異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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二人目の狂犬

 ミコトの艤装確認が完了し、そのままの流れで訓練用の兵装へ換装。このまま戦闘訓練も出来るが、一旦村雨の改二改装を待つことになった。

 村雨はミコトの艤装確認と同時に工廠に来ており、今は改二制服のフィッティング中。思ったより時間がかかっているようだが、着実に改装への道を歩んでいる。

 

「艤装の方は少し早く完成しそうだね。音が静かになってきたし」

 

 ミコトの艤装確認をしてくれていた夕張さんが、工廠内の様子を音から判断していた。流石に長いこと整備班としてここで働いているだけある。

 村雨の改二艤装は、夕立のノウハウを活かして改装が出来ているらしく、その分完了が早まっているらしい。こういう時に既に改二改装済みの姉妹がいるというのはありがたいもの。もし萩風が改二になったりするときは、私、陽炎の艤装のノウハウが活かされたりするのかもしれない。

 

「村雨の制服のフィッティング、やたら時間かかってる気がするんだけど」

「だね……私達もこんなにかからなかったよね」

「私は殆ど変わってなかったし。もしかして結構変わってたりするのかな」

 

 それにしても服を着るだけで時間がかかりすぎなのでは。夕立と同じような感じなら、ちょっとデザインが変わっているだけで着替え方も何も変わらないと思うのだが。

 

「あー、村雨の新しい制服、インナーが凄いことになってんだよね。何を考えたらあんなデザインになるんだか」

 

 先んじてそれを知っていた夕張さんが、何処か呆れたような口調で話してくれる。

 夕立にはそういうものが無かったが、村雨はいろいろと組み込まれているせいかとても複雑なことになっているらしい。最終決戦も近いため、詰め込めるものは全て詰め込んだというイメージなのだとか。だとしても、何故ああなるんだと夕張さんは首を傾げていた。

 

「ごめんごめん、すごく着づらくて」

 

 などと話していたら、噂の村雨が着替えて裏からやってきた。少し疲れた顔の夕立も一緒にいたが、それが気にならないくらいに村雨が様変わりしていた。

 

「えーっと、それどうなってんの」

「正直なところ、私にもよくわからないのよね……。テーマは左右非対称(アシンメトリー)らしいけど」

 

 本人が言う通り、今の村雨は左右がゴチャゴチャしていた。右にしかインナーの袖が無かったり、右脚はタイツ状なのに左脚はガーターになっていたりと、説明出来ないレベルのよくわからなさ。制服の中は全身繋がっているらしく、そのせいで着るのに慣れが必要だったらしい。

 あとは髪型が変わっている挙句ベレー帽を被っていたり、怪我もしていないのに包帯みたいな布が巻きついていたりと、訳がわからない。少なくとも菊月は喜びそう。

 

「夕立が明日も明後日もお着替え手伝うっぽい」

「ごめんね夕立。慣れるまでお願いしていいかな」

「ぽい。ここからまだ変わるかもしれないしね」

 

 これは夕立の実体験から。改二となったときに骨格から変化するという凄い場面を目の当たりにしているため、村雨もそうなりかねないと注意はしていた。そのおかげでこうやって着替えた制服もオジャンになる可能性がある。

 

「夕立はどう変わったの?」

「目が赤くなって、髪の毛が跳ねたっぽい。あと背が高くなって、おっぱいが大きくなった」

「あー……そうなると制服のリサイズは必要よね」

 

 沖波のハイライトが失われかけている。ただでさえ大きい方の村雨がさらなるサイズアップとなると、求めても得られなかった沖波の心に大ダメージを与えかねない。

 しかし、私はそれに対して慰めることも出来なかった。私も……まぁそれなりにある方なので、何を言っても追い討ちになりかねない。

 

「沖波姉、どうしたの?」

「……持たざるものは求めても手に入らないって実感してたところ」

「???」

 

 ミコトは『黄昏』から据え置きのためスレンダー。沖波と同じかそれ以下であり、それをレオタードなんていう特に曝け出すような服装で活動しているが、そういうところを気にしている仕草は無いので、沖波の苦悩が理解出来ず、首を傾げるのみであった。

 

 

 

 予定では午後からということだったのだが、村雨の艤装も午前中の終わりがけに改装完了。お昼前にリンクだけはさくっと終わらせておこうと、すぐに準備がなされた。元々夕張さんがそうなるかもと察していたため、村雨の着替えが終わった後も工廠で待機していたが、思った以上に早く事が進む。

