異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
村雨とミコトの艤装テストを兼ねた訓練は終了。経験の差とコンビプレイの練度により、村雨夕立ペアの勝利。ミコトは初戦闘で敗北を喫してしまったことになる。
「うー、夕立姉、頭は酷いよ!」
「一撃で轟沈判定だから、そこが一番手っ取り早いっぽい。あと、そうしておかないとむーさんがやられてたっぽいからね」
「夕立はミコトのこと認めてるってことだよ」
最後の一撃は夕立によるヘッドショットだったため、顔面がペイント塗れのミコト。ぷんすか憤慨しているが、最初の戦闘からそこまでするということは、一片たりとも嘗めていないということに他ならない。
ミコトに力があると認め、手を抜くことなく全力で立ち向かったからこそのコレだ。戦闘狂の夕立が手を抜くことは基本的には無いのだが、ミコト相手だとそういうこと関係無しに全力。素人でも学習能力が異常に高いのだから、時間をかければかけるほど不利になるのは目に見えていた。
「ミコトは強くなるっぽい。明日までにめっちゃくちゃ強くしてあげるっぽい」
「うん、お母さんのために頑張る!」
その理念はどうしても私、陽炎への貢献になってしまうが、みんなと仲良く強くなって、残り少ない時間で楽しく強くなってくれるのは私としても嬉しいところ。明日は丸一日あるので、そこはなるべく交流の時間にしてもらいたい。
今日残った時間はこの訓練を続行してもいいだろう。出来ればいろいろな人に力を付けてもらいたい。勿論、改二になりたての村雨も。
「提督さん、どうだったっぽい?」
「ああ、村雨もミコトも上々だ。これなら決戦に出られるね」
一旦工廠に戻ってくる夕立達に、空城司令は満足そうに頷く。戦いを遠目に見ていても、村雨の練度の上昇と艤装の強化は見て取れたし、ミコトが充分過ぎるほど動けていたことも確認出来た。
それを発表するのは明日になるだろうが、これを見たことで最終決戦のメンバーは確定したようなもの。やはりここにいる者は全員が該当者になりそうだ。
「元帥、ミコトはどうだい」
「私の目から見て、問題無いと判断した。鎮守府への配属を許可しよう」
ミコトの動きを見たことで、颯元帥もこれを良しとしてくれた。元深海棲艦の陽炎の巫女という、知らない人が聞いたら胡散臭さしかない存在ではあるが、最初から最後までを全て見届けてくれたのだから、信用してもらえるだろう。
私の忠告をちゃんと守ることが出来ているし、戦闘中に突然暴走するようなこともない。素直で可愛いただの女の子だ。艦娘として考えてもいいくらい。
「ならば、これで私のここでの仕事は終わりだ。伊58を連れて帰投しようと思う」
「そうかい。面倒をかけちまったね。夜は助かったよ」
「元帥として……いや、少しでも私の罪を償うために、率先して行動を起こさせてもらっただけだ。それに、大本営に腐った者がいるのは上に立つ者として許せない」
相変わらず無表情ではあるものの、いろいろな感情がある中で正義であることを選び取ったのだと思う。
他の鎮守府のモノを盗み出してまで力を得ようとするのは正義ではない。悪そのものだ。誰もが口を揃えて言うだろう。
「もうこの鎮守府にちょっかいをかけるようなことはさせない。君達には命を懸けてもらっているんだ。絶対に邪魔をさせないから安心してほしい」
「ああ、そこは頼んだ。こちらももう残り時間が少ないんだ。余計なことに意識を割きたくは無いんでね」
「任せ切るのは忍びないが、よろしく頼む」
空城司令と軽く話した後、今度は私に向き直った。何処か悲しげで、だが決意をしたような目。
「陽炎……申し訳ないが、私も君に頼らせてほしい」
「うん、これが私に出来ることだし、私が決着をつけなくちゃいけないことだから」
颯元帥にここまで頭を下げさせることが出来るのは、後にも先にも私だけな気がしている。だからといって自分が上位とは思わない。この人にはこの人の考えがあって、あの正義執行をしたことは理解出来ている。
これで、颯元帥と大和さんは帰投となる。伊58はこの鎮守府である程度癒され、ここからの展開が上手く行けば、ブラックな環境から解き放たれ、影野司令の鎮守府で幸せを掴むことが出来るはず。
潜水艦との交流をしたことで帰ることを名残惜しそうにしていたが、ケジメをつけた後にまた会いたいと再会の約束も取り付けていた。そういう形で物部司令や呉内司令と関係を持っておけば、今後また厄介なことが起きた時にも頼れるだろう。
