異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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魂の解放

 みんなの力で『黄昏』を撃破。しかし、長門さんはトドメを刺すことはしなかった。この赤い海で『黄昏』が沈んだ場合、知性を持ってしまったことにより、瘴気の原料となる可能性が高い負の感情が他より多いのではないかという見解。

 そこで、『黄昏』相手に分霊を施してほしいと言われた。私の分霊は束縛ではなく解放。怨念によりこの海に縛られている魂を、分霊により解放したら、瘴気を残さずに倒すことが出来るかもしれない。

 

「やってみるよ。それ、押さえ付けておいて」

 

 砲撃により四肢をやられていても、未だに死なずにこちらを睨みつけてくる『黄昏』に近付く。分霊を拒むようにジタバタするところを、長門さんが艤装を踏みつけながら押さえ込んだ。ここまで来たらもう動けまい。

 

「少し、黙っていろ」

 

 そして首に手を回し、余計なことを喋らせないようにロック。そのまま落とさないように慎重に絞めている、『黄昏』はそんな状態でも全く諦めていない辺り、忠誠心が高すぎる。

 

「みんな、周辺警戒。あちらではまだ戦ってくれているけど、コレの処理を妨害される可能性はまだあるわ。もしかしたら、姉さんやゲロちゃんごと粉砕なんてこともあり得るから」

「ぽい! 魚雷とかも警戒っぽい!」

 

 近場で潜っているヒトミとイヨにもお願いして、海上と海中の警戒を厳としてもらう。処置中に横槍を入れられることが一番やってほしくないことだ。

 ただでさえ、人間ではなく深海棲艦相手に分霊をすることが初めて。手元が狂ってえらいことになったら困る。そもそも、魂がどんな感じになっているかもわからないわけで、治療出来るかどうかすら未知数。出来たとしても、『黄昏』がどうなるか。

 

「じゃあ、やるよ」

 

 長門さんに完全に押さえ込まれたことでようやく諦めたのか、動きが止まった『黄昏』。そのままジッとしていてもらいたい。

 胸元に指で触れると、殆ど人間と同じように指が入っていく。そういうところは同じ。イロハ級かもしれないが、もしかしたら『黄昏』も元人間だったりするのか。

 

 なんて考えが全て取り払われるくらいの衝撃的なモノが待っていた。

 

「……えっ!?」

「どうした」

「魂が……1()()()()()()!?」

 

 こんな中を見るのは初めてだった。『黄昏』には、()()()()()()()()()()()()()

 

 当たり前だが、魂は1人につき1つ。ほぼ全員が真っ白な珠である。太陽の姫を筆頭にした分霊による侵食で、その一部が黒ずんだりすることはあれど、基本的にはそれに準ずる。少なくとも、私が見てきた人の魂は全員がそれ。例外はない。

 しかし、『黄昏』の魂は1つではなく複数。簡単には数え切れないくらいの、大小様々な魂が感じ取れた。こんなことはあり得ない。命がいくつもあるようなものだ。

 

「『黄昏』、どういうことなの」

「オ前ニ話ス義理ナンテ無イダロ」

「そりゃそうだ。じゃあ、1つずつ中和していくしかないね。喧しくしないでよ」

 

 問うたところで嫌そうに答えた。諦めて全部話してくれればいろいろ分かったのだが、長門さんが押さえ込んでいなければ、こんな状態でもまだ抵抗してきただろうから、暴れないだけ良しとしなければ。

 

 手近な魂に指で触れる。それはもう真っ黒と言えるほどに侵食を受けており、穢れもベッタリへばりついている。私が魂に対して直接分霊する以外に綺麗にする方法は無い。

 軽く深呼吸をした後、今までやってきた通りに分霊開始。その瞬間、『黄昏』も例外なく身体が跳ねた。当然痴態を晒すことを耐えるなんてこともせず、今までとは違う意味でジタバタともがき始めた。

 

「ッアッ!? アァアアア!?」

「黙ってて。私はアンタを救えるもんなら救いたいんだから」

 

 これは建前では無い。『黄昏』を構成している魂があの教団の輩だったとしても、正義執行のために殺された者達の集合体なわけで、その恨み辛みから解放してあげたいというのは本心だ。

 第一の目的は赤い海の拡張を防ぐことだが、その次には解放されない怨念を私の力で解放することにある。教団がどんなものかを知らない私が言うのもアレだが、颯元帥による正義執行で訳もわからず巻き込まれたという者も少なからずいるのかもしれない。むしろ教祖以外は全員巻き込まれたようなもの。

 そんな人達の魂は、解放してあげるべきだと思う。深海棲艦として無限に彷徨い続けるくらいなら、成仏してもらいたい。

 

