異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
村雨の連携訓練を夕立以外と行なうという話になったのだが、村雨がその相方に萩風を選択。本人に直談判して、事務的にではあるがOKを貰った。
お互いにお互いを敬うがために遠慮しており、そもそもの経緯もアレなため、どうしても関係に大きな溝が出来てしまっていたが、今回の件で多少なり改善されると嬉しいものである。
「おはよう萩風。よく寝れた?」
「おかげさまで。ありがとうございました姉さん」
朝、いつものように目覚める私、陽炎。今回はその連携訓練の件もあるので、萩風の添い寝をする形で朝を迎えた。こうすることで萩風が安心して眠ることが出来ることは今まで何度も実証してきたことだし、事実物凄くスッキリした顔をしていた。悪夢などを見ることがなく、気持ちよく寝られたようで何より。
萩風としては、今日の訓練は重い内容だと思う。溝がある村雨との共闘というのは、どうしても本来のスペックを全て出し切ることが出来ないだろう。それに、前日からストレスを溜め込んでいたら、それが余計に顕著になる。
「これなら、今日は全力で挑めます」
「そっか。応援してるよ」
こうは言っているものの、萩風の表情はそこまで明るいものでは無かった。やる気はちゃんとあったところで、どうしても思うところはある、
おそらく、この訓練には私も便乗することになるだろう。その時に萩風を支えてあげられればいい。
朝食後に空城司令に呼び出される。その理由は案の定、私も村雨と萩風の訓練に参加してくれという依頼だった。同じように夕立も呼び出されており、私と共に2人の訓練を見守るようにと言われているらしい。
空城司令としても、あの2人の関係は戦場で何か悪いことが起きないかと心配しているところがあるらしい。
「黙ってちゃわからないから、お互い言いたいこと言っちまえばいいんだがね」
「それが出来たら苦労しないよ」
「夕立もそう思うっぽい。でも、むーさんは意外と
村雨が一歩も二歩も引いているから進展しないと夕立は分析していた。村雨のことを一番理解しているのは、毎日おはようからおやすみまで片時も離れないくらいに傍にいる夕立だろう。
昨晩私が萩風から聞いたように、村雨の本心も夕立は聞いているのだと思う。村雨のことを割り切ろうとはしているが、被害者家族の自分が視界に入ることで苦しんでいるから近付かないという萩風と同じで、村雨にも萩風に対して何かしらの感情があるはずだ。
「あまり無理は言えないよ。萩風もいろいろ考えていたみたいだし。でも、この訓練で心境とか変わってくれれば、私は嬉しいかな。本人の前でそんなこと言えないけどさ」
「ああ、そうだね。アタシもそれを願って村雨の進言を許可したんだ。関係が悪化しないことを祈っているがね」
この連携訓練によって、より仲違いが進んでしまったらという不安もある。全く連携が出来ないだけならまだマシだが、確執が余計に深くなったら、もう同じ戦場に置くこと自体が難しくなり得る。今この場で士気にも影響しかねない。
私と夕立は、あの2人の仲を取り持つ役割にもなっていた。お互いに艤装姉妹の問題だ。それに、みんな同じ異端児駆逐艦なのだし。
「さ、2人がそろそろ来るだろう。海の上ではアンタ達に任せる。あとは霧島だね。ここからはあの子に従ってくれりゃいい」
「了解。このことは霧島さんも知ってるの?」
「当然だ。霧島には昨日の夜のうちに話しておいたよ。その時にどういう方針でこの演習をするかも決めてある」
ならもう任せるしかない。その方針が合っていようが間違っていようが、ここまで来たらなるようになれである。
「あ、来たっぽーい」
などと話していたら、萩風と村雨が霧島さんに連れられて工廠へやってきた。萩風はやはり少し素っ気ない態度のまま。村雨は目が合わせられずに若干弱気な表情。霧島さんもこれには少し困った様子。
村雨自身が希望したのだが、本人がこの調子では先が思いやられる。誘うのに勇気を振り絞ったことで、全部出し尽くしてしまったというのなら目も当てられない。
「それじゃあ今日の訓練だけれど、村雨と萩風で連携訓練をしてもらうわ。2人とも、それでいいのよね?」
