異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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互いの気持ち

 長門さんの試験運用演習によって、鎮守府の士気は上がりに上がっていた。特に同期として鎮守府に加入した村雨は訓練に熱が入り、霧島さんとの演習に躍起になっている。

 そこで、霧島さんからの次の指示は、連携を学ぶこととされた。個人技ばかりを伸ばし続けるのもよろしくない。最低限、M型異端児との連携だけは出来るようになっておく必要がある。ここからは、改二への訓練も兼ねて連携訓練を続けていく。

 つまり、毎日演習。今日は夕立と組んだが、明日からはまた別の組み合わせで演習をすることになるだろう。私、陽炎もM型異端児であるため、その組み合わせの1つに入る。

 

「夕立とは上手く行くのよね」

「そりゃそうっぽい。いっつも一緒にいるから、息が合うんだよ」

 

 異端児駆逐艦で集まって食べる夕食の時間に、ちょっとした反省会。夕立と組んで演習を続けた村雨が、考え事をしながらボヤく。今日から与えられた課題について、村雨なりにいろいろ考えているようである。

 夕立との連携はかなりのものだった。意思疎通がしっかり出来ているような動きで霧島さんに対して猛攻を仕掛けるところは、まさに姉妹というイメージ。それでも押し勝てなかったのは、霧島さんの腕前が凄かったというだけ。

 

「明日からは夕立じゃない人と連携訓練っぽいよ。誰かな誰かな」

「今提督に打診中だって。明日突然言われるかもだから、私にもわからないわ。でも、多分M型異端児の誰かよね」

 

 そうなると、私か沖波か、はたまた磯波か。異端児駆逐艦としての連携訓練ならやっておいて損はないだろう。最終決戦で組む可能性が非常に高い組み合わせだし。

 

「村雨ちゃん、もうそろそろ改二なんだよね。あとどれくらいなの?」

「親分さんが言うには、あと2日くらいみっちりやればって」

 

 この村雨の発言により磯波破裂。そういえば、村雨が霧島さんのことを親分呼びするのを聞くのはここが初めてだったか。夕食中という最悪なタイミングでそれが発生してしまい、よりによって磯波は私の真正面に座っていた。

 つまり、私に思い切りぶち撒けられるということになる。流石にこれは避けられない。

 

「姉さん危ない」

 

 隣の萩風が皿を私の顔の前に差し出してくれたおかげで、顔に喰らうことは無かった。代わりに服の方がやられたが。

 

「ちょっ、磯波ぃ!」

「ご、ごめ、ひっ、それは、予想して、けほっ、無かったからっ」

 

 机に突っ伏して痙攣している磯波。久しぶりの深刻なダメージだったようで、回復に時間がかかりそうだった。早くどうにかなるようにと、沖波が背中を摩ってあげているくらいである。

 夕立のそれにはもう完全に慣れていたが、村雨がそれを言うとなると流石に無理だった様子。違和感が凄いから磯波の気持ちはわからなくも無い。

 

「ありがとね萩風」

「いえいえ、今回は何となく予測出来たので。磯波さんが真正面だと多少は警戒はしますね」

 

 苦笑する萩風。それにしても素晴らしい反応だった。萩風がいなかったら私は大惨事になっていただろう。いくら友人であり仲間でもある相手であろうが、食べているものを吹きかけられるのは誰だって嫌なものだ。

 艤装を装備していないというのもあるし、脱力しようがない状態でもあるのだが、流石に仲間からの攻撃を脱力回避は出来なかった。あれが避けられれば完璧だとは思うが。

 

「村雨さん、その発言は磯波さんの()()()()()()なので……」

「ご、ごめん、そういう事情知らなくて。笑い上戸なのは知ってたけど」

「ツボが何処にあるかわからないんです」

 

 小さく溜息をついたが、発生源である村雨を責めるようなことは無かった。未だにぎこちない態度で接しているものの、顔を合わせれば即喧嘩みたいな仲でも無い。お互いに遠慮し合っているような関係。会話も本当に少ない。

 

 そうなっても仕方ないのはわかっている。その時は村雨の治療が不十分だったこともあり、一度大きな喧嘩のようなものをしているのも大きい。どういう事情があれ、胸ぐらを掴んで引っ叩いている相手に対して、遠慮というか警戒というかそういう感情を持つのは至極当然なこと。