 それを考えると、母さんは成仏せずにずっと留まっていたのだろうか。もう話すことも出来ないだろうから、真相は闇の中。

 

「っし、1つ目中和……って、魂がそのまま()()()()()()!?」

 

 ここも今までとは全く違う反応。穢れが失われ、魂が綺麗になったと思った瞬間、霧散するようにその魂が消滅した。その時に『黄昏』も大きな反応を見せ、そのままグッタリと力が抜ける。

 

「成仏したと見ていいのでは無かろうか。あるべき姿に解放されたと考えるのなら、この場から消えて然るべきだろう」

 

 深海棲艦は人ではなく怨念の塊と考えるなら、中和と消滅がイコールなのは間違っていないかもしれない。

 元人間なら、本来の魂が侵食されて変化させられているから大丈夫かもしれないが、こういう形の場合は消滅してもおかしくはない。つまり、深海棲艦とは形を持った亡霊みたいなものとして認識出来る。

 

「なら、深海棲艦への分霊はそのまま怨念から解放するって感じでいいのかな」

「私はそう思うがな」

 

 なら、遠慮なく次々とやっていくべきだろう。この赤い海で、無限に深海棲艦として擦り切れていくより、この場で成仏した方がいい。勝手な解釈かもしれないが。

 輪廻転生的なものが本当にあるのなら、ここで束縛されているのではなく、次の周回に入ってもらうべきだ。それが人の世というもの。

 

「なら、どんどん行こう。そっちは何も無い!?」

「ぽーい! 今んとこ何も無いっぽい!」

 

 太陽の姫からの横槍を考えたが、奴は沈没船から出てくるようなことは無いようである。海の底で何をしているかは知らないが、ちょっかいをかけてこないのならそのまま終わるまで待っていてほしいところだ。

 

「ウァアア!? ハァアッ!?」

「巫女なら我慢しなよ! 喧しいったらありゃしない!」

 

 流れで2つ目も終了。やはり消滅する瞬間に大きく震え、一際喧しくなる。こういう感覚は人間と一緒なのだろうか。

 

「まだまだまだまだあるんだから、こんなもんじゃ済まないよ。だけどね、アンタの魂は確実に束縛から解放されて成仏してるんだ。なんでこんな大量に魂があるかは知らないけどさ!」

 

 3つ目の中和へ。始まった瞬間も大きく震え、分霊をしている間は嬌声を響かせるのみ。3つ目ともなると体力も奪われ始めたからか、長門さんが軽く押さえているだけでも、もう自分から拘束から抜けようだなんて思わないようになっている。

 

「っ、やっぱり来た……! 総員、陽炎達を守り切るよ!」

 

 ここで衣笠さんの叫び声。私の『黄昏』への治療を妨害するため、防衛線の方から人員が割かれている。そこには戦艦の姫級の姿まで見えた。

 終わるまで私と長門さんは動けないため、この間だけでも食止めてもらいたい。太陽の姫そのものも来てしまう可能性もあるが。

 

「焦らず、確実に……!」

 

 少しずつ慣れていくからか、分霊のスピードが徐々に上がっていく。まだまだいくつもある魂を、1つ1つ確実に中和していく。

 

 だが、この分霊は私への疲労も当然ある。今までずっと戦ってきたのだから元より疲労は蓄積されていたが、魂に直接分霊を施す処置は穢れを拭うそれよりも格段に疲れるのだから、やればやるほど集中力が途切れかける。

 周りの音はより苛烈さを増していた。クールタイムが終わった陸奥さんと守護者である衣笠さんを中心に、みんなが私達のことを守ってくれている。砲撃の音、爆発の音、活を入れる声が止まらない。

 

「まだ終わらない……いくつあんのさ……!」

 

 焦ってはいけないとは思うが、本来1つしか無いものがいくつもあるというだけで、思った以上に精神的な負荷がかかる。疲労があるから尚更だ。

 

 この頃にはもう『黄昏』もまともな反応を見せなくなってきた。自分を構成する魂が1つ、また1つと成仏していくことで、得たものが少しずつ削り取られているようにも思える。

 その顔は殆ど人間そのものだった。激しい衝撃を何度も受け続け、今まで見せたことも無かった涙目で息も絶え絶えな姿。殺したいほど憎らしい存在だが、ここまでになると少し可哀想とすら感じる。だが、こうでもしないと後が怖いのだ。

 

「まさか……こいつは()()()()()()()()()()ことで、今の力を得たのではないか?」

 

 ここで不意に長門さんの考察。

 

「どういうこと」

「魂は1人1つが当たり前だろう。だが、こいつはそれをいくつも持っている。なら、()()()()()()()()()()()と考えるのが妥当ではないか」

 

