異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
「艦娘ッテ、本当ニシブトイナ。イイ加減終ワッテイインダゾ」
赤い海での『黄昏』との決戦。こちらの攻撃はまるで歯が立たず、ついには上空を覆い尽くす程の艦載機が発艦され、その全てによる急降下爆撃が繰り出されてしまった。
今は初月やアトランタさんがおらず、私、陽炎を含めて異端児駆逐艦は誰も対空装備をしていないため、部隊の防空性能はお察し。その状態で、この全てを『黄昏』からの攻撃共々回避しなくてはいけない。
「ソレジャア、全員死ネ」
膨大な数の艦載機からの急降下爆撃。こんなものを受けたらひとたまりもない。どうにかして逃げ延びなければ。
だが、その攻撃を食い止めてくれる者達は、私達の足の下にいた。
「やらせるわけないじゃん!」
「勿論……守ります……!」
その者は、潜水艦であるヒトミとイヨ。潜水艦の中でも特殊な潜水空母という艦種の2人は、恐ろしいことに海中から水上爆撃機を発艦したのだ。
海中から飛び出すように発艦された水上爆撃機が一直線に私達の真上に飛んでいき、急降下爆撃をしてくる艦載機を次々と墜としていった。おかげで、真上だけは艦載機が綺麗に無くなり、対処しきれなかった分で周囲が爆撃されるものの、致命傷は受けずに済む。
「ナンダ今ノ。意味ガワカラナイ」
海中から飛び出す艦載機に迎撃されるなんて想定していなかったからか、『黄昏』すらも一瞬思考が停止していた。今この場で砲撃されていても回避はするが、上と横からの猛攻はかなり厳しかった。それが出来ないくらいに驚いたということだ。
前回は慢心しないと言いながらも松輪を嘗めたことによる撤退阻止失敗。今回は本来ならあり得ないことが起きたことへの茫然で一時停止。これは人間と同じ思考回路で無くては出てこないものだ。賢くなった分、そういうところを考えてしまうのが『黄昏』の数少ない弱点なのだと思う。ただのレ級なら知ったことではなく突っ込んでくるだろうし。
「へへん、これがイヨ達の奥の手!」
「特殊改造水上爆撃機……諜報部隊のための精鋭」
浮上してきて頭だけを見せる2人は、『黄昏』に対して渾身のドヤ顔をしていた。特にイヨ。
本来潜水空母とはいえ、海中から艦載機の発艦なんて無茶もいいところだったのだが、その無理をどうにか実現したのが、2人専用に作り出された特殊装備であった。
諜報部隊の潜水艦として、海上艦よりも調査先に先行した後に、その情報をどうにかして本隊に伝えたいとなったとき、これを海中から飛び立たせるらしい。海中と言ってもある程度は浮上しなくてはいけないのだが、先程は私達からその姿を見ることが出来なかった。物凄く浅い場所では無いのは確か。
その重要度のためか、普通の空母のものと比べても一線を画した練度を秘めているようで、飛んだのは2人合わせてたったの4機だが、私達を守った後でも未だに上空を飛び回っている。流石に艦載機を殲滅することは出来ないようだが、必要最低限の動きをしてくれたおかげで、あの尋常ではない数の急降下爆撃を何とか切り抜けることに成功した。充分過ぎる働きをしてくれたことを感謝する。
「……コノ前ハ非力ナガキデ、今度ハヨクワカラナイ潜水艦カ、ツクヅクオカシナ奴ラダ」
小さく舌打ちした後、2人に対して砲撃。潜水艦に対して砲撃が無意味なことはわかっているのだろうが、そうしないと気が済まなかったのだろう。勿論2人は急速潜航により回避。『黄昏』は対潜攻撃も可能ではあるが、今回は追うことも無かった。
「仕切リ直シダナ。僕ハソンナコト望ンデナカッタケド」
「こっちとしては一息吐けてラッキーだよ。でもいいの? これからはあの子達が下から狙うよ」
「構ワナイヨ。僕ニハ効カナイカラ」
さっき喰らった脇腹がジンジンする。吐き気もまだ残っている。本調子とは到底言えない。ほんの少しだけでも休息のタイミングがあったのは正直助かった。
「僕ニハ全部ワカッテルンダ。海ノ上モ中モ。ホラ、今来テルンダロ」
ノールックで爆雷を投下していく。私にはわからないが、おそらく真下にヒトミかイヨが向かったのだ。それを軽く食い止める。
海中で爆音がしたが、それに伴って何か変わったわけではないため、2人は今の爆雷をちゃんと避けてくれたようだ。
