異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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思いを背負って

 太陽の姫の巫女『黄昏』の高速移動の謎は解かれ、磯波渾身の一撃によりそのシステムの根幹となっていた足裏の艤装を半壊させることに成功。これにより全く触れられないということは無くなり、ようやく五分五分な戦いに持っていくことが出来るようになった。

 それでもレ級というだけでも脅威だ。手が付けられない状態から、勝ち目があるかもという状態に持っていけた程度。当たり前だが、掠っただけでも危険な主砲や、戦艦なのに放たれる魚雷、空母並みの艦載機や、駆逐艦と同様の対潜性能もそのままである。ただ動きが比較的まともになっただけ。

 

 私、陽炎は夕立を救うために1人巻き込んだ状態での『蜃気楼』を行なったため、片腕を傷めてしまっている。夕立も全く同じ症状。だが、戦えないことはない。まだまだ行ける。

 

「すまない、手こずった!」

 

 そして、この戦場に新たに立ったのは、先程まで群れを相手にしていた長門さんである。少し疲れており服に汚れなども見えるが、本人は無傷だった。あの群れを処理しながら、どうにかこちらに来てくれた。

 事実、群れ自体がかなり減っていることに気付く。いくら倒しても減らなかった群れを、補充が間に合わないレベルで倒しているということだ。これは長門さんだけではなく、他の仲間達が今も奮闘しているからこそ成し得たことである。

 

「オ前ハ……ッ」

「知性を持ったレ級は、私の配下でもあったんだ。巫女にされたところで、根幹は変わらん!」

 

 高速移動が出来なくなった『黄昏』に対し、磯波を守るように立ち塞がった長門さんが手を前に突き出した瞬間、何かを察したかのように瞬時に尻尾を前に出した。

 尻尾の尖端にあるバケモノの顔面に砲撃が叩き込まれていた。それでも破壊されなかったのは流石は巫女と言うところか。頑丈にも程があるが、艤装に傷を付けていた。私達の火力では不可能だったことを、戦艦だからこそやってくれる。

 

「ナッ」

 

 直感的にガードをしたようだが、長門さんのそれは『黄昏』にも見えていなかったようだ。ほんの一瞬だけ外に出す規格外の力は、巫女の力すらも超えていた。

 本来ならあの高速移動で回避していたのだろうが、それを磯波が処理してくれたおかげでそれも出来なくなり、純粋なパワー勝負に持ち込まれている。未だ有利とは言えないものの、長門さんの参戦は非常に大きい。

 

「クールタイムだ。次は頼むぞ、陸奥」

「はぁい」

 

 しかし、長門さんはあの力を使った後、3分間のクールタイムが待ち構えている。その間は戦艦から重巡洋艦並みにランクダウンし、スペックが下がってしまうのだ。

 だから、その間をカバーするために妹が存在する。磯波の前に立ち塞がった長門さんのさらに前。より『黄昏』に近い場所に立ち塞がった陸奥さんが、長門さんの一撃をガードしたその艤装に向けてもう一撃を喰らわせる。

 

「マダ増エルノカ……ッ」

「姉さんが来れたんだから、私もね」

「皆のおかげで、私達だけでもこちらに来ることが出来たぞ」

 

 残りの仲間達は、まだ群れをこちらに近付かせないようにするために奮闘を続けている。

 さらなる援軍だって考えられるが、今のうちはいるだけでやらなくてはいけない。故に、艦娘として全身全霊でこの海を守っていくしかないのだ。全員が懸命に事にあたり、最善の結果を求めて戦う。その結果、赤い海は刻一刻と拡がってしまっているのだが、今はそこは見ない事にした。

 

 ネルソンさんも何度目のタッチだろうか。そろそろ艤装にガタが来てもおかしくないというのに、無茶を押し倒して弾けていた。名誉ネルソンタッチ構成員として認められた阿賀野さんも、必死な顔でそれに食い付いている。

 それだけではない。夕張さんと由良さんの即席タッグや加古さんと青葉さんの重巡コンビで小粒を殲滅していたり、菊月と秋雲がアクィラさんの護衛をしながら空爆で確実に数を減らしたりと、全員が全員、自分の限界を超えてこの戦場の維持に貢献してくれていた。

 特に霧島さんは激しい。ネルソンタッチに負けないように、その逆方向の敵を主砲と鋏で薙ぎ倒していく。今だけなら、私も親分と呼べてしまいそうなくらいに荒々しい戦い方だった。

 

「私と陸奥は、皆の思いを背負ってここに立っている。確実に潰すぞ、『黄昏』とかいうの」

「ここでやらなきゃ艦娘が廃るってね。私達以外にも、こんなに仲間がここにいるんだもの。勝てない道理はもう無いわよね?」

 

