異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
太陽の姫の巫女『黄昏』との戦いは佳境へ。足裏の艤装を半壊させたことで高速移動が出来なくなった『黄昏』に対し、クールタイムが終わった長門さんが決死の手段に出た。それは、本来ならば出来ない必殺技。長門さんと陸奥さんによる一斉射ではなく、そこに衣笠さんを加えた3人での突撃姿勢。
「ネルソンタッチだ! 行くぞぉ!」
そう、ネルソンタッチである。本来はその名の通りネルソンさんの突撃技。艤装を変形させ、敵に対して砲撃を繰り出しながら突撃する、熟練者だからこそ出来るようなトンデモ技である。敵が自分に向けて撃ってこようがお構いなしに、それを何故か回避しながら目の前を殲滅してしまう。それを長門さんがやろうというのだ。
そして、3人による突撃開始。先頭の長門さんが真正面に乱射し、後ろの陸奥さんがそれを補佐するようにやはり乱射。最後尾の衣笠さんが前の2人を守るように的確な砲撃。一斉射に1人足し、角度を変えつつも連携をしているようなものである。
そこはやはり本物ではない。実際はネルソンさんと一緒にやったとかではなく、こういう技であるという知識と、目の前で見たことによる模倣である。しかし、勢いは全く違う。今この場で終わらせようという気合いが乗り、無謀なんかではない渾身の一撃へとなった。
「コイツラ……!」
あの膨大な数の砲弾を1人で捌けるわけがない。まず確実に回避を選択する。真正面からの突撃なのだから、言ってしまえば横がガラ空きなのだから。
だから、ここで動き出すのはその仲間達である。勿論私、陽炎もあの長門さん達によるネルソンタッチ成功に貢献させてもらう。
「避けんな!」
「そこにいるっぽい!」
私と夕立のペアは、『黄昏』の横の位置を陣取っていたため、そこからこちら側に来ることを防ぐために魚雷を発射。跳ぶなら跳ぶでいいが、そうなったら余計に回避が出来なくなって、長門さんのネルソンタッチに押し潰されることになるだろう。
「こっちにも来てもらっては困りますよ」
「そこでジッとしてなさいな!」
逆サイドには萩風と村雨。私達と同じように魚雷を発射。このまま避けられたとしたら、魚雷同士がぶつかり合ってしまうだろうが、今はそれくらいしないと奴を避けられないようにすることが出来ないだろう。
「止マレェ!」
両サイドに避けられないようにしたことで、下がりながらも今度は長門さん達に魚雷を放つ。私達もやった、ネルソンタッチを止める手段の1つだ。
だが、それは私達が既に通った道。ネルソンさん達だと、その補助役を務めるプリンツさんが全てどうにかしていたが、こちらの3人組ならば当然衣笠さんがその立ち位置になる。
「止まらない。そんなものじゃ」
放たれた瞬間にもう衣笠さんが魚雷を撃ち抜いていた。水柱がいくつも上がるが、その目眩しのおかげで突撃はさらに捗る形に。
「オ前ラ邪魔バカリシヤガッテ!」
ここで本性が完全に現れたようだった。長門さん達の猛攻に耐え切れないと悟ったか、怒りを露わにしながら自らの持つ全戦力を一点集中。艦載機を防御に使い、砲撃も一切止めず、魚雷も追加で放つ。
もう『黄昏』の目には長門さんしか見えていない。私達が両サイドから放った魚雷は、どうにか下がって避けたようだが、そもそも長門さんが全く止まらない。
「正面に持ってきてくれるのなら、対空砲火でなくても!」
「少し頑丈だけど……ここでなら撃てる!」
正面でガードする艦載機を、沖波と磯波が的確に撃ち抜いていく。少しでもガードを剥がすために、小さなことでも1つずつ。塵も積もれば山となるのだから、2人も懸命に砲撃を続ける。
実際、長門さん達の砲撃を止めながら、横槍でも追加の砲撃が重なることで、艦載機は着実に数を減らしていった。これならネルソンタッチが通るのも時間の問題。
「イイ加減止マレヨ! ココマデヤッテルンダゾ!」
まだ足りないかと砲撃を一層激しくした。これにより長門さんと陸奥さんの共同で放っている砲撃と互角になり、空中でぶつかり合う砲弾がより増える。艦載機によるガードがある分、『黄昏』の方が有利かもしれない。さらには、ぶつかり合わずに擦り抜けた砲弾は、先頭の長門さんにいくつも掠めた。
