異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
颯元帥に見てもらうため、『黄昏』の抜け殻が安置されている医務室に入ったところ、予期せぬ事態が起きていた。その抜け殻の目が開いていたのである。
ついさっき、というか盗人達に持ち出された直後、安置する時は目を瞑っていた。眠るように置かれ、命はあるものの魂が無いため、絶対に目が覚めないくらいの状況だったはず。それなのに、今はこれである。
「これは……どういうことだい」
「今日は誰も出入りするようなこともないですし、施錠は出来ませんが入室を禁止しています。悪戯とかそういうことは無いはずです」
空城司令やしーちゃんもこの事態には驚きを隠せない。これはもう意思を持っているようなものだ。
「ちょっと見てみる」
ここで一番力が発揮出来るのは私、陽炎だ。目を覚ましたということは、
目を開いた『黄昏』の抜け殻の胸元に指を突き入れた。指先には何も感じるものが無いはず。はずだったのだが……。
「えっ……」
その指先には、確かにその存在を感じられた。今までに感じたことのない。小さな小さな
「なんかある……なにこれ、どういうこと!?」
本来の魂がソフトボールくらいだと例えると、この魂は米粒ほどの大きさ。言い方は悪いが、残りカスが集まって出来たかのような、なんとか形作っていると感じられるほど小さなものである。
しかし、その形はまさしく魂。純粋で、真っ白な、深海棲艦のものとは思えないくらいのそれ。
「あの時確かに全部消滅した。あの時にこんなもの無かった。でも、一晩置いたことでこれが出来たってこと……?」
「アタシ達に聞かれても困る。アタシ達は魂の存在を知覚出来やしないし、元々どういうものかってのすらわからないんだ。アンタの言うことは真実だと信じているが、理解にまでは行っていない」
そりゃそうだ。これがわかるのは、分霊が出来るもの、もしくはしたことがあるものくらい。この鎮守府にいるものならば、私と強いて言うなら村雨だけ。
これは確実に前代未聞の流れであることがわかる。共食いの結果生まれた『黄昏』だからこそ起きてしまった珍事かもしれないが、それにしてもおかしい。
とにかく、こうなってしまうと処遇にさらに困る。魂があるということは、意思もあるかもしれない。それがまた敵意ある『黄昏』としての意思ならば、こんな状況でも戦闘になりかねないのだ。
今でこそ非武装だし、四肢を破損して動くことすら出来ないのだが、何が起きるかわからないため、慎重に事を成していかなくてはいけない。まずは『黄昏』に対してコミュニケーションを取ってみる。
私が指を突き入れても無反応だった。敵意のある意思を示すなら、動けないにしろ表情を変えるなり文句を言うなり出来ると思うが、そういうことをしてこない。むしろ話すことが出来ないとかはありそう。
「何か話せる?」
敵意のない状態だからと、一応優しく問いかける。無駄な戦いは無い方がいい。聞き分けがいいのなら、尚更そのままでいてもらいたい。
私が話しかけたことで、目だけが私の方を向いた。これは言葉がわかっているというよりは、自分に対して何かされたので反応したという程度。見た目はこれだが、反応は動物のそれ。
「話せない、かな」
チラリと私と目が合う。やはり敵意は感じられない。どちらかといえば、懐いている方に近いか。無表情ではあるものの、私に向けてくる視線には親愛のようなものが感じられた。それにより、『黄昏』の人格がこの抜け殻には存在していないということを理解した。
記憶とかはどうなのだろう。ああいうものが魂に紐付いていたとしたら、『黄昏』としてのレ級は失われていると考えるのが妥当だが、その辺りも言葉を紡いでくれないためにわからない。
というか、本来のレ級は人語を介することが出来ないのだから、これが当たり前の姿か。狂っていない戦艦レ級となれば、ある意味正しい姿なのかもしれない。
「……空城君。私の意見を先に言わせてもらっていいだろうか」
「多分同じ意見だと思うが、先に言っとくれ」
「こうなってしまっては、弔うのに抵抗があるのだが」
「奇遇だね。アタシも同じことを考えていた」
魂がなく、生きていても目覚めることが無いのだから、そのまま弔うという流れになった。命を絶つことに抵抗はあるものの、二度と目覚めない者を静かに終わらせるというのは、倫理的にもギリギリ。絶ち方にも穏やかに死ねるような安楽死を選択肢させていただろうし。
しかし、今の『黄昏』の抜け殻は明確に生きている。薄いながらも意思に近しいものを感じさせる何かを有している。魂を得てしまったのだから、これはもう、命を奪うことに抵抗が出てもおかしくない。