 萩風だって割り切ろうとしているが、そういう小さくないいざこざを起こしてしまっているというのは、思った以上に大きな障害になってしまっている。

 

「あ、あのさ、萩風」

「なんです?」

 

 磯波のやらかしをみんなで片付けている最中、村雨から萩風に声をかけた。話しかけるのもあまり無いことなのだが、少しだけ勇気を出して。

 対する萩風はやはり素っ気ない。萩風自身もそんな態度を取りたくは無さそうなのだが、最初が最初だけにもう引っ込みが付かなくなってしまっているようにも見える。

 

「明日の連携演習……萩風が組んでくれないかな」

「……私が? M型異端児でもなく、気心の知れる艤装姉妹ですらない私とですか?」

 

 ほんの少し棘のある言い方にもなってしまっている。あまり褒められたことではないのだが、心境がわかるからこそ何も言えない。こればっかりは、村雨の反応を見るしかない。

 村雨はあの訓練の時に、仲良くしてくれとは口が裂けても言えないと話していた。萩風がこういう態度を取る気持ちを一番理解しているのは村雨だし、こう言われてもおかしくないと思っている。だから、それに対して文句は一切無い。

 

「そう、萩風と。戦場で、一緒に戦うこともあると思うの。防衛線だと乱戦になるだろうから、誰とでも連携が出来るようになりたい。だから、まずは萩風とやりたい」

 

 言葉を選んで、なるべく傷つけないように、でも意思は伝わるように。

 

 口が裂けても言えないかもしれないが、村雨の本心は()()()()()()()()なのだと思う。言えないだけで、言いたいのだ。

 だからこそ、その場にいた夕立の次に、萩風を選んだ。一番仲違いをしている相手と、お互いの命を預け合うために。

 

「……わかりました。村雨さんの希望が私だというのなら、拒否する必要もありませんから。貴女の言う通り本番は大乱戦でしょうから、手近にいる人との連携というのも必要になるでしょうし」

「ほ、ホントに!?」

「嘘をついてどうするんです。別に私は村雨さんのことが嫌いとかそういうわけじゃないですよ。そうだったらこうやって話なんてしませんし、顔も合わせません」

 

 しかし態度は変えない。表情も萩風には珍しい殆ど無表情。どちらかといえば暗い方か。嫌とも思っていないが、良いとも思っていない、事務的な返答というか何というか。

 

「そ、そっか……ありがと。提督にそう伝えてくるから、明日は……よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 

 片付けが終わったため、物を片付けてさっさと食堂から出て行ってしまった萩風。私もお風呂のついでに着替えたいところだし、萩風を追うわけではないが早いとこ出て行かせてもらおう。

 その時、村雨の表情は何処か喜んでいるように見えた。勇気を出した甲斐があったと、素直に笑顔を見せていた。

 

「よかったね、むーさん。ハギィとも仲良くなれるよ」

 

 夕立の言葉に、村雨が小さく首を振る。

 

「仲良くなりたいなんて、そんな烏滸がましいことは考えてないわよ。私が萩風の全てを奪ったことは事実だし、萩風はああ言ってたけど、きっと私のことは許せないだろうから。でも、それを戦場に持ち込んでピンチになったら、みんなに迷惑かけるでしょ。だから……まずは()()()()と思ったの」

 

 普段からそこまで顔を合わせているわけではない2人。訓練で一緒になったりはするものの、会話自体もほぼ無し。村雨が必死に訓練をしているというのもあるが、まず村雨から話しかけることは無いくらいに遠慮している。

 やはり、萩風から何もかもを奪っているというのが大きすぎた。住んでいた街も、家族も、最愛の者も、全て『雲』が破壊してしまった。その感覚を全て覚えているというのだから、罪の意識しか無いだろう。

 それに慣れようと、村雨は努力しようとしていた。その感情のまま戦場に出た時、それが足を引っ張ってしまうことを恐れた。自分はどうなっても良いが、周りに迷惑をかけることは困ると。

 

「私はそれだけのことをやらされたんだから……でも、それは戦場には持ち込まない。事務的でもいいから、萩風とは一緒に戦えるようにしたい。背中を預けて」

「うーん……夕立にはよくわかんないけど、むーさんがそう思うならあんまり言わないっぽい。でも、それでしんどいなら、また寝る前に夕立やサミーに話してね」

「ありがと。一緒にいてくれるだけでも助かるわ」

 