進めば進むほど血が滲んでいく長門さんだが、表情は一切変わらず勇ましく立ち向かう。『黄昏』が何を言っても無駄。止まるわけがない。
「ならば貴様は我々の言葉を聞くのか。聞かないだろう。お互い様だ!」
より一層砲撃の密度が増し、遂には水柱すらも突き破って『黄昏』を捉えた。陸奥さんの砲撃も一点集中に切り替わっていき、『黄昏』の乱射でも艦載機によるガードでも、もう止まらない。
そして、ここに来てもう1つ。最初の長門さんの砲撃を尻尾でガードした時の傷が、今更になって響いていた。外部に傷がついていたことはみんなが見えていたが、あの砲撃により
延々と撃ち続け、魚雷も放っていた『黄昏』の尻尾から突如、バキンと酷い音が鳴り響いた。そして、自身の砲撃の衝撃で小さく爆発。そもそも砲撃が一瞬止まる。
「ナニ……ッ!?」
「しっかり効いていたようだな! 陸奥、行くぞ!」
「ええ!」
この瞬間、その場から長門さんと陸奥さんの姿がブレた。瞬きの間に移動していた2人は、『黄昏』を挟み込むように陣取っている。長門さんはわかるが、陸奥さんまでもが、鎮守府の守護者の力を引き継いでしまっていた。
長門さんの訓練をずっと付き合っていたため、おそらく一緒に訓練を施されたのだと思う。長門さんと違って、陸奥さんは艦娘としての歴も長いし、相当鍛え上げていたため、コツさえ掴んでしまえば実行することは出来たのだろう。
当然長門さんと同じようにクールタイムはあるだろうが、今ここが勝負時と判断して、反動による減衰のことなどお構いなしに突っ込んだ。
「最初はネルソンの突撃! 今のが伊良湖のスピード! 次は!」
長門さんの繰り出した目にも留まらぬ速さの手刀が、『黄昏』の喉を突いた。貫くつもりでやったかは知らないが、急所に一撃入れられたことで、『黄昏』は悶絶するように吹っ飛ばされる。
今のは伊良湖さんがやるような接近戦ではない。確実に殺す、首を狙う技。ならば、あれは神州丸さんから授かった、陸の戦い方だ。首を絞めるのではなく、一撃の下に沈めるための鋭利な刃。
そしてこれも、次弾装填にクールタイムが必要な技だったようだ。長門さんの力は見る見るうちに限界に近付いていく。だが、それを根性で乗り切ろうとしていた。身体中が擦り傷だらけだというのに、この戦いが終わるまでは倒れないという意気込みが誰にでも伝わるようだった。
「カッハ……!?」
「こんなの連打出来ないのよ、ねっ!」
長門さんが出来るということは、陸奥さんだって同じことが出来る。陸奥さんが扱うのは、神州丸さんの陸の力ではなく、間宮さんの力。何か来るとまた直感的に尻尾を盾にしようとしたようだが、今度は間に合わない。
陸奥さんが手を前に突き出した瞬間、『黄昏』の四肢を吹き飛ばすかの如く、砲撃が撃ち込まれた。腕はあのパーカーが守っていたせいで致命傷とまでは行かなかったが、松輪の爆雷を平然と耐えたそれがズタズタに引き裂かれている。そして脚はさらに損傷が激しく、その場に立っていられなくなっていた。
「ソンナ、僕ガコンナ……ッ」
巫女としての絶対的な自信を持っていたのは明確だった。実際、長門さんと陸奥さんが来る前までは無双していたわけで、圧倒はしたが圧倒されるようなことは無かった。だから、心の何処かに艦娘は自分以下の存在だと見下していたのはわかる。
そんな相手にここまでボコボコにされたのだ。その自信には確実にヒビが入り、今や悔しさが表情に滲み出ていた。動かない脚をジタバタさせながら、尻尾を長門さんに向ける。しかし、艤装は完全に破壊されてしまったようで、妙な音を立てるくらいで砲撃は放たれなかった。
「姉さん、後は任せたわ……私には負担がかなり大きいみたい」
「ああ、任せろ」
陸奥さんはここでダウン。伊良湖さんのスピードと間宮さんの砲撃を再現した時点でクールタイムに入ったが、あの一瞬の攻防だけで消耗が激しい。元々の戦闘スタイルが出来ている陸奥さんだから、むしろ長門さんよりも動けるかと思ったが、最初から仕込まれていた長門さんとは違うからか負荷が大きかったようである。滅多には見せない冷や汗までかいていた。
