異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
これまでの努力の甲斐あり、ついに長門さんの改二改装が決まった。それが判明したのは今日の業務時間後だったらしいので、艤装の大改装は明日の午前中。新しい制服も明日お披露目となりそうである。今まではかなり露出度が高い制服だったが、次はどうなるのか。陸奥さんとお揃いになったりしそうではあるが。
「改装後に試験運用をしてもらう。構わないね」
「ああ。それで晴れて猛特訓は終わりということでいいのだろうか」
「そうなる。よく頑張ってくれたよ」
夕食後、空城司令が長門さんに翌日の日程変更を伝えていた。本来なら明日も訓練の予定だったが、目標を達成したことで改装の準備に入る。
制服の合わせもあるので、午前中は現場待機という形にされていたが、長門さんのことだからおそらくその間は食堂の手伝いに勤しむことだろう。それで心が落ち着けるのなら誰も文句は無い。
「だが……正直アタシも予想外だったよ。アンタがここまで早く成長するとはね」
空城司令も、ここまで早く訓練を終わらせるとは思っていなかったようである。タイムリミットギリギリまでに何とかなればと思っていたようだ。それがまだ多少なり余裕が出来ている。
僅か1週間足らずで改装まで漕ぎ着けるというのは前代未聞ではあるが、師が全員とんでもない精鋭だったことと、長門さんが南方棲戦姫だった頃の経験を活かして成長していったのが上手く行った理由だろう。この記録はおそらくもう抜かれることも無い。
「私も予想外だった。いや、あの訓練は過酷なものではあったが、自分でもここまで身につくとは思ってもみなかったんだ。これも全て、私を鍛えてくれた皆のおかげだ」
グッと拳を握りながら、勇ましい笑みを浮かべていた。戦う力を得られたことを喜んでいるのが手に取るようにわかる。
「姉さんの才能も少なからず影響してるわ。ずっと一緒に訓練を受けてきたけれど、姉さん最初から凄かったもの。何かやってた?」
「ああ、元々陸上競技をな。ああなる前から身体を鍛えてはいたんだ」
陸奥さんも長門さんの成長速度は目を見張るものだと感じていたようだ。教えられたことを次々と出来るようになっていくところを身近で見ているのだから、驚きは隠せないだろう。そもそも土台が出来ていたからと言って、この早さは普通ではないだろうし。
「……それに、南方棲戦姫の時の経験もあるかもしれないな。あの経験のおかげか、全ての訓練に対して馴染むのが早かったように思える。無論、教え方が良かったのもあるさ。独学ではこうも上手くは行かない」
長門さん自身があの時の記憶を持ち出せるようになっている辺り、心も相当鍛えられている。心身共に成長を遂げた長門さんに、今や敵など無いのかもしれない。
「ここからは戦場でも鎮守府を支えよう。給糧艦としての私もやたら期待されているようだしな」
後ろの方から間宮さんと伊良湖さんの視線が飛んできていた。自分の仲間であり、
そして翌日。長門さんの改装がついに開始。艤装は午前中に整備班が仕上げるのだが、制服の方は妖精さんが勢い余って昨日のうちに完成させてしまったらしい。そもそも作業がやたら早いのが妖精さんなのだから、やろうと思えば数分で作り上げてくれたりするのだろう。
なので、朝食の時間に早速お披露目ということになっていた。長門さん自身は艤装と一緒でいいだろうと言ったそうなのだが、間宮さんと伊良湖さんがどうしてもということで、なんだかんだ食堂の手伝いも新制服でやらされることに。長門さんはこの2人には頭が上がらないようである。
「ど、どうだろうか……」
食堂に現れた長門さんを見て、みんなから感嘆の声が上がる。ここで手伝いをするときのラフな格好はさておき、今までの制服からも大分様変わりしていた。
その制服は陸奥さんのものにかなり近いデザインだが、半袖の陸奥さんに対し長袖になっていたり、スカートも僅かながら丈が長くなっていたりと、陸奥さんのそれよりも露出度がかなり低めになっていた。それでも腹だけはしっかり露出している辺りが前の名残。あれも対策インナーで隠れることにはなるのだが。
「キャ──ーッ♪ 姉さんいい感じじゃない! 私と似てるけど要所要所違うのが姉妹って感じでいいわよね! ああんもう、ロングコートとか最高に似合ってるわ!」
