異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
ミコトの検査が終わり、正式に鎮守府の一員とされることが決定。颯元帥が一部始終を見ていたということもあり、その辺りはスムーズに行きそう。
生まれ変わったとはいえミコトは元々深海棲艦なのだが、それを言い出したら萩風や長門さん、村雨にも何かしらの影響が出てきてしまうし、活動中に一時的に深海棲艦となった私達にもいろいろと出てくる。私達を許してくれているのなら、ミコトも許してもらえると思う。
というか、そうしてもらわないと困る。ミコトは巫女であるため、私の分霊の力もしっかりと引き継いでいるからだ。最終決戦の場で、無限に湧いてくる防衛線の深海棲艦を成仏させることも出来る可能性が高い。
「私と大和は執務室に戻り、伊58のことを見ておく。起きているのなら詳しい話も必要だと思うからな。空城君はミコトのことを公表してくれ」
「ああ、そうしよう。また食堂に全員集まるとするかね。昼飯時まで待つわけにもいかないだろう」
何も言わずにミコトと行動していたら、流石に驚かない者はいないだろう。ここまでまともになったのだから、仲間として受け入れられるかはさておき、鎮守府のメンバーになることを全員に通達しておかなければならない。
今でこそ医務室でこうやってミコトのことをやっているが、この時間はみんな訓練だったり哨戒だったりと仕事中だ。哨戒任務に関してはどうにもならないため、戻ってきてから話をすることになるが、今ここにいる者達にはミコトのことを知ってもらっておきたい。
「今日の哨戒って誰だったっけ……」
「おおよそいつものメンバーだね。少なくとも由良も松輪も今は鎮守府にいる」
私、陽炎の心を見透かされているようだった。
個人的に一番心配しているのは、由良さんと松輪だ。由良さんは『黄昏』に瀕死の重傷を負わされており、松輪はそれをトラウマに思っている可能性が非常に高い。仕方ないとはいえ、ミコトの身体は『黄昏』そのものなのだから、あの時のことを思い出すに決まっている。
他の者は何だかんだ受け入れてくれるような気がする。萩風の時といい、長門さんの時といい、すぐに受け入れてくれた。私の時もそうだったし、村雨は最初にしーちゃんを人質に取るという暴挙にすら出ているのに、今や完全に仲間だ。ならば、ミコトも大丈夫、のはず。
「ミコト、アンタのことみんなに紹介するからね」
「はぁい。仲良くなれるかな」
「きっと大丈夫だよ」
気休めにしかならないかもしれないが、ここでミコトを不安にさせても意味がない。ミコトが仲良くしたいと思っていれば、みんながそれを受け入れてくれる。
ミコトのことについては、すぐに説明がされた。私はミコトについていたため、空城司令がどのように説明したかはわからない。少なくとも、嘘はつかずここで起きたことをありのままに話したのだと思う。
だからだろう、ほぼ全員が集められた会議室が、普通では無いくらいに騒ついていた。その声が医務室に聞こえたほどである。抜け殻は人だかりが出来ていたくらいだし全員が見ている。殆ど亡骸みたいなものだったのが蘇っただけでもこういう具合になるのは予想出来た。
そして、頃合いを見てしーちゃんに呼び出され、ミコトを連れて会議室の前に。まだまだ騒がしい状態ではあるが、さっきよりは多少は落ち着いている様子。
「陽炎、入ってきな」
「うん。ミコト、いいね?」
「はぁい」
空城司令に呼ばれたため、ミコトと一緒に部屋の中に入る。その姿がみんなの目に入った瞬間、今までとは逆に一気に静まり返った。息を呑むような音まで聞こえてくる。
それが敵意の無い新しい命だとしても、死闘を繰り広げた『黄昏』と同じモノなのだから、驚きを隠せないに決まっている。空城司令がみんなを集めて冗談を言うわけがないが、それを見るまでは信じられないようなことだ。
「みんな、僕の顔見て驚いてるよ」
「ミコトはね、前に戦った敵とそっくりなんだよ」
「そうなんだ。でもそれは僕じゃないよね」
これはまた難しいことを言う。『黄昏』であって『黄昏』で無いのがミコトだ。だから、今のミコトの言葉に対して答えることが出来ない。言葉では表せなかったが、首を縦に振っておいた。
