異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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終焉への出撃

 準備万端となり、最後の戦いに臨む鎮守府。朝食で腹拵えが終わったくらいのタイミングで、颯元帥と大和さんが鎮守府に到着した。鎮守府の全員が出撃するというとんでもない大戦闘の間、元帥の大和さんがこの鎮守府を守り通してくれる。

 だからか、大和さんは徹底した重装備だった。主砲も最大級のモノだし、単独戦闘でも倒れないようにバルジまで装備し、徹底した防衛態勢。唯一、大和さんでもどうにも出来ないのが潜水艦なのだが、海上に出てこない限り鎮守府に危険はなく、上に現れた時点で大和さんの餌食になるので、殆ど心配は要らないとの事。

 

「鎮守府の防衛は、大和にお任せください。何事も無いかもしれませんが、大戦艦の力、100%揮わせていただきます」

 

 なんて頼りになる存在。たった1人でも守り切るという覚悟を感じる。そして、それが出来るだけの力すら持っている。その力で戦場に立ってもらえれば良かったのだが、無理を言ってはいけない。

 

「赤い海が拡がるであろう陸地は、先んじて交通規制を敷いておいた。万が一のことがあっても、ある程度は時間が稼げる」

「そいつはありがたい。陸の防衛にも人員は割いているが、余計な手間がかからないってのはいいことだ」

 

 今日はタイムリミットの日。下手をしたら、陸から赤い海が確認出来るくらいにまで拡がってしまっている可能性がある。その場合、あまり考えたくないのだが、それを見るために野次馬が現れたりすることが考えられた。

 さすがに好奇心だけでそこに居られるのは、邪魔以外の何物でもない。そのため、先んじて颯元帥が根回しして、誰も海岸線に近付かないようにしてくれているそうだ。それでも何が起きるかわからないのだから、無駄な脅威は取り払っておきたい。最終的な敵が守るべき人間になるとか、地獄絵図すぎる。

 

 そしてついにこの時が来た。全員が工廠に集合し、最後の戦いへの準備を始める。出撃順は以前とは少し変更されて、まずは陸上防衛部隊から。その後に強襲連合艦隊、その後ろから対潜部隊と潜水艦隊が向かい、最後は本隊と別働隊による連合艦隊となる。

 私、陽炎は本隊。強襲部隊により防衛線を突き抜け、ミコトの存在により太陽の姫を誘き出し、まずそれを叩く。それを倒せない限り、依代をどうにかすることなんて出来ないだろう。

 

「先に言っておくが、この部隊は暫定みたいなもんだ。現場ではその時その時で戦いやすい布陣ってもんがあるだろう。まずは生き残ることが最優先だ。それはわかっているね」

 

 全員が一斉に返事をしたため、工廠が揺れる程の勢いに。全員がこの戦いを終わらせるのだと気合が入っている。

 

「最後にもう一度確認するよ。今回の目的は太陽の姫の撃破と、依代の救出だ。だが、依代の救出は出来る限りに留めておく。潜水艦隊には負担をかけるが、大丈夫かい?」

「問題……ありません。ゴーヤちゃんも加わってくれたので」

「任せてほしいでち。必ず任務を達成するでち」

 

 昨日の間にゴーヤの対策水着も作られており、依代の眠る沈没船へ突撃する準備は万端。4人が5人に増えたことで、より成功率を上げている。

 ゴーヤは少し気負っている感じがしないでもないが、そこは他の潜水艦達が常にケアをしながら動くようだ。特にユーとウィーは、ゴーヤにべったりというかケアに特に貢献している。

 

「沈没船から引きずり出した時点で壊れてしまった場合は……それでも表に出せばいいですね」

「ああ、それでいい。沈没船を引き揚げることは不可能に近いんだ。そこは諦めるしかないね。アタシゃ大丈夫だとは思っているがね」

 

 そうこうしている内に、陸上防衛部隊の出撃準備が整う。旗艦として加古さんと神州丸さんが最終確認。

 

「これで行けるな」

「うむ、我ら諜報部隊も、陸の防衛に専念しましょうぞ。太陽の姫撃破の現場に居合わせることが出来ないことは仕方あるまい」

「まぁそこんところは勝ってから陽炎辺りにインタビューすりゃいいって」

 

 それは責任重大だ。まず勝って戻ること前提だが、ちゃんと戦いのことを覚えていなくてはならない。

 

「陸のことはアンタ達に任せる。行けそうならそのまま防衛線の方まで進んでおくれ」

「了解。じゃあ、出撃だ! 艦娘の意地、見せてやっかね!」

 

 陸上防衛部隊が出撃後、続いて強襲部隊の準備完了。ネルソンさんを中心に、かなり重たい部隊が勢揃い。長門さんと陸奥さんが別働隊に加わるものの、空母がほぼ全員強襲部隊に入るため、火力で言えばおそらくこちらの方が高い。

