異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
演習終了。衣笠さんはある程度は自信を取り戻していた。平凡だと思っていた自分に艦娘の心得を体現する力、守護者の力があると気付けたことで、悩みはある程度解消されたようだ。無意識のうちに仲間を守る力を自覚するというのは悪影響かと思ったが、それでもお構いなしに身体は動いてくれるようで一安心。
とはいえ、制御出来るか出来ないかとなると今はまだ出来ないので、自覚すると思った以上に体力の消費が激しい上に、加減が利かなくなるために相手をしている側が結構ハラハラする。私、陽炎はそのせいで1発モロに蹴りを喰らっているため、演習と言えどダメージが大きかった。
「いや、あの、ごめんね?」
「大丈夫大丈夫……入渠が必要なほどやられたってわけじゃないから……」
1発目は本当に危なかったが、そこで私も理解したおかげで2回目以降はまともに喰らうことは無くなっている。代わりに脱力回避からの脱力回避という身体に極端に負荷をかけるパターンが大分増やされ、疲れは今までの演習の中でもトップクラスかもと思える程に。
沖波も相当消耗していた。『空』の回避は体力温存タイプなのだが、それとは別に普通の回避を選択させられるせいでやたらと疲労が蓄積させられていた。演習終了となっても肩で息をしている程である。
「ずっと守られてる側でしたが、何というか凄まじいですねぇ。一応録画もしておいたので、ガサも客観的に見たかったら動画使っていいよ」
「あ、それはありがたいね。研究しておきたいし、後からお願い。夜にこっちの部屋に来てよ」
「熱心ですねぇ」
足手まといになるかもと悩んでいたくらいなのだから、そういう自分の力についての研究は怠らないのだろう。根が真面目だから、次の戦いのこともずっと考えていたりしそう。
「私達は休もう……大分疲れたよ」
「だね……でも、もっと鍛えなくちゃって思ったよ」
「それは私も」
私と沖波は大分消耗していたため、すぐにお風呂に直行させてもらうことにした。衣笠さんのこの力については、私達以外の4人が空城司令に伝えておいてくれるとのこと。安心して任せられる面々である。
「あ、ゲロ様っぽーい」
「そっちも今終わったんだね」
フラフラとお風呂に向かうと、村雨と夕立がそこにいたため合流。私達が衣笠さんと演習をしている裏側で、村雨も霧島さんにしごかれ続けていたわけで、こうなっていてもおかしくなかった。身体にはペイントが僅かに残ってしまっているレベル。
村雨の消耗が著しかったため、夕立が便乗。残りは後片付けをしているそうで、後から来るとのこと。村雨のフラフラ加減とは裏腹に、夕立は未だにピンピンしている。海防艦の鬼ごっこについていけるだけある。
「聞かなくてもわかるくらいに鍛えられてるね」
「おかげさまで……親分さんが容赦なさすぎて……」
「わかる。私達も通ってきた道だからね」
今日は夕立以外にも、私達以外の異端児駆逐艦総動員で村雨の訓練が続けられたらしい。夕立と組んで戦ってみるなんてこともしてみたようだが、結局勝ち切れることは無かったようだ。
いいところまで行くし、弾を掠らせることは出来るかもしれないが、致命傷を与えるとなると相当難しい。艦種とかはここまで来ると関係なく、単に霧島さんの実力が上なだけ。
あとついに村雨も親分呼びを始めてしまった。磯波が心配である。
「親分強すぎっぽい。夕立、まだ全然勝てないっぽい!」
夕立も悔しそうにしている。村雨と組んでの戦いという念願が叶ったようだが、村雨と一緒に勝利するというところまではいけていない。それほどまでに霧島さんは強大な壁。夕立すらもてこずっているのだから、その強さが肯ける。
かくいう私も、霧島さんには勝てていない。いいところまでは行けるのだが、どうしても押し負ける。何なのだあの人は。
4人揃って湯船に入ると、一気に回復するような快感が身体を駆け巡り、聞かせられないような声が出そうになった。
