異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
敵を倒すことがその拡張に繋がり、放置していても侵略が始まるという最悪な状況を打開するために、あらゆる手段を戦いながらも考察する。こうやって戦っている間も戦況は悪化し続けているのだが、そのままにして撤退という選択肢も無く、戦わざるを得ないのが焦りを生み続ける。
その中で、私、陽炎が赤い海に直接分霊を施すという手段に打って出ることになった。太陽の姫と対を成す私だからこそ、この瘴気を生み出す赤い海をも中和出来るのではと考えられたからだ。
そしてそれを実行。一斉射とネルソンタッチにより道を切り拓いてもらい、そこから赤い海に突入し、海面に指を突き立てて分霊を施した。
すると、これが有効であることが判明。しかし、私1人の力ではたかが知れており、指先から少し色が薄れる程度で終わってしまう。あちらの規模があまりにも大きすぎるというのもあるが、そもそも瘴気を増やす原因が多すぎるのも原因である。
さらに、私達が赤い海に足を踏み入れたことで、この海と太陽の姫を守る巫女である『黄昏』までもが現れてしまった。今はまだ人数がいる方だからマシではあるが、巫女の力を持つ戦艦レ級という悪夢のような存在の登場で、戦いは苛烈化していく。
「今回ハアイツハイナイノ? 僕ノ顔面ニ爆雷投ゲテキタ奴」
「松輪はいないよ」
「ソッカ、マツワッテイウノカ。残念ダネ。次ハ思ウ存分遊ンデヤロウト思ッタノニ」
これだけの人数を前にしても、『黄昏』は余裕そうな顔である。実際、前回の戦いでは松輪がいたから逃げることが出来たのであって、今この戦力でもどうにか出来るかはわからない。
それに、『黄昏』だけならまだしも、まだここには倒しきれていない深海棲艦が多数いる上に、倒した分が補充される始末。最悪なことに、今は赤い海の上。深海棲艦はより強化された状態だ。今まで薙ぎ倒すことが出来た連中も、ここでは苦戦を強いられる可能性がある。
「他ハドウデモイイ。『陽炎』ダケハココデ死ンデモラウ。オ前ダケガ姫ニトッテノ目ノ上ノタンコブダッテサ」
気付けば私の目の前。波すら立たせずに瞬時に移動するその技は、私の『蜃気楼』に近しいものであることはわかっている。だが、私と違うのはその瞬間が読めないことである。
菊月が足首の動きだけであれをやっているというところまでは看破しているのだが、その瞬間が私には見えていなかった。故に、ここから反応が遅れた。
だが前とは違う。今回は鍛え上げたM型異端児最強の防衛システムが私にはついている。
「それはこっちのセリフなんだよね」
その殆ど瞬間移動に近い動きにも見事に対応する衣笠さん。無意識下での防衛というのは、
眼前に迫ってきた『黄昏』相手に、既にあの足が出ていた。仲間との訓練でも制御出来なかったあの一撃も、今や自由自在である。
「オ前、前ニモイタダロ。ソコソコ邪魔ヲシテキタ覚エハアルヨ」
その蹴りは軽く払うことで回避してきたが、私への攻撃はこれでキャンセル。防衛という目的はきっちりこなしているが、今度は自分が危なくなっているため、照準を自分に変えることで対象を守るというあまりよろしくない力にもなってしまっていた。自己犠牲で守られても、辛い思いをするのは守られている側である。
だから、今度はみんなで衣笠さんを守ることになるだろう。ここには異端児駆逐艦が勢ぞろいしているし、減らない敵を対処しているとはいえ仲間達もいる。
「やらせないっぽい!」
すぐに飛びかかるのは夕立だ。今まででも特に強敵である『黄昏』に対しても臆さず突っ込み、早速主砲を構える。
相手は戦艦であるため、私達駆逐艦の砲撃なんて簡単には効かないだろう。爆雷を後頭部に受けてもダメージが無かった『黄昏』なら尚更だ。だが、そんなことお構いなし。目の前に敵がおり、仲間が危険な目に遭うのなら、それを守るのが艦娘である。
「知ラナイ奴ダナ。デモ、所詮ハ駆逐艦ダヨ」
尻尾を振り回しながら夕立を迎撃する『黄昏』。砲撃をことごとく弾き飛ばした後、振り抜き際に放っていた魚雷を夕立に叩き込もうとする。
