異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
村雨と萩風がお互いに思いを伝え合ったことで、ようやく少しだけ歩み寄ることが出来た。遠慮のしすぎで演習の相談すら出来なかった2人は、もう遠慮をしないということで収まる。まだまだ前途多難ではあるものの、さっきまでと比べれば相当良くなるはずだ。
むしろ、ここで意思疎通が出来る様になったことで、素晴らしい進化を遂げる可能性だってあるのだ。そうなってくれれば私、陽炎としても喜ばしい。
今回は休憩時間も少しだけ長めに取り、次の演習まではしっかりと相談してもらう。今まで出来ていなかった分、次の一戦にいろいろと見せてもらいたいものである。
「どう来ると思う?」
夕立に聞く。ようやくまともな戦いが出来ると思い、夕立も疼いているように見えた。
「多分だけど、むーさんが前衛。ハギィが後衛。さっきまでさんざん夕立達の戦い方見てるし。夕立がむーさんと組んで親分と戦った時、どっちもやったけど前衛の方がイキイキしてた気がするっぽい」
こと戦闘のことになると夕立は本当に冴え渡る。おそらくこの予想も当たっているだろう。
私の戦闘を見ている萩風は、私の模倣で後衛。夕立の戦闘を見ている村雨は、夕立の模倣で前衛。それは私にも何となくわかる。村雨が夕立の気質を強めに持っているのなら、余計に前衛で来るだろう。
「村雨の戦い方ってさ、やっぱり夕立が軸にある?」
「んー、そうかも。艤装に帆が無いからちょっと違うけど、むーさんの方が堅実って感じっぽい」
「ああ、飛んだり跳ねたりはしないってことね」
「ぽい」
あんなこと夕立以外にやられても困る。
ある程度村雨の戦い方を見ているが、やはり根幹には教えている夕立的な部分が見え隠れしている。攻撃が荒っぽくなることがあったり、野生の勘のような回避を見せたり。
「『雲』のあのわけわかんない回避も出来ないし、夕立みたいに動くことも出来ないけど、むーさんは強いよ。付け焼き刃でもあれだけ出来れば充分っぽい」
「だね。なら、ちゃんと連携してくれれば強敵だ」
実際は萩風も押せ押せの前衛ではある。だが、そこは臨機応変に戦える力もあるだろう。急ピッチで成長した村雨とは違い、一番最初に救出された元深海棲艦なのだから、それだけ長い時間をここで過ごしている。
「こっちの作戦は?」
「ゲロ様に任せるっぽい」
「そこは人任せなの? じゃあ……前衛で来るなら村雨狙いで行こうか。萩風がちゃんと村雨を援護出来るか確認しておきたいし」
私だけかもしれないが、前衛に自由に戦わせて私が援護するという形で動いた方が、連携自体はしやすいということ。
夕立はその場その場で考え方を変えるような動きをするので、事前に細かく打ち合わせをしても無駄になりそうだった。なので、私からの指示は必要最低限。作戦の方針だけ決めて、あとは夕立に任せ切る。それをやりやすくするように、私が後ろから撃つのみ。
ある程度こちらが無茶をしても、夕立なら回避もしてくれるし、前衛側からもフォローしてくれる。そういう意味では一番組みやすい相手かもしれない。
「了解っぽい。じゃあ、むーさん集中狙いで」
「うん、コレで行こう。もしあっちの連携が上手く行って、集中狙いが出来なくなったら、臨機応変に。ある程度は合わせる」
「ぽい。ゲロ様そういうことやってくれるから好きー」
いや、合わせるのは結構必死であることに気付いてもらいたい。私自身の特訓にもなるからいいが、自由にやれと言ったら本当に自由にやられるから、組んでるこちらは倍は疲れる。
とはいえ、勝ちに執着するその精神は見習うべきところだとも思う。一回立ち位置を交代してもらいたいものだが。
「っし、じゃあ、行こうか」
「ぽい!」
休憩時間もそろそろ終わり。あちらもしっかり相談が出来ただろう。遠目に見ていても、さっきまでとは雲泥の差。面と向かって、目も合わせて、ここからどうするかを話し合っていた。なんだかちょっと言い合いになったようにも見えたが、そこは考えないでおこう。