私達はしでかしたことを全て覚えていたから、人間に戻ることが出来た後も、その時の感情やら記憶やらに振り回されて苦悩したのだが、ミコトにはそういうものが無いため、周りのこの反応の理由がわからない。そっくりな敵がいたと説明するくらいしか出来ない現状である。
「陽炎の巫女、ミコトだ。この子には、陽炎と同じく分霊の力も備わっている。仲間として加わって早々だが、最後の戦いには参加してもらう予定だ」
「ほほう、ならば我々が薙ぎ倒した者を片っ端から分霊し、その魂を消し去っていってくれるわけだ」
「そうなるね。まだ可能性なだけだが、おそらく可能だろう」
ここで一番最初に言葉を発したのは、やはり空気を読むことをしないネルソンさんだった。一切の警戒もなく、ミコトに対して信用の視線を送っている。颯元帥のときもそうだったが、こういう時に先陣を切ってくれるのは結構ありがたい。
別にうちの鎮守府の艦娘達が全員内向的というわけではない。むしろ結構前向きに接してくれる。外の者であるネルソンさんが、それ以上に前向きなだけ。というか後ろを向かない。ネルソンタッチの如く前しか見ない。
この事態、援軍が来ていなかったらどうなっていたのだろう。今でも静かなままだったのだろうか。それとも誰かがきっかけを作ってくれたか。
「ミコトとやら、貴様は我々の戦いを手伝ってくれるのか?」
「うん。僕も戦うよ。陽炎の巫女だもん。お母さんがやってほしいって言うなら」
「んん? 今お母さんと言ったか? 流れからして、カゲローのことだな。ついにMotherとなったのか!」
やはりお母さん発言で大きく騒ついた。今までにいろいろあった私の中でも、これは違うベクトルからの衝撃。もしかしたら、ご主人様のままの方が良かったまである。夕立や磯波の件もあるし。
「ゲロ姉そりゃダメだって。いきなり一児の母とか」
「この子がそう呼ぶって聞かないの。最初ご主人様だったからね?」
「うっわ、流石太陽の姫の対となる者。侍らせるんすねぇ」
ケタケタ笑いながら秋雲が冷やかしてくるが、この辺りは予測済み。こういうところを即弄ってくるのは秋雲か夕立ではないかと思っていたが、まさにドンピシャ。
こういう形でも笑い話に持っていってくれれば、ミコトは受け入れられやすいかなとは思っていた。事実、これがきっかけになって、みんながミコトに対しての警戒を少しずつ解いていく。犠牲者は私。
ここからは短時間ではあるが、ミコトが仲間として受け入れられるように交流の場とされた。もう大丈夫なのだからと、近付くものも多数出てくる。その場で新人歓迎会みたいなことが行なわれてしまうレベル。
「ゲロ様の子供っぽい? なら、異端児っぽい?」
「M型の同期値が計測不能だったよ。そういうところは私と同じ。直に分霊した巫女だからじゃないかな」
「なら確かに最終決戦には出ることになるのね。こんなに早く後輩が出来るとは思わなかったわ」
早速仲間として扱っている夕立と村雨。特に村雨はここでは一番の新人になるし、太陽の姫の巫女という境遇からしてもミコトは後輩。少し違った感覚がある様子。
「ゲロ姉がお母さんってことは、秋雲さん叔母さんになっちゃう? ハギ姉どうなのさ」
「この歳で叔母さんは嫌ですね……でも、この子のお母さん呼びは便宜上でしょう。むしろ、そういう関係になっていることの方が私には大事なので」
萩風からしたら、論点はそこでは無いらしい。私に娘が出来たというより、私により親密な相手が出来たというところが問題のようである。そしてそれは、磯波や沖波も同じ。ミコトの距離感にそわそわしているように見えた。
案の定、驚きこそすれ誰もその存在に対して異議を唱える者はいなかった。死力を尽くして戦った敵が、あれよあれよと味方につく。一度や二度ではない。それが
「一応聞きたいんですが……あの時の記憶は全く無いんですよね」
「ああ、それは保証する」
萩風の問い掛けに、反応するのは空城司令。医務室での一通りを見ていたら、ミコトには過去の記憶があるようには全く見えないことはわかる。一番の当事者である私もそれは保証出来る。
突然『黄昏』としての記憶が甦るなんてことも無いはずだ。その記憶を持った魂は、全てこの私が成仏させた。今ここにいるのは、私の分霊から生まれた新しい魂であり、『黄昏』の要素は何一つとして持っていない。
