異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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狂犬と巫女

 村雨の改二改装も無事完了。午前中の最後にリンクも終了したため、お風呂に入った後にそのまま昼食へ。改二となったことで制服も変わり、食堂に入ったところでみんながわらわらと集まってきては祝福していた。見た目が大きく変わっているというのもあり、基本的には物珍しさが先立っていたものの、改二改装の時っていうのはそんなものである。

 

「片目だけ色が変化して、オッドアイになっているんだな。なかなかどうして、見た目がいい」

 

 そういうところに食い付いたのは案の定菊月である。今の村雨は菊月の厨二心を擽る要素がいっぱいであるため、前から横から後ろからと舐めるように見ては、少し羨ましそうにしつつも頷いている。

 着にくいと村雨が言っていたわけのわからないインナーも、菊月にとっては()()()()()になるらしい。気持ちはわからなくはないが、そんなにジロジロ見ていると村雨も少し恥ずかしそうである。

 

「片目だけ色変わっちまったなら、見え方とかおかしくなってないか?」

 

 今度は同じオッドアイである木曾さんが村雨に話しかける。木曾さんの場合は改二になる前から艤装の影響で色が変化してしまっていたらしいが、だからといって失明しているわけでもない。しかし、村雨には何かあるかもと心配してくれている。

 

「今のところは何も。感覚が変わってるわけでもないかな」

「ならいい。おかしいと思ったら眼帯でも着けておけよ」

「考えておく。こっちだけ視力上がってるとかあっても目が疲れるだけだもんね」

 

 代わりに距離感が失われるのはどうかと思う。木曾さんは慣れているからいいかもしれないが、今の村雨には慣れる時間なんて無い。何事も無ければいいのだが。

 

「夕立ちゃんがああなって、村雨ちゃんがこうなったから、私も期待出来るかな」

 

 そして五月雨。艤装姉妹が大きく変化しているため、自分の改二にある意味期待が出来るものである。五月雨もスレンダーなタイプだが、沖波と同じようにああいうのを夢見ているのだろうか。

 

「サミーはもう充分強いっぽい。夕立が改二になっても苦戦するのに」

「経験が違いますから。夕立ちゃん相手にするの、結構大変なんだよ?」

「そうじゃなきゃ困るっぽい! むーさん多分サミーに勝てないよ?」

 

 夕立がここまで認める程なのだから、五月雨の力は本物である。流石は最古参。

 五月雨が求めているのは身体の成長ではなく力の成長だろう。これ以上強くなったら、頼りになりすぎて怖い。

 

「とりあえずは午後からの戦闘訓練ね。どれくらい強くなったか、少し楽しみ」

「わかるっぽい。改二になった後の戦闘訓練って楽しみだよね。夕立もそうだったっぽい。終わる前に襲撃受けたけど」

 

 その襲撃をした張本人である萩風が苦笑。夕立は気付いているだろうか。

 とにかく、第二の狂犬である村雨も夕立と同様に、身体を動かしたいようである。ならば、嫌というほど動かすことにしてあげよう。相手はもう決まっている。

 

「僕も訓練だよね。村雨姉と訓練したらいいの?」

「多分そうなるよ。そのためにテスト用の兵装に替えたんだからね」

「はぁい。ちゃんと勝つよ。僕は陽炎の巫女だからね」

 

 ふふんと胸を張るミコトに対し、村雨は村雨で負けて堪るかと不敵な笑み。仲良く火花が散っている。これで喧嘩しない辺り、ミコトと村雨の間柄は、私と夕立の間柄に近しいかもしれない。

 こういうライバル関係は。それはそれで悪くは無いと思う。短い時間でも、お互いに成長するために切磋琢磨出来るし。

 

 

 

 昼食後、早速艤装のテストに入る。これには空城司令だけならず、颯元帥と大和さんすらも見学に来ていた。今までに無い大きな変化を遂げた村雨もそうだが、陽炎の巫女という人間でも無い亜人であるミコトのテストは気になるところだろう。

 伊58の方はようやく落ち着いたようで、今はメンタルケアとしてここにいる潜水艦達と交流しているらしい。この訓練を見届けてから、伊58の所属する鎮守府に乗り込むとのこと。

 

「戦闘を通して艤装のテストをしてもらうよ。連携訓練も兼ねているから、2対2だ。それでいいかい?」

「私は構わないよ。私としては1人でも良かったんだけど、相手が戦艦だからね」

 

 むしろ相手が戦艦だからこそ1人で何処までやれるか知りたいといった雰囲気。やはり第二の狂犬。夕立よりもおしとやかに見えるようで、その実、中身は夕立と殆ど同じ。霧島さんに鍛えられたこともあり、完全に鉄砲玉精神である。

 とはいえ、新たな艤装での連携はいち早く試しておきたいため、艤装テスト、戦闘訓練、連携訓練を同時に全てやっていく形になった。時間がもう少しあれば、まずは1対1(タイマン)というのもあり得たかもしれないが。

