異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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さらに高みへ

 太陽の姫との最終決戦に向かう中、突如として現れた敵、『影』。私、陽炎の『影』は脱力回避や備え付けの精密射撃まで再現してくるほどのコピーであり、こちらが出来ることを全て完全に模倣出来るという難敵である。

 この場にいる全員のコピーが現れ私達の妨害をしてきたため、先に進むことが出来ず大苦戦を強いられることになった。連携の技術までもが模倣されており、私が私の『影』を叩こうとすると、夕立の『影』がそれを邪魔をし、それを叩こうとすると今度は霧島さんの『影』が……と、非常に厄介だった。

 ミコトに至っては、私達と似たような存在が敵対しているせいで、本来の実力を発揮することが出来ずにいた。どうしてもうまく撃つことが出来ず、防戦一方に持っていかれていた。

 

 しかし、それを即座に打開したのが木曾さんだった。自分の『影』と戦い、その実力を近接戦闘により見極めたことにより、『影』が今の自分ではなく過去の自分の模倣であることを看破した。

 そのため、今の自分ならそれを超えられると断言し、『影』を袈裟斬りにしたことでそれを実証した。

 

「力でダメなら技で押せ! 奴らは確実に俺達より下だ! 模倣された時点で成長が止まってるんだからな! 俺達は、今この場でも成長出来る!」

 

 木曾さんの言葉が戦場に響く。()()()()()()()()()()()()()()という言葉は、特に心に響いた。おかげで苦戦により受けていたストレスが一気に晴れ、私自身との戦いだとしても前向きになれた。

 ここで自分に勝つことが出来れば、より強くなれる。そうすれば太陽の姫にも届くはずだ。ならばこの場で成長し、自分を乗り越えてやれ。

 

「ちょうどいいや。自分のダメな部分、ここで確認させてもらおう」

 

 前向きに、あくまでも前向きに。今までで一番の強敵かもしれないが、自分よりも確実に弱いであろう敵なのだ。ここで負ける理由がない。少し横暴な物言いかもしれないが、強気で行ければ尚いい。

 

「そう、昨日の私だと言うのなら、負ける道理なんて何処にもないわ!」

 

 真っ先に結果を出しに行ったのは霧島さんだった。同等かそれ以上の膂力を持つ自分の『影』とギリギリのところで拮抗していたが、この追い風によって搦手に打って出る。

 近距離すぎて主砲が放つことが出来ないのはお互い同じ状態。撃てば即座に撃ち返されて、共倒れになるだろう。『影』もそれは控えているようだった。

 鋏同士がギチギチと嫌な音を立てながら競り合っている中、突然力を抜く。お互いに押し相撲状態だったため、霧島さんの『影』は姿勢が若干崩れた。

 

「私のこと、ゴリ押ししかしないとでも思っているのかしら、ねっ!」

 

 そこに強烈な蹴りを叩き込む。崩れたところに折れるのではないかというローキックを決められ、霧島さんの『影』はより一層体勢を崩すことに。

 

「私は、艦隊の頭脳なんだから!」

 

 そこへ即座に主砲を突きつける。『影』もそれを見越して鋏によりその主砲を払い除けようとしたが、ここで今までに無い行動。まるで夕立の如く、その風圧に乗ったかのようにバックステップ。

 そして、同時に主砲を発射。その砲撃の反動でさらに後ろに跳んだ。それが『影』に当たるかどうかなんてお構いなしではあったが、そこは艦隊の頭脳、その咄嗟の行動でも直撃コースを計算し、反動で安全圏に移動出来る方向まで考えての行動。

 

 ここまでの行動が戦艦とは思えないくらいの早業であり、他の『影』が割り入る隙すら与えなかった。高速戦艦という艦種はそういう意味ではないと思ったのだが、霧島さんはそういうところで想定外を叩き出す。

 

「よし、親分のニセモノはいなくなるっぽい! 今度は夕立の番!」

 

 それを見て俄然やる気を出したのは夕立だ。親分が勝ったのだから子分もと、自分の『影』に狙いを定め、ニヤッと笑みを浮かべる。それを受けても『影』は何とも思わないだろうが、こういう時の夕立はより獰猛に敵を食い殺すだろう。

 しかし、いつもと変わらないのなら、模倣されて互角かそれ以上に持っていかれる。それをしっかり考えているだろうか。

 

「いつもよりも、速く、速く、速く!」

 

