異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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試験運用演習

 長門さんの改二改装が終了し、ここから試験運用をしていこうとした矢先、ネルソンさんが演習をしようと持ち掛けてきた。新たな主戦力となり得る戦艦である上、その訓練に手を出しているくらいなのだから、その実力の程が気になって仕方ないのだろう。

 今までは訓練に次ぐ訓練。演習もやっていないわけでは無いが、それはあくまでも訓練の一環。動く的代わりである。それ故に、相手をしているのは常に陸奥さんだった。それがいきなりの団体戦である。

 

「付け焼き刃で詰め込み同然の力ではあるが、私は出来る限りのことをしよう。特に砲撃とフィジカルをメインに鍛えられているからな」

「神州丸の訓練が凄まじくハードだったものね。伊良湖ちゃんと一緒にどんどん負荷が上がっていっちゃって」

 

 演習の準備をしつつも、長門さんの現状を確認。やはり戦艦ということでメイン武装の砲撃を徹底的に鍛え上げられており、さらにはそれを制御出来るだけのフィジカルも手に入れているとのこと。この数日で恐ろしい成長である。

 駆逐艦の万能性と違った一点特化型であることも、この成長の早さに繋がっているかもしれない。やれ雷撃だ、やれ対潜だと手広く伸ばそうとするとどうしても時間がかかるが、間宮さんの砲撃と伊良湖さんの格闘の2種類に特化したからこそ、今ここで改二になれたとも言える。

 

「一斉射、使うんだよね」

「勿論。ネルソンはそれがお望みみたいだもの」

「ならその時は、私はあまり前に出ない方がいいかな」

 

 私、陽炎はその長門さんと陸奥さんをサポートするための一員として演習に参加するわけだが、あちらは3人纏めてのネルソンタッチ、こちらは2人での一斉射と、かなり激しい戦いになることが予想される。

 一駆逐艦である私が、その中に入り込んでしまったら最後、演習と言えども粉微塵になってしまうのではなかろうか。ペイント弾で致命傷とか目も当てられないのだが。

 

「ゲロちゃんには撹乱をお願いしたいわね。駆逐艦ならではの戦い方だもの」

「そうだな。我々はどうやっても大振りになる。奴らの隙を作ってくれないか」

「えーっと、つまり突撃?」

 

 陸奥さんの笑顔が怖かった。ネルソンタッチがいつ飛んでくるかわからない状態での戦場で、少ないながらも組まれた部隊から離れて単独行動をするというのはかなり怖い。演習だからこそチャレンジ出来る戦法である。

 こちらの一斉射には私は必要ないが、あちらのネルソンタッチには3人全員が必要。つまり、バラけて行動することはまず確実に無いということだ。逆に言えば、私1人にネルソンタッチが飛んでくる可能性だってあり得てしまう。

 この演習の目的としてそれは無いかもしれないが、それでも可能性だけで考えるのなら、私はその猛攻の矢面に立つことになる。怖すぎやしないか。

 

「ゲロちゃんのあの一気に戦場から離れる移動があるでしょう。それがあれば、一斉射もネルソンタッチも範囲外に行けるんじゃないかしら」

「それは多分大丈夫だと思うけど」

「実際の戦場でこんな指揮はしないけど、演習だからこそ試してみたいの。頼めないかしら」

 

 重要な任務の旗艦として出撃することが多い陸奥さんが、私の実力も加味して、命の危険が無い演習だからこその、チャレンジ精神溢れる作戦を立案。試す価値はあると思うし、これが成功したら、私は()としての戦い方も身につく。いろいろな戦い方が出来れば、戦場で何かしら役に立つかもしれない。

 

「あー……了解、いきなり撃つのは勘弁してほしいけど」

「ありがと」

 

 私の火力は基本的には届かないと見ていい。ならば出来る限り撹乱して、2人の一斉射の成功率を上げる。突撃は実際悪い策では無いと思える。出来るのなら勿論私が倒してしまっても構わないだろうが、前回のサウスダコタさんの例もあるし、狙えそうなら狙っていこう。

 合図無しでぶっ放されたら、いくら『蜃気楼』を使っても回避し切れるかわからない。陸奥さんと霧島さんで放った一斉射はそれくらい激しい密度だったし勢いもとんでもなかった。長門さんがそれを放った場合、一体どうなってしまうのだろうか。それはそれで楽しみ。

 

 

 

 そして演習の場へ。今回は長門さんの初陣みたいなものなので、ギャラリーが多い。哨戒部隊以外は全員がこの演習を見ていると思われる。霧島さんに可愛がられていた村雨も、今は演習を止めてこちらを見ているようだ。見ることも訓練になるとはよく言われていることだし。

