異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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虚ろな抜け殻

 沈めずに撃破した『黄昏』への分霊が完了。蠱毒の結果、本来ならあり得ない複数個の魂を持っているという特異個体となっていた『黄昏』だったが、分霊をする毎にその魂は成仏という名の消滅を繰り返し、ついに全ての魂が消滅した。

 しかし、予想していた『黄昏』の肉体の消滅は確認されず、そのまま残っている。勿論艤装もだ。

 

「これは……ど、どういうこと!?」

「私に聞かれても困る! 今は奴からの攻撃を避け続けるぞ!」

 

 私、陽炎は今、長門さんに『黄昏』諸共運ばれている状態。この分霊は都合が悪いのか、姿形を見せずともこちらに攻撃を繰り出してきている。忠告が無かったら、何処から来たのかもわからない魚雷の直撃で、全員木っ端微塵にされていただろう。

 その攻撃はまだ止まらない。立ち止まったら魚雷にやられかねない。立ち昇る水柱も、前と同じならば私達をかち上げ、そのまま海面に叩きつけられるわ追撃されるわで酷い目に遭う。

 

「陽炎、自分の脚で立てそうか」

「大丈夫……じゃないね」

 

 やれると思ったのだが、指摘されるとそれが出来ないことに気付いた。さっきは必死だったというのと、『黄昏』の前では気丈に振る舞いたいと無意識に思っていたのだと思う。

 だが、魂への分霊は穢れを浄化する分霊よりも格段に疲労が蓄積する。それが1つや2つではなく、24個という今までにない数をこなした後だ。正直、意識した瞬間にダメだった。今までの疲れがドッと出てきた。

 

「やば、意識したらかなりしんどい……手が震えてきた」

「疲労が蓄積しすぎたか。これは一度撤退するべきだろう」

 

 今でこそ長門さんに運ばれているから何とかなっているが、それが無かったら普通に太陽の姫の超遠隔魚雷にやられていただろう。こんな身体で戦うことはもう出来やしない。

 

「衣笠! 陽炎が厳しい!」

「了解! 今回はこれで撤退する!」

 

 出来ることなら、このまま太陽の姫を撃破するところまで行きたいところだったが、決め手となるだろう私が倒れてしまっては意味が無かった。ここはもう撤退以外無い。

 こうしている間も敵は無限に湧き続け、結局倒し続ける羽目になっている。赤い海も本来以上のスピードで拡張されており、タイムリミットもまた早まってしまったことだろう。最悪な場合、明日には陸についてしまうかもしれない。

 

「ごめん……かなりしんどい」

「皆がわかってくれるだろう。このまま私が鎮守府まで運ぶ。辛いなら寝ていてくれても構わないぞ。寝心地は保証出来ないが」

 

 ただでさえ攻撃を受けている状態だ。揺れとかは激しくなるだろうが、疲れを自覚してしまった私にはそんなこと関係無しに眠気が酷かった。目を瞑ったら意識が勝手に落ちていく。

 この戦いの結末はみんなに任せて、私はそのまま眠ることにした。いや、本当は眠りたくなんてないのだが、立て続けに分霊をしたことで身体が言うことを聞いてくれなかった。こんな戦場の真ん中で、私はそのまま意識を失った。

 

 今回の戦いは勝ち半分負け半分というところだろう。『黄昏』を撃破出来たことは勝ちだが、赤い海の拡張を助長してしまったことは負け。残り少ない時間をさらに少なくしてしまったのは残念である。

 だが、これで本当に太陽の姫のみになったはず。まだ巫女を作っていると言われたらどうしようもないのだが。

 

 

 

 私が目を覚ました時、外はすっかり暗くなっていた。あの後は長門さんの手で鎮守府まで運び込まれた私は、ただの疲労の蓄積だったものの入渠という形で回復することになり、今は工廠である。

 

「お疲れ様、ひーちゃん」

 

 着替えを持って待っていてくれたのは沖波。そろそろ入渠が終わるという話を聞いたため、いろいろと準備しておいてくれたそうだ。珍しく空城司令やしーちゃんはこの場にいない。

 疲れだけでここまでの入渠をするということは稀らしく、分霊がそれだけ私の身体を酷使していることを実感する。それで救ってきた者もいるわけだし、この力は私の誇りでもあるのだが。

 

「……戦況は?」

「あまり芳しくないけど、予定はそのまま続行だって」

 

 着替えながら、私が眠っている間に決まったことを沖波に聞いていく。

 

 一番の問題はやはり、拡がり続ける赤い海のこと。あの場から撤退してから、アクィラさんと青葉さんがすぐにまた再計算してくれていた。結果、あの戦闘によりリミットは半日近く短くなったとのこと。それならまだ予定通りに進めてもギリギリ陸に辿り着く前に決戦に行ける。

 残り2日の準備期間と、翌日3日目の最終決戦があっても、半日残る。本当にギリギリだ。ここからまた加速されたら困るが。

 

