棒、旗竿を軽く振ると、その表面に描かれている紋様が浮き上がるように飛行機へと変化していき、そのまま空へと飛び立った。今は訓練用ということでその数は5機程度。

 まるで魔法使いのような行為に驚いてしまった。思えば、発射管には1つしか装填されていないように見えるのに何発も放てる魚雷だって魔法みたいなものなのだが、これはそれ以上。布から飛行機が出てくるなんてどんな手品だ。

 

「陽炎、よく見ていてくれ。あの艦載機を撃ち墜とす」

「うん、よろしく」

 

 初月がその戦闘機に向けて構えると、激しい音とともに長10cmが真上に向けて砲撃。重力に逆らって弾を放つのだから、その分主砲よりも大きな衝撃になる。明らかに主砲とは違う真下への反動が身体を襲うようだが、初月は腰を落として構えてその反動を軽減しつつ、狙いを一切ブレさせていなかった。

 

「む……2機残したか。さすがだな天城さん」

「こちらも熟練度は上げていますからね」

 

 私には今の攻防がどれだけのレベルのものかは理解出来なかったが、どちらも相当な使()()()なのだろう。

 

「陽炎、今からこれをやってもらう」

「まずは艦載機1機からにしますから、ゆっくり慣れていきましょう」

「了解。お願いしまーす!」

 

 そして自分でやってみて、先程の応酬がかなり高度なものであることを理解した。天城さんはたった1機、さらには初月相手のものとは明らかに手を抜いているのがわかるのに、掠めることすら出来ない。

 おそらく狙いも間違っていないし、反動軽減も上手く出来ていると思う。艤装経由だから思い通りに動いているはずだ。だが、空に向けて撃つというだけで勝手が大分違う。いつも以上に遠い的がいつも以上に速く動いており、雷撃や対潜の時のように次の動きを予測したつもりがまるで違うところに飛んで行った。

 

「これはまた、難易度高いね」

「いや、噂には聞いていたが筋がイイ。初めてで倒れずに撃てたのなら充分だ」

 

 今までと違う方向からの反動のため、体勢を崩すのがザラなのだそうだ。それが1発目で倒れなかったというのはなかなかいいことらしい。

 ちなみにここから数発で艦載機にしっかり当てることが出来たのは夕立くらいだそうだ。何なんだアイツ。

 

「じゃあ、もっと続けていこう。天城さん、よろしくー!」

「はい、では次々行きましょうか」

 

 そこからは首が痛くなるほど上を向き続け、艦載機と睨み合い続けた。結局今日は1機と戦い、一度も撃ち墜とすことは出来なかったものの、艤装との連携で反動軽減は完全にマスターしたと言える。これには初月も驚いていた。

 相変わらず艤装に接続されていれば覚えるとかそういう過程をすっ飛ばしてマスター出来てしまう。マイナス同期値の特性なのだろうが、少しだけ怖い。

 

 

 

 そんな訓練ばかりの生活を繰り返して1週間。毎日違うことをやり続け、経験を積んで行った。

 おかげで、動いている的の次の位置を予測して撃つという芸当も多少なりモノになったかと思う。大体が木曾さんによる雷撃訓練のスパルタの賜物。それが影響して対潜も爆雷を当てられる頻度が増え、防空も1機だけなら高確率で撃ち墜とすことが出来るようになった。

 手持ちの主砲のブレはまだ残っているものの、動いている的には当てられるようになってきたのは大きい。阿賀野さんも私の成長を喜んでくれた。

 

 まだまだ初心者の段階から抜け出せていないと思うが、中級者への道は拓けていると思う。

 

「ゲロちゃん、大分頑張ってるっぽい?」

 

 疲れ果ててる夕食の時、ニコニコ笑顔の夕立が相席。最初は控えられていたその呼び方でもう定着してしまっているのか、磯波の破裂も最近は控えめ。慣れられて困る渾名ではあるが、もう諦めた。

 暴君と呼ばれるよりはまだマシだと思う。そっちを出された時は磯波が笑い過ぎて過呼吸を起こしたので夕立も控えた様子。

 

「おかげさまでね。みんなが優しくて助かるよ」

「なら、そろそろまた実戦訓練するっぽい! 成長した陽炎見てみたいな!」

 

 本当に好戦的。後輩の成長を楽しんでいるかのようだ。早く追いついてもらいたいけど、抜かせるわけにはいかないと豪語しているかのようにドヤ顔。

 

「あの時のようにはいかないよ。というか寄ってたかって私ばかり狙うんだからさ」

「穴を狙うのは戦場では当然のことっぽい」

「初心者狩りはやめれ」

 

 とはいえ何かと気にかけてくれるのも夕立だったりする。肩を並べて戦う仲間の動向というのは気になることなのかもしれない。この1週間でいろいろと付き合いが増えたが、何だかんだ毎日顔を合わせて話をしているのは異端児駆逐艦である。

 でも夕立はアドバイスはしてくれない。自分で考えてやれの一点張り。身体に教え込まなくてはいけないのだからそれも間違っちゃいないとは思うが、もう少し手心というものを。

 

「なら提督さんに打診するっぽい。実戦訓練入れとくからね」

「オッケー。何処までやれるかわからないけど、少なくとも度肝抜かせちゃる」

「楽しみっぽい! ゲロちゃんが強くなるの、ずっと待ってるんだからね」

 

 これだけ好戦的でも、私に対しては信頼している視線を向けてくれる。これも懐かれているという認識でいいのか。

 

 

 

 一歩ずつ確実に艦娘の道は歩くことは出来ているだろう。実戦訓練もこなしていけば、初陣の時も近い。

 




現状登場した艦娘は、これで陽炎含めて20人です。最初の方に書いた通り、この世界は各所の鎮守府に艦娘をバラつかせて配置しているという設定ですので、そろそろ登場人物は出揃います。
比率として駆逐7、軽巡3、重巡2、空母2、戦艦2、海防3、特務1となっていますが、あと空母1人軽巡1人の予定です。
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