 話をしつつ、長門さんのクールタイムを経過させるように陸奥さんが応戦。以前見たときよりも、さらに動きが良くなっているように見えた。長門さんと共に訓練を受けていたおかげだろうか。

 

「チッ……艤装ガヤラレテイヨウガ、僕ハマダ戦エル。オ前達ハ全員ココデ死ンデモラウンダ」

 

 その猛攻を軽々と回避しながら、逆に『黄昏』からも砲撃。私達の中では最も火力の高い陸奥さんを警戒するのは至極当然のこと。真正面から撃ってくるのだから尚更だ。

 だから後ろからの砲撃がやりやすい。いくらあのパーカーを貫くことすら出来ないとしても、撃たない理由がない。それに、後ろからだって生身の部分は狙える。

 

「萩風!」

「わかってますよ。こういう時に組めるように訓練してきたんですから」

 

 私と夕立が離れているため、村雨が即席で萩風と組む。午前中にさんざんやったコンビなのだから、夕立の次に慣れている相手。こういう時にこそ、その慣れが力を発揮する。

 

「磯波ちゃんは私と!」

「うん、沖波ちゃんと」

 

 あちらはあちらで沖波と磯波が組む。磯波は今でこそ長門さんに守られていたが、長門さんだってクールタイムが終われば真っ直ぐ突っ込むことになるだろう。駆逐艦はそれを掩護することが仕事になるため、すぐにその判断が出来ているだけ上出来。

 

「長門さん、守るから」

「すまないな。助かる」

 

 衣笠さんは長門さんの側へ行き、全自動防衛の対象を長門さんと陸奥さんの2人に変更。あちらは既に陸奥さんと組んでいるようなものなので、3人1組になったようなもの。

 

「夕立、咄嗟だったから傷めたかもしれないけど、腕大丈夫?」

「だいじょーぶっぽい。肩捻ったみたいになってるっぽいけど、これくらいなら戦いに支障はないよ」

 

 グルンと回そうとすると痛みがあるようだが、まだ主砲は持てるし戦闘は出来ると主張する夕立。私も似たようなものだ。思い切り引っ張られたようなものなので肩は痛むが、この程度ならまだやれる。

 

「オッケー。なら私と行こうか!」

「ぽい!」

 

 そして残りの私と夕立がペアに。陸奥さんと激しい攻防を繰り広げる『黄昏』をここで終わらせるため、私を含めた9人4チームが、一斉に立ち向かう。

 多勢に無勢と言われようが知ったことでは無い。あちらはそれくらいしないと勝てないくらいのバケモノなのだ。使える戦力は全て使って、ここで終わらせてやる。

 

「でも、夕立達がやれることってあるっぽい?」

「あるよ、いっぱい。ダメージは長門さんと陸奥さんでしか与えられないようなものだし、とにかく手数で押して隙を作ろう」

 

 何度も攻撃していったら、あの強固な装甲も穿つことが出来るかもしれない。やらないより、やらなければダメだ。

 

 陸奥さんが真正面から立ち向かってくれているのだから、私達は真横から。見える生身は脚と頭くらいだが、それは全員同じ条件。正面以外はそこを狙っていくしかない。

 だが、足裏の艤装が半壊したことで、あの予備動作無しの高速移動や跳躍が封じられているため、4チームからの集中砲火は確実に有効だ。ならば攻撃の手を休めるわけにはいかないだろう。今の状態でも安心出来ないのだから。

 

「今ガチャンストカ思ッテイルンダロ。僕ハソウ簡単ニハ終ワラナイ。ムシロ、オ前達ガ終ワルンダヨ」

 

 私達の思惑に勘付いたか、陸奥さんの砲撃を回避しながら全方位への攻撃を再開する。砲撃の合間に魚雷を放ち、残っている艦載機も総動員。一度松輪にやられたことを相当根に持っているようで、爆雷すらも私達への攻撃に使ってきた。

 実際、海中に投射するはずの爆雷をダイレクトに投げられるのはかなり危険。特に『黄昏』の爆雷は私達のモノよりも性能が高いように思えるため、爆風が戦艦主砲並みに威力がある。

 

「撃ち墜とします!」

「私も……!」

 

 その爆雷を処理していくのは沖波と磯波。投射されるたびに撃ち抜いて、その場で爆破していく。密集している状態ならば、爆発が爆発を呼んだ。そこにさらに撃ち込むことで、その衝撃で爆煙を晴らし、視界が塞がることを防ぐ。

 

「私達は魚雷処理!」

「ぽい! そのまま近付いてぶん殴ってやるっぽい!」

 

 私と夕立で魚雷を撃ち抜いて爆発させていく。これも爆雷と同じように誘爆させていき、自分達の目の前が見えなくなるくらいの水柱が上がった。

 だがそれも陸奥さんの砲撃で即座に掻き消え、こちらも視界が塞がるようなことは無かった。激しい攻撃の前には、目眩しも基本的には起きない。代わりに近付きづらくはあるのだが、そこは私と夕立である。