颯元帥が帰投した後も、村雨とミコトの戦闘訓練は続いた。1対1で対戦をしたり、タッグを組んで連携を学んだり。相方を入れ替え、私も参加し、2人に最後の訓練を施していく。
ミコトの吸収力は本当に普通では無く、教えたことをすぐにやってのける。兵装は戦艦だが、小回りの利き方が駆逐艦並みなので、私達が目の前で見せた簡単な技を簡単に再現してしまうのは圧巻の一言だった。
「お母さんと沖波姉のアレだけは出来ないんだよなぁ」
それでも、私の脱力回避と、沖波の『空』の回避だけは再現出来なかった模様。『黄昏』であるという
脚力はレ級と同様であっても、あの時の足の裏の艤装などは、陽炎の巫女となったことで失われている。それゆえに、単に身体能力が段違いに違うというだけになっていた。
「無理してやれなくてもいいよ。ミコトにはミコトの良さがあるからね」
「僕、ちゃんと陽炎の巫女出来てる?」
「勿論。文句無しだよ」
演習で喰らいまくったペイントのことを気にせずに、ミコトの頭を撫でてやると、ニヘラと笑みを浮かべた。こうやって一緒に過ごしていくうちに、娘とは言わないが、本物の妹が出来たかのような錯覚をするほどに。
分霊の影響が私側にも出ているのではないだろうか。思い返せば、深海棲艦化し磯波と夕立を手駒に変えてしまった時、2人を愛おしいと思えた。この感覚は、それの延長線上なのかもしれない。
「ミコトは充分強くなったっぽい。半日でここまで行けるとは思ってなかったけど」
「ホントね。私、もう互角以上にされてない?」
「んなこと無いっぽい。むーさんはむーさんで強くなってるから安心していいよ。というか、しっかり勝っておいて互角以上にされてるわけが無いっぽい」
夕立がここまで認める程の実力。口には出せないが、流石は元戦艦レ級だと感じる。
村雨だって相当である。素人かもしれないが、スペックがとんでもない戦艦相手に真っ向勝負が出来ている上に、学習されながらもそれを上回ろうとする力を持っているのだから。
事実、村雨はミコトに対して、1対1ならば全勝しているのである。接戦してギリギリということも多かったが、それでも。連携だとまた話は変わるが、村雨の強さはもう折り紙付きと言っても過言ではない。
「さ、早くお風呂に行こう。みんな酷いことになってるからさ」
「ゲロ様とオキはあんまり当たってないっぽい」
「回避性能特化だからね。それに当ててくる夕立ちゃんの方が怖いよ」
これだけ訓練を重ねて、おそらく私が一番被弾していない。次点が沖波。それでも服や腕、脚にペイントがべったり付着しているのだから、夕立達の命中精度が見て取れる。
それに、ここで当てられるということは、私達にもまだ伸び代があるということ。残り1日をどうやって過ごすかはわからないが、演習するならそこを伸ばしていきたいし、休息でも脳内でシミュレートするくらいはしてもいい。
「お腹空いたっぽーい。ごっはん、ごっはん!」
「ごはーん! 僕も早く食べたーい!」
「はいはい、その前にちゃんと身体を綺麗にしないとダメだよ」
「ゲロ様、本当にママみたいっぽい」
夕立に言われると妙な背徳感があるのは気のせいだろうか。
事を済ませて夕食。お昼の時もそうだったが、ミコトは戦艦なだけあってかなりの大食い。下手をしたら私達の倍は食べる。それはもうモリモリ食べるので、私達は呆気に取られてしまう。
「ミコトちゃん……その、すごいね」
「はい。さすが戦艦というところでしょうか」
ここで合流した磯波と萩風も、このミコトには驚きを隠せない。好き嫌いなく提供されたものは全て自分の栄養にしていく姿は、見ていて気持ちいいくらいである。
その言動から、ここにいる者全ての妹みたいな存在になりつつあるため、こうやって元気な姿を見せているだけでも周囲の空気が明るくなるというものだ。流石に海防艦からは新しい姉というイメージだが。
「ミコトさんはどうでしたか? 即戦力として戦えそうなんですか?」
ここで現場を見ていない萩風が私に問うてくる。磯波も興味ありげにこちらを見てきた。
萩風としては、突然現れた私の娘みたいなものに対して、私に近しい母性のようなものが出てきているのかもしれない。ミコトに対しては雰囲気が特に優しく、一番ミコトのことを妹として見ているかも。
「充分過ぎるくらいだよ。流石は陽炎の巫女って感じ」
「そうなんですね。ミコトさん、明日余裕があれば、私達とも組んでみましょう。同じ戦場に出る仲間ですから」
「うん!