「ええ、私が希望したことだもの」
萩風も無言で首を縦に振る。ただ見ているだけの参加とは違う共闘に、いろいろな感情が入り交じっていた。
「で、その相手は最初私がやるつもりだったんだけれど、司令と話し合った結果、変更させてもらうわ」
「えっ、じゃあ誰が……」
「勿論、
流石にこれには萩風も目を見開いた。私と夕立も聞いていないことなので大いに驚く。
「同じ駆逐艦の連携を目の前で見ながら、自分達に活かせばいいだけだもの。私と戦うよりも身になると思うのよね」
「確かにそうだけど、急だなぁ」
「でもいいっぽい。ゲロ様とならやりやすそうだし!」
夕立は気楽なものである。演習で夕立と組んで戦うというのは、実は殆ど無かったりする。今でこそこんな関係であるが、夕立自身が私のことを初めての後輩だからとライバル視していたこともあって、組むよりは戦う方が多かった。戦場でも、割と夕立とは別の部隊になることが多く、2人で共闘というのもなかなか無い。
そういう意味では結構新鮮な感覚。あれだけ暴れ回る夕立の手綱を握れるかはわからないが、2人で自分の艤装姉妹を相手取るというのは、なかなか面白そうと感じた。
「ね、姉さんを相手にするんですか。脱力回避も使われるんですよね……?」
「勿論。2人には手を抜かないようにしてもらうから。それこそ、
厳しいのは私と菊月のペアと先日言っていたが、私と夕立のペアも想定では結構厳しいらしい。夕立の天才的センスに、私の『蜃気楼』と『屈折』を重ねることにより、計算出来ない連携になると踏んでいる。
ある意味、私と夕立の連携訓練にもなっていた。個人的にはそこまで心配はしていないが。
「ルールは私との演習の時と同じで、どちらか片方がやられたら負け。どちらもペアなんだから、2人で連携して片方を倒せばそれでいいわ」
ここのところは基本変わらない。チームプレイなのだから、片方がやられたらおしまい。自分がやられないように相方を守り、合間合間に攻撃していくというのがベスト。
こういうチーム戦は、勝つことも大事だが負けないようにすることも大事。実戦と同じく被弾は死と同義なのだから、艦娘の心得をちゃんと守るのならば、攻撃よりも防御がメインになってくるだろう。
しかし、私の相方となる夕立は鎮守府屈指の押せ押せキャラ。死すらも恐れないような危うさがある。そうなると、夕立を前に出して私が後衛でサポートするのが良さそうか。
「じゃあ早速やっていくわよ。準備して」
「ぽーい! ゲロ様、よろしくね!」
「はいはい、ちょっと作戦会議しよっか」
こちらはこちらでサクッと意思疎通が出来そうだが、問題はあちら側。相手が私と夕立であるだけでも少し慄いているようだが、それ以上にコンビを組むということに抵抗というか躊躇があるようだ。
村雨が言い出したことだし、萩風も事前に聞いて許可まで出しているのだが、いざ本番となるとどうしようという気持ちが強くなるようである。本人を目の前にすると尻込みをしてしまう気持ち、わからなくもない。
準備を終え、すぐに海の上。私は夕立と並び、2人を見据える。あちらは作戦会議的なことがちゃんと出来たのだろうか。そこはちょっと心配。
「んー、最初だけで勇気振り絞り過ぎたのかもしれないっぽいね。ハギィ見て萎縮しちゃってる」
「萩風も目が合わせられないみたいだね。仕方ないかもしれないけど、戦場でこれはよろしくないよ」
案の定というか、あちらの2人は息が合わなそうな状態。チームプレイだが、あまり相方の方を見ていられないようなことでは、1+1が2に満たないようなもの。
「なら、ボッコボコにするっぽい。嫌でもチームプレイしないと勝てないってこと、身体に教えてやるっぽい」
「とりあえず追い込んでみてどうなるか見てみるしかないか。じゃあ、作戦通りに」
「ぽい。夕立が前に出るから、ゲロ様は後ろね。どっち狙う?」
「そりゃあ言い出しっぺの村雨でしょ」
村雨がどれだけ育っているかも見るため、2人で村雨を集中砲火する方向で1戦目は行く。同じことを逆にこちらがされた場合、もう片方が援護してあちらのサポート役を引き剥がす方向で行くのだが、あちらはそれが出来るだろうか。
「それじゃあ準備はいいかしら」
