異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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加速する侵食

 赤い海が陸に辿り着いてしまうまでの明確なリミットが、今日を含めずに残り3日に更新された。4日経過で陸地に到着してしまい、そこからはどうなってしまうのかわからなくなる。準備期間は残り2日。3日目には最終決戦だ。残りの時間をしっかり使って、心身共に成長した状態で臨みたい、

 私、陽炎は村雨の最後の詰めに参加している。午前中は夕立と組んで、村雨と萩風のコンビを鍛え上げた。お互いに遠慮し合っていた仲であった2人も、この訓練を通して大分仲良くなった。口調は少し荒っぽいが、いがみ合っているわけでもないので微笑ましいものである。

 

 哨戒部隊を見送った後、今度はペアを替えての演習。私は村雨と、萩風は夕立と。この場合は、私が脱力回避であらゆる攻撃を回避してしまうということで、基本的には村雨が集中砲火を受けることになるため、私はそれを守るために動き回る。

 

「これはこれで仲間を守る訓練になっていいかも!」

 

 自分だけならいくらでも守れるのだが、仲間となると勝手が違う。脱力回避も『蜃気楼』も、あくまでも私自身の命を保証する技なわけで、言ってしまえば個人技である。

 そういう意味では、仲間を守る力を持っているのは衣笠さんだけだ。あの人の全自動な防衛能力は、自分の身以外を守り続けるという私達とは全く逆の力と言える。

 

 だからこそ、この訓練はなかなかいい。1人でも多くが、守る力を得るべきだろう。相手はどこまでも強大。個人技も連携も全てを極めるくらいでなければ。

 

「あ、ごめん、守り切れない」

「ちょっと!?」

 

 しかし、限界もある。そこは村雨自身の回避能力をどうにかしてもらいたい。結果的に、集中砲火を私が上手いこと食い止めたのだが、その隙を突いて萩風が村雨の胸を撃ち抜いていた。

 

 私は夕立に引っ掻き回され、脱力回避にすらも視線を合わされていたために守り切れず、最後は萩風をフリーにしてしまう大失態。村雨も突っ込もうとすると夕立に足止めを喰らい、それを私が援護で引き剥がそうとするとすかさず萩風に対応された。

 まさに連携の応酬。2対2だからこそ起こり得る全ての攻防が行われた。攻撃する、防がれる、それをやらせないために攻撃する、防がれるを何度も繰り返し、最終的に押し負けたのはかなり悔しい。

 

「夕立の押せ押せは圧倒されるなぁ。脱力回避すると村雨が無防備になるし」

「夕立がゲロ様引き付けて、ハギィの攻撃をむーさんに通すことを念頭に置いたっぽい。夕立もハギィも前衛だからね。押して押して押せば崩れるっぽい」

「流石としか言いようが無いよ」

 

 かたや村雨の方は、萩風にまともに撃たれたことで一瞬呼吸が止まったようで、ゲホゲホと咳込みながらも反省会。

 

「村雨さん、あそこは姉さんに任せて一旦下がるべきでした。2人がかりでも脱力回避で全部避けてしまいますから、自分の態勢を立て直すためにも下がるが正解でしたよ」

「そうかもしれないけど、任せ切るのもさぁ」

 

 やろうと思えば2人がかりの攻撃でも回避は可能だろう。『蜃気楼』で2人の裏側に回り込むことだって可能だった。しかし、そうするとまず間違いなく私を完全に無視して村雨の方を向くのだから、村雨が下がったところで状況は変わらないような気がする。

 止め方はいくらでも考えられる。その全てを経験することで、より強く成長出来るだろう。

 

「お互いに何処が悪かったか理解出来ているようね。なら、5分休憩」

「はーい」

 

 ペアは替えずにそのまま続行。今の敗北を活かして、次に繋げていきたい。衣笠さんのような守りの力を手に入れることは難しいとは思うが、必要最低限の防衛能力は手に入れておきたい。

 

 だが、そうは行かなくなる。訓練の前に夕立が見事に立てていたフラグは、しっかりと回収されることになる。

 

「訓練中断! 今すぐ戻ってきて!」

 

 聞こえてきたのは夕張さんの声である。海にまで出てきて叫んでいた夕張さんは、すでに対策インナーを着ていた。ということは。

 

「哨戒部隊が援軍要請してきた! すぐに出撃準備!」

 

 危惧していたことが実現してしまった。

 

「夕立の予感が的中しちゃったわね」

「こういうのは当たんなくてもよかったっぽい」

「本当に。なら、私は先に向かうわ。貴女達は後から追ってきてちょうだい」

 