「陽炎、その小さな魂ってのは、中和で成仏させることは出来そうかい」
「多分無理。深海棲艦の魂と違うよコレ。どちらかといえば、沖波とか村雨に近い」
私の見解としては、
ここでふと思い浮かんだことがある。『黄昏』の抜け殻がこうなってしまった理由。
「成仏した瞬間に分霊が少し残っちゃった……!?」
計24個の魂を成仏させた際に、その全てから知覚出来ない程の分霊が内側に残ってしまい、それが一晩かけて結合され、この魂になったと考えたらいろいろと辻褄が合う。
それに、昨日は抜け殻が持ち出されて普通ではない状態にされたのだ。ソ級に触れられたことも何かしらの影響を与えているかもしれないし、盗人の奪い合いという危機的状況から身体を守るために魂が生まれたという可能性すら考えられる。
蠱毒により、あらゆる艦種を取り込んだ『黄昏』という特異個体だからこそ、内側の動きも特殊になってしまったとしたら、どんなことが起こってもおかしくはない。
「つまり……この『黄昏』の抜け殻は、僅かにだが
「その可能性は高い……かな。私、こうならないようにすごく慎重にやったよ? なのに……」
経緯はどうであれ、結果はこれだ。抜け殻は魂を取り戻し、意思らしい意思があまり見えないにしても、『黄昏』は私の分霊により巫女になりかけている。
「……アタシとしては、だ。こうなっちまった以上、このまま中途半端にしておくよりは、完全に巫女にしてやった方がそいつのためだと思う」
このまま放置するのも可哀想という感覚も出てきているのは確かである。だが、巫女にするというのは、相手の人生を壊す行為だ。そこに私はずっと抵抗を感じてきた。
「そいつはもう『黄昏』じゃあ無い。巫女のなりかけとして生まれ変わった新しい命だ。なら、完全に巫女にしても誰かの人生を壊すわけじゃないし、むしろ巫女にしてやれば新しい生を謳歌出来るかもしれない。気休めにしかならないだろうがね……」
そんなの屁理屈だと思いながらも、それが最善であることも何となくわかっていた。『黄昏』の抜け殻がこうなったのは、少なからず私がきっかけである。なら、私が責任を取る必要だってある。
あの時の戦闘の最後を思い出した。私は『黄昏』に、生まれ変わることがあったら友達になれるといいなんて話した。それを今、少し違う形で実践されたようなもの。
「……わかった。これが最初で最後。この子を、『黄昏』を、
決意した。こうなってしまったら、もうやるしかない。後戻り出来ないのなら、それが人の道を外れても突き進む必要がある。
私の分霊から生まれた命だというのなら、私が最後まで責任を取らなくてはいけない。沖波を殺した業を背負えたのだから、『黄昏』を生まれ変わらせた業も背負ってやる。
「でも、名目は陽炎の巫女かもしれないけど、それは私が束縛することになるから……そんなしがらみから解放されるようにって思いを込めて、分霊をするよ。もう一度、やらせてね」
再び『黄昏』の胸元に指を突き入れる。やはり無表情で抵抗は無いが、視線は追ってくるようになっていた。私の今からやることに興味があるような視線。
「少し辛いかもしれないけど我慢して。私は無理矢理変えたいわけじゃない。自由に生きられるように、アンタを解放したいだけだから」
指先が米粒ほどの魂に触れたところで、今までと同じように分霊を施していく。
途端に『黄昏』の身体が跳ねた。何かしらの感覚があるかはわからないが、少なくとも分霊を施されるものと同じ反応をしている。表情は変わらないし、声も出さないが、やはり分霊は分霊。
私の持つ分霊は、束縛ではなく解放の力。私に縛り付けるのではなく、しがらみだらけだった『黄昏』としての運命から解放されるために処置を施している。自由になれる身体を、思考を、魂を得られるように。
「うそ、魂が少しずつ大きくなってきてる……!」
ここで今までとは違う反応が見えた。私の分霊が魂を侵食していくのではなく、小さすぎるくらいの魂が少しずつ大きくなっていく。分霊を取り込み、自らの魂を強化し、『黄昏』は新たな命を確実なものとしていっている。
そして、その効果は確実に見えるようになってきた。一切表情を変えなかった『黄昏』は、魂が大きくなるにつれて少しずつ表情が豊かになってきていた。分霊による快楽を顔に表すようになってきていたのだ。
私が新しい『黄昏』を作っている。いや、
「っあ」
ついに声も出始めた。その時には、魂は最初の小ささを感じさせないほどに大きくなっており、あと一息でみんなと同じくらいの大きさへと成長するだろう。
「っあっ、んぁあっ!?」
分霊を受けている者特有の嬌声だが、気にしないことにした。颯元帥は男性であるためにとても居心地が悪そうだが、申し訳ないが見届けてもらう。これが私の力であり、大本営にも知ってもらう必要のある内容だ。