 

「おう、大分早く終わらせることが出来たぜ」

 

 整備長が艤装を運んできてくれた。夕立が使っているものと多少の差はあるものの概ね同じもの。夕立にはあの特徴的な帆があるが、流石にそれを備えることは無かった。

 代わりに、先端に錨が接続された鎖なんてものがあった。これは実は改の状態でもあったらしいのだが、訓練が間に合いそうに無かったのでオミットされていたそうだ。

 

「すまないね、間に合ったかい」

「大丈夫だぜ。ちょうど今からってところだ」

 

 同時に、空城司令としーちゃんも執務室からこちらに来てくれた。改二改装は必ず司令官の立ち合いの下で執り行われる。

 ギリギリの時間だったのは、あの後泣き疲れて眠ってしまっていた伊58が目を覚まし、颯元帥も含めて現状説明をしていたかららしい。今でも颯元帥と大和さんが、伊58に対して今後のことについて説明しているそうだし、納得するのに時間がかかっているのだろう。

 

「艤装姉妹ってことで、基本は夕立と同じにしてある。村雨は夕立に近いってのも聞いていたからな」

「ああ、それで構わないよ。内部を特殊な接続にしてあると聞いているが、その辺りはどうなってるんだい」

「D型を残しつつのM型ってヤツだな。そこも問題無し。伝導率やら何やらは、既存より上がってるくらいだ」

 

 つまり最高傑作と、いつもの言葉である。作る艤装は全て最高傑作と話す整備長だが、今回もやはり自信満々。不安が残る艤装なんて絶対に表に出さない。

 

「村雨は夕立みたいにならないことを祈るよ」

「自信無いなぁ……分霊の時みたいな感覚なんだっけ?」

 

 改二改装はただのリンクと違って、身体に大きな衝撃が来る。その時の体感は、分霊された時のモノに近いと感じた。

 村雨だって分霊の感覚は知っている。ここで行なわれた2回は眠っている間の出来事だったが、『雲』に変えられた1回目は覚えているはず。

 

 とりあえず言えることは、声を抑えろである。私も思い切り声を上げてしまった方なので、文句を言える立場に無いのだが。

 

「夕立は抑えられなかったっぽい。むしろ抑えることを放棄したっぽい」

「放棄はしないでおく」

 

 小さく意気込んで用意された艤装へと歩み出る。経験者からさんざん脅されているような状態なので、少し緊張気味ではあるが、避けて通れない道なので覚悟を決めてもらう。

 

「やり方は普段と変わらねぇ。ただ、聞いてるとは思うが反動が半端ねぇ」

「うん、待ってる間にずっと言われてる。頑張って我慢してみるわ」

 

 最後に整備長にも念を押され、艤装へのリンク開始。同期値も夕立とほぼ同じくらいというのなら、それなりに早く終わるにしても衝撃は半端無いだろう。夕立は最初から最後まで喘ぎ切ったが、村雨は果たして。

 

「んぅっ!?」

 

 案の定である。リンクした瞬間、身体を大きく震わせて声を上げる。抑えよう抑えようという気持ちがあったおかげか口は噤んでいたものの、それでも抑えきれなかった声が閉じた口から漏れ出た。

 全身に流れる力の奔流のせいで、変に力んでしまうのも私達は経験済み。しかし、村雨のそれは何というか、妙に艶っぽかった。

 

「いっ、んっ、あぅうっ!?」

 

 ついに口が噤みきれなかったようで、大きく声を上げてしまった。瞬間、夕立の時と同じように骨が軋むような音。やはり身体が少しずつ成長していくようである。

 夕立のときと大きく違うのは、制服の下に着込んでいるインナー。制服以上にピッタリで作られているため、ほんの少しの成長でも悲鳴を上げることに。さらに言えば、村雨の制服は夕立よりも余裕がないピッタリと張り付くくらいの仕様だったため、この成長によりどこもかしこもパツパツに。

 

「相変わらずだね。駆逐艦はこういう傾向が強い気がするんだが」

「司令官、それ私に対する嫌味ですか」

 

 空城司令にすら食ってかかる沖波。それもそのはず、予想していた通り胸回りもさらに成長している。元々パツパツだった制服はそこがさらに酷いことになっており、身を捩ったら破れてしまうのではないかというくらいになっていた。

 沖波のハイライトは完全に消失していた。その様子に空城司令も苦笑するしか無かったようだ。

 

「ひんっ!?」

 

