異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
初めての哨戒任務を絶賛遂行中の私、陽炎。その中で、艦娘として護るべき人間が後ろにいることを改めて実感することが出来た。破壊者ではなく守護者、命を奪う存在ではなく護るということを理解した。
護るべき存在がどういう人達なのかを知って、私は今海を駆けている。あの工場長はとてもいい人だ。絶対に死なせるわけにはいかない。勿論他の人々だって。
「陽炎ちゃん、工場長と会っただけでまたイイ顔になったね」
「そ、そうかな」
由良さんに言われ、ちょっと恥ずかしくなる。そんなに顔に出ていただろうか。由良さんの言葉に磯波や沖波もうんうんと頷く。
「いやぁ、やっぱりああいう人に会うと艦娘の自覚ってもんが芽生えるってもんだよ」
「ふふ、ちょっとわかるかも。後方支援の人の応援って、すごく力になるから」
みんな同じような気持ちで艦娘をやっているらしい。声援は力になる。
私の根底にはどうしても復讐がついて回るが、私も艦娘の端くれなのだから、それを二の次にしてでも人々を守らなくては。そうだ、私は艦娘なのだから。
「覚悟は決まったよ。まだ戦ったことも無いペーペーだけど、ちゃんとやり遂げてみせる」
「その意気だよ。現場に出ると心待ちが変わるのは当然のことだもの」
緊張感はまだ残っているものの、熱い何かが湧き上がるような感覚。これが本当に覚悟を決めた感覚なのかもしれない。
工場を離れてしばらく行くと、水平線の向こうに陸地すら見えなくなる。ここまで沖に出るのは初めてのこと。周囲の何もかもが海のみとなる。
こうなると頼りになるのは太陽の位置と空母の艦載機、そして旗艦の持つ羅針盤のみとなる。基本的には羅針盤1つあれば帰れないなんてことはあり得ない。何せこの羅針盤は妖精さんまでついている特別製。迷うことが決して無い。
「それでもやっぱりここまで来るとちょっと怖い」
「うん、気持ちすごくわかる。私もそうだった」
沖波が側に来てくれる。陸が見えないというのはそれだけでも不安になるもの。艦娘として活動していくのなら、こんなこと日常茶飯事になるわけだが、初めての私にはなかなかクるものがある。
深海棲艦はその名の通り海から現れるわけで、陸の上なら海側を警戒しておけばいいのだが、こんな状態だと突然真後ろから来る可能性まであり得てしまう。
「ちょいと飛ばすよ」
一旦ここで停止し、隼鷹さんが艦載機を飛ばす。定期的に飛ばして周囲を確認し、深海棲艦が現れていないかを確認しているわけだ。先程もやっていたが、今回は今まで通ってきていない海の向こうのみを確認するために向かう。
「哨戒っていつもこんな感じなの?」
「うん、これで午前いっぱい使って領海全域を回るの」
進んでは停まり、周囲を確認。終わればまた進むというのを何度も何度も繰り返し、周辺に何も無いことを保障するのが哨戒任務の目的だ。駆逐艦である私達は、ソナーを使って海中の調査を行なう。
何人も使ってやることではないので、今回は沖波が筆頭として確認。私が対潜訓練で使っていた音で感知するものではなく、電波で感知するちょっと強めのもの。哨戒は私達だけではなく、この界隈の人間全員を護るための任務のため、装備はなるべく強いものを与えられている。
「潜水艦の反応はありません」
「こっちも何も無いね。先進んでオッケー」
「了解。じゃあ次のポイント行きましょ」
沖波と隼鷹さんのOKが出て、飛ばした艦載機が戻ってきたら次の停止するポイントまで移動。空母がいなくても、防空訓練で使っていた電探を使うことで近しい確認は出来るとのこと。
電探の確認の方が早く終わるが、空母が見た方が正確に確認出来る上に、電探で確認出来る範囲の方が狭い分停まる回数が増えるため、時間としてはトントンらしい。
「こんなに速く動いてるのに、なんの負担もないんだね」
「それが艦娘だもん。眼鏡も飛ばないよ」
領海全域を見て回るのに午前中全てを使うというのもわかる。私達自体が結構なスピードで動けるため、フルマラソン1周分は余裕である哨戒コースもそれくらいで終わるらしい。
