異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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みんなの進歩

 ついに村雨と萩風が連携らしい連携が出来るようになり、午前中の連携訓練は白熱していく。霧島さんからの説教はかなり効いたようで、やればやるほど意見を交換しながら成長していった。

 その中で、どちらも前衛であることを活かしたスイッチ戦術という形は、2人の戦術として定着しつつあった。時には村雨が前衛、時には萩風が前衛、さらにはどちらも突っ込んできて好き勝手暴れるなんて荒技まで試していた。

 いろいろ試すことが出来るようになれたのもいい傾向。お互いを認め合い、遠慮無しに話し合い、そして高め合う。あれだけ遠慮し合っていた仲だったが、今や一番不躾に意見を言い合う仲にまで変化していた。

 

「萩風もう少し前に出れなかった?」

「いや、あれは村雨さんでしょう。あのタイミングは夕立さんの一番得意なタイミングです。あそこで前に出るのは自殺行為ですよ」

「だから私が少し下がって、角度的にいい感じの萩風が前に出るべきでしょ。スイッチはあのタイミングがベストだった」

 

 毎回休憩時間の作戦会議もヒートアップしている。人によってはむしろ仲違いしているようにも見えるかもしれないが、私、陽炎には微笑ましいものにすら見えている。

 夕立も同じ気持ちのようで、あの口論のような意見のぶつけ合いを見ながらニコニコであった。

 

「うんうん、2人ともいい感じっぽい。親分が叱ってくれたおかげっぽいね」

「だね。ああいうのは霧島さんにしか出来ないよ」

「あとはもうちょい強くなってくれるといいっぽい」

 

 なんて話す私達は、今のところ負け無しである。あちらも戦法を試すところのため、思い切り失敗することもあるし、大成功で苦戦を強いられることもある。故に、私達も掠るなりしてペイントが至るところに付着していたりする。轟沈判定まで持っていかれていないだけ。

 試行錯誤をしている2人は、私達から見てもとてもイキイキしていたと思う。この訓練で大きく成長したとも言えるだろう。

 

「きっかけさえあればあんなものなのよ」

「霧島さん」

 

 あの意見のぶつけ合いを見ながら、こうなってくれて良かったと安心しているような表情の霧島さん。あの説教だって、真に2人を思っての発言だ。本当にアレを戦場に持ち込んでいたら、命がいくつあっても足りない。それに、そこに巻き込まれたら私達だって危険である。

 鎮守府の今後のことを考えて、霧島さんはあえて悪役を買って出てくれたようなものだ。これで恨まれてもいいやと考えるくらいに。決して悪では無いド正論をぶつけていたのだが、あの説教がトラウマになってしまう可能性だってあった。

 

「あの2人、もっと伸びるわよ。貴女達もうかうかしていられないかもしれないわね」

「ぽい! ならもっと強くなんなくちゃ!」

 

 実際、あの2人の連携は回を重ねるごとにキレが良くなっていく。アレを続けていけば、きっと最高のコンビになるだろう。今回のみの連携ではなく、今後も続けていけるといい。

 

「やっぱり、貴女達をぶつけたのは正解だったわ。きっとあの子達も学んでくれると思ったもの」

「艤装姉妹だから真似しやすいみたいな?」

「そうね。気心がしれた相手だし、その戦術を大概知ってるから、裏をかこうと動けるじゃない」

 

 手段が筒抜けなのは仕方ない。ここの艦娘なのだから、やれることを全員知っておけば戦いやすくもなる。あちらは連携素人なのだから、せめて攻略法をある程度他より知っている相手がいいだろうと考えた結果だったようだ。

 あとはもう1つ、あの子達が目指す形として私達を据えたとのこと。奔放に暴れ回る夕立と、それに引き摺り回される私。参考にして大丈夫だろうか。

 

「さ、休憩もおしまい。また続けていくわ。そろそろ時間も終わりに近いけど、最後まで頑張ってちょうだい」

「ぽい! ゲロ様と全勝目指すっぽい!」

「だね。まだまだ負けないようにしたいところだね」

 

 結果として、午前中は全勝することが出来た。試行錯誤の時間なので、勝ちよりも経験を取ったと思われる。

 それでも、萩風とここまでやれたのなら、他の者達との連携も上手く行くはずだ。ぎこちなさは取り払われ、村雨は真に鎮守府の一員となれたように思えた。主に気持ちの面で。

 

