異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

227 / 284
歩み寄り

 村雨と萩風の連携訓練の初戦は、それはもうガタガタだった。最初から完璧な連携が出来るわけが無いのだが、それにしても呆気なく終了。勝手がわからないというのもあるだろうから、ここからは小さな休憩を挟みつつ何度も何度も繰り返していくことになる。

 

「んー、あっち何か相談してるっぽい?」

「見た感じ、まだぎこちないねぇ。話も出来てないように見えるよ」

 

 私、陽炎と夕立は、軽く休憩しつつ村雨と萩風の様子を観察していた。今回はあの2人のための訓練だ。ただ戦えるようにするだけでなく、人間関係も多少なり改善されることを願っての演習。チームプレイを通して何かが変わってくれればいいのだが。

 

「まぁまだ1回目だし、何度かやったら相談くらいはするでしょ。()()()()の2人なら、私達は負けないでしょ」

「ぽい。連携は一緒に過ごしてれば勝手に出来るようになるっぽいからね」

 

 そういう意味では、村雨と萩風は常に離れていたようなものだし絶望的なのだが。

 私の見立てだが、村雨も萩風もどちらかといえば前に行くタイプだ。村雨は夕立の気質を訓練の中で引き継いでしまっているし、萩風は駆逐水鬼の気質を扱ってしまっているから。

 萩風は私に対してならばサポートが出来るのだが、そうでない時はああなる。本格的に戦いに出た『雲』との戦いでも、私のピンチを救ってくれた。だが、それも前に出てのサポートみたいなもの。やはり、相方も前衛寄りの場合は少しキツイか。

 

「夕立としてはさ、あの2人ならどっちが後衛になった方がいいと思う?」

「んー……多分ハギィかなぁ。ゲロ様相手に物凄く視野が広いし、後ろから見る力はあるっぽいよね」

 

 私もその意見には賛成。村雨が夕立タイプなら、萩風が私と同じタイプになるのが良さそう。艤装姉妹という意味でも相性が良さそうだし。いざとなれば手取り足取り教えることだって出来る。

 

「この演習でいっぱい知ってもらうっぽい。夕立達見てれば、それに気付けると思うし」

「だね。どういう連携をしたらいいか、ここでわかってくれるはずだよ。仲違いだけ無ければなんとかなるよね」

「ぽい。夕立とゲロ様くらい仲良くなれればいいのにねー」

 

 不意に抱き着いてきて匂いを嗅いでくる夕立。最近夜は別行動であるため、ここぞとばかりに堪能してきた。こういうところは本当に犬。犬は犬でも狂犬だが。

 村雨や萩風にここまでになれとは言えないが、戦略を相談出来るくらいにはなっていただきたいものだ。それも出来ないとなると、この演習はズルズルと敗北を重ねるだけになりかねない。

 

 

 

 その後も同じように演習を続けた。こちらは狙いを変えてみたり、1対1を2つ作る形にしてみたりと、多様な戦術を見せつけた。臨機応変に立ち回るのではなく、一度決めた戦術はその時点から変えないという方針で。

 対するあちらは、まだまだてんやわんや。萩風を狙ったときは村雨が妨害出来ず、結局2人で撃って萩風が轟沈判定。村雨を狙ったときは初戦と殆ど変わらず。そして、1対1を2つ作る戦いにしたときは、相方と合流しようともしなかったため、そのまま実力差でねじ伏せる。

 

 これでは良くない。連携らしい連携が全く出来ていない。これが確執によって起きている惨事なら、連携以前の問題。慣れていないでは済まない。

 

「ひとまず5戦してみたけど……酷いモノね」

 

 監督してくれていた霧島さんも、これには大きな溜息。小さくても改善の余地があればまだいいのだが、今のところそれが見えない。

 2人はもう私と夕立が放った砲撃によるペイント塗れ、顔面に喰らうようなことは無くとも、身体の至るところに被弾していた。

 

「まず1つ言いたいんだけれど、1戦終わった後に5分の休憩を与えているのは、短いかもしれないけど演習に対する反省と次の戦術を考える時間が必要だと思ったからなの。貴女達、その時間何かしていたかしら」

 

 私と夕立が見ている限り、2人は()()()()()()()。休憩時間を、()()()()()()()()()使()()()()()。あまりにも遠慮しすぎである。

 話すことで相手が傷付くと思うがために、一歩踏み出すことの出来ない萩風。自分がやらされていたことの大きな被害者であるがために、話しかけることがままならない村雨。どちらもジレンマで足踏み状態である。