少なくとも自転車で走る以上、下手をしたら車並みの速度で空を切るため、私自身にも結構な負担がかかりそうだが、艤装のおかげでその辺りは何も感じないという不思議仕様。相変わらず艤装を装備している時に限り、人間を辞めてるんだなと実感する。
「結構気持ちいいって思えるんだけど、陽炎ちゃんはどうかな」
「あー、確かにね。元々海の近くに住んでたってのもあるから、潮風が気持ちよく感じるよ」
こんなに海を身近にして過ごしているのは、あの始まりの襲撃以来だ。街そのものが失われてしまったというのもあるが、孤児院が海から離れた場所にあったのもそれに繋がる。孤児院で暮らし始めて鎮守府に配属されるまでの約10年間、海に近付くこともしていなかった。
そういう意味では、私は海が好きなのかもしれない。潮風を浴びながら駆け回っているだけでも、こんなに心穏やかになれる。これで深海棲艦が出なければ最高なのだが。
「次の地点だよ。ストーップ」
「あっと、そうだった。海上散歩してるわけじゃないんだった」
「休日でもそれはやれないからね。満喫するのはいいけど、気を抜かないように」
衣笠さんに苦笑され、ちょっと反省。覚悟を決めたりした割には、こういうところで気を抜いていては意味がない。ただでさえ、今は手に主砲を抱えているのだから、そんな気持ちで突然戦闘が始まったら全力も出せないだろう。
程よく緊張感を持って、それでいて気を楽にして、哨戒任務を進めていきたい。
隼鷹さんが艦載機を飛ばし、沖波がソナーで海中の確認。その間は潮風を感じながら周辺警戒。人間の視力で見えるところなんて高が知れているが、やらないよりはマシだ。勿論何も見えないが。
「潜水艦の反応はありません」
沖波は相変わらず。近海というのは潜水艦が近付いてきていることが割とあるらしいが、最近は静かというだけあって、そういったものもあまり見えないようである。
しかし、隼鷹さんの方に異変。
「んー……何か見つけたみたいだねえ」
その言葉と同時に警戒態勢。何もないとしても、何かあった時のことを考えて行動を起こす。
今までの穏やかな空気は一変し、緊張感が走る。私も主砲を握る手に力が入る。何も無ければいいのだがと、口には出さずに考える。
「敵機発見。駆逐3だね」
「了解。殲滅します」
残念ながら私の願いは届かなかった。初めての哨戒任務は初陣となることが確定した。
ここで発見した深海棲艦を野放しにしておくと、さっきまでいた工場の方に向かってしまい、大惨事を引き起こしかねない。あそこで働く人達を護るためにも、私達はここでしっかりと殲滅しておかなければいけない。
「縮こまるんじゃないよ陽炎。まずはあたしが先制攻撃決めっから、その撃ち漏らしをあんた達が叩くんだ」
哨戒のための艦載機が戻ってきた後、指先に炎が灯り、巻物を撫であげた。すると、不思議なことに記載されている絵柄がガラリと変化。
さっきのが哨戒用だとしたら、今は戦闘用。遠くの何かを確認するためではなく、遠くの敵を攻撃するためのものだ。防空訓練の際に爆撃を避けながら上空に撃つということもやったが、その時は実戦訓練と同じようにペイント弾だった。だがこれは
「じゃあ、パーッと行こうぜ!」
そして発艦。確かによく見れば、哨戒のために飛んで行ったものとは別物であることがわかった。
それは同じように隼鷹さんの下から飛び立つと、一気に水平線の向こう側まで飛んで行く。その少し後に明らかに何かが爆発した音が鳴り響いた。
「うし、1体はやった。2体残ったけど、片方は中破だね」
「了解。それじゃあ、追撃戦に入るよ」
その艦載機が飛んで行った方へと私達も向かう。ここから先に行けば、敵の姿を見ることになるのだ。
妙に鼓動が速くなる。ついにと言っては何だが、私は仇討ちとなる戦場に一歩足を踏み入れる。緊張感の中に、少しだけ
「陽炎ちゃん、怖いなら一番後ろから……っ」
「ううん、大丈夫。怖くない」