大和さんも顔を赤らめながらその光景を見ている。ヒトミのように拗らせないように注意してほしい。
「もう少しだから、もう少しだからね」
そういえば、深海棲艦特有の聞き取りづらい声でもなかった。まるで私達と同じ、人間に近い発声。もしかしたら、私のこの力により深海棲艦から人間へと変わっているのだろうか。それは解放とはいえないと思うが、M型は深海棲艦ではないため、それに適した身体に変化していると考えるならそれも間違っていないか。
「うぁああああっ!?」
一際大きな声を上げた瞬間、傷付いていた四肢すらも治療された。分霊による変化は、傷を全て完治させることは実証済み。これは『黄昏』も例外では無かった。前とは違い、その脚は人間と同様なモノになっているのは一旦置いておく。
さらには真っ白だった肌も血色が良くなってくる。深海棲艦……というかレ級特有の白髪はそのままだが、見た目だけは深海棲艦から人間になったと思える程に変化した。肌が色付くだけでもかなり印象が変わる。
その時には、魂は立派な大きさにまで成長し、みんなと同じサイズに。わかる人が見れば、この『黄昏』は深海棲艦ではなく人間であると声を揃えて言うだろう。
「……おしまい」
指を引き抜いた瞬間、どっと疲れが出た。これは正直、分霊による魂の浄化よりも疲労が溜まる。創造に近いことをやっているのだから無理もないか。
対する『黄昏』も、快楽の奔流を受け続けていたことで息も絶え絶えだった。潤んだ瞳でこちらを見てくるが、やはり敵意なんて何処にもなく、親愛の念が感じ取れる。
「ふは……はぅ……」
「立てる?」
四肢も修復されたことで、ある程度自由に動けるようになっただろう。私が手を貸してやると、その手を取ってベッドから下りた。少しだけフラついたが、その足でしっかりと地面を踏みしめる。
あの戦闘の後、身体を綺麗にしてから寝かされていたため、一応検査着を着せられていた。そのため、颯元帥の前に立っても安心。さっきまでの乱れようは記憶から消してもらいたい。
「僕は……僕は……何? 僕は一体……」
まともに話せるようになったものの、自分のことがわかっていない。やはり、記憶は魂に紐付けられていた。全てが成仏し、新たな魂が生まれたことにより、全てがリセットされているようなもの。
その新しい人生が、陽炎の巫女としての一歩というのは申し訳ない気持ちになる。
「……アンタは陽炎の巫女、名前は……そうだね、黄昏だとちょっと拙いだろうから……いっそミコとかにしようか」
「陽炎、その子の名前は『ミコト』にしてやんな。流石にダイレクトは良くない。それに……ミコトってのは、命と書くことが出来るからね」
新たに育まれた
「ミコト……僕は……ミコト」
「そう、ミコト。陽炎の巫女、ミコト」
「ミコ……っあぁんっ!?」
それを自覚したことで、陽炎の巫女へと昇華されていく。私達もそうだったが、身体が完全な変化を遂げた後は、力を得るための流れに。これもまた快楽の奔流に巻き込まれるので、ブルブルと震えながら蹲り、その変化を受け入れていった。
レ級の時のビキニスタイルとは決別したかのような身体に密着したレオタード状の装甲が生まれ、身体に張り付いていく。また、あの時の磯波のようにニーハイソックスのような装甲も同時に生成されて脚を包み隠した。
その上には、これは決別出来なかったかパーカーが出来上がる。レ級らしさがどうしても出てしまうが、これは手放せないのだろう。元深海棲艦であることをこれでもかと強調する品。
そして問題の艤装は、これもまたレ級と同じように、尻からズルズルと生えるかのように生成された尻尾。しかしデザインが一新されており、生体兵器のような生々しさは一切無く、全て機械で作られたドラゴンのようなものとなった。
「んっ、あふぅ……んんっ……」
余韻に浸りつつ、改めて立ち上がる。少し昂揚しているが、自分の存在を自覚した、少し自信を持った表情。
「僕は、陽炎の巫女、ミコト」
ニコッと笑って、私に抱きついてきた。
私としてはとても複雑な気分だった。ついには新しい命を生み出してしまったようなもの。そんなもの、神様のようなのではないか。
艦娘側のレ級ことミコト。デザインも一新して、レ級らしさを残しつつも艦娘として、そして陽炎の巫女としての姿になりました。尻から生えた艤装はサイバー・ドラゴン。
支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/89187541
MMD静画のアイキャッチ風衣笠。最近の戦力上昇で目立ってきたガッサさん。M型異端児部隊の司令塔としてがんばってもらいたいものです。