「次はもう何があっても決戦まで行くつもりだって。どうにか釣り上げなくちゃって悩んでた」

「だよねぇ……太陽の姫も、赤い海が陸に届くまで表に出てこないって可能性は全然あるわけだし」

「松輪ちゃんを囮に使うことも、最後の手段だけど使わざるを得ないって言ってたくらいだもん。大分行き詰まってるみたい」

 

 最終決戦と意気込んで向かい、太陽の姫が出てきませんでしたでは困る。海底に潜んでいるというのが、そういうところで厄介だ。

 

「あ、そうそう。大怪我を負った人はいなかったけど、みんな小さい傷はあったから、順次入渠とか薬湯とか使ってたよ。ひーちゃんが一番最後だったって感じかな」

「じゃあ、みんな無事に撤退出来たんだね。よかった」

 

 太陽の姫の妨害はあったものの、あのまま全員が赤い海から撤退することが出来たようだ。犠牲者が誰もいないというだけで、ホッと胸を撫で下ろすことが出来た。重傷者もいなかったというのは幸いである。

 で、ここで思い出した。作戦もそうだが、下手をしたらそれ以上に重要なこと。

 

「……『黄昏』はどうしたの!?」

 

 魂が全て消滅しても残っていた『黄昏』の身体。中身が空っぽな、言ってしまえば()()()みたいなもの。私と共に長門さんが抱きかかえていたが、やはりあのまま鎮守府まで運んで来たのだろうか。それとも、ここに到着する前に()()してしまったか。

 

「『黄昏』の身体はここにあるよ。司令官も今そこにいる。ひーちゃんも起きたら来てほしいって言ってたから」

「そっか。すぐ行こう」

 

 私がこうやって眠っている間、『黄昏』の身体は医務室に安置されているそうだ。幸いにも、今回の戦いに出た仲間達は医務室で一晩を過ごさなくてはいけないような人はいなかったようである。

 さすがにあの身体を放置するわけにもいかないし、沈まず消滅もしなかった深海棲艦の肉体なんてレア中のレア。出来る限りの調査をしていくというスタンスらしい。速吸さんが苦い顔をしているのが目に浮かぶようだった。

 

「あの尻尾の艤装とかもあるし、中に入れるのは大変だったでしょ」

「あ、ひーちゃん気付いてなかったんだ。アレ、帰ってくる最中に身体から剥がれ落ちたんだよ」

 

 さすがに失われたあの艤装を拾って持って帰るということは出来なかったようだ。潜水艦の面々が運ぼうとしたが、最後の最後まで太陽の姫の妨害が止まなかったことで断念したとのこと。赤い海から出てもしばらくの間は魚雷が飛び交っていたらしい。

 つまり、今の『黄昏』は完全に非武装ということか。両腕と両脚もやられているので、無いとは思うがもし目を覚ました場合でも、一切こちらを攻撃出来ない。噛み付いてくるとかそういうことがありそうなので、それでも扱いは慎重にしなくてはいけないが。

 

 

 

 医務室に到着。そこには人だかりが出来ていた。物珍しさというのもあるだろうが、憎き深海棲艦の身体がここにあるとなったら、それがどのように扱われるかは興味が湧くというもの。

 

「目が覚めたかい、陽炎」

「うん、おかげさまで。疲れで入渠とかごめんなさい」

「いや、魂への分霊が極端に体力を使うことはアタシも把握していたことだ。これは仕方ないことだよ」

 

 医務室の中には、予想通り空城司令としーちゃん、そして調査をしている速吸さんがいた。『黄昏』の身体には、よく見たことがあるケーブルやら装置やらがいろいろと接続されている。同期値とかそういうものも計測しているのだろう。

 

「私が分霊したことで、『黄昏』の中にある魂は全部消えたはずなんだけど、それなら身体は消えると思うんだよね。でも、現にここに残ってる」

「ああ、それに困ったことに、この身体は()()()()()。心臓らしきものは動いているし、なんなら呼吸すらしている。だが、目を覚ますことは無いだろうね。魂の無い、虚ろな抜け殻なんだ」

 

 抜け殻になってしまったとしても、身体が生命活動を止めないように維持しているらしい。深海棲艦が全てそういうものなのかはわからないが、この『黄昏』は特異中の特異のようである。

 というか、傷によって命を落とすのとは訳が違う。魂のみが消え去ったわけで、命を奪ったわけではない。身体が死として認識していないのかもしれない。

 

 抜け殻という表現は、ある意味間違っていない。魂を持たない肉体は、生きていても動くことはない。

 

「身体の成分も特殊でした。ここで出来ることなんて高が知れていますけど、どちらかといえば()()()()感じですね」

 

 ここからは速吸さんの説明。深海棲艦の肉体をこうやって調べる機会なんて、太陽の姫が現れてから10年間で一度たりとも無かったこと。死ねば消滅し、あの場所では瘴気を残すだけだし、生きたまま鹵獲なんて出来るわけが無い。出来たとしても、撃破した後に残された艤装の解析程度である。そのおかげで私達は艤装を持っているわけだが。