 

「お母さんの前だもん。僕だって負けないよ」

 

 対するミコトも、私が見ているということでやる気満々である。陽炎の巫女として、必ず勝ってくるからと意気込んで村雨に立ち向かう。

 

 艦種だけで言えば、圧倒的にミコトが有利だ。しかし『黄昏』の時の記憶は無いので、あの回避行動などはおそらくできない。単純な身体的スペックで村雨を押し潰そうとするはず。

 対する村雨は、生まれたばかりのミコトとは違って時間をかけて戦う術を叩き込まれている。それに、夕立と同様の才能の持ち主なのだから、下手をしたらこの戦闘中に成長することすら考えられるから恐ろしい。

 

「むーさんの相方は夕立っぽい!」

「ミコトちゃんの相方は私ということで」

 

 そして連携訓練ということで、お互いにチームメイトが出来る。村雨には一番一緒に戦っている夕立が。ミコトには同じくM型異端児であり、ある意味私に一番近い存在である沖波がつくことに。

 最初、ミコトは私を相方に選ぼうとしたのだが、陽炎の巫女なのだから私にベッタリというのはわかるものの、あまりにも一緒すぎるのもよろしくない。いざ本番で私以外と連携出来ないとなったら困る。

 そのため、まずは別の者と組んでもらうことにした。沖波なら午前中一緒にいたのだから、気心が知れているだろう。

 

「で、私は見学ってことで。第三者の目はいっぱいあるに越したことはないでしょ」

「ああ。それに、ミコトの力が一番引き出せるのはアンタの視線だ。ちゃんと見ててやんな」

 

 それは勿論である。ミコトは私が生み出してしまった新しい命なわけだし、責任持って育てなければ。

 演習の場に向かう直前でも、私に向かって大きく手を振ってくるミコトはなかなか可愛らしく思えた。お母さんと言われているからか、母性を擽られているのだろうか。

 

 

 

「じゃあ、準備はいいね。始め!」

 

 空城司令の合図により演習開始。今回は全員にインカムが渡されており、私にはその声が全て聞こえるようになっている。

 戦闘中の音声は結構重要なのだが、特にミコトは戦闘中にどんな感じになるか注意しておかなくてはならない。今までは日常生活だからこそ穏やかに私の娘のように振る舞っていただけで、いざ戦いとなった時に暴走して暴れ回るという可能性があるからだ。陽炎の巫女なのだからそんなことは無いはずだが、一応念のため。

 

 そのミコトは、既に艤装展開済み。相変わらず出すときには妙な声を上げていたが、それくらいなら気にならなくなっていた。

 

「むーさんは前衛! 夕立が援護するっぽい!」

「いつもの感じね。了解!」

 

 いつもは突っ込むタイプの夕立も、村雨が相方となると少しだけ慎重になる。今回は村雨の艤装テストがメインなので、そちらを引き立てるように援護に徹するようだが、この2人は組むといつも村雨が突っ込む戦い方をするので、普段通りに戦えばやりたいように出来るようだ。

 

「沖波姉、僕はどうすればいい?」

「まずは好きにやってみて。あ、でも尻尾で薙ぎ倒すとかしちゃダメだよ。演習でもそれはすごく痛いどころか当たりどころ悪かったら死んじゃうから」

「りょーかい! お母さん、僕の戦うところ、ちゃんと見ててね!」

 

 対するミコトは沖波の指示を受け、まずは出来ることを披露していく感じになる。そもそもどう戦えるかはわからないのだから、見てから作戦を考える算段。

 

「それじゃあ、まずはこれ!」

 

 直感的に、自分が何が出来るかは理解しているようで、尻尾を前側に突き出すとその口内から艦載機が溢れ出てきた。初めてでも戦い方は身体が覚えているような感じか。

 それは完全に深海棲艦のそれなのだが、そこから放たれる射撃や爆撃は、鎮守府で扱われるダミーの弾。夕張さんが事前に換装してくれていたが、その辺りにもしっかり対応している。

 

「くぐるよ!」

「ぽい!」

 

 接近されないように爆撃から開始していたが、村雨を先頭にそれをヒラリヒラリと躱しながら近付く。改二となったことで、そのスペックは大幅に上昇しており、スピードもかなり上がっていた。いつもやることが倍速で出来るみたいなものだ。

 回避しながらの前進は、初めて戦うミコトには圧倒されるくらいの勢いだったらしく、村雨が真正面から突っ込んでくることに気圧されかけていた。

 

「えっ、ええっ!? そんな普通に突っ込んでくる!?」

「あの2人は鉄砲玉みたいなものだから」

 

 それに対して牽制をするのが相方である沖波だ。狙う場所はわかっており、その足を止めるために足下に向けて連射。的確な砲撃に2人の突撃はその時点でキャンセル。しかし、方向が変わるだけで勢いは止まらない。

 何だかんだで沖波に私怨が混じっているような気がしないでも無いが、気のせいだと思いたい。

 