 最初から実弾で艤装を装備していた霧島さんは、工廠に戻ることなくそのまま出撃。霧島さんが準備万端であることを知っていた夕張さんは、援軍を要請された場所に案内するために、私達に声をかけた後はそのまま霧島さんと合流して現場に向かっていった。

 私達はまず艤装を実戦仕様に換装しなくてはいけない。夕立と萩風に至っては、対策インナーも必要だ。やろうと思えばすぐ出来るはずなので、大急ぎで準備をすることになった。

 

 

 

 そして、声をかけられて5分もせずに準備完了。夕立と萩風はちょっと焦っていたが、なんとかインナーも着込んで出撃可能となった。

 2人が着替えている間に、私と村雨が空城司令に現場の場所を聞いておく。しかし、村雨は哨戒任務すらしたことがないため、いざ場所を言われても何処かはわからない。『雲』として私達と戦った場所からかなり陸よりと言えば、ある程度は理解出来たようだ。

 

「いいかい、村雨はこれが初陣だ。援軍だが、慎重に行くんだよ」

「了解」

 

 ペイント塗れの制服も新しいものに替えて準備万端。ひとまずはここで訓練をしていた4人で駆逐隊として出撃することになる。

 一応私達の準備が最速だったようで、後から他の人達も随時投入されるとのこと。真っ先に後を追ってくれるのは、衣笠さん率いる守護者の力訓練チーム。その次は、最大戦力となるであろう長門さん訓練チーム。

 

 援軍を要請するくらいなのだから、哨戒部隊だけで処理するのは難しいということ。少なくとも『黄昏』が出現したという話では無いので、おそらく数が多すぎて手が付けられないということのようだ。

 

「陽炎、アンタが即席の旗艦だ。この子達を先導して、援軍として救援に向かってくれ。そこに到着したら好きに戦えばいい」

「了解。じゃあ急いで行くよ!」

 

 こういうところで旗艦というのは初めてだが、哨戒任務にはそれなりに出ているし、今回は何度も行っている場所だ。私だけでも行こうと思えば行ける。

 

「みんな、準備はいい?」

「ぽーい! いつでも大丈夫!」

「大丈夫です。行きましょう」

「……だ、大丈夫。先にこういう形の初陣ならラッキーだと思うことにするわ」

 

 いきなり最終決戦ということにならないだけでも良しとしようというポジティブシンキング。それくらいの気持ちの方が楽でいい。

 死と隣り合わせの戦場なのは誰も同じだが、勝ち目がどうこう言っている相手からスタートは緊張以前に恐怖が出てもおかしくない。()()()()するためにも、この機会には上手く使われてもらおう。

 

 

 

 最大戦速で現場へと向かう私達駆逐隊。陣形も何も無く、場所をちゃんと聞いた私が先頭で、残り3人が抜きつ抜かれつで真っ直ぐ突き進むのみ。

 

「戦場は陸に近いんですか?」

「みたいだね。あの場所はまだ陸が見えるような位置じゃないとは思うけど」

 

 戦場から陸が見えるような場所では無いと思うが、それでもそこで撃ち漏らすと、それがそのまま陸に向かってしまう可能性がある。

 その地区は海沿いは、建物など生活するようなものは全て撤去されたもう何もない場所ではあるものの、道路は通っているわけで、人の行き来が無いわけではない。そんな場所に深海棲艦が行ってしまうということ自体が問題だ。人型の深海棲艦なら我が物顔で闊歩出来るだろうし。

 

「赤い海の中での戦いっぽい?」

「多分それも無いと思う。哨戒部隊は赤い海に近付かないようにしてるし」

 

 あくまでも観測を主とした哨戒だ。アクィラさんの鷲の目だけで確認し、赤い海には近付くこともない。それなのに援軍が必要となったということは、敵も赤い海から抜け出して戦っているということだ。赤い海の恩恵を捨ててでも数で押し潰そうとしているのか、それとも何か別の理由があるのか。

 

 向かっている最中でも、海が赤く染まっているところは今のところ見えない。大分陸に近いところを駆けているので、そこまでは拡がっていないことを少し安心する。

 3日後にはここもどうなっているかわからない。陸に到着していないだけで、陸から赤く染まった海が見えてしまうところまでは来ているのだと思う。

 

「そろそろだよ。みんな、覚悟して」

 

 さらにしばらく進んだところで、砲雷撃戦の音が聞こえ始めた。それと、私達を案内するかのようにアクィラさんの艦載機が飛んできたのもわかる。

 哨戒部隊に大型艦はいないため、今一番激しく戦っているのは霧島さんだ。ここまで聞こえるような大型の主砲を扱っているのはあの人しかいない。

 