少しだけ楽しみになってきた。そういうところは夕立に引っ張られているのかもしれない。
「ちゃんと作戦会議は出来たようで何よりね」
あちら側が作戦会議をしていたところを見て、満足げな霧島さん。萩風も村雨も、先程よりは表情が締まったように思える。やはり、お互いに遠慮しすぎていたせいで、戦いにも身が入っていなかったようだ。
ここからが本番だ。いくら私達よりも後輩だからといって、当然嘗めてかかるようなことは絶対にしない。さっきまではグダグダだったため、脱力回避すら使わずに5連勝してしまったのだが、今はもう侮れない存在になっていると考えるべきだ。
「それじゃあ、準備はいいかしら?」
こちらはルーティンの如く、お互いに拳をぶつけ合う。戦う前の儀式的なもの。これで気合を入れる。
対するあちらも、ぎこちなさはあるが同じように拳をぶつけ合っていた。触れることどころか目を合わせることすらままならなかった2人が、模倣とはいえ大きな進歩。
「良さそうね。今度こそ健闘を祈るわ。始めぇ!」
合図と同時に飛び出したのは夕立と村雨。夕立の予想通り、あちらの前衛は村雨である。
その速度は夕立に引けを取らず、また勢いも凄まじい。こちらもさっきとは全く違った。少しだけ自信を取り戻したというか、前向きになったというか。
「ぽい! むーさん、勝負!」
「こうなるだろうと思ってたわ。でも、今回は
夕立と村雨が主砲を向けあった瞬間、萩風も夕立を狙っていた。あちらの作戦もこちらと同じ、前衛への集中狙い。突っ込んでくるだろうと予想して、2人で一気に片付けようという作戦だろう。前とは違って、私が村雨を狙う前に狙ってきた。
まずはそれでいいと思う。全く相談出来ず、まともに仲間を守ることも出来なかった初戦とは打って変わって、私達が動く前に自分達がやりたいことをやろうと2人とも表情は必死。
「やらせないよ萩風」
夕立は村雨に付くだろうから、私は萩風へ。集中狙いをしようにも、2人から狙われた状態だと夕立も多少しんどくなるだろうし、連携訓練なのだから夕立を守るような動きを見せた方がいい。
「姉さんのやり方は一番見てるんです! なら、私だって!」
確かに萩風が一番見ているのは私だろう。癖とかも見抜かれているだろうから、『屈折』を使わなければちゃんと回避する。そして目的は夕立への集中狙いなのだから、私の攻撃は最低限回避して、あくまでも目的を達成するために村雨と一緒に立ち向かう。
それが連携と言えるかはまだわからないが、少なくとも初戦のように視野が狭くなっているなんてことはない。私からの攻撃はちゃんと見えているし、それで目的を見失うこともない。何より表情がそこまで暗くなかった。
「ぽいぽい! 1対2っぽいね!」
「それでも夕立はやれるかわからないけどさ!」
少なくとも夕立と村雨は互角ではない。圧倒的とは言わないが、夕立の方が有利だ。それは当然場数もだし、いくら村雨もセンスの塊だったとしても、夕立には敵わない。
村雨からの攻撃も、私の攻撃を回避した萩風の攻撃も、全部引っくるめて綺麗に回避しながら、こちらの作戦通りに村雨を狙い続ける。とはいえ、このまま戦い続けるのは大変だろうし、やはりしっかり援護してあげないと。
「夕立、援護するよ」
「ぽい!」
集中狙いという作戦上、今は私の方に構っていられないようで、萩風は私からの攻撃は回避一辺倒。あくまでも攻撃の対象は夕立。それも、村雨のことをちゃんと気にしながらの猛攻である。
ならば、私が萩風を止める必要があるだろう。私も村雨を狙うというのも全然アリだと思うのだが、夕立も萩風を狙わないため、動きとしてはこちらもあちらもまるっきり一緒。
結果的に、集中狙いの状態から1対1を2つ作る状況に持っていった方が手っ取り早い。
「はい!」
ここで機転を利かせて村雨から魚雷が放たれた。初戦の敗北もちゃんと取り入れて、こちらがやったことを先にやっていこうとしているようだ。最初は模倣でもいいから、自分の戦術をそこから見出していく方がいいだろう。
