異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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計算出来ない力

 長門さんの試験運用演習が終了。長門さんは相討ちとなったものの、あのネルソンタッチに対して勝利を収めることが出来たのはとても大きい。この演習で、長門さんはもう即戦力であることが確定し、最終決戦でも活躍が見込まれるくらいの大戦力であることもみんなに知らしめることも出来ただろう。

 この演習を見ていたギャラリー達も、長門さんの奮闘には感心していた。現場で見ていても凄まじいと思ったが、守護者の力の再現は殆ど完璧だったと思える。私、陽炎もアレは完全な継承であると感じるほどであった。

 

「お疲れ様、長門さん」

 

 工廠に戻ったところ、待ち構えていたのは笑顔の間宮さんと伊良湖さん。その顔を見て顔が引き攣る長門さん。何か言われるのでは無いかとビクッと震える。

 

「私達の技をよく継承してくれました。合間にちゃんと出来ていましたね」

「はい。最後に砲撃を受けてしまったのは惜しいですけど、充分やれていたかと思います」

 

 2人からの感想も好感触。少しホッとしたようだった。しかし、次の言葉でまた硬直する。

 

「ですが、訓練はもう少し続けていきましょうね。そのダメージは致命傷だもの。本番でそうなったら、まず間違いなく生きていられません」

「そうですね。もっともっと鍛えてもらう必要はあると思います。『黄昏』との戦いはこれだけでは済まないでしょうから」

 

 ニコニコしながら言い放つ。勝ちはしたものの、致命傷を受けたことはいただけないようで、そういうことがないようにもっと鍛えた方がいいと提案してきた。

 短期間で改二にまで成長したのはよかったのだが、やはりそこは付け焼き刃である。技は使えても、鍛錬がまだまだ浅いと。それは長門さんも自覚しているようだ。

 

「姉さん、私もまだ付き合うわ。ネルソンとの一騎討ちで酷い目に遭ったもの。最後の一斉射に参加出来たから良かったけど」

 

 そういう陸奥さんも、判定的には中破。ネルソンさんと1対1でやり合ったことで、いくつか被弾はしてしまっていた。対するネルソンさんは、一斉射の前までは殆ど傷付いていなかった辺り、陸奥さん相手でも優勢に戦っていたということだ。

 そこから、まだまだ成長の余地があると知り、長門さんと一緒に更なる高みを目指そうとしているようだ。鎮守府の守護者の力を、陸奥さんも取り入れてしまおうと考えているのかも。

 

「そう、だな。陸奥、最終決戦までは訓練を続けていこう。私もまだまだだ」

「ええ、一緒にまた強くなりましょ」

 

 姉妹仲は良好。この2人はさらに強くなることだろう。それこそ、手が付けられない程に。

 

「ならばまた我々が相手をしてやろう。拳を交えたのだからな。あれだ、セン・ユーと言うのだろう」

「ああ、戦友か。そうだな、まだまだよろしく頼む」

 

 ネルソンさん達との絆も深まり、長門さんはより一層励むことになる。最終決戦まで時間はそこまで残されていないが、ギリギリまで鍛え上げて本番に臨むことだろう。

 鎮守府の最高戦力と言われる日も近い、かもしれない。最大のライバルは妹である陸奥さんになりそうだが、2人揃ってトップになってもいいと思う。

 

 

 

 長門さんの演習は午後イチから始まっていたので、終わった今でもかなり時間が残っている状態。演習に参加した面々はそのまま休息。というか長門さん達もネルソンさん達も、艤装を酷使しているのでそのまま整備が必要と判断されたため、休まざるを得なくなった。

 

 短期間であそこまで成長した長門さんの存在は、その演習を見ていた全員に火をつけるのに充分な効果だった。

 特にそれでやる気を出したのが村雨。ある意味同期とも言える長門さんがあそこまで出来たのだ。自分だってやれると自信を持ち、ひたすらに訓練に打ち込むことになる。

 同じように参加していた私も例外なくフリーになったので、ここは焚きつけられてやる気満々な村雨を見守ることにした。夕立にせがまれたというのもある。

 

「おー、むーさん絶好調っぽい!」

 