しかし、そんな簡単にやられる夕立ではない。そもそも振り回された尻尾には当たるような距離ではなく、かなりの至近距離で放たれた魚雷も当たり前のように撃ち抜き、その爆風を帆で受けて驚異的なバックステップ。
その振り回しの範囲から離れるため、間近にいた私も無理矢理その場から離れた。風圧は受けるものの、狙いが夕立だったおかげでそれだけで済む。
「姉さんから、離れろ!」
そして、その爆煙を突き抜けるように突撃していたのが萩風。ついさっきやっていた訓練で覚えたスイッチ戦術を、この場で夕立とやってのけた。水柱を目くらましに使うのとは訳が違うが、やはりそこもお構いなしである。多少熱い程度で終わっているだろう。
「オ前、戦イ方ガコチラ側ニ近イナ」
アームと主砲を拳のように扱い、振り抜けつつも砲撃。超至近距離での一撃だったが、『黄昏』は意に介さずにクルリと一回転し、尻尾をもう一周させて砲撃を弾き飛ばしながらの迎撃。その速さたるや、萩風の突撃よりも速く、このままだと拳が届く前に薙ぎ払われることになる。
接近戦を狙った萩風には、これが一番危ない。夕立ほどの機動力も無ければ、突き進んでいる状態でのそれなので回避しようが無いというのが答え。
そしてこの瞬間にまた衣笠さんが動き出す。防衛の対象を瞬時に切り替え、私から萩風へと移したことにより無意識の防衛が起動。
「それはやらせない」
狙ったのは回転の軸脚。艤装はさておき、あの着込んでいるパーカーも異常な性能を持った装甲であることは既にわかっているため、狙うのなら生身の部分である。レ級の脚が生身と言えるのかはわからないが、服が装甲というのなら着ていない部分を狙うのが正解だろう。
前回の戦いで松輪の爆雷が手を吹き飛ばしていたが、その時のダメージは確認出来ていない。爆雷を握りしめた状態での爆破で無傷だったら、生身すらも強固な装甲と言われたら、手も足も出ないかもしれない。
「ッオ、イイトコロヲ狙ウジャナイカ」
それにいち早く気付いた『黄昏』は、それを回避するために自転をやめて回避のために小さく横へ跳ぶ。そのおかげで尻尾の振り回しは本来の場所へ行かず、萩風は辛うじてダメージを受けずに済んだ。
しかし、その風圧は激しく、突撃態勢だったために嫌でも姿勢は崩されて転倒。モロに喰らわなかっただけ良しとしなくてはいけない。
これで1つ、『黄昏』には脚への攻撃が有効であることが判明する。あれでも生身である判定。
「ナラ、マズハオ前ダ」
跳んだ先で即座に衣笠さんに狙いを変え、照準を合わせていた。この動きの速さも『黄昏』の厄介なところである。
衣笠さんは防衛能力が非常に高いが、それは
「させない!」
対応するのは沖波。照準を合わされた主砲目掛けて、その砲口を撃ち抜くように砲撃を放つ。当たろうが当たるまいが、これにより回避する余裕は作れるはずだ。
それが巫女で無ければ。
「オオ怖イ怖イ。イクラ僕デモ、艤装ノ中ハ無防備ダカラネ」
その声は、沖波の後ろから聞こえた。ここぞとばかりにあの移動法で回避してくる。危ないと思ったから使ったのか、こちらに対して一番やってほしくないタイミングを見計らったのかは定かではないが、少なくとも今この瞬間にそれをされたのは、沖波にとってはかなりの痛手。
触れられる程に近付かれているということは、何をされてもおかしくないということ。それこそここから尻尾を振り回されるかもしれないし、もう一度砲撃だったり魚雷だったりを放たれるかもしれない。とにかく、沖波の身が危険であることは確かである。
そして、それに反応出来ない衣笠さんではない。全自動防衛の対象を沖波に切り替えた瞬間に身体が動く。
「沖波から離れてもらえるかな!」
何をしてくるにしても、姿勢を崩せばその攻撃は不発になる可能性が高い。故に、またもや狙うのは脚である。
直接急所を狙いたくても難しいため、手近な弱点となり得る部分を集中狙いするのは、こういう戦場でも常套手段。そんなこと『黄昏』だってわかっているとは思うが、やらない理由は無い。
「本当ニ厄介ナ奴ダ」
だが、そもそも『黄昏』が狙っていたのは衣笠さんである。沖波の側に近付きつつも、その主砲は衣笠さんを向いていた。沖波からの反撃のことを一切考えずに、この全自動防衛を確実に潰すことを最善と考えた行動である。