一番盛り上がっているのは他ならぬ陸奥さんである。対する長門さんは、黄色い声を投げかけられタジタジ。
だが、改二になってここまで制服が変わるという人は、この鎮守府にはあまりいないらしい。沖波や夕立みたいに、ちょっとデザインが変わる程度でここまで大きな変化という程ではない。私に至ってはほぼ変わり無しだし。
「あ、ああ、陸奥よ、もう少し落ち着いてだな」
「これが落ち着いていられるもんですか。あれだけ詰め込みの訓練したせいでちょっと腹筋が割れてきちゃってるけど、姉さんそういうのも様になってるのよね。ホント、顔立ちとかもイケメンよねぇ」
止まらない陸奥さんにだんだん羞恥心を刺激され始めたようで、少し顔を赤らめつつ食堂の奥に消えていった。しかし、あちらではあちらで間宮さんと伊良湖さんが陸奥さんと近しいテンションで待ち構えている。
だが、陸奥さんを相手にするよりはまだ穏やかな心で対応出来るようである。一緒にいる時間が違うのが如実に現れていた。
「手伝いを始めた当初は心配事が多かったけれど、こんなに強く育って……」
「感激です。私達の力を受け継いだ
間宮さんに至っては少し涙目である。もう殆ど子が巣立つ親のような心境。殆ど同年代なのに、保護者のような視線で長門さんを見ていた。
「……2人には特に感謝している。これからも、よろしく頼む」
「ええ、でも無理はしないでちょうだいね。食堂の手伝いをしていたから疲れが取れなかったとかなっても、私達困っちゃうもの」
「そうですよ。私達でも食堂は回せますから、ご自分の身体を考えて行動してくださいね」
「ああ、その辺りは弁えることにするさ」
3人でいることが当たり前となっているのだから、それはそれは仲のいい給糧艦
そして午後、艤装も改装完了。ついにリンクの時が来た。工廠には空城司令としーちゃん、そして陸奥さんがその時を待ち構えている。そしてこれには私、陽炎も参加させてもらうことになっていた。
改二艤装とリンクした時に同期値が増減することもあるらしく、長門さんは艦娘になる経緯が特殊なので、リンクの後に魂を見てもらいたいとのこと。強力な艤装を手に入れた代償として、D型の同期値がおかしくなったら困るからだ。
「こいつは会心の出来だぜ。って、いつも言ってる気がするな」
「ああ、いつも聞いてるね。むしろ会心の出来じゃないことなんてあったかい?」
「あるわけないな。こいつが艦娘の命を繋いでんだ。半端にはしてねぇよ」
整備長が長門さんの新しい艤装を運んできた。だが、思った以上に大きなものが運ばれてきたことで、当の長門さんも驚いていた。
元々戦艦なので艤装は私達駆逐艦よりも大きなものを使っていたが、改二の艤装はそれに輪をかけて大きい。後ろから見たら脚くらいしか見えなくなるくらいだった。パッと見では陸奥さんの艤装よりも少し大きい気がする。
「陸奥の艤装を参考に、より強度を増した。一斉射は使うたびにガタが来るからな。あとは、割と雑に扱ってもいいくらいにはしてある。少し振り回しちまうって聞いてるんでな」
「ああ……深海棲艦の時からの癖だな。今でこそこれだが、元々は腕に装着していたせいで、撃つたびに身体を振ってしまう」
「なるほどな。なら今回の改装はその辺りも考慮しておいたぜ」
少し乱暴な使い方をしても問題ないくらいの強度を得ようとした結果、戦艦の艤装であってもこれだけの大きさになってしまうようである。
「んじゃあ、早速装備すっかい」
「ああ、よろしく頼む」
待ってましたと言わんばかりに陸奥さんが前に出てくる。改二改装の時の痴態を期待しての行動だとは思うが、長門さんに事前に教えておいたため、それを見ることは無いだろう。いくら長門さんでも、見せたくないものはいくらでもあるだろうし、これは陸奥さんでも踏み込んではいけない場所。
「装備の場所は変わらない。いつものように装備してくれりゃいいからな」
「了解した」
用意された艤装に背中を押し当て、そしてリンク。普段通りの艤装の装備なのだが、初めての改二艤装はその時の衝撃が段違いになる。
「っお……!?」
流石に小さく声を上げていたが、歯を食いしばり、拳を握りしめてその衝撃を耐えていた。痛いならまだしも、身体がモゾモゾするようなくすぐったさが身体中に拡がる感覚は、今思い返してもあまり感じたくないものである。