 相変わらず霧島さんを相手にした演習を繰り返しているのだが、私から見ても動きがどんどん良くなっているのがわかる。初めて演習をした時の、主砲を向けられた瞬間に足を止めてしまうようなことはもう無かった。

 

「うん、いい動きになってるわ」

 

 猛攻はしっかりと盾で防いでいるが、村雨の動きには感心していた。長門さんの演習を見て焚きつけられたことが、動きまで良くしているのは恐ろしい。

 村雨が夕立と同じような直感タイプだからこそのそれなのだろうか。感情が動きに直結しているというか。好戦的だから前へ前へと進んでいく夕立と同じように、自分だってやれると奮起しているから前へ前へと進めるみたいな。

 

「それでも当たらないんですけど!?」

「簡単に行かせるわけないでしょう。でも、ちゃんと強くなってるわ。私が保証する」

 

 それは外から見ていてもそう思える程だった。動きのキレというか、その時その時に選択する行動がどんどん的確になってきていた。

 

 夕立もそうなのだが、直感的に選択した行動が大体間違っていないというのが村雨である。今まではその選択に時間がかかってしまっただけ。だから回避しなくてはいけないのに足が止まってしまった。

 しかし、今はその選択の速さも磨かれてきており、霧島さんが主砲を構えた瞬間には、その射線から移動していた。盾で防御しようとしたら、防がれない場所を判断して砲撃を放つ。

 

「私がまだ負けないのは、艦種のスペック差もあるわ。1対1なら負けるつもりも無いし」

 

 自信満々に言い放ち、村雨の攻撃をことごとく防ぎながら、また広範囲にバラ撒く砲撃。回避方向を固定させるための常套手段。私が以前見ていた時には、村雨はこれでやられていた。

 だが今は一味も二味も違う。避けながらも前に進み、砲撃もやめない。むしろ霧島さんの砲撃を止めるための砲撃を繰り出す。もう一切怯まない。

 

「その選択が出来るようになったのもいいことね。よし、今回はここまでにしておきましょう」

 

 その姿が見れた時点で、1対1(タイマン)の演習を一旦中断。結局攻撃が通ることは一度も無かったのだが、1人でかなり惜しいところまで来ているのは確か。

 

「親分さん、私まだやれるわ」

「わかってるわよ。だから、ちょっと趣向を変えるの。ここ最近はずっと1人での演習ばかりだったでしょ。それだと個人技ばかりが伸びて、連携がうまく出来ないわ」

 

 村雨には何もかもが足りなかったため、まずは1人でも戦えるように地力の底上げを図った結果が今の個人演習。村雨はその中でガンガン成長し、霧島さんをも唸らせるくらいにまでになっている。

 だからこそ、次の段階に行く必要があった。戦場では1人で戦うということの方が少ない。仲間と肩を並べ、背中を合わせ、お互いを守りながら戦うというのが常だ。自分だけが強くても意味がない。

 

「……そっか。さっきの長門さんみたいに、陸奥さんと一緒に戦ってたからすごく強かったのね」

「そういうことね。あの2人相手だと、私もどうなるかわからないもの。艦娘に限っては、1+1は2じゃないわ。艦隊の頭脳といえど、計算では測れない力があるもの」

 

 長門さんもそうだし、ネルソンさんもそう。さっきの演習では、仲間の存在による力の上がり具合が如実に出るものだった。長門さんと陸奥さんの一斉射は、1+1が3や4になっていたし、ネルソンタッチは1×3が6くらいになっている気がする。

 それだけ仲間が重要であることは、あの演習を見ていた村雨にだって痛いほど理解出来ていることだろう。計算出来ない力を感覚的に理解したはず。

 

 そこで、村雨にはここからは連携の訓練、仲間と一緒に戦う訓練をするべきと提案したわけだ。

 勿論、1人で霧島さんを乗り越えることが出来る程の力を手に入れるのも目標としたいだろうが、決戦の場で個人プレーはまず不可能。ただでさえ強大な敵なのだから、仲間の力を借り倒してでも勝利しなくてはいけない。

 

