異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
最終決戦前日、午前中は終了。私、陽炎は結局悩みが晴れそうに無かったが、隼鷹さんの教えにより悩みは今は後回しにすることにした。依代の子を救うか救わないかを悩むよりは、艦娘の心得を遵守して世界を守るために戦い、その後に考えればいい。悩んでいたら、救えるものも救えないし、勝てるものも勝てなくなる。やれることを全力でやってから考えよう。
依代は私の両親の仇ではあるが、ひとまず救ってから考える。救い方はまだ思いつきもしないが、少なくとも表側に現れる太陽の姫を倒さなければ話にならない。考えるのはその後だ。
「僕、結構強くなれたと思う!」
午前中は戦艦と空母のみんながミコトを仕込み、戦術の幅を拡げてくれた。敵からの強烈な砲撃や、空を埋め尽くす空襲からの回避方法を身を以て知ることになり、ミコトはペイント塗れだったが楽しそう。
強くなれた実感があるのだから、それだけでも嬉しいようだ。ミコトの場合、それが私の役に立てるというところに直結するので、殊更に喜んでいる。敗北に敗北を重ねても、それが自分の成長に繋がっていることをちゃんと理解しているのだ。
「私達の全部を受けても、ある程度は避けられるようになったものね。うんうん、Great!」
空母組の代表としてイントレピッドさんも満面の笑みで喜んでいた。自分が言い出したことというのもあるようだが、それで空母全員が手を貸してくれた上、集中砲火で殆どリンチみたいな訓練を受けたのに、ここまでミコトが楽しんでくれたことがイントレピッドさんとしては最高の流れだったようだ。
「流石は陽炎の巫女だ。物覚えがいい。我々はミコトの出来ることの幅を拡げるために手を貸したが、予想以上だった」
「ホントそうよねぇ。もうミコトとも一斉射が出来そうよね」
「うむ、ミコトも名誉ネルソンタッチ構成員として任命してやろう!」
戦艦組も大絶賛。元々が戦艦なのだから、相性の良さは考えるまでもない。そこに一斉射やネルソンタッチにまで組み合わせられそうなくらいの才能を見せてくれたのだから、喜びもするだろう。
元々が深海棲艦の中でも屈指の万能艦であるレ級である。仕込まれたら簡単にこなしてしまうのも無理はない。ミコトにその自覚は無いが、陽炎の巫女云々はおそらく関係ないと思う。
「ついでに私も鍛えてくれてありがとう。ミコトとの連携も出来るし、万々歳だったよ」
「必死になってたから、悩みも吹っ飛んでたしな」
ニカッと笑う隼鷹さんに指摘され、確かにと納得。ミコトの訓練につきあうということは、駆逐艦の身で戦艦と空母の集中砲火を矢面で受けることに他ならない。結果として、私はミコトほどでは無いにしろ、ペイント塗れにされていた。
私の脱力回避や『蜃気楼』でもかなりギリギリになる、正面と縦の攻撃による猛攻は、私としても新しいステージに向かったような気がした。
そして、そのときはぶっちゃけ無心だった。悩んでいる余裕なんてなく、今その場で何をしなくてはいけないかを逐一考えないといけなくなっていた。おかげで、依代のことで悩んでいたことは綺麗さっぱりなくなっており、訓練に集中することが出来た。
「いい傾向だね。戦闘中に必死になれば、悩みも吹っ飛ぶってこった。邪神との戦いで悩んでる暇なんてないってことがよーくわかったんじゃないかい?」
「ホントそれ。後回しにすることは大事だね」
「だろ。今はそれでいいんだよ」
悩みの先延ばしは、この時だけはとても有効であることを実感。それに、救ってから考えると決めたことで大分心は楽になったと思う。それが無かったら、この訓練の最中でも心ここにあらずという感じになって、えらいことになっていたかもしれない。
「お母さん、お風呂行こう。僕もお母さんも酷いことになってるよ」
「だね。それじゃあ、私達はお先にお風呂に」