 

「ネルソン、前の通りによろしく頼む。アンタ達の突破力で本隊を奴の居場所に導いてやんな」

「任せるがいい。余の手にかかれば、赤子の手を引き千切るようなものだ」

「物騒っぽい」

 

 磯波破裂。久しぶりにネルソンタッチが磯波の腹筋を抉った。

 最後の最後まで締まらないのがネルソンさんである。というか、夕立のツッコミも相まって、磯波が大分緩んでしまった。緊張感が無いことがいいことか悪いことかはわからないが、力んでいるよりはマシかもしれない。

 

「では皆の者、準備はいいな! アガノ、貴様の働きにも期待しているからな」

「こんな大きな戦いで旗艦とか緊張するんだけど、ここまで来ちゃったら頑張りまぁす」

「よろしい! では、いざ行かん!」

 

 強襲部隊も出撃。磯波がまだ復帰しそうに無いが、続いては対潜部隊と潜水艦隊。

 今回の作戦の2つ目の要。沈没船への接近を優先する潜水艦隊と、それをサポートする対潜部隊は、下手をしたら最も狙われるかもしれない部隊。松輪が狙われる可能性はまだまだ拭えないし。

 

「アンタ達もかなり厳しい戦いになると思うが……よろしく頼むよ」

「任せてちょうだい。必ず潜水艦隊を沈没船まで送り届けるから」

「初めてじゃないんだもの。同じ轍は踏まないわ〜」

 

 五十鈴さんと龍田さんも気合充分。前回もかなりいい動きをしてくれたおかげで、イヨだけとはいえ沈没船に近付くことが出来た。今回はたった1人だけではなく、潜水艦隊全員が近付けるようにしてやると意気込みも凄まじい。

 それについていく海防艦達も、大鷹の言うことを聞きつつも溢れる気合が表に出てきてしまっている。あの松輪も、ここで終わらせるのだと表情が勇ましい。

 

「今回のいつものことをやっておきましょう。今回の戦いは」

「潜水艦は全部吹っ飛ばすけど」

「死ぬくらいなら逃げるっしゅ」

「いのち、だいじに!」

 

 前にも同じことをやっていたのを思い出す。大鷹と海防艦達の中では、不変の標語みたいなものなのだろう。出撃前にそれを言葉にすることで、しっかりと心に刻みつけている。

 この信念は必要。今回は最後の戦いという特に危険な戦場なのだから、この信念は絶対に忘れてはいけないこと。

 

「でっち……気負わないでね」

「そうだぞー。力んでたらやられちゃうかもなんだからね」

「大丈夫でち。命大事には潜水艦も一緒だからね」

 

 潜水艦隊も出撃準備完了。ゴーヤはどうしても表情が硬いが、周りからの声援で笑顔を見せるように。メンタルケアは大分効いているようだ。

 

「じゃあ、行くわよ。対潜部隊、出撃します!」

「潜水艦隊……出撃します。行きましょう」

 

 対潜部隊と潜水艦隊もこれで出撃。残ったのは、本隊と別働隊のみ。ここまで出ていくと、最初の多さが嘘のように無くなり、工廠がとても広く感じる。

 

「私達が最後だね。ちょっと緊張してきたよ」

「夕立は興奮してきたっぽい! 早く戦いたくてうずうずしてくるっぽい!」

 

 夕立は相変わらずだが、そのノリが緊張感を薄れさせてくれるのでありがたい。

 夕立だけでなく、ここにいる面々には太陽の姫に個人的な恨みを持つ者も多い。私と沖波、村雨は直に巫女にされているし、萩風と長門さん、夕立に磯波は間接的に深海棲艦にされている。ミコトだって今でこそ全ての記憶が消えているが巫女だった。因縁が大きい者をこの部隊に詰め込んでくれている。

 

「アンタ達に任せることになる。頼んだよ」

「うん、任せて。これで決着をつけてくる。父さんと母さんの仇……ううん、世界を守るために、これで終わりにするよ」

「最後の戦いだもの。私達も全部出してくるわ」

 

 陸奥さんと拳を突き合わせて、海の方を向く。ここから先は命懸けの戦場。今ここにいる12人で、太陽の姫に挑む。D型異端児だったり異端児ですら無かったりするものは、その攻撃が届くことすら無いかもしれない。だが、やれることはあるはずだ。

 

 泣いても笑っても、これが最後。この戦いで全てが決まる。これ以上は引き延ばせない。赤い海が陸に辿り着く限界ギリギリ。

 勝てば終わり、負けても終わり。ならば勝って、笑顔でこの戦いを終わらせたい。誰も傷付かずとは行かずとも、誰も死なずに、全員揃ってここに戻ってきたい。

 

「じゃあ、行こう。決着をつけよう!」

 