 

 

 午前の部が終了し、お風呂で汗を流し、そのまま昼食の場へ。そこでどうしても目に付く者がいた。グッタリしている菊月である。今日の訓練が相当疲れたらしく、相方だったであろう阿賀野さんがいいこいいこと撫でてあげていた。

 

「お菊ちゃん、どうしたっぽい?」

「……衣笠さんの訓練に付き合ったんだが……あれは恐ろしいな」

「いやぁ、あれはすっごいねぇ。阿賀野の砲撃も全部避けられちゃった」

 

 衣笠さんの訓練ということは、あの無意識に仲間を守る、守護者の力の訓練か。私がそれに参加したときは、まだ衣笠さんがそれを理解していない頃。急に発揮されたことでモロに蹴りを喰らうという大惨事が起きた。

 そこから力を自覚し、制御出来るように努力をしているわけだが、あの『心眼』を持つ菊月すらもここまでにさせる程のようだ。阿賀野さんの無反動砲撃も全て回避しているということは、無意識故に判断力もやたら早いのだと思う。

 

「あの守る力……『全自動防衛(フルオート・ディフェンス)』とでも名付けようか、あれはこの菊月を以てしても捉えることが出来なんだ。陽炎の無意識とは別物だぞ」

 

 菊月の厨二病ネーミングセンスはさておき、私の脱力回避とはまるで違うと菊月も感じ取ったようである。

 

 私はあくまでも脱力するという1段階目があって、そこから無意識下での回避の移動を行なう。移動の方はある程度自分の意思はあるのだが、照準を合わせた場所に移動するだけなので、その1段階目を見抜くことが出来れば食い止められる。

 だが、衣笠さんはそういった段階が無く、いきなり守護者としての行動が始まるという。()()()と称するのはそこ。私も喰らっているが、こちらが行動を起こす時には、既に狙われたものを守るような動きをしていた。

 

「その弱点探しも兼ねて、菊月も演習に駆り出されたんだ」

「相変わらずだね。頼られてる」

「誇らしいことだが、疲れはどうにもならん」

「菊月ちゃんはよく頑張ってるね〜。はい、いいこいいこ」

 

 普通についていけているだけでも菊月は相当なのだが。阿賀野さんに癒されているようだが、それで疲れが取れれば苦労しない。心は癒されるだろうが。

 

「いやぁ、ごめんね菊月」

 

 司令への報告を終えたようで、衣笠さんも食堂にやってきた。守るべき者として設定される者はその時その時で替えているようだが、今回はより現場に近くなるように磯波が据えられていたらしい。その磯波も大分お疲れのようだが。

 磯波である理由は、サポーターとしての能力も使うため。守られる側の観察で、衣笠さんの能力を少しでも見極めていこうということだろう。菊月と磯波で確認するくらいなのだから、衣笠さんの力は今まででも特に重要視されているのではなかろうか。

 

「おかげさまで、かなり制御出来るようになってきたよ。みんなが手伝ってくれてるからだね」

「そいつは良かった。みんなが強くなってくれるのは、菊月としても嬉しいことだ」

 

 M型異端児の中でも特に守備寄りとなる衣笠さんの強化は、より最終決戦で有利に戦うために必要なこと。使える手段は全て使い、あらゆる面で強化されてもらう。

 

「陽炎様、そっちはどうだったの……?」

 

 磯波に聞かれ、夕立と一緒に親指を立てる。そして、そのまま村雨と萩風のいる方を指差した。私達よりも疲労が蓄積していたことでお風呂に長く浸かっていたため、今ようやく食堂にやってきたのだが、演習の時から何も変わらずにまだ意見交換を続けていた。

 こちらに向かってくる間もその声が聞こえてくるのだが、相変わらずお互いに不躾。口論じみた会話なので、知らない者が見たらハラハラしそう。

 

「村雨さんはもう少し慎重に行った方がいいです。敵の動きをちゃんと見て」

「それは萩風に言われる筋合い無くない? 艤装のアーム振り被って殴りかかるのは慎重とか言えないと思うんだけど」

「あれは癖なだけです。振った方が狙いが定めやすいんですから仕方ないでしょう」

「私だってあれが一番戦いやすいんだからしょうがないでしょ。訓練でもああやってきて早く終われたんだから」

 