「私も限界が近いが、トドメくらいは刺せる。『黄昏』とやら、覚悟はいいな」
あちらと同じように、長門さんも主砲を向けた。その瞬間、改めて『黄昏』の四肢が吹っ飛ばされる。
これで長門さんもクールタイムへ。時間は少ないながらも、今はスペックが大きく下がる。神州丸さんの陸の力まで使っているため、その消耗は目に見えて激しい。
こんな力を序盤からバカスカ使うわけにはいかなかったため、この瞬間までタイミングを見計らっていたわけだ。確実に通用すると判断したことで、ここまでの攻勢に出たと。
「艤装ガ動カナイ……ッ! 腕モ、脚モ……ッアアアア!」
絶体絶命となって初めて、あらゆる感情が表に出ていた。
「……なんて言ってみたが、貴様は殺さん。あちらで群れと戦っていて理解出来たからな。ここで深海棲艦が沈んだら、その分この赤い海が拡がる。貴様を沈めた時、その効果は計り知れないのではないのか」
確かに、雑多なイロハ級を沈め続けたことで、赤い海はどんどんその範囲を拡げている。それは、沈んだ時の負の感情が瘴気となって染み込んでいるからだと予測された。
ならば、この『黄昏』が沈んだ場合でも同じことが起きるのでないか。しかも、知性を持ち、感情を得てしまった今、本能のままに戦うイロハ級以上に負の感情が激しい。
そんなものが沈んだ場合、その瘴気の量は尋常ではないだろう。最悪、その近くにいる私達に影響を与える程になる可能性まで考えられた。原液に身を浸すようなものになるかもしれない。M型異端児ならともかく、おそらくこの場で一番危ないのは夕立だ。対策インナーを突き抜けてくるなんてことだって考えなくてはいけない。
「嬲ルツモリカヨ……イイ性格シテルジャナイカ、艦娘ッ!」
「それくらいの恨みはあるが、わざわざそれを選択するほど荒んではいないさ。最初はそうだったかもしれないが、今は私も守護者としての自覚がある。嫌な気持ちで食堂の手伝いは出来ないんでな」
流石に四肢を捥いだ状態の『黄昏』を捕虜として連れていくのも憚られる。出来ることなら始末はしたい。これだけやって、自己再生なんてされたら目も当てられない。
しかし、沈めたら大惨事になる可能性だってある。ならどうするというのか。
「陽炎、1つ試してみたいことがあるんだが、いいだろうか」
「私?」
「ああ。『黄昏』に
一瞬耳を疑った。
「な、なんで!?」
「陽炎の分霊は、束縛ではなく解放と言ったな。例えば、群れの者も含めて、イロハ級と言っている連中が怨念から生まれたものだとしたら、その
無限に湧くことがわかっている深海棲艦は、怨念によりこの世界に縛られたもの、
そんなこと考えたことが無かった。しかし、死により生まれる負の感情を抑え込み、さらには強敵を葬ることが出来るのなら、理に適っているのかもしれない。最悪、この『黄昏』すらも無限に湧く可能性が考えられるのだ。レ級が無限に湧くのだから。
「……そっか、そういう考え方もあるのか。だから動けないようにしたの?」
「分霊中に妨害されたら堪ったものではないだろう。喧しいようだから口は塞ぐがな」
殺さず、だが行動不能にしたのは、そういう意図もあった。いざ殺すとなっても、こうなってしまえば反撃も出来ない。いざとなったらクールタイム終了まで待ってもいい。
だが、そう考えると分霊はいい手段かもしれない。この『黄昏』だって、事件に巻き込まれた被害者の怨念から生まれた者である可能性は否定出来ない。ずっと怨念に縛られているくらいなら、私の力で解放されてもいいだろう。
恨みと憎しみでこの世界に縛られた『黄昏』を安らかに眠らせることが出来るのは、束縛し続ける太陽の姫と対となる力を持つ私だけだ。
「……いいよ、やろう。私にしか出来ない解放なら、私がやるしかない」
「すまない。これ以外の方法が思い浮かばなかった」
この戦場の真ん中で、敵に向けての分霊を施すことになるとは思わなかった。しかし、戦いを終わらせるための最善の策になるというのなら、私はそれを選択しよう。