異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
現れた強敵『影』に対し、木曾さんの言葉から奮起し始めた仲間達。私、陽炎も自分の『影』を相手に、この現場での成長を図る。
木曾さんの次は霧島さんが見事討ち倒し、それに引っ張られて夕立、村雨、萩風と続く。長門さんと陸奥さんは、その場で限界を超えて守護者の力まで強化し始めた。
しかし、そんな中でもうまく動けない者がいた。それがミコト。自分の『影』がいないという環境のため、周りをサポートするために動いているのだが、どうにもこうにも上手く行かない。
今は沖波と磯波のサポートに徹している。しかし、沖波の『影』が特に厄介だった。
「我ながら、ホント厄介!」
沖波本人が愚痴る程の性能。本人と同じように『空』の回避を使ってくるため、全く当たる要素が無い。沖波もそれは同じであり、『影』との戦いは攻撃を全て回避し続けるという不毛な戦いとなっていた。
それをサポートする磯波も、その観察眼から隙を探して攻撃しているのだが、沖波自身が想定外以外の攻撃を確実に紙一重にしてしまう回避性能のため、基本に忠実に補佐をする磯波とはかなり相性が悪かったりする。
しかし、それは磯波の『影』にも言えることであり、ますます不毛な戦闘になっていた。磯波同士が戦っても、自分のことを最も理解しているようなものなので、その攻撃はやはり当たらない。
「もっと、もっと強くならなくちゃ!」
「ミコトちゃんが本調子じゃないからね、まずは私達で出来ることを!」
沖波と磯波の目から見ても、ミコトは本調子ではない。今まで仲良くしてきて、夜も私の部屋で一緒に眠った2人と外見が同じ敵というのが大きな問題だった。
ミコトの実力なら、沖波の想定外を起こすことも出来そうだし、忠実な補佐をする磯波を上から押し潰すことも出来ると思う。実際にはいろいろな要因が重なって互角くらいにはなるだろうが、少なくとも相性有利はあるはず。
「うぅっ、沖波姉だし磯波姉だし、僕どうすれば……っ」
連携が上手く出来ていないとかはない。だが、演習の時よりも手加減してしまっているような雰囲気。尻尾での薙ぎ倒しとかは沖波にもかなり有効な戦術なのだが、それに踏み出せないくらいに気圧されている。
自分の『影』がいないことが、ミコトをより一層躊躇わせている。自分の模造品がいるのならそれに専念したらいい。あくまでも自分なのだから、一切の抵抗が無い。しかし、仲間の顔となったら話は別。
ミコトが本当にいい子に育ってくれているため、それが逆に足を引っ張ってしまっていた。コレばっかりは正直仕方ないのではと思ってしまう。この戦いで、何かしらの成長があればいいのだが。
「真正面から打ち崩すのは無理だから……わかった」
磯波が先に成長の兆しを見せる。やはり自分の『影』を先に処理しようと、回避しながらも少し離れて狙い撃った。近付くならまだしも、離れたことによってより狙いが定まらなくなるのは誰にだって理解出来ること。なのに、あえて離れたのは『影』からの砲撃を誘発するため。
撃った後に避けられて撃たれるというのは、相手が自分と同じ思考で動いていることを理解出来ている。そして、今までやったことがなく、磯波でもやれそうなことをやろうとした。それが、相手の砲撃に関わること。
「『屈折』」
敵の弾に自分の弾を当て、砲撃の角度を変更。その弾が向かった先は、勿論沖波の『影』がいる。『屈折』は想定外の攻撃以外の何物でもない。あれだけ避け続けた沖波の『影』も、これは回避出来ずに直撃した。
元々、菊月の『心眼』を模倣することが出来る程に観察力が高いのだから、やろうと思えば、それこそ由良さんがやっていたような精度の砲撃を放つことも出来ないことは無かったようだ。賭けに出ていたかもしれないが、今はそれが見事に成功した。