 海面を蹴り、猛スピードで自分の『影』に突撃。そこには私の『影』も衣笠さんの『影』もいるような状況。夕立がどう動こうと、すぐに補佐のために立ち塞がるだろう。

 それでも夕立は止まらない。本当にその場で成長するように、立ち塞がる『影』をヒラリと躱す。それこそ、餌を前にした飢えた狂犬。一直線ではないが、標的に向かって他の敵には目もくれずに突っ込む。

 

「夕立と、素敵なパーティーしましょ!」

 

 当然『影』だって抵抗する。主砲を構え、野生的な直感で夕立を狙い撃ち続けた。しかし、夕立はその直感を軽々と乗り越える。より鋭敏となった感覚で踊るように回避し、時には私の『影』を踏みつけ、時には衣笠さんの『影』を蹴り飛ばし、もう手が届くところにまで肉薄していた。

 そこまで近付いたら避けようがないはず。そう考えたであろう夕立の『影』が、ヘッドショットを決めるために照準を合わせようとする。だが、そんなこと夕立は百も承知。自分ならそうすると先に考えており、主砲を構える瞬間を狙って腕を撃ち抜いた。

 これは本当に一瞬、間宮さんの技を再現したような動きだった。自分がやられて嫌だったこと、深海棲艦化した時のトラウマとも言える、一瞬で無力化させられたあの時の技を、なんと自分でもやってのけたのだ。

 

「うわっ、これ確かに負荷すっごい! ながもんさんすごいなぁ!」

 

 そしてそのまま、自分の『影』の顔面を踏み潰すかの如く蹴り飛ばした。

 まさか夕立も鎮守府の守護者の力を模倣するとは思っても見なかった。長門さんや陸奥さんのそれとは雲泥の差かもしれないが、自己流であるがためにクールタイムも不要。成長の仕方がとんでもないのは、さすが夕立と言ったところ。

 

「さすが夕立だね。なら私達も、自分を乗り越えなくちゃね!」

「当然です。今の私はいつもの私とは違うんですから!」

 

 さらにそれが追い風となり、その勝利への流れは次に移る。今度は村雨と萩風。なんやかんやコンビで動く2人に対する『影』も、同じようにコンビで戦っていた。そこまでしっかりコピーしているとは思っていなかったが、連携に関してはこちらの方が確実に分がある。

 萩風に至っては、明確にモチベーションが上がっていた。今朝のやり取りで、私の私物を身につけるというちょっと危ないが本人たっての希望が叶ったことで、気合の入り方が違っていた。

 

「私が前に出ます。村雨さんが援護を」

「はいはぁい! やっちゃえやっちゃえ!」

 

 自分の『影』とのぶつかり合いで艤装が嫌な音を立てていたが、まだまだ壊れるには至っていない。ならば戦える。

 

「いくらコピーでも、決定的に違うところがあるんですよ!」

 

 再び自分の『影』との対峙。やり方は同じで、主砲を拳のように振りかぶった渾身の一撃。しかし、萩風は一味違った。前へ前へと突き進む駆逐水鬼スタイルを継承していた今までから、違う技の模倣。確実に今、()()()()

 萩風ならではの形に昇華させた脱力回避。私のように艤装に身体を動かしてもらうのではなく、今まで見てきた()()()()()()()()()回避技術にして、自分の『影』からの攻撃を擦り抜ける。

 

「姉さんをずっと見てきた私だからっ、これくらい!」

 

 しかし、それを防ごうと村雨の『影』が動き出す。即興の脱力回避程度と言わんばかりに真っ向勝負に出てきており、ほとんど連携とも言えない両前衛の戦術で1対2の状況を作り出そうとした。

 当然それを見過ごす村雨ではない。萩風が前に出て、援護を任せたのだ。しっかりと援護をするために、むしろ萩風よりも前に出ていた。夕立から教わっている獰猛さを表に出し、第二の狂犬っぷりを遺憾無く発揮する。

 

「もっと前へ、もっと前へ!」

 

 ドンと音が聞こえそうなくらいに強烈な踏み込みをした瞬間、気付けば自分の『影』を蹴り飛ばす位置にまで移動していた。これは村雨本人が見ていないであろう、伊良湖さんの技を再現したような動き。

 そういうところでも夕立とは対を成すような覚醒だった。夕立と同様に、自己流で鎮守府の守護者の力を引き出しているため、クールタイムなんて無い。世界に選ばれし者としての覚醒は村雨だけはまだ無かったが、この極限の状況でついに目覚めた。

