異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
ついに最終決戦の海へと歩み出たのだが、まず立ち塞がったのは普通とは違う深海棲艦達。巫女では無いのだが、艤装が艦娘のモノを模倣している『影』である。私、陽炎の『影』も当然そこにおり、その隣には沖波の『影』も。それだけならまだ良かった。
「来るわよ。全員回避!」
陸奥さんが叫んだことで、連合艦隊といえど一斉にその場から散る。その瞬間、陸奥さんと長門さんの『影』が一斉射を放ってきた。
その『影』は、見た目はおろか能力までもが私達の模造品。陸奥さんや長門さんなら一斉射が扱えるだろうし、先んじてこの場に到着したネルソンさんが侮れないと言ったのはネルソンタッチまで扱えるということなのだろう。
とはいえ、私達は一斉射をさんざん見てきている。回避の仕方だって理解しているし、なんなら弱点だってわかる。一斉射の弱点をつけるのは、おそらく私のみ。『蜃気楼』によって急速に近付いて、隙間から急所を狙う。
「ひーちゃん!」
「うっそでしょ!?」
しかし、それを許してくれないのが私の『影』だ。まさかの
勿論、私の仲間は私の弱点をしっかりと把握している。脱力回避の弱点は、動き出しの脚。それを即座に把握出来る者は数少ないものの、キャンセルは出来る。しかし、やってくると思っていないものをキャンセルすることは出来ない。
「っとぉっ!?」
だが、私だって自分のことは理解しているつもりだ。撃たれる瞬間にもう一度脱力回避で辛うじて回避する。
命中精度も私と同じだと言うのなら、備え付けの主砲はかなり危ない。瞬時に照準を定め、回避方向すらも見極めて放ってくる。それだけはまずい。私はそれと相対したことはない。
「陽炎、守るよ」
「お願い!」
ここで全自動防衛を発動させた衣笠さんに引っ張られ、その砲撃を緊急回避。相手がどんなものであれ、対象とした者を守り切るのが、衣笠さんが覚醒したことで手に入れた技であり特性。本当に助かる。
だが、衣笠さんがいなければかなり危なかった。備え付けの精密射撃を敵にするのはこうも恐ろしいのか。
「ゲロ様のニセモノは夕立がやるっぽい!」
そこに飛び込んできたのは夕立だ。『影』の一斉射を回避した後、即座にこちらへと向かっていた。夕立ならそれを考えるのも当然である。
しかし、それはあちらでも言えることだった。夕立に対応するために向かってきたのは、よりによって霧島さんの『影』。艤装を鋏状に変形させた挙句、それにより挟み殺そうと突っ込んできた。
「親分!?」
「なら、そっちは私の獲物よね……!」
その夕立を守るため、霧島さんが自身の『影』へと突っ込んだ。同じように艤装を変形させ、鋏同士をぶつかり合わせる。艤装の強度的には、深海棲艦である分、腹が立つことにあちらの方が上。一度ぶつかっただけでも、霧島さんの艤装から嫌な音が聞こえた。
「重たっ……!」
「すぐに助け……っ!?」
霧島さんを援護しようとした村雨の前には、やはり村雨の『影』が立ち塞がる。艦娘として活動するようになり、夕立に近しい獰猛な動きすら出来る村雨をしっかりと模倣しているせいか、完全に同じタイミングで魚雷を放っていた。
その魚雷同士が衝突し爆発。大きな水柱が立ち昇った。こうなると、こちらでは何度も訓練に使われた萩風のスイッチ戦法に繋がる。以前は爆煙を突き抜けるというなかなか危ないことをやってのけたが、今回はいつものそれだ。
「この……っ!?」
そして、案の定同じ戦術を使ってきた萩風の『影』。水柱の中心で主砲同士がぶつかり合うことになり、そこで主砲を放ったせいでとんでもない音がした。艤装の破壊までは行っていないものの、水柱を掻き消す程の爆発が起きたのは言うまでもない。
その隙を狙うのは磯波と沖波。爆発が2度連続で起きたことで、一瞬だけ時が止まったこの瞬間を狙って、いの一番に狙ったのは私の『影』である。やはり模造品とはいえ、私が敵対しているという状況が気に入らないようだった。