だからといって、その話をミコトにするのは憚られた。わざわざお前は元々こうだったんだと伝えるのは気が引ける。知らなくていいことは知らないままでいいのだ。
あとは一番の問題の方に目を向ける。由良さんと松輪だ。
「由良さん、松輪、あの子は『黄昏』じゃないからね」
ミコトのことをどういう目で見ているかが気になった。受け入れろと強制することは出来ない。本人の心持ちをコントロールするわけにはいかない。ミコトは夕立達に任せて、私はそちらへ。
「うん、大丈夫。今までも同じようなことがあったもの」
由良さんの方は最初から大丈夫だった。受け入れているというか、割り切っている。確かに殺されかけているが、身体は同じでも別人であると認識は出来ている。
だが、私は見逃さない。口ではこう言いつつも、手先が少し震えていることを。ミコトの姿そのものが、自分の死のイメージになってしまっているのは言うまでも無かった。心は受け入れていても、身体が拒絶している。そうではないと理解していても、ミコトに恐怖を感じている。
「……ゆらおねぇちゃん……」
その手をギュッと握るのは松輪である。松輪も少し震えていたが、由良さん以上に受け入れていた。由良さん以上にトラウマを残していそうだったが、やはり選ばれし者として覚醒しただけあって松輪は心も強くなっていた。
本質がわかるという特性上、ミコトがあの時の『黄昏』とは完全な別人であることはちゃんと読み取れている。姿形は覚醒を促した宿敵ではあるが、中身で判断しているため、恐怖には繋がっていない。経験には恐怖するが、ミコトはその対象外。
「だいじょうぶ……です。あのときのひとじゃ、ないです」
「松輪ちゃん……」
そうは言われても、簡単に受け入れられるようなものではないだろう。何せ、明確な死の原因となり得た相手だ。当人が何も覚えておらずとも、こちらには忘れられない戦い。その一番の犠牲者からそれを払拭することは、簡単には出来やしない。
「わかってる、わかってるんだけどね。あの時の痛みと、真っ暗になっていく恐怖は覚えてるの。自分の命が終わっていく瞬間って、忘れたくても忘れられないんだね」
何も言い返せない。異端児駆逐艦の面々は、今のところ例外なく一度死んでいる。暗くて、寒くて、とても静かなあの感覚は、思い出そうと思えばいくらでも思い出せてしまうくらいの恐怖。
由良さんは最後まで行っていないとはいえ、寸前のところまでは行ってしまっていた。延命措置を受けたことで、私達よりも長い時間それを感じることになった。だから、ここまでのトラウマになっている。
「あの子が由良にあんなことをしないのは、ちゃんと理解しているの。でもね、震えちゃう。あの時のことを思い出して、どうしても」
その手は松輪に握られているが、簡単には収まりがつかない。
「でも……せっかく生まれ変わったんだから、受け入れてあげなくちゃいけない。由良を殺そうとした『黄昏』はいない。ミコトちゃんはただのそっくりさんなんだから」
由良さんは何か決意したように立ち上がり、ミコトの方へ。足取り軽やかとはとても言えたものではないが、トラウマを払拭するために自分の足で前に出る。
真正面に立った時、その震えは誰が見てもわかるレベルになっていた。しかし、それを振り払うように深呼吸すると、握手を求めるように手を差し出す。
「よろしく、ミコトちゃん」
「よろしくー」
それにしっかり応じたミコト。由良さんの手が震えているのを知ってか知らずか、ブンブン振るように握手した。
あの時とは違う純粋な笑みに、緊張が解れる。『黄昏』だったらこんな表情はしない。大丈夫。
「そっちのちっちゃいのも、よろしくね」
「っ、よ、よろしく、おねがいします……」
松輪ともしっかり握手。この驚きはトラウマとかではなく、いつもの人見知りから来るもの。心配はいらない。
ミコトはここから鎮守府にすぐに馴染んでいくことになる。最終決戦まであと2日しか無いが、それまでに全員と友達になっていることだろう。誰もミコトのことを拒絶していない。
受け入れられたミコト。由良もまだ恐怖が払拭出来てませんが、理解はしているので、もう少しだけきっかけがあれば。