「むーさん、マッサージしたげるっぽい」
「うん、ありがと。お願いしようかな」
すかさず夕立が村雨の脚を揉み始める。私も訓練で酷い目に遭った時、阿賀野さんと夕立に湯船の中でマッサージをしてもらったものである。速吸さんのようなプロの技でなくても、お風呂効果も相まってやたらと気持ちよかったのを覚えている。
それを受けている村雨は、そのまま眠ってしまうのではという程に顔がだらけていた。寝不足では無くなった分まだマシなのだが、今日1日だけでも相当蓄積されている。出来ることなら速吸さんのマッサージも必要なのではなかろうか。
「寝る前にはサミーともしてあげて、後はいっぱい寝れば明日には全回復っぽいね。むーさんそろそろ改二だし」
「え、もうそこまで来てるの!?」
「それだけしごかれてるっぽい」
タイムリミットが迫る中、この早さで改二が視野に入ったのはかなり大きい。出来れば今日含めて3日程で改二になれれば、改二としての艤装を試験運用してから最終決戦に臨める。流石にぶっつけ本番は怖くて出来ない。
村雨が改二間近なら、長門さんも近々というところだろう。このペースなら最終決戦には全ての準備が整いそうだ。付け焼き刃かもしれないが、戦力としては少しでも多い方がいい。しかもそれが太陽の姫に効果的なM型異端児と、随一の力を持つ戦艦というのなら尚更だ。
「こんな急ピッチで改二になるのなんて前代未聞だよ。村雨ちゃん、やっぱり凄いね」
「ありがたいことよね……これなら
夕立のマッサージで心が緩んだか、おそらく確実に本心であろう言葉がポロッと出てきてしまった。復讐。やはり村雨も根っこの部分にはそれがある。
巫女にされたということは、全てを失った時に柵となる最愛の者を自らの手で殺している。私は父さんだが、村雨は誰なのだろうか。気にはなるものの、その話題を拡げようとは微塵も思わなかった。トラウマを穿り返すような趣味は無い。
「もう少し頑張ってみるわ……せめて改二になる前に……霧島さんに勝ちたいわね……」
マッサージで気持ち良くなってきたからか、そのままうつらうつらし始めた。お風呂で寝るのは危ないので、ちゃんと支えてやる。加古さんのように寝慣れてはいないだろうし、そのまま溺れるとか目も当てられない。
「むーさん、寝ちゃってもいいよ。夕立が運んであげるっぽい」
「ん……ちゃんと服だけは着せてよ……」
「了解っぽい! そこはゲロ様やオキも手伝ってくれるから」
勝手に巻き込むんじゃない。だが、村雨の頑張りは私達にも理解出来るので、それくらいならお安い御用だ。
ガッツリ訓練した後に、グッスリと眠る。これが成長への一番の近道なのはみんなよくわかっている。ただでさえ悪夢で寝不足気味だった村雨なのだから、寝られる時に寝てもらった方が心にも身体にもいい影響を与えるだろう。
結果、村雨は本当にそのまま眠ってしまい、3人がかりで運ぶことに。その時の寝顔は、悪夢を見ているようには全く見えない、安らかなものであった。
ちゃんと夕食の時には起こしてやらないといけない。それまでは夕立が側にいるとのこと。正直少し心配だったが、村雨のことに関しては夕立もシャンとするので任せておく。艤装姉妹のことに対して親身になれることはいいことだ。
夕食時、ちゃんと夕立に連れられて村雨が来ていることを確認出来たので少し安心。
代わりに安心出来ないのが1つ。この時間も、長門さんが当たり前のように食堂の手伝いをしていた。私が知る限りでは、ついさっきまで過酷な訓練を繰り広げていたはずなのだが、それを感じさせないくらい、いつも通りの言動。
「長門さん、ちょっとタフ過ぎない……?」
「いくら戦艦かもしれないけど、まだ訓練始めて1週間くらいだよね……」
元々身体がある程度出来ていたとしか思えないくらいに頑丈。ブランクがかなりあるので、最初はかなり辛そうにしていたが、今はそれにも慣れてきたということか。
正直長門さんは村雨以上にハードな訓練を続けている。何せ、監督が監督である。今日はそこにネルソンさんとサウスダコタさんが加わったと聞いているし、余計にハードになっていそう。
