異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
拡張の速度が上がった赤い海を確認するために向かった哨戒部隊から援軍の要請が入った。訓練中で武装の換装が早かった私、陽炎を含めた訓練部隊が向かったところ、そこでは相変わらず酷い数の敵が襲いかかってきていた。
しかし、ここで1つ問題が発生した。偵察機で周囲を確認しながら戦っていた青葉さんが、迫り来る敵を倒せば倒すほど赤い海が拡張されていっていると言うのだ。目の前で明確に拡がっているという状況を確認するのは今回が初めてである。
「太陽の姫は、こいつらを殺させたいんだ」
「……なるほどね、カゲローのそれは正しいかもしれない」
応戦しながらも、敵の目的を考えていくうちに1つの結論に辿り着いた。それは、この敵の群れは太陽の姫にとっての捨て駒。そして、それが死んだ時に発生する負の感情が瘴気へと変じ、赤い海を拡げていくのではないかと私は考えた。
それを口にしたら、アクィラさんも同意してくれる。今までやってこなかったことを急にやってきたのだから誰だって勘繰るだろう。納得出来る部分も多かった私の憶測は、瞬く間に全員に伝わっていく。
「ならどうすりゃいいのさ! ぶっ倒しちゃダメっつっても、倒さないと押し潰されんだけど!?」
必死に応戦してくれている秋雲からの悲鳴にも似た問いに、私は何も返せない。
倒したら瘴気を撒き散らして赤い海が拡がる。放置するとそのまま侵略。八方塞がりである。出来ることならば、
しかし、そんなことどうやってやればいいのだ。あの群れを1体1体艤装だけ破壊していければ、目的は達成出来るかもしれない。だが、そんなもの私達の力では簡単にはいかない。1体2体とやっていったところで、次から次へと押し寄せてくるのだ。
「倒さないとどうにもならないから倒していくしかないでしょう! 今は群れる速度よりも早く殲滅するしかないわ!」
そこへ激しく艤装の鋏を振り回す霧島さんが提案。実際それしか無いと思う。一旦目の前にいる敵を全て消し飛ばした後、あちらがどう出るか、赤い海が何処まで拡がるかを確認しなくてはいけない。例えそれが間違った判断だとしても、今この場で撤退するのはそれこそまずいだろう。
言ってしまえば、今ここで戦いを続けてもすぐに陸まで赤い海が届いてしまうわけでもない。ならひとまずは、目に映る輩を全て消してから考えた方がいい。そもそも戦いながらではまともに考えるのも難しいのだ。
しかし、哨戒目的である部隊に加えて、潜水艦隊と一部の対潜艦、そして私達の増援だけでは、あまりにも攻撃が軽い。
唯一の戦艦である霧島さんが全身全霊で対応してくれているが、まだまだ戦力が足りないとすら思える。まだまだ援軍が欲しいほどだ。
「とりあえず全部吹っ飛ばせばいいのね!?」
「い、一応!」
ここで一歩前に出たのは夕張さんである。いつもは整備班として裏側から支えてくれている夕張さんも、今は貴重な軽巡洋艦の戦力。さらに言えば、兵装実験軽巡という特殊な艦種であるためか、装備はその時その時で自在に替わるとのこと。
そして今回選択されたのは、木曾さんのような雷撃特化である。今この場にいないタイプを選択したようで、直線に人がいないところを確認してからありったけをぶっ放していた。当然ながらその威力は私達の主砲とは比べものにならず、霧島さんの砲撃1発に近いほどの火力をこれでもかと撃ち込んでいた。
「潜水艦達は!?」
「海中に指示は出してる。海ん中にもワンサカいるらしいから、それは五十鈴と龍田に任せて、魚雷で応戦してもらってるぞ!」
海中と意思疎通が出来るのは、旗艦である加古さんと対潜部隊の2人だけ。海上での考察はすぐにあちらにも伝えられている。
潜水艦隊としては、今は殲滅しか選択肢が無いため、あらゆる敵に向けて海中からも雷撃を飛ばしていた。それ以外の攻撃が出来ないのだが、上から狙うのと下から狙うのではまるで違うとのこと。あちらの方が命中精度は高いのだそうだ。
結果、私達の知らない場所で水柱が立ち昇り、次々と雑多なイロハ級が海の藻屑になっていく。しかし、それにより瘴気が発生しその場所を侵していった。
「合流! 今どうなってる!?」