「会敵! みんな、やるよ!」

「ぽーい!」

 

 敵の姿が見えた瞬間、真っ先に飛び出したのは勿論夕立。バケモノ型の駆逐艦を一撃で粉砕し、そこから戦いの幕を切って落とす。

 

「やっぱり先制攻撃は夕立からだよね……。っし、行け行け行けーっ!」

 

 それに負けじと、私達も手近なヤツから片付けていく。赤い海はまだ遠くにも見えていないが、逆を見るとうっすらと陸が見えるか見えないかくらいの場所。ここでの戦闘は確かに危ない。少し侵攻を許すと、陸に辿り着いてしまう。

 幸いにも、敵は数だけで強さは並。赤い海の中だとランクもガツンと上がることを考えると、今この戦場は初心者向けと言ったところか。村雨にも安心して任せられる。

 

「村雨さん、腰が引けてませんか」

「んなわけあるか! ちゃんとやってるっての!」

 

 萩風からちょくちょく小言みたいなことを言われているようだが、村雨はしっかり戦えている。夕立に近しいほどの戦闘センスのおかげで、単調な敵の攻撃なら避けつつもきっちり当てられていた。

 しかし、緊張感からか動きは少し硬い。これが最終決戦じゃなくて本当に良かった。戦いの中で身体が温まってきたら、自然と硬さも無くなっていくだろう。萩風が言うのもわからなくはない。

 

「合流! 大丈夫!?」

「おう、来てくれたか!」

 

 哨戒部隊の旗艦である加古さんと合流。みんなも無事なようだ。

 私達がさっき戦っていたのはここからあぶれて私達を狙ってきたモノだったようで、こちらには戦艦クラスも当たり前のようにいた。そちらは霧島さんが応戦しており、互角以上の戦いを繰り広げている。最初の状態だと苦戦して当然だった。

 それでも、防衛線よりはかなり少ない。それに全ての敵がしっかり艦娘を狙って行動しているので、陸に向かおうとはしていないようだ。それだけはありがたい。

 

「なんでいきなりこんな……」

「わかんないけど、出てきたものはしょうがないから、殲滅するっきゃないだろ」

 

 今まで哨戒していてもここまで攻めてくることは無かったのに、今更になって急に動き出したのは何故だろうか。考えていても仕方ないかもしれないが、これも太陽の姫の思惑だとしたら、私達は誘き寄せられたと思うべきだろう。

 この期に及んで何をしようとしている。だが、このままにしておけば陸への侵攻の恐れがある。あちらの思惑なんてお構いなしに、目に入る敵は全て倒しておかなくてはならない。

 

「数は減ってるの?」

「少しは減っているわ。鷲の目で常に監視しているから」

 

 アクィラさんがそう言うなら安心。赤い海でも無いのに無限湧きと言われたら堪ったものではない。その無限湧きする敵が次から次へとここに押し寄せているのだから、あちらもやろうと思えば無限に出てくることは出来そうではあるが。

 

「あー、ちょっとまずいかもですぅ!」

 

 ここで青葉さんが少し焦ったような顔でこちらに報告してくる。青葉さんも偵察機を発艦しているため、アクィラさんほどでは無いが戦況は確認している状態。真上から全てを見ているのではなく、手近なところをあらかた見ていくというスタイル。

 その青葉さんがこれなのだから、余程まずいことが起きているのかもしれない。

 

「どうしたどうした」

「敵を倒すごとに、()()()()()()()()()()()()()()()()んですよぉ!」

 

 それは本当にまずい。あちらが攻めてくるから、こちらは迎撃して殲滅しているのだが、それ自体が赤い海の拡張に貢献してしまっているとなると話は変わる。倒しすぎるとリミットがさらに早まる可能性があるということだ。

 だからと言って放っておけるものでもない。倒さなきゃ倒さないで侵略を許すことになる。

 

 

 

 そこでピンと来る。赤い海は瘴気が漂う海域だ。対策をしなければ分霊を小さくされ続けるようなものであり、踏み入れた時点で問題が発生する。

 ならその瘴気の出所は何処だ。太陽の姫の力だけではないのではないか。

 

「……そうか。太陽の姫は、()()()()()()()()()()んだ」

 

 例えば、この無限に湧いてくる深海棲艦達が死に際に遺す負の感情だったりするのではないか。だとしたら、ここで戦うこと自体が奴の狙いだ。

 




支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/88959923
MMD静画のアイキャッチ風あがのん。戦ってるときはシュッとしてるんですけどね。リンク先に普段の阿賀野もいらっしゃるのでどうぞ。
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