 

 2人は霧島さんの言葉に対して、何も言い返せないでいた。何もしていないのは明白であり、何を言っても言い訳にしかならないため、何も言えない。それが自分達の落ち度であることもしっかり理解している。

 

「はぁ……貴女達が互いにどう思っているかは半分くらいは理解していたつもりだけど、ここまでとは思っていなかったわ。事務的にでもこの演習を乗り越えるかと思っていたのだけど」

「……面目次第もございません」

 

 ようやく萩風が口を開いたかと思えば謝罪。それは霧島さんに対してであって、村雨に対してではない。こんな状況でも、顔を合わせることは難しいし、話し合うという選択肢が出てこない。

 

「ハッキリ言った方がいいかしら。貴女達、ちゃんと話をしなさい。多少なり作戦とかがあれば、もう少しいい動きが出来るでしょう」

 

 私達が言えないことをどんどん言っていく霧島さん。さすが親分、こういうところの切り込み方が凄まじく、誰も文句が言えないような圧を感じる。

 

「日常生活からそうしろと言っているわけじゃないの。演習とはいえ、これが本番なら貴女達死んでるのよ。しかも、実力及ばずとか敵が強大だったとかではなく、一個人の内面が理由で。申し訳ないけどそれは看過できないわ」

 

 死に繋がる問題なら、さすがに誰もが見過ごせないだろう。ただ、2人の事情を知っているから何も言えないだけで。

 

 私だって夕立だって、出来ることなら仲を取り持ってあげたいと思っている。だが、2人がどう思っているかもわかるから、今の今まで放置し続けていた。

 しかし、赤い海拡張の限界が近い中で、ほぼ確実に一緒に出撃することも確定している状況で、お互いに遠慮しあって成長が止まっているという事態はさすがに看過出来ない。

 共に戦っている内に少しずつ変わっていくかと思ったが、霧島さんがここで言い出したということは、これ以上やっても変わらないと判断したから。たかが5回だけでと言われればそれまでなのだが、このペースでは丸一日やっても変わらない気はする、

 

「このままだと、ずっとうだうだと遠慮し合って、演習はボロボロ、戦場でもグダグダね。切羽詰ったら覚醒するかもしれないけど、確証が無い()()には縋ってられないのよ。起きなかったら死ぬんだから」

 

 霧島さんの説教は白熱していく。本来の休憩時間5分を過ぎても、次の演習に行こうとせずに、お互いの考えがどうなのかを導き出していく。私も夕立もハラハラしっぱなしである。とても休憩にはならない。

 これだけ言われても何も感じていないのなら、もうこの関係は修復不可能だ。それこそ、この状態で連携が上手く行くことは奇跡に等しい。日常で出来ないことを咄嗟に出来るとは到底思えない。

 

「お互いにお互いのことをどう思っているか、私から言った方がいいのかしら。あの子は貴女のことこう思ってるんだって。それとも、自分の口で伝える?」

「ま、待ってください!」

 

 ここで萩風が声を荒げた。その声の大きさに村雨がビクンと震える。

 

「私から……言いますから」

 

 ここでこの演習が始まって初めて、萩風が村雨の方をちゃんと見た。まだ戸惑いはあるだろうが、たった今逃げないと決意したかのように。

 対する村雨はまだ辛そうに目を背ける。やはり、その意思は無くとも()()()()に立たされているというのは、それくらいに精神状態が不安定になるというもの。

 

「私は……遠慮しすぎだったのかもしれません。村雨さんもやらされた人間ですから、その罪の意識も植え付けられたようなものなのは理解しています。私も経験者ですから……」

 

 萩風の独白を静かに聞く村雨。その萩風の経験だって、村雨が植え付けたようなものと感じているのだろう。話せば話すほど抉られている。

 

「私はその辺りは割り切ろうとしています。私から全てを奪ったのは、『雲』であって村雨さんじゃない。太陽の姫が全ての元凶なのであって、巻き込まれた人間には何の罪も無いと。そうしないと……姉さん達も責めないといけなくなるし、何より私も罪の意識に押し潰されてしまいますから」

 

 私には話してくれた本心を、次々と村雨に吐露していく。村雨には話しづらい内容はいくつもあるだろう。それでも、村雨に知ってもらいたい内容もある。それを今この場で、私達の前で、村雨に伝える。