「イクラ対トナル姫ダカラッテ、所詮駆逐艦。ワカッタロ。オ前達ハ僕ニ勝テナインダ。大人シク死ンデクレナイカ」
やたらお喋りな『黄昏』だが、やはり予備動作が全くわからない状態から眼前に来て尻尾を振る動作をしていた。菊月は足首がどうのこうの言っていたが、私の動体視力ではそれを確認することは出来なかった。注意深く見る余裕はないし、見ていたところで気付いたら目の前である。
コイツが眼前に来たということは、私を確実に仕留めに来たと考えてもいいだろう。最早手が届く位置。尻尾なら尚更。
だからこそ、ここで力を抜くのだ。危ないと思った時に、力まずに力を抜く。いつもそうやって乗り越えてきた。
「っ……!?」
脱力回避によりその尻尾は辛うじて回避。その風圧をモロに受けることになるが、脇腹に喰らったさっきよりもダメージは小さいから大丈夫。
「本当ニチョロチョロト」
「アンタに言われたか無いね!」
回避と同時に備え付けの主砲で顔面を狙う。しかし、その時には既に移動済み。振り回していた尻尾はグルリともう一周し、私目掛けて薙ぎ払われようとしていた。
「させるかぁ!」
そこへ飛び込んでくるのは夕立。尻尾の薙ぎ払いを飛び越えるように上からの奇襲。パーカーのフードのせいで砲撃が大して効かないことは百も承知であるため、あの『黄昏』に対して主砲で殴りかかるというとんでもない手段に打って出た。
移動後の場所に突っ込むことが出来たのは、夕立特有の戦闘センスと野生の勘だろう。今この場で『黄昏』の行動を見て、次の行動を予測してしまった。あんなこと、夕立くらいしか出来ないだろう。
「コイツ、無茶苦茶ダナ」
そして『黄昏』はさらに移動。気付けば夕立の上を取っていた。上を取ろうとして、さらに上を取られるとか、その身体能力がバケモノ並みであることが嫌でもわかる。
これは前回の戦いでもやられた。高速移動を横ではなく縦にやる跳躍。こうされた後、やられるのは1つ。下へ向けての激しい砲撃である。
「全部纏メテ、ブッ壊シテヤルヨ」
案の定、主砲を真下に向けた。この射線上に入るのは私と夕立。特に夕立は上を取ろうと跳んでいる状態であるため、回避がかなり難しい。
「そんなことやらせるわけないでしょ」
ここで動き出す全自動防衛。『黄昏』が跳んだところを見計らって、それを撃ち墜とすために上へ向けて砲撃。高角砲による対空砲火とは違ってただの主砲による砲撃であるため、本来の威力からは落ちるかもしれないが、それでも重巡洋艦の主砲なのだから私達のものよりは威力がある。
それに、衣笠さんは『黄昏』の動きを一度見ているのだから、無意識にもその行動は織り込み済み。この攻撃が無駄ではないと判断しているはず。
「学習シナイノカ。僕ニハ効カナイコトヲ、オ前ハ知ッテイルダロ」
前回と同じように、残っていた艦載機が一気に群がり、衣笠さんの射線上を陣取った。分厚い壁のようになったそれのせいで、ただでさえ威力が落ちていた砲撃は全てシャットアウト。
ヒトミとイヨの艦載機のおかげでその数はある程度減っていたが、それでもまだまだ数は多い。どれだけ撃っても『黄昏』に届くことは無かった。
他からの攻撃もそうだった。衣笠さんだけではなく、沖波だって萩風だって『黄昏』に向けて砲撃をしている。しかし、艦載機の壁に全てを遮られ、致命傷はおろか擦り傷すら与えられない。どれだけ硬いのだ。
「イイ加減、1人クライニハ死ンデモライタインダ」
そこまでやってもまだ空中。姿勢が戻っていない夕立に向けて構えたままの主砲をついに撃ち放ってしまった。咄嗟に夕立も真上に向けて撃ったが、あちらの威力は尋常ではなく、さらには重力というプラス補正がかかってしまっているために、駆逐艦の砲撃では歯が立たない。
このままだと夕立は確実にやられる。良くて前回の由良さん並みの大怪我だ。あんな切羽詰まった状態になるわけにはいかない。
ならやることは決まっているだろう。私も回避し、夕立も救う。これが出来る手段はただ1つ。
「夕立、我慢して!」
「ぽい!?」
出来るかはわからないが、やらなければ致命傷だ。だから咄嗟に、私は夕立の腕を掴んだ。