今度は私達の次に出撃したであろう、衣笠さん筆頭の守護者の力訓練チームが合流。メンバーは衣笠さん、阿賀野さん、磯波、菊月。『心眼』の菊月と、サポーターの磯波なら、何かしらの打開策を練ってくれるかもしれない。
すぐさま現状を伝えると、驚愕の表情と共に焦りながらも殲滅に参加してくれた。人数が増えたことで殲滅力は高まるものの、赤い海は拡がる一方である。そして、敵の湧き方もそれに比例して増えているように見えた。
恨みや憎しみを撒き散らし、海を赤く染めていく。そしてその海が深海棲艦を生み出し、それが死ねばまた恨みと憎しみを撒き散らす。負の連鎖は止まらない。
「せめて赤い海が押し返せればいいのに……!」
それが出来たら苦労しないのだが、どうしても愚痴ってしまう。
倒しても拡張されない方法というよりは、倒したところでこちらから押し返せれば手っ取り早い。ある意味、
「瘴気が分霊の力だとしたら、ひーちゃんも同じこと出来るんじゃ……」
ここで戦いながらも少しずつ退いてきて、私の側まで来てしまった沖波が何かを思い付いたかのように発言する。
「太陽の姫と対になるなら、ひーちゃんだって同じ力持っててもおかしくないと思う」
「え、なに、私が瘴気を出すってこと?」
「いやいやいや、そういうことじゃなく。あっちの瘴気を中和する何かっていうか……何か出せるかなって!」
沖波も戦闘中であるためにそこまで頭が回っていない。しかし、言いたいことはわかった。私だって選ばれし者、しかも太陽の姫と対を成すために選ばれた、陰と陽の関係になる者だ。
私の存在そのものが太陽の姫に対して中和に繋がるのなら、私が何かをすればこの瘴気も中和出来るかもしれないと沖波は言っているわけだ。太陽の姫と同じ行動であり効果が対となる分霊だって使えるのだからと。
「結構な無茶振りだけど、それやらないと現状打破出来ないんだよね……試してみるしかないか!」
だがどうやる。指先から瘴気と対になるものが撒き散らせるわけでもなし。
魂を探ってそこに分霊を施す感覚で、空に向かって指を突き出し、同じ要領で分霊。しかし、それこそ私の指は空中を彷徨うだけであり、分霊が出来るような感覚は微塵も無い。
「あ、うん、わかってた。艤装に指が通らなかったんだし、見えないものは見えないし」
「な、なら、赤い海に直接指をつけるとか!」
今度は守護者の力訓練チームから磯波の意見。戦いながらでもいろいろと考えてくれていた。
見えないものに分霊は出来ないし、無機物である艤装にも分霊は出来ないことは証明出来た。なら海、水ならどうか。水って有機物なのか無機物なのかはわからないが、実際に赤く染まっているのだから試せるかもしれない。
だが、今この戦場は赤い海から少し離れたところ。この猛烈に突き進んでくる、死をも恐れないどころか死ぬために来ているような深海棲艦を潜り抜ける必要がある。出来ないことはないだろうが、抜けた後に分霊している間は無防備。その間に私が集中砲火を受けるのは明らか。
「陽炎を守ればいいのね。みんな、ちょっと自己防衛よろしく」
ここで私の前に出てきたのは衣笠さんだ。防衛能力といえばこの人。私の安全を守り切るために、今回の防衛対象を私と定めて、菊月の言葉を借りるなら全自動防衛をやってくれる。
対象を1人に絞った場合、その力は最も発揮される。それは訓練の時に私が痛感していた。制御出来なかった頃は仲間にすら容赦しない防衛能力だったが、今は訓練に訓練を積み、それを制御出来るようになっているのだ。より強くなったと考えられる。
「でも、赤い海までの道は」
「それは我々が作る! 射線を開けてくれ!」
そしてついに長門さん達が到着。訓練に参加していたのは殆ど戦艦クラスのみ。長門さんと陸奥さんの外にはネルソンさんとサウスダコタさんという超重量編成だ。今まで足りなかった高火力が一気に補われる。
「陸奥よ、行くぞ!」
「ええ、行けるわ。主砲一斉射!」
「てぇーっ!」
到着するや否や、敵の群れに対して一斉射をぶちかました。私達を押し潰し、むしろ死んでもいいとさえ思いながら突っ込んでくる深海棲艦達は、その一撃により一気に薙ぎ払われていく。