 萩風だって深海棲艦として私達と敵対しており、その時には夕立を筆頭に何人も怪我を負わされている。今でこそ何も無いが、夕立は完敗したことでトラウマすら患ってしまった。

 それを萩風の罪とは、私達も思ってはいない。当の夕立すらも何も気にせずに接しているのだ。

 

「でも、村雨さんは私の姿を見ると、申し訳なさそうにしますよね。私の存在そのものが罪の意識を抉るので。だったら、無理に接しない方がいいと思ったんです。お互いのために」

「わ、私は……」

「事実、私も村雨さんを見るといろいろ思い出してしまうこともあります。村雨さんでは無いと言っているのに、その辺りがまだ割り切れていなかった」

 

 少しだけ涙目の萩風。感情の吐露はそれだけ揺さぶられるということだろう。村雨が死を望んだ時も泣きながら殴りかかっていたし。滅多なことでここまでのことは言わない萩風だから、発言そのものが必死。

 

「私は、私はっ」

 

 ここで村雨も声を荒げた。萩風の発言に思うところがあったのだろう。背けていた目をしっかりと萩風に向ける。

 

「私は……『雲』の記憶が全部残っているし、人間に戻ってすぐの時にもいろいろと迷惑をかけちゃったから……。特に萩風には嫌われることをしちゃったって……ずっと思ってる」

 

 村雨も涙目である。萩風に感化されたか、それとも同じように感情を出そうとして涙が出てきてしまっているか。

 

「私の手には全部の感覚が残ってる。萩風に分霊した時の感覚も……萩風に最愛の者を殺させた時の感情も……全部残ってるの。拭いきれないくらいに。だから……私の罪じゃないと言われても、やっぱり私の罪なの。許されるべきじゃない」

 

 感覚が残った掌を見た後、力なく下ろす。これだけやってきても、やはり村雨には重過ぎる記憶なのだ。先日ようやく安眠出来たかもしれないが、毎日何度も悪夢を見て寝不足になるくらいだし。

 長門さんが飄々としているからあちらにはあまり気が行かないのかもしれないが、萩風はそれを完全に態度で示してしまったため、村雨としては一番の()()()()()()になってしまっているのだろう。萩風にこんな感情を抱かせてしまった罪としてアップデートされたことで、いつまで経っても払拭出来ない。

 

「萩風も、私の姿を見ると……表情が硬くなるから……。私の存在そのものが、嫌な記憶を掘り返しちゃうから。だったら、無理に接しない方がいいと思うの。お互いのために」

 

 結局、お互いに考えてることは同じだったのだ。遠慮しすぎというのが言葉でお互いに知ることが出来た。

 

「……私から言います。私からでないとダメ。村雨さん、お互いに……吹っ切れましょう。水に流しましょう。遠慮はしないようにしましょう」

「……いいの?」

「まともに接することは出来ないかもしれませんが……せめて話くらいはしないとダメです。遠慮し過ぎて先に進めないのは、やっぱりダメです。むしろ積極的に接していくべきかもしれません」

 

 こういうのは被害者側から言うものと、萩風から振った。もうお互いに遠慮はしないでいこうと。そのせいで変ないがみ合いになるかもしれないが、離さずに意思も伝わらずグダグダになるよりはマシだと判断したようだ。

 対する村雨はやはり少し抵抗があるようだった。しかし、最も重たい記憶になった萩風自身がそう言ってくれたのだから、受け入れない方が失礼。

 

「……わかった。萩風がそう言ってくれるのなら、私もそうする」

「ありがとうございます。なら最初に1つ、お願いがあります」

「お願い?」

「人の顔を見て辛そうな顔をしないでください」

 

 いきなりこれである。遠慮は無くなったかもしれないが、1発目がコレというのはどうなのだろう。いつにも増して素っ気ない言い方な気がするし。

 

「……善処するわ」

 

 そうとしか言えないだろう。罪の意識は簡単には払拭出来ないのだから。

 

 

 

 ここから2人の関係が変わればいい。次からの演習は、途端に手強くなるかもしれない。

 




2人はようやく1歩歩み寄れたのではないでしょうか。ここからの進展はどうなるでしょうね。



支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/88859050
MMD静画のアイキャッチ風。おっきー……強く生きて。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。