異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
夕立と実戦訓練をすると話した少し後。私、陽炎がこの鎮守府に配属されておおよそ3週間近くが経とうとしていたその日。これまで充分な経験を得たとして、実戦訓練に再度挑むことになった。
以前の実戦訓練は、阿賀野さんが見ている中で2対2という形式で執り行われたが、おそらく今回も同じ。さすがに1対1で夕立の相手をするのはまだ自信が無い。成長しているにしても、まだようやくコツを掴んだという程度。同じ場所に立てているわけでも無い。
そりゃ勝ちたいが、胸を借りるくらいの気持ちで相手をしてもらおう。緊張していたら全力も出せないし。何であろうと全力で。
「今回も砲撃だけでやってね〜。いろいろあったらわちゃわちゃするよね?」
「うん、今は1つのことしか考えられないかなぁ」
ルールは前回と同じ、主砲のみでの訓練。高角砲や爆雷が要らないのは当然として、魚雷も無しにすることで考えることをなるべく少なめにしてもらえる。それでも私は主砲が2種類あるので、普通よりは少し考えることが多いのだが。
「で、今回も2対2にするね〜。さすがにまだ陽炎ちゃん1人でやってもらうのは怖いだろうし」
「まぁね。そうしてもらえると助かる。それと、それはまた司令が?」
「そうそう。提督さん、意外と陽炎ちゃんのこと見てくれてるんだよ〜」
執務室に篭っているだけでは無いことくらいは知っていたが、私の訓練の様子も見ていてくれたらしい。必死だったからか全然気付かなかった。おそらく初のマイナス同期値だから気にかけてくれているのだろうとは思うが、空城司令の目には、私はどう映っていただろう。
今回の実戦訓練の件も、夕立が空城司令に直談判して、頃合いが来たらやらせるという流れだったらしい。そして、その頃合いというのが今。
「相手は熱いリクエストがあったから夕立ちゃんね。で、相方なんだけど、条件は前と同じがいいかなって」
「そうだね。ということは、五月雨かな」
「そうなるよ〜。で、あっちには菊月ちゃんで〜す」
初めての実戦訓練と同じメンバー、同じ相方。状況は全て同じのリベンジマッチだ。
あの時は五月雨に全て任せ切った戦いになってしまった。夕立にもさんざん避けるのが簡単と言われている。菊月には穴と考えられて夕立との集中砲火を受けた。
次は同じようにはいかない。今まで歩いてきた道の、今の集大成を見せる時。もしかしたらこれも空城司令が何処かで見ているかもしれない。そうならば、しっかり見てもらおう。私はここまで成長したんだと。
前と同じように準備する。今回も備え付けと手持ちの2つ。こちらもまた訓練をし、ブレ弾はそのままに照準だけはしっかりと定められるようにはした。百発百中の精度の備え付けと、当たらない代わりにランダムにブレる手持ちの二段構えで、私の戦術を確立させる。
「ふふん、今回もしっかり勝つっぽい!」
「ああ、この菊月が今回も援護をしよう」
あちらのコンビはもうやる気満々。
「よろしく、五月雨」
「うん、今回もサポートするね」
前回と同じように菊月を抑え込んでもらう間に夕立と一騎打ちをし、隙を突いて倒してもらうというのがベストな戦い方なのだと思う。だが、それでは何も変わらない。
今回は私の力も含めて均衡に持っていく。1対1を2つやるのではなく、2対2なのだ。私を五月雨がサポートしてくれるように、五月雨を私がサポートする。
「ゲロちゃんにはまだまだ負けないよ。サミーには前に不覚を取ったけど、もう負けないから!」
「お手柔らかに。私はまだまだ中級者になり切れてないんだからさ」
「勿論それは聞けないっぽい! 前よりも楽しみなんだからね」
ニコニコ笑顔の夕立。そんな笑顔のままこちらに向かってくるのだから堪ったものではない。生粋の戦闘狂。仲間なら頼もしく、敵なら脅威にしか思えない。
準備が整ったところで所定の位置へ。五月雨と並んで、一息深呼吸。実戦訓練はあのボコボコにされた時以来なので少し緊張気味だが、出来る出来ると自分に言い聞かせて落ち着かせる。霧島さん直伝のこの方法は何かと役に立つ。
訓練はさんざんやってきたのだ。あらゆる訓練がこの砲撃にも影響を与えるはず。照準の合わせ方、反動の抑え方、位置取りの仕方まで、経験が全て集約される。