しかし、そこに跳んでくるのは夕立の『影』。淡々と行動する夕立という異様な姿がいかにも敵であるという雰囲気だが、実力は本人と同じかそれ以上。
「面倒なのが来たね!」
「すぐに追い返すよ……」
それに対する2人は、今までに見たことのないくらい冷めた顔で処理を始める。特に磯波は、殆ど無表情で跳んでいる夕立の『影』を的確に撃ち抜こうと砲撃を放っていた。
当然2人は夕立の弱点を知っているわけで、連携の訓練では夕立を倒すことだって出来ているのだ。『影』がどれだけ夕立を理解しているかは知らないが、完璧な模倣であればあるほど、対策はしっかりと効くだろう。
「沖波姉、磯波姉、危ない!」
だが、2人で夕立に注目してしまうと、本人の『影』はフリーになってしまう。そうなると、当たり前だが
それを守るのはミコトである。至近距離から撃たれたわけでもないため、その砲撃の間に入り、強固な艤装で2人を守った。陽炎の巫女としての艤装も、深海棲艦のそれと同様な程に堅牢であり、いくら相手が姫級だとしても傷一つ付かない。
幸いなことに、この戦場を見回しても
しかし、表情は少し浮かない。初めての戦闘で、私の役に立つんだと意気込んで出撃したのに、敵には私まで含めた仲間達と同じ姿ばかり。抵抗が出てもおかしくない。
そのため、防衛はしたものの、反撃が出来ないでいた。躊躇いにより防戦一方。
「ど、どうすればいいの? 攻撃してもいいの? お母さん!」
「見分けはつくから、攻撃していいよ! そうやって攻撃をさせないようにする卑怯な作戦みたいだから!」
「わ、わかったーっ!」
よく見なければわからないというレベルの模造品ではなく、明らかに深海棲艦とわかるくらいの模造品だ。ぱっと見でもどちらが敵でどちらが味方か判断が出来る。それでも大分似せてはいるのだが。
「うぅっ、やりづらいよぅ」
どうしても全力を出すことが出来ないミコト。『空』の回避まで模倣出来ている『影』や、こちらへの観察が鋭すぎる磯波の『影』には、本気で行かなければ擦りもしない。
初陣がこれでは、戦闘そのものにトラウマを持ってしまってもおかしくはなかった。意気込みそのものを抑えつけられて、やる気が空回りしてしまっている。
「この……いい加減にっ!」
そんなミコトの側に向かうためにも、『蜃気楼』で移動後、手持ちの主砲によるブレ弾で未だに私に付き纏う私の『影』に砲撃をお見舞いする。倒せなくても、怯ませることが出来ればまだマシ。ブレ弾なら回避も大きくなるので、その傾向が強くなるはずだ。
だが、それも上手く行かない。私が『影』からの攻撃を回避したように、衣笠さんの『影』が私の『影』を緊急回避させる。全自動防衛が敵対した時の怖さは、制御出来ていない時の蹴りをモロに喰らった私が一番理解している。
「ここまでしっかり再現してくんの!?」
「なら、本体狙うのが一番手っ取り早いってことね!」
そこに私を守ってくれていた衣笠さんが、自分の弱点は自分が一番理解していると、自分の『影』に対して砲撃。当然それは回避されるものの、全自動防衛は発動していないため、『影』は私達以上のことは出来ないと見える。
しかし、同等のことが出来るということは、常に互角であり、消耗させられ続けるということ。フィジカルはあちらの方が上なのだから、ジリ貧なのは間違いない。
「くそっ、一斉射も互角か……っ!」
「完全に模倣しているのね。でも、私のコピーにしてはあまり美しくない気がするんだけど!」
長門さんも陸奥さんと共に一斉射を放っていたが、『影』の一斉射と互角。ネルソンさんとの演習の時のように、弾が弾を撃ち墜とし、流れ弾を回避することを延々と繰り返すことになっている。
やられていないにしろ、ダメージも与えられないというのは精神的にも苦しい。ただでさえ自分と同じ顔の敵が出てきているというだけでも厄介なのに、それと長々戦うのは気に入らない。