 いつもの異端児駆逐艦は、各所でこちらを見学中。私の姿がここにあるため、萩風辺りは驚いているのがわかる。私だけが駆逐艦であるため、違和感が凄い。

 

「なんだかいっぱい視線を感じるけど、もしかしてネルソンの仕業?」

「うむ。ここのAdmiralがナガートの成長を確認すると言っていたからな。それだけでは勿体ない。皆に見てもらった方がいいだろう」

「全く、余計なことを」

 

 小さく溜息をついた長門さんだが、空城司令の隣で間宮さんと伊良湖さんも見学していることに気付くと表情が変わる。やはり師の視線の中でならいいところが見せたくもなるだろう。

 

「アタシとしては、カゲローが参加してくれたのがありがたい。因縁があるしな」

「もう勘弁してよ……激しい撃ち合いの中に入れられるってだけでも戦々恐々なのに」

 

 サウスダコタさんはまだ最初の敗北を根に持っている様子。霧島さんの気持ちがわかった気がする。これ多分一生言われる。

 

「それでは、審判はこの神州丸が執り行わせていただくのであります。思う存分戦ってほしい」

 

 いつもの演習のように、一定の距離を取って最後の準備。今回は戦艦同士のぶつかり合いのため、私達の演習よりも大分大きく開く。駆逐艦だと撃ったところで届くかもわからないくらいの距離。その代わりに、今回は全員にインカムを渡されており、神州丸さんの声が聞こえるようにされていた。

 当たり前だが、長門さんはこういう真剣勝負は初めてのこと。それがよりによってあのネルソンタッチなのだから目も当てられない。改二改装済みとはいえ、いきなりの実戦みたいなものである。

 

「陣形は梯形陣。ゲロちゃんは最後尾でいいけれど、開始したら自由に動いてくれて構わないわ」

「了解。機会を見て引っ掻き回すよ」

「ええ、お願い」

 

 こちらの旗艦は陸奥さん。流石にそこまで長門さんに任せるのはまだ早いという判断。陸奥さんの指揮の下、長門さんはタイミングを合わせて一斉射をすることになる。それ以外の時は自由な戦いになるわけだ。

 今でこそこうやって並んで合図を待っているが、これは殆ど遊撃隊みたいなもの。自由に動いて、でも戦況を把握しつつ、最終的にはチームの勝利を掴み取る。

 

『準備は良いか』

 

 神州丸さんの合図が聞こえた。ここで何も返さなければ、そのまますぐ始まる。

 いきなりネルソンタッチが来ることはあまり無い。こちらに有効的に叩き込めるタイミングを見計らってくる。今回はネルソンタッチ要員が3人しかいない変則的な状態だ。

 

『良さそうだな。ならば、始め!』

 

 開始の合図と同時に、陸奥さんとネルソンさんが砲撃。先制の一撃はどちらも旗艦が放った。それはお互いが読んでいたようで、それを避けるように航行開始。長門さんと私は、陸奥さんの動きに合わせて陣形を崩さずに移動する。

 

「姉さん、威嚇でもいいから撃ってもいいわ」

「了解だ。ならば撃つぞ!」

 

 指示を受け、長門さんの砲撃。姿勢もブレず、サウスダコタさんに定めた照準も完璧。移動しながらそれが出来ているのだから、砲撃訓練はしっかりと身に付いている。癖だと言っていた主砲を振る砲撃というのも見たらわかる程だったが、それでも違和感なく砲撃を放っていた。

 命中精度は間宮さん監修だ。あの人の精度が尋常では無かったことは、私は身を以て知っている。長門さんがそれを引き継いだというのなら、この砲撃は大振りではあっても期待出来る。

 

「っは、いい狙いだなナガート!」

 

 しかし、これだけ離れているのだから、簡単に避けられてしまう。移動後まで計算していたにしても、まだまだ離れているため、見てからでも避けられるだろう。

 だからこそ、私の撹乱が必要なのだ。一斉射を放つタイミングは、ある意味私が作るようなもの。責任重大である。

 

「じゃあ、行くから」

「よろしくね、ゲロちゃん」

 

 2人を残して陣形から離れ、別働隊として突撃。最初は脱力回避による高速移動を使わず、ただただ単独で行動するのみ。この間も2人は撃ち続けているし、あちらからの砲撃も飛んでくるので、砲弾の雨の中を私だけが突き進むことになる。

 

 陸奥さんも長門さんも、戦艦の中では動くのが遅い、いわゆる低速戦艦というもの。私がちょっと加速すると、あちらが例え最大戦速だとしても引き離すことが出来る。

 それはあちらのネルソンさんも同じことで、ネルソンタッチのために3人で行動しているのだから、単独行動出来るのは私だけ。それを視野に入れての撹乱作戦なのかもしれない。