ここから『蜃気楼』の流れだが、私以外のモノに対する影響はわからない。私だけだから脚への負荷で済んでいるのかもしれない。それこそ、失敗するかもしれない。
しかし、そこで足踏みしていては、救える命も救えない。私は艦娘、守護者なのだ。それは自分も、仲間も、手が届く範囲全てを救ってこそなのではないのか。
覚悟が決まった。夕立には申し訳ないが、負荷があっても死ななきゃ安い。
「行けーっ!」
そこから脱力した瞬間、夕立の腕を掴む私の腕が悲鳴を上げた。やはり自分だけでやるからあの程度で済んでいる。脚への負荷もいつもの倍はあった。
その代わり、確実に『黄昏』の射線上から抜け出すことが出来た。1人追加した状態での『蜃気楼』により、無意識下で最も被害の少ないところを選択する回避に成功。さらには『蜃気楼』の性質上、私達がまだそこにいると錯覚させるため、『黄昏』は私達を撃ったと誤認する。
その瞬間、ついに僅かな綻びが見えた。今、『黄昏』は私達を殺したと一瞬だけでも認識した。賢くなったせいで、そこで
それを見逃さないのは、異端児の天使。最強のサポーター、磯波である。
「今です」
今までタイミングを見計らってきたその一撃は、跳んでいた『黄昏』の
見た感じダメージになったようには見えないが、奴にとってはそれが小さくない一撃になったようで、着水と同時に磯波を睨み付ける。
「ナッ……オ前……ッ」
「菊月ちゃんの『心眼』から貴女のソレのタネは半分はわかっていました。あとは、この子達のおかげで弱点を確信しました」
磯波の足下からヌルリと出てきたのは、またもやヒトミとイヨである。先程の艦載機の時以上のドヤ顔。先程の爆雷を回避した後、何かに気付いた2人は磯波にそれを伝えていたらしい。
「……僕ノ弱点ダト」
「貴女の高速移動は、足首ともう1つ、
確かに足の裏だけは色合いが違う。脚そのものの形状が人間とは違うのだが、そこは一際艤装に近かった。まるで靴を履いているようになっていたが、それがこの高速移動のタネだったようだ。
予備動作が見当たらなかったのは、全て海中で行なわれていたから。ある意味『雲』の腰掛けていた雲型のクッションみたいなもの。あれはわかりやすい予備動作があったが、『黄昏』はそれを見えないところでやっていたわけだ。
そしてそれを見ることが出来る者が、この戦場にいた。潜水艦、ヒトミとイヨ。海中からの攻撃をユーとウィーに任せてこちらに参戦してくれたが、さっきの艦載機といい今回の海中の目といい、一番いいところを持っていってくれる。
「何かしらのピンチがあった場合、貴女は必ず上を取る。前回の戦いの話もありますし、そもそもレ級というのは跳びたがる性質でもあるんでしょう。いつかそれをやると思って、私はずっと待ってました」
「ダッタラ、オ前ハ『陽炎』スラモ囮ニ使ッタッテ言ウノカ」
「囮じゃないです。意図してあの状態を誘発したわけじゃないですし」
とにかく跳ばせたかったということだ。足の裏を私達の前に出してもらわなければ、あの高速移動は一生封じることが出来なかったのだから、この作戦は大成功と言える。
なかなか危険な賭けをしてくれたものだが、上手く行ったのだから全て良し。
「ソナー、それは夕立にも言っておいてほしいっぽい! ゲロ様は良くても、夕立は死んでたかもしれないっぽいよね!?」
「言ったら意識しちゃうよね夕立ちゃん」
「否定出来ないっぽい。でもゲロ様ならやってくれるって信じれたから許す」
私が強く引っ張ったことで傷めた肩を押さえながらぷんすかぽいぽいしてた夕立だが、そもそも磯波が意図してこの状況を作ったわけでもないので、怒りの矛先は全て『黄昏』へ。
「これであの動きは封じれたはずです。艤装は硬いかもしれないですが、そこの艤装はその高速移動のために質が違ったようですし。私の貧弱な砲撃でも半壊くらいはしたと思います」
「コノ……ッ、クソガァ!」
懲りずにまた高速移動をしようとしたようだが、磯波の言う通り見えない程のものではない。私でも追えるし、何をしようとするのかがわかるほどだ。
そして、ここまで時間をかければ新たな仲間が参戦する。
「すまない、手こずった!」
磯波に向かう『黄昏』の眼前に立つのは、伊良湖さんの高速移動をモノにした長門さんである。磯波を守るため、鎮守府の守護者の力を受け継いだ大戦艦が今、黄昏の戦場に立つ。