『準備はいいかな〜?』
インカムから阿賀野さんの声。おそらく私が一番落ち着いていないのだろうが、気分として大丈夫。むしろ早く始まってほしいと思えるほどだ。震えも緊張ではなく武者震いの類に変化している。
戦うのが楽しいとかそういうわけではないが、自分の今の実力が何処まで届くのかは知りたい。それが楽しみではある。
『それじゃあ、始め〜』
阿賀野さんの合図により、実戦訓練開始。前回はすぐさま夕立が突っ込んできて、それを菊月が援護するという戦術だった。夕立の性格からして、今回もそれを選択してくる気がする。
そしてそれは案の定だった。余計な小細工はせず、真正面からぶつかってくる。そうやって私を
ならば迎撃するしかあるまい。避けるのが簡単と言われた私の砲撃の成長を、骨の髄まで味わってもらわなくては。
「五月雨、私が夕立を迎え撃つ」
『ん、わかった。じゃあ菊月ちゃんを抑えるね』
「任せた」
今の状態では前と同じで、私に対して夕立と菊月が集中砲火。一度見ているのだから、それは私にだって回避出来る。
そこへ五月雨の横槍。菊月を夕立から離すように砲撃を入れる。私もあちら側の砲撃を避けながら手持ちの主砲で砲撃。ブレ弾を夕立と菊月の間に入れるように撃ってみたが、以前よりも格段に精度が上がってくれた。
「ゲロちゃん、夕立と一騎討ちっぽい?」
「そうなるんじゃないのコレだとさぁ!」
結果的に前回と同じ。菊月を五月雨に任せて、ジグザグに動きながら夕立と相対する。
「まだ前と同じっぽいよ。それじゃあまだまだ」
「度肝抜かせることは出来ないと思うけど、多少は戦えるようになってるからさっ」
備え付けの主砲による砲撃。今回は予測せずに今いる位置へ放つことで、夕立を
「何も変わってないよ。避けやすいお手本みたいな砲撃っぽい!」
当然軽々と避けるだろう。避けた方は私から見て右。利き手側。
「そりゃどうも! 基本やれなきゃ応用出来ないでしょ!」
その方向から次を予測して手持ちで砲撃。進行方向よりさらに前を狙った。そのまま回避し続ければ直撃コース。さらにはブレ弾なので、より回避しづらい位置のはずだ。
「おっと!」
それを夕立、私が撃った瞬間に急加速することでさらに前方に回避。ブレ弾の挙動を確認するわけでもなく、ただ当たらない場所へと直感的に移動した。
正直驚いてしまったが、それで止まっていてはダメだ。すぐにそれに対応しなくては。と考えた瞬間に、備え付けの主砲が夕立を追うように砲身を回す。常にロックオンしているような挙動は、私のイメージを絶えず再現してくれている証。
「まだまだ!」
さらにその先へ砲撃を繰り返す。訓練ではあまりやっていない連射のため、身体への反動は激しいものになるが、照準だけはしっかり定められていた。さすが私の艤装。無茶なイメージにも追いついてきてくれる。
しかし、夕立は一筋縄ではいかない。私自身が経験不足というのもあるが、夕立は経験不足を才能で補ってしまっているため、その連射も軽々と回避していった。
「大分いい位置っぽい! でも、まだまだっぽーい!」
回避しながらでもしっかり狙いを定めて反撃してくる。同じ条件なのだからあちらだって攻撃してくる。それを回避しながらの攻撃に。紙一重で避ける羽目になるのだが、幸いなことにまだ直撃は無い。
当たり前だが照準がブレる。備え付けの主砲だとしても、本当に狙いたい位置とは違う場所に弾が飛んでいく。反動の軽減も普段通りとはいかない。
そして忘れてはいけないこと。それは、この訓練がチーム戦であるということ。
『陽炎ちゃん、狙われてる!』
夕立の砲撃を回避している最中に、不意に通信による五月雨の声が響く。私の視界の外からの砲撃を事前に知らせてくれた。五月雨は五月雨で菊月を食い止めてくれているが、それでも菊月はこちらへと砲撃を放つらしい。
私は人間なのだから、視野は正面にしかない。そしてそれは、ほぼ夕立で埋まっている。菊月がいる方なんて向くことは出来ないし、それをした瞬間に夕立から猛攻を受けるだろう。
あくまでも夕立を視野に入れながら、菊月の砲撃を回避したい。ジグザグに動いてもそれには限度があるだろう。ならば、やることは1つ。
「五月雨、当たったらゴメン!」