 ずっと遠慮してきた分、話し出したら言いたいことが尽きないようである。今まで溜め込んできたものを、全部晴らすかのように本心のぶつけ合い。

 萩風があんなに感情的にというか相手のことを考えずに言葉を紡ぐところは初めて見るかもしれない。それが少し楽しそうにも見える。

 

「遠慮することをやめてもらったよ。そしたらアレね」

「極端すぎない? 会話を殆どしないって状態から、殆ど口喧嘩だよねアレ」

 

 その光景に、みんな目を丸くしていた。磯波に至っては困惑して私の方を見てくる。

 

「何も話さないよりはマシじゃない? ああいう感じかもしれないけど、2人は結構仲いいよ。演習での連携もかなり良くなってきたし」

「夕立達も苦戦させられた時あったっぽい。噛み合ったらすっごい力出してくるよ。今はあんまり噛み合わないけど」

 

 確かに、噛み合った瞬間の爆発力は目を見張るものがあった。私も脱力回避で避けないと危なかった場面はあったし、夕立も演習を重ねるごとに帆を使う回数が増えていった気がする。

 

「はいはい、食堂でそういうことしちゃあダメだよ〜。心がお疲れみたいだから、甘いものをいっぱい食べて癒されようねー」

 

 その2人の口論を見兼ねたか、菊月を癒していた阿賀野さんが2人を抱きしめるように首から腕を回し、そのまま着席させる。さすがにそうされたら2人も黙るしかなかった。

 食堂での口論はよろしくない。やるならもう少し声を落として、ヒートアップしないようにやってもらいたいものである。

 

「……仲、いいのかな」

「いい方でしょ。触れ合わないよりアレくらいの方が関係としては深いし」

「喧嘩したらアレっぽい。滅茶苦茶言い合って、最後は幸せなキスをして終了ってヤツっぽい」

 

 何処の芸人だそれは。

 

「あ、みんな揃ってる」

 

 そこに最後の異端児駆逐艦、沖波が食堂へ。今日は哨戒部隊に参加していたため、異端児駆逐艦の中では唯一鎮守府にいなかった。

 

「2人の演習、どうだったの?」

「上々。今はアレだけど、また見ることになると思うから期待してて」

「そっか、上々なら良かった」

 

 そんなことを話しながらも、沖波の表情は少しだけ暗い。哨戒任務で何かあったのか。

 

「沖波、何かあった?」

「……そのうち司令官から発表されると思うけど、先に言っておくね。あの赤い海が拡がってるの、()()()()()()()()()()()

 

 つまり、タイムリミットが今までの計算よりも早まってしまっているということなのだろう。後どれくらいで陸にまで辿り着いてしまうかの再計算は今アクィラさんと青葉さんでやっているらしいが、少なくとも残り時間は考えていたよりも少ないようである。

 目下の目標である村雨の改二改装が間に合うか否か。そこが問題だ。予定では明日くらいに練度が到達し、明後日に改装となると思われていたが。

 

「今のところの計算上で、リミットってあとどれくらいだっけ」

「1週間無いくらいかな。5日くらいだったはず」

 

 なら、2日くらいは前倒しと考えてもいいだろう。そうなると結構ギリギリ。

 

「午後の部でもう少し細かく見てくるつもり。もしかしたら拡がり方とかも変わってるかもしれないしね」

「だね。でも、ここに来て加速するってどういうことなんだろう。拡げるのに熟れてきたとか?」

「意外とそういうのかもしれないけど……真相は闇の中かな」

 

 あちらの考えていることなんて私達がわかるはずもない。今になって焦ったとかは無いだろうし、何か考えがあるのだろうか。意外と本当に熟れてきたみたいなのはあるかもしれないが。

 

 

 

 とにかく、リミットが早まったというのは重要である。そこでこちらが焦ったら意味が無いので、出来る限り早くとも考えず、確実にやれることをやっていきたいところである。

 




準備は刻一刻と進んでいるけど、あちらもここに来て加速。どちらが先に目的を達成出来るかが勝負所。
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