 

「ったぁ……。これ結構負荷が凄いわ。陽炎がサポーター使ってる理由がわかるかも」

「姉さんの模倣は絶対にさせませんよ。それは妹である私の特権ですから」

「わかってるわよ! アンタはアンタの敵に集中しなさいな!」

 

 なんだかんだ仲がいい。自分を一番さらけ出せる相手が村雨だからか、萩風もイキイキとしているように見えた。

 

「皆がここまでやれているんだ。我々も、気張らなくてはな!」

「ええ、勿論。年長者の余裕ってものを見せてあげないとね!」

「限界を超えろ! 今の我々なら出来る! 真の守護者となれ!」

 

 それに焚きつけられた長門さんと陸奥さんも、守護者の力を全開にして使っていくことを決めたようだった。

 一瞬出すことでクールタイムを5分必要とするのだが、それは一瞬しか出せないというわけではない。長く出すほどクールタイムが長くなるということに他ならない。それこそ間宮さんや伊良湖さんと同じように、5分使って3日寝込むなんてことも出来るようだ。

 だが、2人はそんなつもりは無いようである。クールタイム無しにあの力を使いこなそうとしている。そのために今まで鍛え上げていたと言っても過言では無い。

 

「てぇーっ!」

 

 一斉射ではなく、間宮さんの技。先程夕立も繰り出した、一瞬で相手の艤装を破壊する砲撃。

 しかし、長門さんの『影』も同じことが出来てしまう。あれは『黄昏』との戦いでも使っているため、模倣が完了している範囲だ。一瞬に一瞬が重なり、狙う場所も同じであるため、放った弾が空中でぶつかり合った。

 

「へぇ、そこまでコピー出来てるのね。それならこっちはどうかしら!」

 

 そこに重ねるように、陸奥さんが伊良湖さんの技で長門さんの『影』に接近。しかしこれも陸奥さんの『影』が同様に動き、直前で食い止められる。

 

「てぇっ!」

 

 さらに間宮さんの技。陸奥さんの『影』も同じように放ち、長門さんの時と同様に、弾が空中でぶつかり合う。

 

「はっ、まだだ!」

 

 今度は長門さんが伊良湖さんの技で陸奥さんの『影』に接近するが、やはり同じように長門さんの『影』が食い止める。

 

 本来ならこれでクールタイム。長門さんには神州丸さんの陸戦の技もあるが、主砲も動きもこれで著しく劣化する。『影』の方はフィジカルがあるものの、深海棲艦にとってもこの瞬時に大きく力を引き出すという手段は大きな負荷になるようで、本当に小さくだが動きが鈍くなった。

 デメリットまでもが模倣されているのは、こちらとしてはラッキー以外の何物でもない。太陽の姫のことだからその辺りをオミットしてきそうだったが、あの技はそれくらいに重たいものなのだろう。

 

「まだだと、言っている!」

 

 だが、長門さんはその負荷を振り払ってさらに間宮さんの砲撃を放った。想定外の二連射に長門さんの『影』は回避する術が無く、艤装が木っ端微塵に。

 

「そう、まだよ。まだまだ!」

 

 加えて、陸奥さんも伊良湖さんの移動をもう一度発動して自分の『影』を蹴り飛ばす。綺麗にかち上げられた陸奥さんの『影』は、空中で身動きが取れなくなっていた。

 どちらもクールタイムはこちらよりも短いのかもしれない。5分のところが5秒なのかもしれない。だが、それだけの時間があれば、2人には全く問題が無かった。

 

「糧にさせてもらうぞ、私よ!」

「美味しくいただくわね。私だもの」

 

 そして、長門さんは自分の『影』を神州丸さんの陸戦技によりへし折り、陸奥さんは自分の『影』を間宮さんの技で粉々にした。

 その後のクールタイムはより長いものになってしまうだろうが、そんなことはもう知ったことでは無かった。

 

 

 

 数日前の模倣ならば、成長の糧として使う。私達はまだまだ戦える。しかし、どうしても手が緩んでしまっている者がいた。

 

 ミコトはどうしても、敵を倒すということが出来なかった。

 




支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/89492453
MMD静画のアイキャッチ風秋雲。やるときはやるけどキャラがあんなだから緊張感が。でも子供達に好かれるようなイラストを描いたり、要所要所で重要な役目を持つのが秋雲らしさ。子供達にイラストを描いている様子がリンク先にあるのでどうぞ。
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