「オキはそういうところ上手いよね!」

「さんざん見せられてるからね」

 

 沖波はあくまでも冷静に、夕立は戦いを楽しむように、お互いに牽制しながら見合っている。

 

「沖波姉ありがとう! ちょっと驚いちゃったけど、これならやれるよ!」

 

 対する村雨とミコトだが、沖波の牽制により勢いを落とした村雨に対して調子を取り戻したミコトが、今度は尻尾を向けて砲撃開始。大雑把な砲撃ではあるが、『黄昏』から据え置きの威力であるため、いくらダミーでも当たればとんでもない衝撃になる。

 しかし、村雨は霧島さんに鍛え上げられた狂犬だ。戦艦の主砲を何度も喰らっているため、それに対する恐怖心は、最初から何処にも無い。臆することなくヒョイヒョイ回避しながら、ジワジワとミコトに近付いていく。

 

「小回りが利く戦艦の主砲ってインチキよね!」

「それが僕の取り柄だと思うから!」

「ホントに、ねっ!」

 

 戦えば戦う程、精度が上がっていくミコト。成長速度がバケモノじみている。回避も徐々に厳しくなっていくが、改二となった村雨も負けてはいない。夕立と同様の狂犬っぷりをその場で発揮し、直感のような回避を繰り出しながら前進を止めないでいた。

 

「すごいね村雨姉! こんな中でも突っ込んでくるんだ!」

「そう出来るように、鍛えているもの!」

 

 そして、かなり近付いたところで魚雷を発射。夕立もそうだが、やたら敵の近くで魚雷を使うのは怖くないのだろうか。いや、言うまでもないか。怖かったらそんなことしないし。

 

「それはダメだよ」

 

 しかし、それを見越していたかのように沖波が魚雷を撃ち抜く。夕立からの攻撃は全て『空』の回避で躱し続けており、ミコトの方に気を向ける余裕すらあったようだ。

 

「なら、僕も魚雷やる!」

 

 その魚雷が爆発した直後に、ミコトも尻尾から魚雷を放った。村雨が至近距離だったのだから、ミコトの魚雷も村雨には超至近距離。しかも、一回で放たれる量が村雨の倍以上の数である。

 あんなもの直撃したらひとたまりもない。だが自分も使う戦法だからか、対処法はすぐに出来ていた。沖波に撃ち抜かれた自分の魚雷の爆発に身を隠しつつ、魚雷を飛び越えて真正面から突っ込んでいた。

 

「うぇえっ!?」

「ミコトはこういうの知らないものね。ごめんね」

 

 いきなりすぎてミコトは対応出来なかった。『黄昏』なら例の回避をしたり、そもそも尻尾を村雨に向けたり出来たかもしれないが、記憶を全て失っているミコトにはそれが不可能。成長のためには一度喰らう必要もある。

 ここで無理矢理尻尾を振り回そうとしなかったのは、ミコトが仲間を思って最初の忠告を守った証拠でもある。不意打ちを喰らっても、深海棲艦の本性的なものが出なかったのは大きい。

 

「これで終わり」

「終わらない!」

 

 そこに割り込むのは沖波である。夕立を振り切ってミコトの援護に来ていたのだ。村雨がミコトを狙おうとした瞬間に、それを妨害せんと砲撃を放っていた。

 村雨は魚雷を跳び越すために空中。夕立と違って帆による空中移動なんて出来ない。代わりに、空中で身を捻って、沖波からの砲撃を撃ち落とすかのように砲撃をぶつけた。

 いや、あれは運に賭けたのだと思う。直撃ではなくたまたま掠ったことにより、沖波の砲撃は僅かに逸れた。

 

「ちょっ、マジ!?」

「ミコトちゃん、撃って!」

「りょっ、了解ぃ!」

 

 しかし、そこまで無理したことで村雨は完全な無防備に。沖波はそこを見逃すことなくミコトに指示を出し、ミコトも素直に指示に従い主砲を構える。

 

「残念っぽい。オキ、夕立から目を離しちゃダメだよ」

 

 その瞬間、ミコトの頭が夕立の砲撃に撃ち抜かれていた。初心者に対しても一切の容赦がない辺り、さすが夕立というところ。

 

「にゃーっ!?」

「チーム戦だもんね。夕立達の勝ちっぽい!」

 

 これでこの演習は終了。ミコトが轟沈判定となったことで、そちらのチームが敗北ということになった。

 

 

 

 艤装テストとしても、ミコトの性能確認としても、今回は充分な演習となったのは確かだ。村雨は今まで以上に縦横無尽に動けるようになっていたし、ミコトはレ級の力をしっかり使いこなすことが出来た。

 最終決戦間近に、素晴らしい仲間が加わったものである。これなら勝ち目がある。

 




今回は経験の数で村雨夕立ペアが勝ちましたが、ミコトはこれも覚えたので、次からは苦戦するかもしれません。
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