ましてや、長門さんは一度分霊を受けたことがあるため、その感覚と重なってしまい余計に苦しいだろう。精神的な苦痛に繋がる。
「姉さん、別に我慢しなくてもいいのよー」
「馬鹿なことを言うな……っ」
陸奥さんの言葉に耳を傾けないようにしつつ、必死に耐えている。魂の治療をした時と殆ど同じであるようで、それならば長門さんなら耐えられるだろう。現に、表情は苦しそうだが声を上げることは無かった。
「これは……確かに分霊に近いな……事前に聞いていてよかったっ」
結局、このリンクの衝撃にも耐え切った長門さん。陸奥さんは少しガッカリしていたようだが、無事にリンクが終わったことに関しては素直に喜ばしいようだ。
「お疲れさん。これで長門は改二になった。持ち上げられるかい」
「やってみよう」
言うが早いか、すぐにその場で立ち上がる。それが背中に装備されているのが当たり前のように軽々と持ち上げているため、リンクは成功。これで晴れて長門さんは改二改装され、この強烈な力を戦場で振り回すことになる。
「陽炎、念のため確認を頼むよ」
「了解。長門さん、ちょっと魂見せて」
もう一度座ってもらい、胸に指を突き入れて魂を確認。ここに澱みの1つでもあったら、艤装とのリンクでそれが拡がってしまうとかあったかもしれないが、その前にしっかりと治療していたおかげでそういうこともなく、綺麗な魂のままであることが確認出来た。
「オッケー。何の影響も無し。速吸さんに正確に測ってもらった方がいいとは思うけど、少なくとも治療が必要なくらい危ないものは無いよ」
「そいつは良かった。なら、これで一安心だね」
やはり、この急ピッチな訓練と成長が改装に何かしらの悪影響があるのではないかと懸念していたようである。結果的に無事に済んだから良かったが、心配するのは当たり前。
あとはここから試験運用を経て、正式に長門改二として登録されることになる。ここで何も無いとは限らないので慎重にことを運ぶ必要があるだろうが、そこはあまり心配していない。
「じゃあ長門、ここからは使い心地を見てもらいたい。アンタがやれるのは砲撃くらいかもしれないが、その辺りの試験を」
「ちょっと待ったー!」
淡々と段取りを説明していくところで突然の乱入。その声の主は、長門さんの改装を今か今かと待っていたネルソンさんである。その後ろからはサウスダコタさんとプリンツさんまで。このメンバーを見るとどうしても勘ぐってしまうが、まさか。
「そのTest、余が受け持とう! 我々3人と戦う実戦形式というのは如何だろうか!」
サウスダコタさんも言うまでもなくやる気満々。むしろここで自分が出ないでどうするといった表情。
プリンツさんは何処か申し訳なさそうだが、やる気がないわけではないようである。振り回されているのではなく自分の意思でここにいるようだし。
「ふむ……確かに、今までの訓練の成果も見ておきたい。長門、やってみるかい」
「そうか、そうだな。ネルソンにもサウスダコタにも世話になっている。ならば、私の成長を戦いの中で見てもらうのもいいだろう」
もしこの演習で不具合が見つかったらすぐに止めるというルールを設け、長門改二の初陣は強敵ネルソンタッチとの戦いとなった。流石に1人で3人と戦えというのは無理無謀なため、そこはちゃんと同等な人数を揃えるようだが。
「なら、姉さんの相方は勿論私ね。あと1人は……ゲロちゃん、どう?」
「え、私!? 駆逐艦だけど大丈夫!?」
「陽炎はその辺り飛び越えているようなものだろう。私としてもお願いしたい。この3人で、ネルソン達に挑まないか」
試験運用なのに大変なことになってきたが、長門さんがこうもやる気なのだ。ならば期待に応えなくてはいけない。生死に関わる戦いではないし、そもそも私だって強くなる必要があるのだから、こういう強敵との演習は願ってもないことだ。
「わかった。なら私が3人目ってことで」
「よし。提督、この3人で行かせてもらう」
「ああ、ネルソン達に胸を貸してもらいな」
急ではあるが、ここからはネルソンさん達との演習となる。今まで一度も勝てていないため、人数は少ないかもしれないがここで初勝利と行きたい。本題は長門さんの試験運用なのだが、なんだかんだ私も楽しみとなっていた。
次回、胸熱vsネルソンタッチ。この世界は演習でも3人でもタッチ出来る素敵仕様なので、どんな戦いになるか。