「飲み込んでから喋ろうね」
元気いっぱいに返答するが、食べながらなのでカスが飛びかける。そういうのは良くない。生まれたばかりかもしれないが、こういうところの行儀もちゃんと仕込んであげなくては。
「良く言えば万能なんだけど、悪く言えば雑だから、いろんな人に仕込んでもらえると嬉しいかな。今日は私達とずっとやってたけど、艦種が違う人達とも組めると嬉しいし」
「ならば、我々ともやってみるか?」
この話を聞いていたであろう、食堂手伝いの長門さんが話に加わってくる。相変わらず、訓練しながら手伝いまでしているのは凄い。
「私だけではない。ミコトは今、注目の的だ。ここにいる全員が、ミコトを鍛えてやりたいと目を光らせてるからな」
そう言われて周りを見てみると、確かに少なくない視線がこちらに向いている。しかし、敵視しているとか異形を見る目ではなく、それこそ妹を眺める姉の目というか、親愛の意思が誰からも見て取れた。
「戦艦なのだから、同等な力を持つ私達とやり合うのはいい経験になると思う」
「ナガート、私達もその子と遊びたいわ! 艦載機も扱えるんだし、私達と組むのもいいと思うの!」
ここで口を出してきたのはイントレピッドさんである。私達と戦うだけでは学べないこととして、戦艦を敵に回した時の回避方法と、艦載機の取り扱いのさらなる上達と空襲の対処法がある。そのうちの前者を長門さん、後者をイントレピッドさんが提供しようと進み出てくれた。
「ピッドが空襲の訓練するなら、あたしとハツで対空砲火を教えてあげる」
「ああ、ミコトの艤装なら僕達と同じことも出来るだろう」
さらにはアトランタさんと初月が名乗り出た。援軍も込みにして対空専門はかなり少ない。ここで増えるのはいいことかもしれない。
「ミコトおねーさんは対潜も出来るっしゅ。なら、占守達と対潜訓練するのもどうっしゅか?」
「おう、あたいもそれ賛成! マツがミコト姉ちゃんと慣れるためにもさ!」
「えっ、あ、あぅ……でも……まつわもそれ……したいです……」
海防艦の子供達からも立候補が入った。松輪はまだ少しアレだが、占守と大東は新しい仲間と遊びたくて仕方ないという感じ。対潜訓練でなくても、いつもの体育でもいいと騒いでいる。
「尻尾を使った近接戦闘も視野に入るんだろ。なら俺と神州丸が仕込めるぜ」
「うむ。本艦が海の上でも戦える技術を叩き込むのであります」
確かに近接戦闘の技術はあって困らない。戦闘中に深海棲艦に分霊をすることも考えると、攻撃はさておき近付いても自分を守れる手段を知っておくことは必要か。
「えっと、えーっと、僕どうしたらいいんだろ」
「ミコトはどうしてみたい?」
「僕、みんなとやってみたい! でも、僕は1人だけだから、みんなとやれないよ。お母さん、僕どうすればいいのかな」
これだけ候補者が多いと目移りしてしまうのは仕方ない。全ての事柄に対して好奇心を出しているのだから、自分で選び取ることも出来ないだろう。
「じゃあ、明日を使って少しずつ摘んでみればいいよ。選び取るんじゃなくて、全部やっちゃえ。広く浅くになりかねないけど、ミコトなら全部覚えられるんじゃないかな」
「うん、わかった! じゃあ、明日はみんなやる!」
ミコトは楽しそうに笑いながら、みんなに向けて宣言する。
「全部見届けることは出来ないかもしれないけど、ミコトはそれでも大丈夫? なるべく側にいるつもりだけど」
「うん、大丈夫。僕は陽炎の巫女だから、お母さんを困らせたくないもん。みんなが見ててくれるし、やれるよ」
こういうところで仲間との関係を深めていけばいい。私がいなくても楽しく暮らせるようになってもらうことも重要だ。私以外に親友と言える仲の相手が出来ると尚いい。
短期間でどんどん強くなるミコトは、良くも悪くも戦艦レ級。しかし、それにしっかり完勝を治める村雨も大概である。