磯波が少し息を呑んだように思えたが、気にせず衣笠さん達の後を追った。少し行けばすぐにわかる、爆撃により撃沈されたであろう深海棲艦から立ち昇る黒煙。
そして邂逅。
「あれが……深海棲艦……!」
悪夢の中でも見た、数ある化け物の中の1体に酷似していた。忘れてしまっているあの時の記憶にもいたヤツだ。ならば、アレも私の仇の1体。
駆逐艦と言っていたが、私達とはまるで違う化け物。まるで黒い金属のような外装を纏った大型の魚のような、見ていて気持ちのいいものではない外見。大きさ的には全長1mくらいか。テレビで見た市場で売っている極上のマグロくらい。
そして、その大きな口の中には、私の持つ主砲の砲身のようなものが見え隠れしていた。それで私達と同じように敵を殲滅するわけだ。
手が震える。それは恐怖で震えているのか、それとも
「陽炎ちゃん、落ち着いて」
由良さんに注意される。
「いい、陽炎ちゃん。深呼吸。敵は目の前にいるけど、落ち着いて。ね?」
言われた通りに呼吸を整える。手の震えはまだ治らないけど、少しだけは落ち着けたと思う。
「先制する!」
姿を視認した瞬間に、衣笠さんが主砲を撃ち放った。駆逐艦である私とは威力が違うその主砲は、まだ傷を負っていない駆逐艦に直撃。当たりどころもよく、その一撃で撃沈までは行かないまでも行動不能に陥らせるほどにはダメージを与えた。
しかし、中破状態の駆逐艦が口内の主砲をこちらに向けていた。その照準は私に合っている。これは訓練ではない、命を懸けた戦場だ。いくら敵が中破状態でも、当たれば重傷は免れない。
正直怖い。失敗したら死ぬ可能性がある。だが、そうならないために私は今まで訓練してきたのだ。
「回避……!」
実戦訓練で撃たれる側のことも理解している。何処でどう動けばその砲撃を回避出来るかは身体に文字通り痛いほど教え込まれているのだ。イメージすれば、無意識にでも回避出来る。
あちらが撃つ時にはその直撃ラインからは大きくズレていた。訓練の賜物。
「この……!」
備え付けの主砲で反撃。あちらは動きが鈍く、回避行動もうまく出来ていないようだ。そのため、私の一撃は殆ど先読みしなくてもうまく直撃してくれる。その一撃のおかげで中破状態の敵駆逐艦は撃沈。
「もう1体も!」
同じタイミングに沖波がもう片方の駆逐艦を撃ち抜き、そちらも撃沈。
あっという間に戦闘は終わったし、手負いだったとはいえ1体撃沈することが出来たとはいえ、主砲を向けられたときの恐怖は忘れられそうにない。
「お疲れ様。初陣で1体撃沈は凄いことだよ」
「い、いや……あれは無傷じゃなかったし……」
衣笠さんに称賛されるが、正直気が気で無かった。先んじて攻撃してもらい、手負いにしていたから何とかなっただけで、無傷の深海棲艦と1対1で相対したら、こんなに上手くいくとは限らない。
とはいえ、初陣で勝利を収めることが出来たのは身体は喜んでいた。変に昂揚する。敵を撃ち抜けた時に僅かだが喜びが湧き上がった。
「勝ちのイメージが出来るっていうのは、これからに繋がるから。初陣で怪我したりするとすごく引きずることになるんだよ」
まるで実体験のように話す磯波。古参なのだから、今のように戦力が整った状態でもないだろう。人数だって少なかったかもしれない。
実際、今ここで怪我をしていたら、昂揚よりも恐怖が上回っていただろう。今後の戦闘に支障が出るくらいに。主砲を向けられただけでも動けなくなる可能性だってある。
「だから、喜べとは言わないけど、自信は持って。ね?」
「うん、そうする。勝ててよかった」
素直に喜ぶことにした。仇討ちの一歩を進み出せたとして、これを足掛かりにして先に進もう。
「
冗談を言ったつもりではないのだが、そうなり得る言葉を言ってしまったことで磯波が破裂。お腹を押さえて震えていた。いや、笑いのツボ浅すぎだろうコレ。
初陣は勝利に終わった。幸先がいいとは思うが、これが続くとは限らない。さっき感じた恐怖については忘れず、慢心しないようにこれからも歩いていきたい。
陽炎の初陣は勝利に終わりました。駆逐艦3体と戦うということは、1-1〜2の辺りですね。過剰戦力。