そこで今度は私の技『屈折』の模倣。弾にぶつけることが出来れば、
「磯波ちゃんすごい!」
「私も……陽炎様のことをいっぱい見てたからね」
的確なサポートのために私達のことをずっと観察し続けてくれていた。その観察力は、『黄昏』を討ち破るきっかけすらも作った。その結果、私達のやれることを
自分1人の力では『屈折』を再現出来ないため、他人の砲撃を利用して。あらゆる方向で今まで見てきた技を自分のためのものに転化したことで、私の固有の技すらも模倣出来てしまう。これは磯波の一種の才能なのだと思う。
「……でも、浅いね。咄嗟だったし、陽炎様ほどの精度は無いよ」
直撃した沖波の『影』は、それだけでは終わっていなかった。直撃場所が艤装だったせいで、致命傷にはなっていない。『屈折』により曲がった弾は駆逐艦の主砲であるため、残念ながら威力が足りなかった。
これが艤装ではなく生身に当たっていればトドメになっていただろう。しかし、初めての『屈折』は簡単には行かなかった。
「これで警戒されちゃうよね……次は難しいかも」
磯波が危惧した通り、明らかに警戒の動き。磯波の『影』が沖波の『影』に接近し、2人がかりで片方を片付けようとする動きに変化した。
こういう戦い方は演習でさんざんやってきたものの、自分同士で戦うなんて絶対にありえない。あまりにも勝手が違いすぎる。
「私も負けていられないよね!」
磯波の奮闘を目の当たりにしたことで、沖波にも火がつく。自分の『影』との激しい撃ち合いが再開するかと思いきや、撃たずにまず魚雷を放ち、自らそれを破壊する。
大きな水柱で自分と磯波の姿を隠したところで、『空』の回避は簡単には超えられないのは自分でも理解しているはずだ。見えないところからの想定外な攻撃を狙うのはしっかり対策済み。そのため、沖波の次の行動は今までの自分の殻を文字通り
「こういうの、私のやり方じゃないけど!」
萩風のように水柱を突き破り、一気に接近した沖波。水浸しになることを顧みず、今までに一度もやったことない近接戦闘に躍り出る。しっかり眼鏡も守っていた。
全てを紙一重にする『空』の回避は、近接戦闘も当たり前のように避けるが、まず沖波がこのように接近してくること自体が想定外。深海棲艦に動揺があるかは知らないが、まず間違いなくすぐに対応出来ることではない。
「っあ!」
そしてそのまま大振りの一撃。当たり前だが接近戦はど素人である沖波の攻撃などたかが知れていたのだが、こちらを見越して作られた『影』であるが故に、この攻撃は回避出来ずに顔面に直撃。艤装のパワーアシストもあって、見事に吹っ飛ばした。
「追撃!」
さらに追い討ちをかけるように吹っ飛ばした自分に照準を合わせる。しかし、沖波の『影』は吹っ飛ばしたものの、磯波の『影』は健在。その観察眼から、仲間を守るために行動を開始し、慣れない接近戦で体勢を崩していた沖波に既に砲撃を放っていた。
今までの自分を超えるために繰り出した一撃だったが、慣れていないために簡単にはいかない。磯波の『影』からの攻撃は想定外ではなくとも、回避出来る体勢で無かったら出来ることも出来ない。
「まずっ」
故に、追撃をキャンセルし回避に専念。しっかりと紙一重で回避したが、その間に沖波の『影』は体勢を立て直しており、また堂々巡りへと戻っていく。
これで水柱を突き抜けるという行為が想定外では無くなってしまったため、より撃破が困難になった。
とことん相性が悪い。やればやるほどドツボにハマる。今までのみんなは、前のめりに戦うものだからこそ、その場で殻を破っていた。しかし、回避に特化しすぎている沖波と、サポートに特化しすぎている磯波は、そういうところでどうしても不利になる。
