異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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決戦前夜

 最後の作戦会議が終わり、午後の訓練へ。ミコトは対空、対潜、近接戦闘の訓練に勤しむ。もう残り時間は僅かだが、それでも出来る限りのことはやっていく方針。少しでも学んでおけば、素人では無くなる。ミコトならほんの少しの経験も最高の結果に持っていけるはずだ。

 私、陽炎も相変わらずその訓練に便乗させてもらう。ミコトほどの成長度は無いだろうが、知っておくことに意味があるはずだ。それに、私と一緒に訓練するとミコトが楽しそうにするから、連鎖してみんなも喜んで教えてくれる。そして効率が良くなるという嬉しいスパイラルに入った。

 

「楽しかった! 僕、もっと強くなれたよね!」

「うん、本当にメキメキ強くなるからビックリしちゃったよ」

 

 対空はアトランタさんと初月が合格を出す程に、対潜は海防艦と抜きつ抜かれつ出来る程に、そして近接戦闘は木曾さんも神州丸さんも及第点を与える程に成長していた。みんなの力でミコトはギリギリまで鍛え上げられたのだ。

 たった1人でも全ての戦場に対応出来る万能オブ万能。敵でいた時は厄介極まりない戦力だったが、味方になったらあまりにも心強い。

 

「これなら明日も大丈夫だね。期待してるよ」

「うん、僕に任せて。絶対お母さんの役に立つからね」

 

 眩しい笑顔である。母性本能が擽られるような感覚。おそらく今日ミコトに訓練をしてくれた人達は、同じような気持ちだったのだと思う。これは教えたくなるし、こんなことを言ってくれるのだからより強く育てたくなる。

 

「ミコトは多分、太陽の姫が狙ってくると思う。私達も守るけど、自分の身を守れるようにしてね」

「そのための訓練だよね。勿論、お母さんに迷惑はかけないよ」

 

 抜け殻の状態から刺客を差し向けて奪取しようとしてくるくらいだ。私が分霊を施して陽炎の巫女となった今でも、その身体を狙ってくる可能性は高い。私の分霊を取っ払ってもう一度分霊することで、『黄昏』を蘇らせることまで考えられる。

 ミコトは最高の戦力であると同時に、絶対に奪われてはいけない急所だ。自己防衛も当然やってもらうが、私達もミコトのことを守りながら戦いたいと思う。幸いにも、今は守護者の力を持つ衣笠さんがいるため、大分気持ちは楽。そうすると今度は衣笠さんが狙われそうなので、そこは常に緊張感を持って動かなくてはいけないが。

 

「今日はお疲れ様。あとはご飯を食べて、身体を綺麗にして、グッスリ眠っておしまいだよ」

「はぁい。いっぱい疲れたから、眠れないってことは無いと思うよ」

「それは良かった。私は少し心配だけど、みんながいてくれれば大丈夫。勿論、ミコトもだよ」

 

 訓練に便乗させてもらったのは、疲れで夜眠れるようにするためというのと、訓練中は悩みを後回しに出来るからだ。いや、もう悩むこともない。作戦会議の時に、空城司令が明確な指示をくれている。依代の少女を()()すると。

 私の悩みはそこだった。艦娘としては救いたいが、両親の仇という意味では抵抗があった。だが、作戦として救出が目的となったのなら割り切れる。嫌がるとかそんなことをしていられない。私怨で依代を破壊するというのは、指示を無視することに他ならない。

 

 私の悩みのこともあってか、今回の方針を明確に定めてくれたのかもしれない。ありがたい限りだ。

 

「じゃあ、すぐにお風呂行ってから夕飯だね」

「わぁい! 食堂のご飯、すっごく美味しいから大好き!」

「そうだね。私も好きだよ」

 

 仲間達もそうだが、この居場所のことも気に入ってくれて良かった。これなら、ミコトには何のストレスも無いだろう。それなら尚のこと明日が期待出来る。

 

 

 

 夕食は英気を養えるようにといつもよりも豪勢にされていた。全員出撃と言われていたが、短時間しか動けない間宮さんと伊良湖さんは流石に鎮守府に残るため、その分をここでとみんなに貢献してくれる。こういうところからストレスを排除し、心身ともに万全にしていく。