「今日のところは夕立しかいないから、夕立に相方になってもらうけれど、明日からは別の子と組んでもらうから」

「了解。みんなと一緒に戦えてこその連携ってわけね」

「理解が早くて助かるわ。少なくともM型異端児の子とは全員と組んでもらう。勿論そこの陽炎とも」

 

 最終決戦、太陽の姫とぶつかり合うのはM型異端児だ。その場で連携が取れるようにするには、その全員と一緒に戦う必要があるだろう。私もだし、沖波もだし。松輪とすら一緒に戦えるようにした方がいいだろう。

 実戦を見据えるなら、まず間違いなく連携が必須技能。その場でランダムで組むと言っても過言ではないのだ。

 

「まぁその前に、ちゃんとみんなと仲良く出来ていることが大事だけど」

 

 その言葉にどうしても反応してしまう村雨。

 

 村雨は経緯が経緯なので、どうしても他者との関係がうまく行きづらいところがある。この鎮守府に村雨のことを悪く言っている者はいないが、村雨自身が遠慮してしまうことは多い。今でこそ大丈夫みたいだか、最初は敵対心のようなモヤモヤも残っていたくらいだし、

 特にそれが顕著なのが萩風である。今でも悪夢として見てしまうことがある『雲』の時の記憶だが、それが原因でいろいろありすぎた。萩風が唯一素っ気ない態度を取る相手でもあるのでわかりやすい。

 

「……長門さんと萩風には、申し訳なさが勝っちゃうの。あの2人の人生を壊したのは、紛れも無く私だし……」

「むーさん、まだ夢に見ちゃうくらいだもんね」

 

 ほぼ常に一緒にいる夕立は、村雨の悩みを一番理解しているといえる。夕立自身も私のせいで鎮守府に敵対する感情を知ってしまっているので、村雨の持っている辛さがわかる。それは私もだ。

 しかし、この手で他者を殺めるという感覚を知っているのは私くらい。あとは私達を元に戻すために手を汚してくれた者達くらいだと思うが、それは悪意を以てでは無いため、少し違うか。

 それに、他者や人生までもを破壊したのは村雨にしか無いものである。これだけは理解してあげることが出来ない。申し訳ないが、寄り添ってあげることでそれを緩和してあげるくらいしか、私達には出来ないのだ。

 

「……でも、連携は出来るようになりたい。仲良くしてくれなんて口が裂けても言えないけど、一緒に戦いたいって気持ちは本当だから」

「その気持ちがあればまだマシね。大丈夫、貴女は皆と戦えるわ。私が保証する」

「ありがとう、親分さん」

 

 小さく微笑むが、どうしても浮かない顔をしていた。これを吹っ切れろという方が難しいのだが、まだまだ時間が足りない。

 

「ひとまずは、夕立と組んで私と戦ってもらう。これでいいわね」

「ええ、大丈夫。夕立、一緒にやってもらって」

「いいに決まってるっぽい! そのためにずっと一緒にいるんだからね!」

 

 村雨に対して満面の笑みの夕立。村雨がどうであれ、誰とでも分け隔てなく付き合うことが出来る夕立には過去なんて簡単に割り切れるものであった。だから村雨が今ここで活動出来るのではないかと思える。

 

「艤装姉妹だもの、一番上手く連携出来ると思うわ。私も苦戦するかもしれないわね」

「ぽい! 今日こそ親分に参りましたって言わせるっぽい!」

「ええ、夕立となら行ける気がするわ。まずは1+1を2にしなくちゃね」

 

 まともに連携出来なかったら、1+1が1にすら満たなくなる可能性がある。それだけは避けたいところ。

 

「夕立とむーさんで、1+1を200にしてやるっぽーい!」

「本当に出来そうね貴女達なら」

 

 ここからは2対1の変則演習。以前同じようなことをやらせてもらったが、私達は2人がかりでも霧島さんに勝てなかった。だが、この2人の連携ならそれを突破出来るかもしれない。

 

 

 

 結果として、村雨はさらに力を付けることになるが、霧島さんには僅かに及ばず。しかし、1+1を2以上にする感覚は掴めたようだ。ここから村雨も力をつけていくだろう。

 




夕立「1+1は2じゃないっぽい。夕立達は1+1で200っぽい! 10倍だよ10倍」
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