 小さく息を吐いて、戦場に向かって一歩前へ。もう戦いが終わるまでは戻れない。みんなの熱を背に受けて、私も身体を熱くして、その戦場へと向かった。

 

 

 

 航路はいつも通り。鎮守府から一直線に本拠地へと向かう。ここまで来たら、回り込むとかそういうことも考えない。

 

「うわ、もう赤い海が見えてきた」

「大分拡がってるね……陸に辿り着くのも時間の問題っていうのがわかるよ」

 

 いつもだったら水平線の向こうにも見えないくらいの位置で、すでに赤い海の存在が確認出来るようになっていた。今この段階でそう見えるということは、陸側は海岸線に立っているだけでも赤い海が確認出来てしまう程かもしれない。

 そんなものが陸から見えていたら、確かに野次馬が群がってもおかしくはない。それを事前に対策してくれた颯元帥には感謝。

 

「陸の方には何もなってなければいいんだけど」

「そのために加古達が向かったんだから、私達は気にしないようにしましょ。正面にいる敵だけを見ていればいいわ」

 

 陸奥さんに言われ、考えを改める。私達が陸側を考えている余裕なんて無い。正面にいる太陽の姫に神経を集中しよう。全力でかかっても勝てるかわからないような相手なのに、別事に意識を持っていかれていたら勝てるものも勝てない。

 

「うわ、ちょくちょく亡骸が浮かんでる。この段階から妨害入ってたんだ」

 

 航路の途中で消えかかっている深海棲艦の亡骸が浮かんでいることがあった。強襲部隊が処理したのだと思うが、今まではこの段階で攻撃を受ける事はなかった。

 それだけあちらも本気で来ている。これが最後の戦いであると、太陽の姫も実感しているのだろう。だからこそ、無限に湧く深海棲艦を早い段階から投入して、こちらの体力を削ごうとしてくる。確実に勝てるように。邪神の割には妙に人間臭さがあるのは、依代の影響なのだろうか。

 

「音も聞こえてきたわ。各員、戦闘態勢を維持しながら突撃するわよ。ネルソン達が先にやってくれているはずだけど、突破出来そうに無かったらそこで抗戦だから!」

 

 陸奥さんの号令で、全員が臨戦状態に。いつ襲われてもいいように、神経を集中して突撃する。今まで以上の妨害があることは容易に想像出来るし、最悪の場合、また何かしらの巫女が生まれていてもおかしくない。慎重に、且つ大胆に、その戦場へと突っ込んだ。

 

 

 

 しかし、そこにあったのは異様な光景だった。

 

「何、あれ……!」

 

 ネルソンさん達の姿が見えたが、戦っている相手がおかしい。

 どう見ても深海棲艦、言ってしまえば姫級なのだが、艤装の形状とかが今までに見たことのないものだった。いや、少し違う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「来たか貴様ら! 今回の防衛線は侮れん!」

「これは想定してなかったわ。まさか完全な()()()を用意してくるなんて」

 

 ネルソンさんはおろか、アクィラさんも困った顔で対応している。

 

 模造品、そう呼ぶのが最も適している敵。姫級であろう深海棲艦の艤装は、どう見ても()()()()()()()()()()()()()()()()。それだけではない。その隣にはサウスダコタさんを模した姫と、プリンツさんを模した姫までいる。その後ろにはアクィラさんやイントレピッドさんの模造品まで。

 そうこうしている内に、私達の前にもヌルリと深海棲艦が現れる。私の姿を模した駆逐艦の姫。その隣には沖波を模した姫。キチンと眼鏡までかけて、それを表現している程に。

 

「今まで静かだったのは、これを造るため……!?」

「あり得るわね。これは困ったわ……私と姉さん、霧ちゃんまで出てきちゃった」

 

 模造品、いや、おそらく奴なら『影』と名付けるか。日の光にて生まれる、物の形を投影する影。

 最後の最後にとんでもないものをぶつけてきた。足止めにも充分すぎる。

 

「完全な模造品だったとしたら……私達の能力を全て持ってるってことよね」

「そう考えるのが妥当だな。つまり、奴らも()()()()使()()()

 

 言うが早いか、陸奥さんと長門さんの『影』が一斉射の構え。アレがどれ程の威力なのかは、私達が一番理解している。味方にしているから頼もしいのであって、敵には絶対したくない。

 さらに言えば、模造品と言っても相手は深海棲艦。そもそものスペックが私達よりも高い。言ってしまえば、『影』は私達の上位互換の可能性が高いのだ。

 

 

 

「どうにか突破する。こんな奴らに構ってる暇無いんだから!」

 

 最後の戦いは、自分との戦いから始まる。そういう意味でこの言葉は使いたくなかった。

 




最終決戦開始。太陽の姫の前に、その光から生み出された己の影が立ち塞がります。
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