 その後のお風呂も終わり、あとは寝るだけ。事前にホットミルクを飲んでおいて、確実に眠れるような状況を作っておいた。ここでも最も落ち着ける環境を選択することが望まれる。とはいえ私達はいつも通りだ。

 

「一番ストレスを感じない状態……って言われても、普段が一番いいんだよねこういう時は」

「だね。これが一番落ち着けるよ」

 

 いつものメンバーが私の部屋に集合。夕立はもう村雨と一緒にいることが当たり前になっているため、これも普段通りの配置となっている。

 私の隣にはニコニコしているミコト。今日も添い寝の権利はミコトに渡したようである。昨日と同じ布陣だが、今朝も全員気持ちよく目を覚ますことが出来たので、決戦前夜もこれで良さそうだ。

 

「明日は最終決戦だけど、もう後腐れみたいなのは無いよね」

「それはこっちのセリフ。ひーちゃん、何か悩みがあったんじゃないの?」

 

 昼食の時にほんの少しだけぶり返した悩みの種。こういう時こそ仲間を頼るべきだと思う。後回しにするのはいいが、1人で抱え込むのはよろしくない。隼鷹さんには少し聞いてもらっているが、より強く心許せる親友達にも聞いてもらおう。

 

「依代のことでさ……。分霊で救うことを躊躇しちゃうかもしれないなって思って」

「あぁ……そうかもしれないね」

「陽炎様は……両親の仇だもんね」

「……姉さんの気持ちは、痛いほどわかります」

 

 私の悩みに関してはみんなが同意してくれる。私の今までのことを全て理解してくれているからこそ、この悩みは共有しやすい。特に萩風は私と同じ状況を実際に体験している。最愛の者の仇である『雲』を撃破した後、ある意味その依代にされていた村雨と和解にまで持っていけているのだ。

 

「でも、割と悩みは晴れてきてるんだよね。ほら、昼に部隊編成の話があったでしょ。その時に司令が依代の救出って言ってたからさ、そこはそうしなくちゃって気持ちが強くなった。恨みは二の次に出来そう」

 

 依代の少女はあくまでも依代。邪神にただ利用されているだけかもしれない。邪神の意思に同意し、自分の意思で私の両親を殺したという可能性も否定は出来ないが、邪神が降りなければそんなことにはなっていないはず。

 ならば、全ては邪神のせいだ。依代の少女にも罪があるかもしれないが、実行犯は邪神。それに、それを降臨させようと狂ってしまった依代の少女の父親、教祖のせい。少女は不幸にも巻き込まれたに過ぎない。

 

「だから、救ってから考えることにしたんだ。その子の意思で私の父さんと母さんを殺したって言うのなら、絶対に許さない。でも、もう壊れて自我も無い状態を邪神に利用されていたっていうのなら、どうにかしてでも救う」

 

 これが艦娘としてのやり方だと思う。破壊者ではなく守護者。どんな者でも、守るべき対象。私個人の感情を出すのは今じゃない。この躊躇が、奴の思うツボかもしれないのだから。

 

「お母さん、僕も依代の子を頑張って救う。だってあんなに不幸だったんだもん。お母さんに救われたら、きっと幸せになれるよ。僕がそうなんだから」

「ありがとね、ミコト。一緒に頑張ろうね」

 

 先程のホットミルク効果で少しおねむなミコトが、私に抱き付きながら話す。陽炎の巫女として、私が与えてしまった幸せかもしれないが、ミコトが喜んでくれているのならいい。

 

「明日に備えて、今日は早く寝よう。最後の戦いなんだからね」

「だね。身体を休めて万全な態勢にしなくちゃ」

 

 いつもだったらもっと起きているのだが、眠くなってきたところで眠らないと、タイミングを逃して変に目が冴えてしまいかねない。なら、今が消灯にちょうどいい時間だ。

 

「最後に今のこと話せて良かったよ。やっぱり悩みは口に出さないとダメだね。聞いてもらえてすごくスッキリした」

「それならよかった。ひーちゃんが一番万全にならなくちゃいけないんだからさ」

「私達……何もしてないけどね」

 

 独白するだけで終わってしまったものの、そのおかげで自分の意思を纏めることが出来たのだ。みんながいてくれたから、今の意思がある。何もしていないわけじゃない。

 