 

「ほう、カゲローが単騎で来るのか。面白い」

 

 その時には既に、ネルソンさんの艤装が変形を始めていた。これだけ離れているのもあり、どちらも大振りであることから、初手からネルソンタッチで考えていたようだ。

 この変形を食い止めれば、少なくともタッチのタイミングをズラすことが出来る。それが今一番欲しい隙なのだ。ならば、ここで邪魔をするのが私の仕事。

 

「ネルソンタッチはやらせないよ」

「だろうな。しかし、我が精鋭がそれを許さぬ。プリンツ!」

Verstanden(了解)!」

 

 そこで前に出てくるのはプリンツさんである。ネルソンタッチの露払いを担当する、ネルソンさんが遠慮無しに突撃技をするための道を拓く者。周りが戦艦だからか、重巡洋艦でも小回りが利くと錯覚してしまう。

 ネルソンさんとサウスダコタさんは、陸奥さんと長門さんの砲撃に対応しているため、私に対応出来るのはプリンツさんだけ。

 

「ゴメンねカゲロー、この前はチームだったけど!」

 

 私がネルソンさんを狙ったところを見計らい、プリンツさんが私を狙う。同じことをしようとしても、火力は当然プリンツさんの方が上。それに、私が撃ったところでネルソンさんを止められるかもわからない。

 だからこそ、ここで脱力回避。私は照準を合わせただけてあえて撃たず、プリンツさんに先に撃たせてそれを回避し、ネルソンさんの間近に接近する。そこには陸奥さんの砲撃も飛んでくるが、ちゃんと当たらない位置を把握してから移動した。

 

 サウスダコタさんには正直近付けなかった。一度痛い目を見せられているというのもあるが、長門さんの砲撃が近付けば近付く程精度が良くなっていくので、それの邪魔をするわけにはいかなかった。

 

「ハッ、やはり余を狙うか!」

「そりゃあね! ネルソンタッチは食い止めないと」

「だが、もう遅い、なっ!」

 

 しかし、既にネルソンさんの艤装の変形は完了済み。前方に大きく突き出るような変形した艤装は振り回されるだけでもかなり怖く、それでいて突撃するために強固に作られているためダメージも与えづらい。

 ならば生身が見えている場所、有り体に言えば顔面を狙えばいい。即座に備え付けの主砲でネルソンさんを狙い定めたが、さすがネルソンさんに精鋭と言わしめる者。プリンツさんがそれを許してくれなかった。考えた瞬間には照準が定まっているはずなのに、それよりも下手をしたら早く動いていたプリンツさんが、恐ろしいことにネルソンさんの変形した艤装を乗り越えるかのように跳んで私の邪魔をしてきた。

 

「ダメだってカゲロー!」

「ちょっ!? それは想定してない!」

 

 構わず砲撃を放ったが、プリンツさんからも砲撃を放たれたため、またしても脱力回避。それをしたために照準がブレてしまい、砲撃は惜しくも外れてしまった。

 

「Nelson Touch」

 

 そしてそのままネルソンタッチ発動。私が近くにいようがお構い無しである。変形が完了したのだから、もうやらないという選択肢は無い。プリンツさんもすぐに定位置についていた。

 

「これはヤバイ!?」

 

 これはもう止められないと察したため、私はその場からすぐに移動。私を巻き込もうとは考えておらず、ネルソンさんの狙いは最初から私以外の戦艦2人。あちらを潰せば残った私を3人でゆっくりやってしまえばいいだけの話である。

 

 そして、私が先陣を切ったことで、陸奥さんもこちらを撃ちながら準備を整えていた。一斉射には艤装の変形などのシーケンスは無い。タイミングさえ良ければいつでも可能。砲撃が疎かになったこの瞬間が、一斉射の頃合い。

 結局、一斉射はネルソンタッチに被せるというのが一番いいタイミングだったわけだ。私が前に出た意味があったのかはわからないが、そうしなければ一斉射が出来ないように牽制され続けた上でタッチされていたかもしれないので、これはこれで良かったと考えよう。プリンツさんを私に引き付けられただけでも良しだ。

 

「姉さん、いい? 行くわよ!」

「ああ、行くぞ! 主砲、一斉射!」

「てぇーっ!」

 

 ここからは一斉射とネルソンタッチのぶつかり合い。鍛え上げられた長門さんの本領発揮の場所である。

 

 この超火力の応酬、勝者はどちらになるだろうか。

 




倍率的には一斉射の方が高いけど、梯形陣と複縦陣での火力の差が出てくるので、一概にどちらが強いかというのは判断しづらいところ。その海域の出撃制限とかに関わってくるところですかね。連合艦隊だと一斉射に分があるかもですが。
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