「当たんないっぽーい!」
そこにあろうことか魚雷をぶつけるのが夕立である。魚雷に魚雷がぶつかったことにより、大きな水柱が上がる。
この瞬間、全員の姿が水柱で見えなくなった。一番間近にいた夕立と村雨はモロに水を被ることにもなる。私からの見えるのは、びしょ濡れになりつつある夕立と、全てを隠す水柱だけ。
「あっ、これは」
そこでいろいろと勘付いた。真正面から突っ込んできて、わざわざこの至近距離で魚雷を撃つだなんて、いくら戦闘のセンスがあっても、ここ最近艦娘としての経験を積み始めた村雨が選択するとは思えなかったからだ。夕立の気質を持っていると言っても、堅実というのなら尚更選択しない。
ならば、何故ここでそんなことをしたか。
「夕立、バック!」
「ぽい!」
すぐに指示を出す。水柱が上がる程の爆発なら、爆風もそれなりにあるだろう。ここで帆を使った超バックステップをしてもらう。
あちらの狙いはこの水柱を作ることだ。この後に何かするために、自分達の姿を一旦私達から見えないようにしたかったと推測する。
「っああっ!」
そして案の定、それが起こる。その水柱を突き破るように、
この戦い方、まさしく駆逐水鬼だった。自分で巻き起こした水柱で目眩しをして、それを突き破って突撃し、敵の懐に潜り込む。あの時は艤装そのもので殴り付けられることが出来たが、今ではそれは出来ない。とはいえ、殴り抜けるように砲撃を放てば、
むしろ、それよりも驚くべきことは、今このタイミングで前衛後衛をスイッチしたこと。
どちらも前衛寄りの戦術を扱うが、村雨の方が前のめりだったから、萩風がサポートに入っていると思っていた。だが、実際はどちらも前衛であるという動きに発展している。
「ぽっ、ハギィそれは夕立知ってるからね?」
しかし、萩風の渾身の攻撃は夕立には当たらず。駆逐水鬼と激戦を繰り広げた夕立だからこそ、この瞬間にもどうすればいいかを判断出来たようだ。それと、すぐにバックステップを指示したのが正解だった。指示が遅れていたら、回避がかなり難しかったかもしれない。
ここであちらの作戦が上手く行っていたら、夕立がやられて私達の負けとなっていたかもしれない。だが、そう簡単には行かせない。
「なら私がもう1人に行こうかな!」
萩風が前衛に来たということは、村雨が一時的に下がったということ。まだ水柱は消え切ってはいないが、さっきいた位置からそう大差無いだろう。
「『屈折』」
その水柱を避け、真後ろに当たるように砲撃を曲げた。曲げられる角度には限界があるものの、今くらいの距離なら、こちらの攻撃を水柱に隠した状態で村雨にだけ砲撃を当てることも出来るはずだ。
「あうっ!?」
「そこまで! 村雨が轟沈判定よ」
姿は見えなかったが、見事に命中した
やはり相談が出来るというのは大きかった。見違える程に動きが良くなったのは見てわかった。
この作戦、スイッチ戦術は萩風発案と見て間違いない。水柱を作るためにどうするかは、魚雷に魚雷をぶつけてくるだろうという予想は村雨が出来るだろうから、それを活かして組み上がった即席の戦術。
「村雨さん、あれは避けてくださいよ」
「いやいやいやいや、見えないところから砲撃が曲がってきたら、流石に避けられないでしょ!」
「『雲』の時に姉さんから似たような攻撃受けているでしょう。予測くらい出来ませんか」
「勝手が違うっての! あとフィジカルがさぁ!」
そしてこの言い争いである。本心をぶつけ合うというのはこういうことにも繋がるのかもしれないが、まぁこの程度なら戯れくらいに思えるから止めない。
というか、こんな言い争いでも2人はさっきと比べると格段に表情が良かった。溜め込んでいたものを吐き出してスッキリしているように、イキイキとしている。
ここから2人は大躍進を始めるだろう。まずは午前中、しっかりと絆を紡いで行ってもらおうと思う。
ようやく連携らしい連携が出来るようになってきました。萩風が唯一ズカズカと物言いをする相手というのもミソ。