「じゃあ、おやすみ。ミコト、もう寝るよ」

「うん、寝るー。お母さん胸貸してー」

「はいはい、昨日もそうしたでしょうに」

 

 そして、夜は更けていく。目を覚ましたら、命懸けの戦場。そして最後の戦い。緊張感はあるけれど、絶対大丈夫という気持ちが強い。こんな心持ちなら、負けることなんて無いだろう。

 

 

 

 そして翌朝。清々しい朝。悪夢なんてもう見ることもなく、熟睡したことで身体も100%の回復をしている。私だけではなく、みんなが同じ。

 

「流石に少し緊張してくるね。今日で終わりにするんだから」

 

 着替えながら話す。今日は本番であるため、磯波だけならず萩風も対策インナー着用。沖波は相変わらずだったが、流石に決戦に向けたこの朝に妙ないざこざを起こすことはない。逆にミコトは、萩風も自分の姿に近くなったからか目を輝かせていた。

 

「みんな僕みたいな格好になるの?」

「みんなではないかな。私と沖波はアレが必要無いから」

「そうなんだ。でも、なんか嬉しい!」

 

 M型異端児以外は、ある意味全員がミコトと似たような状態になる。制服の下にそれを着ることになるため、ミコトのように曝け出すことは無いのだが、内側にそれがあるというだけでもミコトは嬉しい様子。特に磯波は殆ど同じなので、より親近感が湧く様子。

 私や沖波にも着てほしそうにしていたが、用意されていないので断念。私は嫌なことを思い出しそうなので、申し訳ないが勘弁してほしい。

 

 と、ここで萩風が意を決したように私の方を向いた。

 

「姉さん、お願いがあります」

「ん? どうかした?」

「戦いを乗り越えられるように、私は今日だけはなりふり構わず行こうと思います。心を万全にするために、姉さんにしか頼めないことがあって」

 

 意を決した割には言い澱んでいるようにも見える。抵抗があるのだろうか。だったらやめた方がいいのでは。

 

「……姉さんのスパッツを貸してください」

「んん? それって」

「私の真の万全は、()()()()()()()です。磯波さんのように、当時の姿を再現することで、一番力が発揮出来ると思います。勿論スカートを脱ぐなんてことはしませんが」

 

 確かに以前、夕立に振られてそれらしいことをカミングアウトしかけていたが、今回はさらに思い切ったことを言ってきた。決戦に向けて、完璧な心持ちでいくために、あえてその道を選び取った。

 少し悩んだが、萩風の決意は固いようで、決戦を最高の結果にするためにも気合いを入れたいという気持ちがありありと伝わってくる。

 

「わかった。じゃあ、これを預けるから、ちゃんと生きてここに戻って、私に返して」

「了解です」

 

 最近はサポーターを兼ねたタイツを常用しているため、殆ど使っていなかったスパッツを萩風に渡す。それだけでも少し震えたような気がするが、念願叶ったみたいな表情をした後に、ゆっくりと脚を通した。

 なんだか本当に駆逐水鬼に戻っていくようにすら見えるが、萩風は萩風なりに考えた結果なのだ。ならば、否定するわけにはいかない。むしろ、人間に戻った直後にこれを要求してこなかったこと自体がよく頑張った方なのかもしれない。

 

「っ……ふぅ……とても落ち着きます。やっぱり、これも後遺症なんでしょうか」

「わかるよ萩風ちゃん……私も今の状態が一番落ち着くもん」

 

 後遺症仲間の磯波が同意。私としては少し複雑である。

 

「あはは……ひーちゃん、なんかいきなり疲れちゃった?」

「大丈夫大丈夫。萩風がこれで100%以上の力が出せるっていうなら、私は何の気兼ねもなくスパッツくらい貸し与えるよ」

 

 まぁこれくらいならまだいい方だ。私に直接の害は無いし、萩風がそれで喜んでくれているのなら、マイナスよりプラスの方が大きい。戦いに向けた最後の準備なわけだし。

 みんなが事情を知っているのだから、冷やかすようなこともしないだろうし、萩風自身が自信を持って話すだろう。ある意味()()()みたいなもの。

 

 

 

 これで決戦に向かう準備は出来た。今日で全てが終わる。

 




次回より最終決戦となります。この長かったシリーズも、ついにここまで来ました。
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