「ああ。午後はまた別のことをするんだろう。頑張ってくれ」
午後もミコトの最後の詰めに奔走することになるだろう。午前中は戦艦と空母の力を伸ばしたが、午後は残った対空と対潜、あと近接戦闘か。ここで対空を同時にやれればよかったのだが、戦艦と同時だと専念が出来ないということで後回し。そういう意味では、対空を優先して、その後に対潜と近接戦闘で行こう。
午前中は戦艦としての本分を伸ばす形になったので、次は追加機能というか、本来の戦艦とは違う区分を伸ばしていこう。ミコトはどんどん頼りになる存在へと成長していく。
お風呂上がり、ペイントの汚れも落ちたところで昼食のために食堂に行くと、異端児駆逐艦のみんなと合流。あちらはあちらで村雨の追い込みをしていてくれたようで、手伝ってくれると言ってくれた全員と演習をすることになっていたようだ。
駆逐艦は全員だし、巡洋艦の面々すら手伝ってくれたという大盤振る舞い。相方を取っ替え引っ替えして、以前にも言われていた連携の訓練をとにかくこなしていたそうだ。
「あれはなかなかハードだったわ。衣笠さんを相手取った時は勝ち目0って感じだったし」
「ああ、全自動防衛」
「そうそう。衣笠さん本体を狙えばいいんだけど、それも結構な確率で防がれるのよね」
衣笠さんの技は、そこまで極められていたようだ。無意識に仲間を守るという艦娘の心得を体現した守護者の力。制御出来ずに悩んでいたが、それから時間も経っている。時間がある時は常に訓練をしていたし、極まってもおかしくはない。
さらには、弱点だった自己防衛には使えないという部分も、自分の練度を上げることで克服したようだ。それは全自動防衛ではなく単純な回避行動ではあるが。
「連携も大分上手く出来るようになってきたし、明日に向けて私も仕上がってきたと思うわ」
「まだまだですよ。下手をしたら夕立さんよりも荒っぽいんですから、もう少し洗練してください。残り時間は少ないですけど」
すかさず口を出す萩風。相変わらず村雨に対しての当たりは強め。しかし、村雨がそれを嫌がっていないどころか、楽しげに受け取っているのだから、この2人の関係はこれが一番正しいというところにたどり着いているようだ。
「でも、萩風ちゃんが一番上手く連携出来るのって、村雨ちゃんなんだよね」
「うん……遠目で見てるとすごくわかるよ。すごく気にしてるのが」
沖波と磯波に指摘されたことで、萩風は少し頬を赤らめた。私から見てもそれはなんとなくわかった。萩風は基本的に村雨を補佐するような動きが多い気がする。お互い前衛というタッグでスイッチ戦術を編み出したのも、村雨が戦いやすいようにするためだ。
なんやかんや、2人はしっかり歩み寄れている。お互いにお互いを見て、最善を掴み取っている。ただ、口では当たりが強くても相手のことを思いやってるって感じが。
「ハギィ、ツンデレっぽい?」
そう、それ。私が言いたかったのはそれ。夕立にそれを言われたことで、ほんのりだった頬の赤らみは顔全体に拡がった。
「お母さん、ツンデレって何?」
「口では文句言いつつも相手のことが好きって感じかな。私も詳しくはわからないから、ちょっと違うかもしれないけど」
「そうなんだ。萩風姉、村雨姉のこと大好きっぽいもんね」
ニパーと屈託なく笑うミコトに返す言葉が無い萩風。ここで黙っていると、黙認ということになってツンデレを肯定することになるのだが大丈夫だろうか。むしろ必死に取り繕っても肯定しているのと同じだが。
少し返答を考える素振りをした後、ようやく頭の中で言葉が纏まったのか、ようやく口に出す。
「放っておけないだけですよ。村雨さんは戦闘中は狂犬なんですから」
「うんうん、そうだねそうだね。そういうことにしておこうか」
私含むみんなから生温かい笑みを向けられ、萩風が焦り出すが、もうこれは取り返しの付いていないところにまで来ていると思う。