「この生活に慣れていてな。むしろ手伝わないと私が落ち着かない」
私達の声が聞こえたか、長門さんが説明してくれた。訓練に入る前からの生活スタイルであり、立ち直れたきっかけにもなっている食堂は、長門さんの中では切っても切れない存在になっているようだ。
精神的な安定に繋がるのなら、私達から言うことは何も無い。それで倒れたら目も当てられないが、その辺りは陸奥さんが目を光らせているから心配も無いだろう。
「皆のおかげで、私も晴れて改二だ。ここまで急ぎの訓練は今までに無いと聞いているが、私もそれを実感している。陸奥に言われたが、私は毎日倒れるように眠っているらしい」
「それはそうだよね……あれだけやってんだもん」
疲労が蓄積されていないわけが無かった。毎日ハードすぎる訓練をこなし、朝昼晩と食堂も手伝っていたら、夜に電池切れで倒れるのも当たり前のこと。昨日の休日も、食堂の手伝いをしている時以外は爆睡だったそうだ。
長門さんも悪夢に苛まれるタイプではあったが、最近はそんな余裕も無いらしく、グッスリ気持ちよく眠ることが出来ているとのこと。そこは安心。
で、今の発言を思い返してちょっと気になることがあった。
「え、ちょっと待って。もう改二行けるの?」
「ああ、私は明日改装されるそうだ。それだけのことをやってきたとは私も理解しているが、ここまで成長出来るとは思わなんだ」
なんと、長門さんはもう改二の練度を達成したらしい。毎日朝から晩まで訓練を続けていただけある。
「すごいね……まだ1週間経ってないよ」
「今日はネルソンとサウスダコタまで手伝ってくれたからな。ありがたいことに、それで一気に練度が上がったようだ」
今日の訓練がダメ押しになったようだ。とはいえ前代未聞の早さでの改二改装。そもそも長門さんも村雨のように天賦の才があったのではないだろうか。南方棲戦姫として活動させられていたことでその才能が開花しており、艦娘としての才能もそこに繋がっていたのでは。
「これでようやく私も決戦の地に立てることが確約された。皆には感謝している」
その時の長門さんは、初めて食堂で手伝いをさせられた時とは全く違う、心の底から喜んでいる表情をしていた。私の治療もあるが、トラウマを持ちながらも努力してここまで来たのが長門さんの勝因。
最初はいろいろとあったが、もう長門さんもかけがえの無い仲間だ。今まではここでサポートをしていただけのようなものだが、これからはみんなの隣で戦ってくれる。
「それで、だな。1つ聞きたいことがあるんだ」
「ん、なに?」
「改二改装は……その、また何かあるのだろうか。陸奥がやたらニヤニヤしてきたんだ」
おそらく改二改装のリンクのし直しのことを言っているのだろう。私や夕立はその衝撃に耐えられずに声を上げてしまった方なので、あの頃を思い出してなんだかモヤモヤしてくる。
とはいえ、長門さんは私の分霊治療でも声を上げずに耐え切れる程の忍耐力を持っているのだから、おそらく心配はない。陸奥さんの期待は裏切られる形になるだろう。改二だからといって、長門さんが嬌声を上げることは無いだろう。
「分霊と同じくらいの感覚がするから頑張ってね」
「そ、そうか……なるほど、あれか……。ならば、それも耐えねばならないな。流石にそこまで陸奥の思い通りになって堪るか」
ごめんね陸奥さん。期待通りにはならないと思う。
決戦準備は粛々と続く。まずは長門さんが達成したので、あとは村雨と、衣笠さんの力の理解だけだ。
長門は改二達成。1週間足らずで練度88というとんでもない急成長。
支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/88702562
MMD静画のアイキャッチ風速吸。医務室担当でみんなの体調管理や検査をしている時は眼鏡着用というの、とてもいいですよね。本編中ではそういう描写はありませんでしたが、採用レベル。