 

「このっ!」

 

 そして村雨と萩風がどちらも前衛という戦術で突っ込む。私達の攻撃を前に出るための手段として使い、陸奥さんの砲撃を掻い潜りながら『黄昏』に接近。

 しかし、高速移動が無くなっただけで回避性能は残っており、2人がかりの攻撃をヒラリヒラリと回避していく。

 そこはやはり巫女。どんな巫女でも回避性能特化なのは今までの戦いや自分自身で嫌というほど痛感している。艤装の性能が失われても、そこだけは変わらない。

 

「厄介ナ連中シカイナイナ! イイ加減クタバレヨ!」

 

 回避しながらでも周囲にばら撒くような砲撃。もしや一斉射を見様見真似しているのだろうか。とにかく、陸奥さんの砲撃を回避しながら、陸奥さんと同じように撃ってくるため非常に厄介。直撃は即死、掠めても重傷というのは、こちらの攻撃を躊躇させる。

 

「それはこっちのセリフ。いい加減、沈んでもいいのよ」

 

 だが、陸奥さんは果敢にもそれを真正面から受けていた。あのネルソンタッチとの攻防を思い出させる、砲撃が砲撃とぶつかり合い、致命傷にならないところまで威力が落ちるとんでもない現象。あんなところに近付けない。

 

「イイ加減、死ネ!」

 

 ここで追加で艦載機を発艦。先程の空を埋め尽くす程ではないにしろ、膨大な数である事には変わりない。

 何処にそんな余力があるのかはわからないが、赤い海の上で強化されているというのは回復能力まで追加されているのかもしれない。ここで戦っている時点で、奴は強化されている上に徐々に回復していくとなると、こちらのことをどうこう言える程ではないくらい厄介なんだが。

 

 とにかく、艦載機は今一番来てもらいたくない。ヒトミとイヨの切り札はまだいるものの、頼り切るとその場から動けなくなる。さっきは初めての動きだったために『黄昏』も動かなかったが、一度見たものに対してはあんな行動は取らないだろう。

 

「噴進砲!」

 

 しかし、あの時とは違い今回は長門さんと陸奥さんがいる。2人は対空のための多連装ロケット砲、噴進砲を装備してきていた。本来は戦艦である2人が装備しても、十全の力は発揮されないらしいが、これがあるというだけでも心強い。おかげで、先程よりは回避しやすかった。それでもかなり厳しいが。

 

「っぶない! 大丈夫!?」

「相変わらず、酷いですねコレ!」

 

 村雨と萩風が被弾しかかっていたが何とか無事。直撃だけはどうしても免れなくてはいけないが、爆風を掠るくらいはしてしまった。

 それは私達も同じ。無茶はしていないつもりでも、小さなダメージが蓄積していく。顔や腕に擦り傷はもう仕方ない。艤装の効果で痛みは薄いが、血が滲むところだって見え隠れしている。

 

「クールタイムは終わりだ。私も前に出るぞ」

 

 そしてここで長門さんのクールタイム終了。するや否や即座に陸奥さんと並び立ち、いや、さらに前に立ち、主砲を構える。

 

「私には皆が力を託してくれた。この短時間で、ここまで来れるくらいにまで鍛えてくれた。ならば、その思いを背負い、全てを出し尽くす! 行くぞ、陸奥! 衣笠!」

「ええ、了解よ」

「ほ、ホントにやるの!? でも、やらないとダメだよね、オッケー!」

 

 長門さんを先頭に、陸奥さんも衣笠さんが縦に並んだ。え、まさか。

 

()()()()()()()()! 行くぞぉ!」

 

 一斉射に続いて、模倣版ネルソンタッチを発動してしまった。確かに長門さんの訓練にはネルソンさんが絡んでいるが、一斉射があるというのに、さらにそちらまでやるなんて聞いていない。

 艤装に変形機構なんて付いているわけが無いので、そのままただ突撃するだけではあるのだが、長門さんには鎮守府の守護者から引き継いだ力もある。緊急時にはそちらも使い、守りながらの突撃を決めてくれるだろう。

 

 

 

 これまでの攻撃で艤装にガタが来始めている。長門さんも陸奥さんも、何度も一斉射をしているため限界が近い。これが最後の一撃となるかもしれない。

 しかし、これを決めることで『黄昏』が終わらせられるのなら、限界を超えてトドメを刺す。覚悟の上での突撃だった。

 




支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】


【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/89043249
MMD静画のアイキャッチ風陽炎改二。世界から選ばれし者、対となる者覚醒の時とも言える、カッコいい陽炎。こんなん惚れてしまう。
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