私としては、あの時の仲違いやギクシャクしているところを思えば、ここまで打ち解けているところを見ると感慨深い。
「萩風がこんなに私のことを考えてくれてるなんて、すごく嬉しいよ」
「か、勘違いしないでください。貴女が戦場で前のめりになりすぎるのを制御するのは結構大変なんですから」
「ハギィ、それツンデレの代名詞っぽい。言い逃れ出来なくなっちゃった」
慌て出す萩風だが、もう反論すら出来ていない辺り、村雨のことを意識しているのは間違いなかった。一般的な恋愛感情とかではなく、仲間意識としてだが。
「今日の夜はむーさんと寝るっぽい? 夕立、大歓迎っぽいよ」
「お断りします。ただでさえ明日は決戦なんですから、一番心が落ち着ける状態でその時を過ごしますよ」
「残念っぽーい」
今日の夜は決戦前夜。おそらく一番緊張する時間。翌日の決戦、最大級の命のやりとりと、まだ確実に倒せるとは言えない邪神を意識して、眠りが浅くなる可能性も無いとは言えない。
まだ発表はされていないが、ここにいる全員は戦場に出る可能性が非常に高い面々だ。というか、今回はおそらく、鎮守府の全員が出撃することになる。鎮守府を空にするかどうかはさておき、以前の9割方出撃していた時と同じことが起こるだろう。
ならば、夜は一番落ち着ける状態でいたいのはわかる。ゆっくりとまったりと眠れる環境を作って、明日に備えたい。
「ひーちゃんは大丈夫? 今日はちゃんと寝られそう?」
「……正直自信がないから、みんな協力して」
「勿論。ひーちゃんが作戦の要なんだから」
緊張感が一番あるのが私なのは、自他共に認める事実。分霊のこともあるし、仇討ちのこともある。嫌でも決戦の中心に据えられるのは間違いない。
ここでまた悩みがぶり返してきた。後回しにしていたものが一旦ここに戻ってきた。とはいえ、救うことには変わりないので、もう一度後回し。決戦は迷いなく撃破を狙う。
「私が未成年じゃ無かったら、お酒とか入れたりするんだろうけどね。この前みたいに、ホットミルクでも貰おうかな」
「だね。午後からもいっぱい身体を動かして、身体を温めれば、きっとスッキリ寝られるよ。私達はひーちゃんと寝ることが出来れば充分だからさ」
磯波と萩風もうんうんと首を縦に振る。ミコトに至っては私の手をしっかり握りしめて笑みを浮かべた。私がいれば癒されると言ってくれるのは私としては喜ぶべきなのだろうが、なんか複雑。
とはいえ、力になってくれるのは嬉しい。こういうときこそ、いっぱい頼らせてもらおう。
「陽炎様は……午後からはどうするの?」
「午後もミコトの訓練に付き合うと思う。午前中は戦艦の人達と空母の人達に鍛えてもらったから、次は残りの要素かな。ミコト、それでいい?」
「うん、みんなが手伝うって言ってくれたから、全部やってみる。空母の人達はまたお願いすると思うけど、順番通りにやるなら対空砲火からかな」
ミコトの言葉が聞こえてきたからか、私達の方にアトランタさんと初月の視線が突き刺さる。無言で親指をグッと上げてきたので、ミコトも笑顔で返していた。
やはりみんなの妹。あのダウナー系のアトランタさんですら、ミコトにはしっかり興味津々である。育て上げたくなる気持ちは私にもわかる。
「ミコト、すごい成長速度だよ。元々のポテンシャルが凄まじいからかな」
「かもしれないね。陽炎の巫女ってみんなこうなるのかな」
「さぁね。ミコトが最初で最後だから、そんなこと気にしなくていいよ」
まだ巫女の座を狙っているようにも聞こえたので忠告しておいた。ミコト以外に作るつもりは無いので、そこは諦めてもらいたい。
「さ、午後に向けて英気を養って、最後の訓練に行こうね。気合い入れて行こう」
話はこれで終わり。腹ごしらえをして、決戦前の最後の1日をしっかりこなしていこう。嫌でも明日は命懸けの戦いだ。今を有意義に過ごして、心身共に最高の状態で明日に向かいたい。
世にも珍しいシスコン+ツンデレ萩風。はぎむら来るか?