 悲しいが、この確執は簡単には覆らないものだ。今の言葉が村雨の本心かもわからないが、少なくとも誰にも迷惑をかけずに戦場に出たいという気持ちがあることはわかった。

 

 なら、萩風はどうなのだろうか。それを聞けるのは私だけな気がする。この後、ちょっと聞いてみよう。

 

 

 

 お風呂も終わり、後は寝るだけ。いつものように村雨と夕立はそちらの部屋へ。私の部屋には残りの異端児駆逐艦が集合。流石にこの頃になったら磯波も回復しており、部屋に着いた途端に謝り倒された。

 

「ごめんね陽炎様、よりによって目の前にいるときに……」

「いや、うん、あれは仕方ないよ。村雨が親分呼びするのは想定しない」

「そ、そう、だよね……ふっ……くくっ」

 

 ここで思い出し笑いに発展。複雑な表情をしながらゆっくりと蹲っていく。それだけアレが予想外であり、磯波のツボに深く入ってしまっているということである。また沖波が背中を摩ってやり、回復を手伝ってあげていた。

 一方、萩風は夕食の時と変わらず表情が若干暗い。どういう感情を以てそれなのかは私にはわからないが、苦しいのなら吐き出してもいいと思う。だから、磯波はアレだがここで聞いておこう。

 

「そうだ、萩風。聞きたいことがあるんだけど」

「……村雨さんのことですよね」

「まぁそうだね」

 

 流石にそういう空気があったか、萩風も私の質問は想定済み。

 

「……村雨さんは『雲』じゃないですから、割り切ろうとはしていますよ。治療されたのに死を望んだ時にはカッとなってしまいましたけど。それには正直負い目があります」

「あれは……仕方ないとは思う」

「でも、諸々治って人間に戻れた村雨さんは、私の姿を目に入れることで苦しんでます。話しかけても申し訳ないという気持ちが顔からわかるんです。それなら、関わり合いを持たない方がいいでしょう」

 

 だから、事務的にOKを出したものの、連携訓練を前に少し浮かない顔をしていた。萩風としては、相手を思い遣った結果がコレ。村雨のストレスを考えて、なるべく関係を持たないようにしているわけだ。

 異端児駆逐艦という括りがある以上、訓練や演習で顔を合わせ、時には一緒に訓練をすることもあるだろうが、その程度ならまだマシ。しかし、連携となるとそれ以上の接触になるのだから、ギクシャクして当然である。

 

 一度自分から手を出したことによる負い目と、村雨の気持ちを鑑みた結果の心の壁は、萩風自身にもストレスになってしまっている。

 

「でも、今回は村雨さんから一歩踏み出してきてくれました。それなら手を取らざるを得ないですよね。それを突っぱねたら、村雨さんは余計に傷付きます。今でもその傷は癒えないのに」

「……優しいね萩風は」

「私が皆さんにしてもらったことをしているだけです。私だって元々は駆逐水鬼、何人も怪我をさせているし……その……姉さんには酷い痴態を」

 

 話しながら徐々に声が小さくなっていく。あの時の自分を深く思い出したことで、いたたまれない気分に。

 そういう時は私の匂いで癒してあげるのが手っ取り早い。ちょいちょいと手招きし、膝枕で安心させてやる。顔が腹に向くようにしてやったことで、萩風が大きく震えた。

 

「……何をどうやっても誰も戻ってこないですし、村雨さん自身もそれに対して真摯に向き合って、自分の意思でも無いのに罪を償おうとしてくれているんですから……私だって受け入れてあげたいです。でも……」

「いいよ、ゆっくり歩いていけば。歩み寄りたいなら歩み寄ればいい」

 

 頭を撫でてやると、さらに震えた。気分が落ち着くまではこうしていればいい。

 

 

 

 確執は深いが、お互いに傷付け合うことを望んでいないことはよくわかった。2人とも、ただただ優しいだけ。全ての罪は太陽の姫にあるのだから、もう少しだけ歩み寄れればいいと願った。

 




村雨と萩風の関係は、悪化こそしないけど良くもならないのが現状。連携訓練で何か変わるでしょうか。



支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/88811931
MMD静画のアイキャッチ風由良。松輪を守るために駆け出した時は、こんな感じで手を伸ばしたのでしょうね。
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