しかし、それはあちらの狙いでもある。死ねば死ぬほど瘴気は撒き散らされるが、今は四の五の言っていられない状態。現状を変えるためには、一度突っ込まないと話にならない。
「いい力業だ! いいぞナガート!」
「アタシらも行くぞネルソン!」
「了解だ」
意気込んだサウスダコタさんを余所に、ネルソンさんはその場で値踏みするように戦場を眺めた後、阿賀野さんと視線があったかと思ったらニヤリと笑う。
「よし、アガノとやら、貴様に3人目を任せる!」
「えっ、阿賀野? 3人目って、も、もしかして」
「Nelson Touch、行くぞ!」
「やっぱりーっ!?」
阿賀野さんの返答を待たずして、ネルソンさんの艤装が変形完了。長門さんと陸奥さんが薙ぎ払えなかった方向に向けて突撃開始。サウスダコタさんもそうなるだろうと最初から予想していたようで、即座にネルソンさんの後ろについて2人目へ。
突然言われた阿賀野さんはあたふたしながらも強引に3人目へと割り入り、プリンツさんの見様見真似の如く砲撃開始。ここにきて無反動砲撃が火を噴き、突撃しながらも全く速度が衰えないという特性が発揮された。もしかしたら一番ネルソンタッチに適した人材なのでは無いだろうか。プリンツさんには申し訳ないが。
「ほほう、いいではないかアガノ。貴様を名誉ネルソンタッチ構成員と認めよう!」
「よかったな、勲章物だ」
「そんなこと言ってる場合じゃ無ーいー!」
当たり前だが阿賀野さんは必死である。慣れていることをやっているわけでもなく、即興でやってのけているのだから大したものだ。初めて阿賀野さんに訓練をつけてもらった時、磯波が
「よし、道が開いた! ごめんねみんな、私を守って!」
2つの超火力により、敵の群れは大きく剥がされ、悠々と通れるだけの道が出来上がっていた。ならば、ここを突き進んで少しだけでも赤い海に入る。
私を守ってくれるのは衣笠さん以外にも異端児駆逐艦が総動員である。最も危ないところは衣笠さんに任せ、私の周囲を沖波、磯波、夕立、村雨、萩風の5人が警戒してくれている。ちょっと違う輪形陣というヤツ。
「なら、海水に指を突っ込んで……!」
人間に対してやるのとは当然違うのだが、空気中に指を這わせるのとは違う。やはり海であるというのが大きいか。
「分霊出来そう! やってみる!」
そしてそのまま、人間に対してやるように分霊開始。侵食された海を本来の形に戻すように、ゆっくりとでもいいので確実に中和していく。
瘴気は空気中にあるが、その発生源はこの赤い海であると考えてもよかった。沈んだ深海棲艦が海に染み込み、瘴気を撒き散らすというのが赤い海のカラクリかもしれない。最初は太陽の姫の力だけでその領域を拡げていけたようだが、この早さは無限湧きする他の深海棲艦達のせいだ。
「あ……ちょっとだけ赤くなくなってる!」
私の指先の部分だけ、赤さが薄れて本来の色を取り戻そうとしていた。つまり、海への分霊は可能ということだ。
しかし、この大きすぎる範囲を、私1人だけの力で分霊出来るかと言われれば答えはNOだ。多分私が先に力尽きる。村雨の魂を浄化しただけでも相当な疲労を感じたのだから、海全域とか不可能に近い。
そして、赤い海に立ち入ったのだから、脅威はまだまだ増える。ここはもう太陽の姫の領域。つまり、その側にいる巫女は侵入者を排除するために動き出すだろう。
「陽炎、ちょっと我慢して!」
言うが早いか、衣笠さんに思い切り引っ張られた。瞬間、私がさっきまでいた場所を強力な砲撃が通過。幸い誰にも当たらなかったが、掠めただけでも危険な一撃が放たれていた。
「マタオ前達カ。マァ、オ前達クライシカココニ来ナイヨネ」
その砲撃の主は、勿論『黄昏』である。
太陽の姫の姿は無いが、ここが決戦の地であることが嫌なくらいにわかった。せめて『黄昏』をどうにかしない限り、現状打破は有り得ない。
無機物というのは炭素を含まない物質であり、有機物はそれ以外だそうです。しかし、水は炭素を含んでいても例外的に無機物扱いなのだとか。
支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/88978402
MMD静画のアイキャッチ風キャプテン。昨日の阿賀野と対になるデザインだそうです。背中合わせになってます。うーんイケメン。