霧島さんの声が響き、演習開始も間近。私は夕立と軽く拳をぶつけ合い、仲間意識を高めつつもお互いの健闘を祈る。対するあちらは、どういう状況にあっても余所余所しさがすごい。初めて組むとはいえ、これはあまりよろしくない傾向。
なら、戦いの中で目を覚ましてもらうしかない。戦いになれば意識が変わるというのならいいが。
「なら、始めぇ!」
開始の合図と同時に飛び出すのは当然夕立。最初からトップスピードで跳び、狙いである村雨に突撃する。さながら狂犬の如く、それはもう実戦と同じような迫力を以て戦闘に専念する。これは私への信用もあっての行動だろう。私ならこの突撃をサポートしてくれるだろうという信頼。
当然それに応えるため、私も動き出す。夕立よりは遅いが、後ろから追うように突撃。狙いはさっき話した作戦の通り、村雨である。
「わ、私!?」
「ぽいぽいぽーい!」
その勢いに気圧されかけているが、村雨だって今まで必死に努力してきているのだし、夕立の動きは特に見ているはずだ。対応するように主砲を夕立に向ける。
しかし、一筋縄では行かないことも理解しているはずだ。夕立は構えられた瞬間に横へと退避したと思ったら、しっかりと魚雷を放っていた。その一瞬の動きだけでも、照準はしっかりと定められており、回避しなければ村雨に直撃する方向。
「それは流石に避ける!」
「避ける方向にぽーい!」
魚雷は避ければ良いだけなのだが、当然夕立はそれも見越した場所を撃つ。
チームプレイならこれを防ぐために動くのだが、萩風はというと。
「……っ!」
少しぎこちないとはいえ、夕立の動きを止めるために動き出していた。アームに据えられた主砲を拳のように振り回し、かなり強引な砲撃で夕立を狙い撃つ。あんな雑な攻撃でも、萩風としては駆逐水鬼の時代から慣れた戦い方であるため、狙いもタイミングも完璧。
その砲撃は村雨を守るためのものだ。だから、村雨の位置だってある程度は見て撃っている。だが、タイミングが少し遅れたのは否めない。村雨自身は夕立の砲撃を何とかギリギリ回避出来ていたが、萩風の砲撃は夕立を止めるには至らなかった。
「片方が倒せればいいからさ、そりゃ片方を狙うよね」
ここで私も前に出る。夕立の砲撃を回避した村雨の真横へと移動。そこから放てば簡単には避けられない。ただでさえ今、魚雷を避け、直後の砲撃も避けた寸前だ。体勢が整っていないのは明らかである。
これがチームプレイというやつだろう。突撃した夕立が連撃で村雨の体勢を崩し、それを私がさらに狙う。
ここで萩風は、すぐに私を狙うという選択を取るべきだった。まだ私は村雨を撃っていないのだから、撃つ前に牽制されれば照準は乱れる。
しかし、萩風は視野が狭まっていた。事務的にでも村雨を守ろうとした結果、村雨の直下の脅威である夕立にしか目が行っていなかったのだ。つまり、私は完全にフリー。
「えっ、あっ!」
気付いた時にはもう遅い。回避方向と同じ向きで撃っているのだから、簡単には避けられない。
結果として、私の砲撃は綺麗に村雨にヒットし、そのまま轟沈判定。1戦目は呆気なく終了。
「たらればかもしれないけど、萩風は私の方を見ておくべきだったね。余裕が無いのはわかるけど」
「う……面目ないです」
今の落ち度が理解出来たかはさておき、少なくとも村雨とペアであるというだけで余裕が無くなっているのはあまりよろしくない。実力の半分も出せていないように思えた。
それは村雨も同じ。お互いにお互いを意識し過ぎているせいで、どちらもぎこちなかった。これでは2人で1人分にも満たない。
「まぁバンバンやってけばそのうち慣れるっぽい。親分、次やっていいっぽい?」
「ええ、仕切り直しましょう。5分休憩して作戦会議でもなんでもし直してから、2戦目行くわよ」
ここからは何かが見えるまで延々と演習を繰り返す。私と夕立のコンビにも、何か課題が見えてくるかもしれないため、なるべくなら真剣に取り組みたい。
しかし、あちらの2人はそこまで行けるのだろうか。この演習で何か掴めるのだろうか。少し不安になってきた。
まだまだコンビとしてはひよっこどころかスタートラインにも立てていない2人。このままだと戦場では離れて行動してもらわないといけなくなります。