それが顕著に出てしまっているのがミコトだ。短期間で仲間意識を育み、みんなの妹と思われるほどに愛されているのに、その愛してくれた者と同じ顔の敵が周りにいるのは、ストレス以外の何物でもない。
だが、これを打開してくれる人は存在する。
「狼狽えるな!」
戦場で吠えたのは、木曾さんだ。木曾さんだって自分の『影』と激しい戦いを繰り広げているが、私達とは違って随分と余裕そうな表情だった。
雷撃は危険であると近接戦闘に専念し、『影』も同じように軍刀を振るっている。膂力は残念ながら『影』の方が上のようだが、それでも笑みすら浮かべていた。
「こいつらはコピーかも知れないが、実力は
話しながらもガンガン斬り合い、互角であるはずなのにどんどん押していく。私達が苦戦する中、ただ1人戦場を見極め、敵の実力を的確に測っていた。自分とのぶつかり合いをする中でも、砲ではなく刀を交えるからこそ、その結論に達したのだと思う。
「少なくとも! 今の俺達は
斬撃が一層鋭くなった瞬間、『影』の軍刀が弾き飛ばされた。力が艦娘より上でも、技は艦娘の方が上。そして、木曾さんはその場でそれを現実にし、『影』より自分達の方が上であると実証した。
「こいつらは
そして、無防備となった『影』に対して軍刀を振り下ろした。袈裟斬りにされたことによって一撃の下で死に絶え、そのまま霧散。
言われてみれば、『影』達が3日前の自分である要素はなんとなく理解出来た。
それが、ミコトの『影』がここにいないこと。その場でコピーが作れるなら、ここにいる全員の『影』が現れてもおかしくないのに、それがいない。ミコトは想定外の仲間だし、あちらとしても陽炎の巫女になっているのは想定していなかったのだと思う。むしろ、それを危惧して抜け殻を奪おうとしてきたか。
「俺は俺に打ち勝ったぞ。お前達だって勝てるだろ! なぁ!」
すかさず魚雷を放って『影』からの一斉射を妨害する。一斉射は足下からの攻撃には若干弱い。そこはネルソンタッチと近しい特性を持ってしまっている。
だからだろう、それをすかさず衣笠さんの『影』が破壊した。ここでまた全自動防衛が発動している。やはり敵に回すと厄介。しかし、このおかげで私の『影』への防衛が消えた。夕立の『影』がいるものの、こちらにも夕立はいるし、衣笠さんだっている。
「同じ顔は、見ていたくないっぽいよ!」
「同感、私も嫌なことを思い出しそうだから、さっさと終わらせたいんだよね!」
この『影』を見ていると、深海棲艦化した自分を思い出してしまいそうで嫌だった。そういう精神攻撃になっているのかもしれない。嫌がらせにも程がある。
だが、木曾さんの言葉は大きな励みになった。3日前の自分が相手だというのなら、昨日まで訓練を続けていた私達に負ける要素なんてない。実力が拮抗しているにしても、僅かに私達の方が上だ。ジリ貧なのはあちら。そう考えてしまえば、精神的な苦痛も和らいだ。
「力でダメなら技で押せ! 奴らは確実に俺達より下だ! 模倣された時点で成長が止まってるんだからな! 俺達は、今この場でも成長出来る!」
鬨の声となった木曾さんの叫びに、追い風を感じた。そうだ、私達は成長出来る。次へ次へと歩いていける人間だ。滅びを齎す、その場に止まった奴らとは違う。
「己との戦いで打ち勝てれば、もっと強くなれるね。なら、ここで勝たなくちゃ」
「ぽい! 自分のコピーなんて、ぶっ潰してやるっぽい!」
ストレスは全て払われ、俄然やる気が出てきた。こんなところで足止めなんてされて堪るか。
戦いはまだ始まったばかり。だが、やる気は衰えない。疲れすら吹き飛んだ。前へ前へ進み、決着をつけるのだ。
支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/89455037
MMD静画のアイキャッチ風青葉。諜報部隊で活躍中の彼女ですが、日常的にも撮影はしています。その光景はリンク先にあるのでどうぞ。