 さらに大きな衝撃が来たか、大きく目を見開いた。その時には夕立と同じように瞳が真紅に染まっていたが、何故か右眼だけ。服装もそうだが、そういうところまで左右非対称になるとは思いもよらなかった。

 私はそういうところにまで影響があったわけではないので、瞳の色が変わるときの感覚はわからないが、涙目になるくらいの衝撃のようなので、頑張って耐えてもらうしかない。

 

「お母さん、村雨姉大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。みんな通ってきた道だし、ミコトだって近いことあったでしょ」

「うん、陽炎の巫女になったときだね。力が湧き上がって、すごく気持ちよかったよ」

 

 村雨の様子にミコトも少しだけ心配そうにしたものの、自分が受けたことと殆ど同じだと知るとその心配も何処かに行ってしまったようである。しかし、目の前であの光景を見るというのはミコトも初めてなので、少し頰が赤い。

 村雨は夕立以上に成熟しているようなものなので、()()()()()()を見ているイメージがより強く感じる。

 

「っあっ、はぁああんっ!?」

 

 最後に大きく震えた瞬間、夕立と同じように髪の一部がピョコンと立ち上がった。流石に艤装姉妹、そんなところまで似通うとは。

 夕立のそれは犬の耳のように見えて狂犬らしさを強調していたが、村雨のそれも近しいもの。狂犬の姉は狂犬である。村雨も気質としては同じだし。狂犬村雨がここに誕生した。

 

「はぁ……はぁ……これでオッケー?」

「ああ、お疲れさん。制服を仕立て直しておくから、風呂に行ってきな」

「え、ああ……聞いてた通りだけど、本当に身体が成長するのね……服が物凄くキツイわ」

 

 事が済んだので艤装を外して立ち上がろうとするものの、やはりフラついてしまった。それを見越して夕立が側にいたため、すぐに支える。

 

「むーさん、大丈夫っぽい?」

「あんまり大丈夫じゃないかな……みんなこんなことやってたんだ……」

 

 足取りが覚束ないが、お風呂に入ればすぐにどうにかなるだろう。夕立1人では難しいかもしれないということで、私達もお手伝いすることに。

 力が入らないようで全体重を押しつけてくるため、4人がかりでどうにか運んでいく形に。とはいえ、ミコトはすぐに艤装を出せるような状態なので、いざとなったらミコトに任せるつもりである。

 

「おー、むーさんバインバインっぽい。夕立よりおっきいっぽい。背中に弾力感じる」

「うー……そんなこと言わないでよ。なんか恥ずかしくなるんだけど」

 

 主に背負っているのは夕立なので、そういう感覚も一番わかるだろう。小さく揺すりながらその柔らかさを堪能しているが、村雨は恥ずかしそうに唸るのみ。

 

「……私だけなのかな、改二になっても成長しなかったの」

「そんなこと言われても……個人差ってのがあると思うんだけど」

「持ってる人はそういうこと言えるんですー」

 

 夕立の背中に押しつけられ潰されていてもそのサイズがわかるくらいに膨よかになった村雨の胸を、しげしげと見ながら溜息を吐く沖波。もう態度を隠すつもりも無いらしい。

 

「沖波姉、おっぱい欲しかったんだ。僕はそういうの気にしないからわかんないや」

 

 そこに歯に衣着せないミコトからの痛恨の一撃である。沖波へのダメージは甚大だったらしく、哀愁を感じる程であった。

 

「大きいのあっても邪魔そうだから、僕はこのままで良いなー。お母さんは、僕もおっぱい大きい方がいい?」

「アンタはそのままでいいよ。そっちの方が似合ってる」

「よかった。今から大きくしろって言われても無理だし」

 

 みんな違ってみんないいって言葉もあるし、今が一番いいと思う。だから沖波はいろいろと克服してもらいたい。大丈夫、私はそのままの沖波がいいと思うよ。

 

 

 

 終わりはともかく、村雨の改二改装も無事……まぁ無事に終わる事が出来た。午後からは艤装テストと戦闘訓練。それが終われば、最終決戦に向けての課題は全てクリアとなるだろう。

 




沖波の苦悩は続く。でも、陽炎としては沖波は今の状態が一番いいと思っているだろうから、それを口に出せばコンプレックス無くなるかもしれない。ひーちゃんが認めた胸だからヨシ!みたいな。



支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/89271977
MMD静画のアイキャッチ風天城。沖波との資料室での一幕はこんな感じでしょうね。リンク先には天城単体のものもあるのでどうぞ。
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