衣笠さんがここで潰されたら、痛手としては大きすぎる。ただでさえ『黄昏』に対応出来ているのは小粒ばかり。他の人達は周囲に湧いてくる深海棲艦を処理することで手一杯にされている。なのに、戦力の1人が消えたらジリ貧とかそういう問題では無くなる。
「やらせるわけ!」
「無いっぽい!」
故に、こちらはチームプレイでどうにかするしかない。そこで動き出したのは夕立と村雨である。艤装姉妹という最善のパートナーを得て、さらには訓練で連携も学んでいるのだから、合図無しでも同時に同じ場所を撃つことも造作も無かった。
狙ったのは常に衣笠さんが狙い続けていた脚。それを後ろからだったため、膝裏狙い。もしそこが装甲に覆われていたとしても、関節部分への一撃であるため、体勢を崩すことくらいは出来るはずだ。
そして私だってやれることはある。衣笠さんに守ってもらったのだから、衣笠さんを守りたい気持ちは私にある。
「衣笠さん、そこから離れて!」
ブレ弾と精密の同時砲撃。狙いはあえて頭。後ろから狙うわけではないため、パーカーに覆われていない脚を狙う必要もなく、むしろ同じ場所ばかり狙うよりは別の場所を狙った方が当たるのではないかという賭け。
奴はパーカーのフードも被っているため、後頭部は装甲に覆われていると考えてもいい。ならばと、狙ったのは顔面。ブレ弾の方は殆ど適当に撃ったようなものなので、生身が見える前面の何処かに当たればいいと考える程度。
「アア、ミンナ鬱陶シイナ」
しかし、その砲撃は全て外れていた。ここでまたあの移動法である。殆ど直立状態から予備動作無しで気付いたら別の場所にいるのは、私が言うのもアレだが本当に厄介極まりない。
最悪なことに、その移動先が衣笠さんの真隣である。さらには、既に尻尾を振り被っていた。このままでは薙ぎ倒される。
一応私が声をかけたことでその場から退避しようとしていたのだが、あの移動で真横につけられてしまっては回避もあったものではない。
「衣笠さん!」
咄嗟だった。『蜃気楼』からの突撃で『黄昏』に体当たり。この時だけは、衣笠さんの全自動防衛に近い動きが出来たと思う。仲間の危機を救うため、無意識に力を抜いていた。
私がこの戦い方に慣れているから無意識がこの動きを選択してくれた。咄嗟に力を抜くことも、今までの戦いの経験があったからこそ出来た。
「『陽炎』カラ飛ビ込ンデ来テクレルトハネ」
私のそれを予測していたのだろうか。うまく『黄昏』の姿勢を崩す程に吹っ飛ばすことが出来たが、尻尾の勢いは一切止まらず、私の脇腹に直撃。逆に私が吹っ飛ばされる羽目に。
体勢が崩れていたことで威力そのものは大分小さくなっていたが、それでも体内を大きく揺さぶられて強烈な吐き気に襲われる。骨とかには別状は無くて助かる。
「艦娘ッテ、本当ニシブトイナ。イイ加減終ワッテイインダゾ」
ここでダメ押しの艦載機発艦。たった1人で出せるとは思えない数の艦載機が、私達の上空を覆い尽くす。今は初月やアトランタさんがいないため、対空砲火の性能はお察し。この全てを『黄昏』からの攻撃共々回避しなくてはいけない。
当たり前だが、『黄昏』もこの赤い海による強化をしっかり受けている。そのせいで、これだけ全員で動き回っても傷一つつけられていなかった。圧倒的な力の差に絶望感さえ漂う。
だが、こんなところで諦めて堪るか。今、私達の背には世界の命運がかかってしまっているのだ。それに、この後にはこれより凶悪な太陽の姫すらも待ち構えているのだから、
「ソレジャア、全員死ネ」
膨大な数の艦載機からの急降下爆撃。こんなものを受けたらひとたまりもない。どうにかして逃げ延びなければ。
「やらせるわけないじゃん!」
「勿論……守ります……!」
その声の主がすぐにはわからなかった。だが、明らかに
そして、その海中から飛び出すように
「潜水空母の意地、ここで見せるよ!」
「空は……空母だけのものじゃないから……!」
それは、潜っていたはずのヒトミとイヨ。私達には絶対出来ない、海中からの発艦をやってのけたのだ。