『大丈夫!』
今までとは逆に手持ちの主砲で夕立を狙いつつ、備え付けの主砲を菊月がいるであろう方向に向けて放った。狙いも定めておらず、牽制になるかもわからない砲撃でひとまず対応。
おかげで私の視野の外から飛んでくる砲撃は、私の目の前を通り抜けるに至った。牽制は運良く上手く行ったようだ。だが油断ならない。五月雨に頼りきってはダメだ。
「今度はブレ弾っぽい? 当たんないよ」
「そりゃそうだろうけど、こっちはこれしか無いんだっての!」
どうせブレるのなら、もっとブレてしまえと言わんばかりに、反動軽減を放棄しての連射。照準を合わせていてもこれだけブレれば夕立にも予測は出来ないはずだ。
「もーう! 何処に飛ばしてるの!」
流石にこれだけやれば前進することでの回避はしてこないだろう。大きく移動することによる回避で、そもそも私の視界から外れるはずだ。私ならそうする。
これも訓練中に聞いたことだ。自分ならどうするかというのも考えて、相手の次の行動を予測する。むしろ予測なんて自分の経験からしか出来ない。
この隙に菊月の位置を確認。夕立から視界をわざと外し、菊月を視認する。真横からこちらを狙いつつも五月雨の砲撃を回避している。今の1発は五月雨の隙をついての1発だったようだ。ならまた少しの間はこちらに来ないはず。
「なら、また専念する!」
すぐに夕立に視界を戻す。この瞬間だけでかなり近付かれていたことには驚いたが、まだ大丈夫だ。菊月は五月雨が抑えていてくれる。次狙われるタイミングは先のはずだ。
ならば全力で。ブレ弾と同時に備え付けの主砲も撃ち放った。これは前回の実戦訓練でもやった同時砲撃だ。だが、その時よりも精度は上がっており、回避出来る場所を極端に減らせた。
「うわお!? 前とは違うね、ちょっとビビったっぽい」
砲撃の隙間でまさかの急停止。移動方向を予測した備え付けの主砲による砲撃は夕立の前方を、ブレ弾は夕立の後方を擦り抜けるように飛んでいった。
「マジかーい!?」
「ゲロちゃん、強くなってるっぽい。よくわかったよ。でも、夕立は先輩だからね。まだまだ負けないっぽい」
そしてその隙間を潜り抜けるように私に突撃してくる。恐怖を感じていないと言っていたが、まさにそれを表すかのような猛攻。即座に備え付けの主砲で照準を合わせるが、その時には夕立の主砲も私に照準を合わせていた。
避けなくては。と考えた瞬間には引き金を引かれていた。近付かれているせいで先程よりも着弾までの時間が短い。距離を保っていればまだ回避出来ただろうが、これはダメだ。
ならば、一矢報いる。私の持つ2つの主砲を、撃った隙を突くように放った。
「ぽい!?」
備え付けの主砲の弾は回避されたが、ブレ弾が夕立の予想していない方向にブレたか、主砲を持つ腕に直撃。だが同時に、私の胸に夕立の砲撃が直撃。これにより私は轟沈判定となってしまい、訓練から離脱することになる。
残してしまった五月雨は、菊月といい勝負をしていたが優位に立っていた。そこに夕立が入ってしまったことで押し潰されてしまい、チームとしては私達の敗北となる。初めての実戦訓練とは逆になってしまった。
「ゲロちゃん凄い凄い! すごく成長してるっぽーい!」
訓練終了と同時に、夕立が小動物のように抱きついてきた。私の胴体はペイントをモロに受けているため、夕立にもそれがついてしまうが気にもしていない。戦闘中とは性格が変わったのでは無いかというくらいのテンションである。
「でもまだまだっぽい。夕立の方が強いっぽい!」
「次は勝つよ。いろいろわかったからさ」
今回の実戦訓練でいろいろと掴めるものはあったと思う。まだ視野が狭いと実感出来たし、動きの予測がもう少し精度が欲しい。これは訓練あるのみだ。
強くなるための道が見えたのだから、今はひたすらその道を歩いて行こう。それを示してくれたみんなに感謝である。
「まだやろ! 時間あるでしょ?」
「じゃあ次はまたチームを変えて。阿賀野さん、いいですかー?」
「ん〜、おっけー☆」
この後は時間が続く限り実戦訓練を続けた。少なくとも前回よりはいい結果を残せたと思う。身体中ペイント塗れになったのは言うまでも無いが。
夕立の壁はまだ高く。ですが、手は届きそうなところへ。あと夕立も完全に懐きましたねコレ。