磯波は『屈折』の模倣という観察力の限界突破みたいなことをやってのけたが、沖波には荷が重かった。
「沖波姉……僕が、僕が助けないと……!」
そんな戦いを見ながらも、ミコトはまともに動くことが出来なかった。奮起しようとするが、手がちゃんと動いてくれない。仲間と同じ顔の敵のせいで、敵としての認識が出来ない。良い子に育ったことで、ミコトはこの場で最も弱い存在になってしまっていた。
それに打ち勝つことが成長に繋がることくらい、ミコトも理解しているだろう。そのためにみんなが鍛えてくれたのだし、私の役に立つと意気込んでこの戦場に立っているのだ。なのに、動けない。
「わかってるのに、わかってるのに何で動けないの。僕は何のためにここにいるの」
自分の『影』もいないため、相手にもされない。仲間達が死力を尽くしているのに、孤独感すらあった。
もう泣きそうな顔をしていた。自分の不甲斐なさを知った。今までとは違う負の感情に打ち拉がれて、自分の弱さを嫌というほどに感じていた。
「ミコト、どうした」
そこにいち早く自分の『影』を討ち倒した木曾さんが駆け寄る。『影』が自分のオリジナルを狙うような行動をするおかげで、木曾さんもフリーになっていた。サポートに徹してもいいが、何も出来ていないミコトが心配になったようだ。
「木曾姉……僕、僕どうすればいいの。敵なのに、みんなの顔してるから、攻撃出来ないよ……。しようと思ったけど、やっぱりダメだった」
「お前は優しすぎる。ありゃ敵だ」
そんなことわかっていると言わんばかりに視線を泳がすが、木曾さんは淡々とミコトに話を続ける。
「いいか、俺達がアレを食い止めない限り、俺達と同じ顔の連中が、世界を滅ぼそうと乗り出しちまう。それでいいのか」
「良くない! そんなの良くないよ!」
「だろ。だからぶっ倒すんだ。躊躇ってたら勝てるもんも勝てねぇ。よく見ろ」
木曾さんが指差す先は、沖波が自分の『影』と戦う場面。
「お前の知ってる沖波はどんな奴だ」
「お母さんのことを一番知ってて……すごく優しくて……一緒に戦ってて楽しい人」
「てことは、ミコトは沖波のことが好きってことでいいんだな」
勿論これはLoveではなくLikeのこと。ミコトに前者のことは理解出来ていないとは思うので素直に受け取り、当たり前だと首を縦に振る。
「そんな好きな奴の顔が、敵に利用されていていいのか」
「嫌だ、そんなの、嫌だ!」
力強く返事する。仲間の顔の敵が仲間を殺し、仲間に取って代わって世界を滅ぼそうとする姿を想像したとき、優しいミコトがそれを許せるだろうか。答えは否だ。
「だったらやることは決まってるだろ。お前の好きな奴の顔を利用している連中は」
「ぶっ倒す!」
「そうだ。今がその時だ。沖波がジリ貧だからな。ミコト、行け!」
「うん!」
木曾さんの叱咤激励は的確だった。ミコトの抵抗する心を解きほぐし、心に火をつけ、正義感を成長させた。同じ顔を使っていることに怒りを覚え、ニセモノを討ち倒すことに正当性を持たせる。
この後押しのおかげで、ミコトは吹っ切れることが出来た。どちらも同じ顔だから躊躇うのではない。ホンモノとニセモノがいるという事実をしっかりと受け止めて、ニセモノが害悪であることを理解したことで、その敵を倒すという抵抗が霧散していく。
「沖波姉のニセモノなんて、ここからいなくなれぇ!」
吹っ切れてしまえば、そこからは早かった。みんなから受けた訓練の全てが役立つ。ようやくミコトの初陣が始まるのだ。
自分の『影』との戦いは、私達の成長に繋がる一手になっている。これは太陽の姫の誤算だろう。木曾さんがいなかったら全て瓦解していた可能性はあったが。