 

 話を戻して、深海棲艦の肉体。その場から突然生まれるというのなら、そこにあるもので身体の芯を作る必要があるだろう。人間をベースにして変質させた巫女とは違う。

 で、そこにあるものというのは基本的には海水しか無い。あとは海底の土、砂、石、魚や海藻などの海の生物くらいか。それが芯となって作られた肉体と考えれば良さそう。怨念がその材料を掻き集めて()()したという感じか。

 

 ……太陽の姫がそこにあるものを粘土細工のように捏ねている姿を想像してしまった。そんな微笑ましいものでは無いだろうに。

 

「人間の怨念がそれを作り上げているということで、身体の質は限りなく人間に近いんでしょうか」

「それが妥当じゃあないかな。元ある姿に戻ろうとして、こういう人間の形になっちまうんだろう。バケモノみたいな形のヤツは、他の雑念が多く混ざってるとかがいいところじゃないかい?」

 

 そう考えると、海は怨念で満ち溢れているようにさえ思えてしまう。否定は全く出来ない辺りが残念。

 

「で、だ。当たり前だがこの肉体の今後についてを考えなくちゃあならない」

 

 それはそうなるだろう。ずっとここに置いておくわけにはいかないし。

 

「これに関してはアタシの独断で決めることはさすがに出来やしないからね、アンタが寝ている間に、颯元帥に連絡しておいた」

「元帥に!?」

「そりゃあそうだろうよ。人間の深海棲艦化や、アンタの分霊の力についても報告しているんだ。消滅しない深海棲艦の身体の鹵獲のことだって伝える必要はあるだろう」

 

 大本営トップと直通の連絡が出来るというのは、こういうときに役に立つものである。

 今は大本営内にいる独断行動をしているものの調査とその対応に追われているようだが、この件は即座に取り次いでくれたそうだ。

 

「選択肢を与えられた。1つ目は、人間と同じように供養する。身体は生きているが、魂が無いため死んでいるようなもの。目が覚めないのなら、そのまま終わらせてやるのが本来のやり方だ。だから、このままこの肉体の命も絶ち、人間と同じように弔う」

 

 正直、それが一番妥当な気はする。魂を失ったことで目を覚まさないのだから、置いておいても仕方ない。そもそも深海棲艦をそのままにしておくというのは鎮守府の運営理念に反する。

 敵とはいえ、こうやって肉体は存在するのだから、最期を作るのはこちらの仕事。下手な方法だと怨念の温床になりかねないので、しっかりと弔ってやれば後腐れも無いだろう。

 

「2つ目は、大本営に引き渡す。消滅しない深海棲艦の肉体なんてレアケースは、深海棲艦のことを調査をしている者達にとっては垂涎の的だろう」

 

 今でこそこうやって置いてあるが、大本営に引き渡して徹底的に調査するということか。そうなると、この身体を解剖して、深海棲艦の生態を隅から隅まで確認することが出来るだろう。

 本来情を持ってはいけないとは思うのだが、それは少し可哀想に思えてしまった。殺し合いをしておいて何を言うんだって話だが。

 

「そして3つ目……これはアンタに関係が出てくる」

「私に?」

「ああ。……この肉体にさらに分霊を施し、()()()()()()()()()()()()

「はぁ!?」

 

 そもそも魂が全て消滅しているので、それが出来るかどうかもわからない。何も無いところに分霊したら魂が生まれるかと言われても何とも言えない。やったことが無いのだから。

 だが、『黄昏』が即戦力なのは私にだって理解出来る。味方にすることが出来れば百人力だろう。()()()と同じならば、巫女としたその場で艤装も形成されるだろうし、私から直接となれば分霊の力も得られるだろう。赤い海を中和するための、M型異端児の分霊が。

 

「正直、大本営に送ることよりも人道的では無い気がしないでもない。それは、太陽の姫と同じ束縛に他ならないだろうしね。それに、アンタがそれを承諾しないだろうに」

 

 難しい問題だった。私の意思としては、そんなことしてはいけないと思う。分霊で私の力で染めることは、その相手を破壊する行為に等しい。

 だが、戦いに勝つ手段としては上等だとすら思えてしまった。『黄昏』は既に壊れてしまっており、私の分霊はむしろ治す方向に繋がりかねない。

 

「アタシとしては最初の案、弔う方向で持っていきたい。とはいえすぐには出来ないからね。この身体は一晩ここで寝かせておく」

「……うん。私もその方がいいと思う」

 

 

 

 正直、私には答えが出せなかった。

 




『黄昏』の身体をどうするか。魂の無い抜け殻とはいえ深海棲艦だけど、分霊したら何か変わるかもしれない。でも放っておいたら何かしでかすかもしれない。難しいところ。
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