 あり得るかもしれない。喰ったというか、丸呑みにしたというか。とにかく、他の深海棲艦と融合を繰り返して生まれたのがこの『黄昏』という巫女の可能性がある。それならいくつも魂を持っているのも納得出来るし。

 魂をいくつも持つのなら、本来出来ないはずの深海棲艦に対する分霊も可能なのかもしれない。私は中和して成仏させているが、束縛の力ならば、この複数の魂に効果を分散させるなりなんなりして、不可能を可能にしたと言われても疑問に思わなかった。

 

「『黄昏』、アンタ何体喰ったのさ」

 

 分霊を施しながら本人に問うた。大分大人しくなった今なら、もしかしたら話してくれるかもしれない。

 

「……23人……僕ハ……同胞ヲ23人喰ッタ……」

 

 ついに折れたのか、ようやく自分のことを話してくれた。これくらいなら太陽の姫に影響が無いだろうと考えてのことかもしれない。これを聞いたところで太陽の姫が今何をやっているかもわからないし、弱点に繋がることも無い。

 

「蠱毒……トイウモノダソウダ……」

「蠱毒って、あの……何だっけ」

「毒虫に共喰いさせて、勝ち残ったものを使役する……みたいなものだ。深海棲艦から巫女を作ろうとしたのだから、それくらいの呪法に手を伸ばすのは必然だったのかもしれないな」

 

 つまり、この『黄昏』は仲間同士で喰いあった結果、勝ち残った最強の深海棲艦だった、みたいなことか。で、喰っているから魂も複数ある。そのおかげで分霊にも耐えられた例外が生まれたと。

 

「陽炎、今いくつまで来た」

「13個。本人の分もあるだろうから、残りは多分11個」

 

 これでようやく半分は超えている。先はまだまだ長いが、出来る限り早く、だが焦らず、確実に成仏させていく。最初よりは格段に早くなっているし、時間さえあれば……。

 

「まずい! 長門さん、そこから逃がして!」

 

 しかし、簡単には行かないのはわかっていた。衣笠さんがそういうくらいなのだから、余程とんでもないものが来た。四の五の言っていられないと、長門さんは私と『黄昏』諸共を抱き上げてその場から撤退。

 

 その瞬間、先程までいた場所に強烈な水柱が立ち昇った。

 

「えっ、ちょ、なに!?」

「あれは……太陽の姫の水柱ではないか!?」

 

 本人の姿は当然見えない。あんなものが近くにいたらすぐにわかる。だが、あの水柱がダイレクトに私を狙って突っ込んできた。

 もしや、沈没船からここまで何かを飛ばしたとでもいうのか。ここからはまだ見えないどころか、そもそも『雲』と戦った海域自体が水平線の向こう側だ。その距離を攻撃してくるなんて有り得ない。

 

「陽炎さん! 今の、馬鹿デカイ魚雷! 海の向こうから突然突っ込んできたんだよ!」

 

 イヨが浮上して伝えてくれる。つまり、あの沈没船からここに向けて、雷撃を放ってきたということだ。どれだけ距離があると思っている。それだけ離れていてもこの精度とはどういうことだ。それこそ、針の穴を通すかのようなもの。

 しかし、ここは赤い海の中だ。太陽の姫の掌の上である可能性は高い。それならば、何処に何があるかなんて文字通り手にとるようにわかるかもしれない。

 

「そもそもここで事を起こしているのが問題だったか。すまない陽炎、一度赤い海から出るぞ」

「お願い! わざわざ危険を冒す理由ないもんね!」

 

 長門さんに抱きかかえられながら一時撤退。その間も『黄昏』への分霊は止めない。1つ、また1つと成仏させていく。

 ここまで来ると、中和のスピードも格段に速くなっていた。最初の1つと比べれば、倍以上の速度。

 

「よし、脱出した。行けるか」

「残り3つ!」

 

 こうなると、『黄昏』も殆ど虫の息である。魂を全て失ったときが『黄昏』の最期となるだろう。ゆっくりジワジワと死に追いやるのは可哀想だが、そうしなければこちらが笑いながら殺されていたのだ。私は心を鬼にして、だがせめて苦しまずに逝けるように、分霊を続けた。

 

「……最後の1つ。これで、おしまい」

 

 そして、私が見える範囲の魂は残り1つ。『黄昏』はもう声すら発しない。迫り来る死を受け入れ、しかし安らかな表情で目を瞑る。悔しさはもう無い。全てを諦めたような表情で、私の分霊を受け入れた。

 

「私達の勝ちだ。次に生まれ変わることがあったら、友達になれるといいね」

 

 そして、最後の魂を中和し、それが指先から消える。この『黄昏』からは、何もかもが失われた。

 

 

 

 しかし、その身体は消滅しなかった。

 

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