異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
木曾さんの言葉により、ミコトが吹っ切れることが出来た。大好きな仲間達の顔が敵に利用されていることを良しとしてはいけないと理解することが出来たことで、同じ顔の敵に対して怒りを覚えることが出来たのだ。
優しすぎるミコトには難しいことだったのかもしれないが、一度その事実を理解することさえ出来てしまえば、ミコトはもう悩まない。むしろ今からは、優しすぎるからこそ怒りを露わにし、卑怯な真似をしている『影』を叩き潰そうと躍起になっている。
「沖波姉のニセモノなんて、ここからいなくなれぇ!」
同等の技を使うせいで戦いが膠着していた沖波の戦場に乱入したミコトが、沖波の『影』に対して接近戦を仕掛けた。
元々レ級であることを活かした、尻尾を大きく振りかぶった渾身の一撃を繰り出したが、沖波の『空』の回避により紙一重で避けられてしまう。だがミコトは追い討ちせず、まずは仲間達の守護を優先する。
「ミコトちゃん!?」
「ゴメン沖波姉! 迷いすぎてた! ニセモノが好き勝手してるの、僕許せないから!」
先程までとは打って変わって凛々しい顔で、沖波と磯波の前に躍り出た。敵はその2人と同じ顔をしているが、もう迷いは無い。敵を殲滅するため、陽炎の巫女として仲間のために戦うと決意していた。
後衛寄りな力を持つ沖波と磯波のコンビに前衛を担うミコトが加わり、この戦況は一気に変化する。3対2という数的有利を得たことで、沖波と磯波の心にも余裕が出来ていた。今までの膠着が、これにより大きく覆されることになるだろう。
これに対する沖波と磯波の『影』は、一切表情を変えずに3人を見据えているのみ。同じように後衛寄りであるため、こうしている間に攻撃を仕掛けてくるようなことをしてこない。ミコトが加わったからか、やけに慎重。
「僕が前に出る! 沖波姉と磯波姉は」
「ミコトちゃんを援護する。任せて」
「これで相性不利が覆せるね……ミコトちゃん、お願い」
軽く作戦会議をした瞬間、ミコトの尻尾が前に伸びた。そこからやることなんて決まっているようなものだ。
「じゃあ、行くよ!」
挨拶代わりの砲撃から戦闘再開。もう躊躇いもなく、直撃ルートで放っていた。最初の狙いは沖波の『影』。
当然それだけでは『空』の回避で避けられるだろう。それに、放った瞬間に磯波の『影』がミコトに狙いを定めている。撃った瞬間が隙だらけになるのは誰にだってわかっていることだ。当然ミコトも。
しかし、ミコトは避けることすらしなかった。何故なら、心強い仲間がミコトを守ってくれるからだ。
「『屈折』」
その『影』の砲撃を利用して、磯波の模倣『屈折』。磯波の放った弾は、ミコトの砲撃を回避した沖波の『影』に向かって曲がる。
撃った瞬間が隙だらけになると同時に、回避が終わった直後も大きな隙になるのは理解出来ることだ。磯波はそこを狙い撃った。自分の『影』がミコトを狙うことを先読みして。
ミコトに向かう砲撃をあらぬ方向に逸らしつつ、自分の砲撃を捻じ曲げるという攻防一体の『屈折』は、もしかしたら私、陽炎のそれ以上の効果を持っているかもしれない。
しかし、間髪入れずに回避を連続使用した『影』が、模倣『屈折』すらも紙一重で回避した。沖波本人もやらないことはないが、疲労が一気に蓄積されるためになるべくやらないようにしている連続使用。
「避けるよね、私だもん。だから狙いどころもわかる」
そこへ沖波も砲撃。ミコトの砲撃を回避することを予測し、それに対して磯波の『影』がミコトを狙うことを予測し、それを利用して磯波が模倣『屈折』を放つことも予測し、それをさらに回避することまで予測した。
沖波の扱う『空』の回避は、敵の動きを事前に予測し、放った時には既に回避が済んでいるという回避術。つまり、沖波はこの戦場で想定外でなければ
ならば、
「よし」
その狙いは見事に的中。3人、いや、磯波の『影』まで含めた4人が同時に動いたことで、結果的に沖波の『影』に対して沖波の砲撃が当たることになった。
とはいえ回避に回避を重ねていた瞬間であり、沖波が今までとは逆の予測を初めて繰り出したこともあり、直撃とまでは行かず。掠めたことで脚の一部を抉った程度。だが充分すぎる進展。
磯波と2人だけなら出来なかった展開。ミコトが加わり余裕が出来たことで、本来の自分の長所を伸ばすことが出来た。先程までのジリ貧状態ではこうもいかない。回避を攻撃に転化させているのだから、先手を打てる1人目の追加が必要だったのだ。
「ナイス沖波姉!」
片脚を削いだことで、明らかに動きが鈍くなる。『空』の回避にも支障が出る範囲の負傷のはずだ。
ここですかさずミコトが動き出す。負傷した瞬間に沖波の『影』に接近するために海面を蹴っていた。接近戦については木曾さんと神州丸さんから教わっているため、この接近も的確なタイミング。
だが、やはりそこで磯波の『影』が即座に反応する。ミコトの動きを止めるため、確実に足止め出来るであろう脚を狙っての砲撃と、そのまま侵攻することを止めるための雷撃まで繰り出していた。
「私って……あんなに面倒なのかな……」
そしてそこに重ねるのは磯波本人。自分の『影』の動きを気にしているようだが、実際相手をすると磯波の動きはこんなもの。隙を見つけ、即座に反応し、そして確実に嫌なところを突く。今回もそれだった。
自分の『影』なら脚を狙うと最初から予測済み。『影』の放った砲撃をしっかりと弾き、さらには『屈折』により自分の砲弾が下へカーブし、同時に放たれた魚雷を撃ち抜いた。1つ破壊されれば周囲の魚雷を巻き込んで爆発するため、1回の砲撃により『影』の攻撃を全て失わせる。
これでミコトを遮るものは無くなる。あとは沖波の『影』の回避能力のみだが、そこはミコトの力があればどうとでもなるだろう。想定外以外は全て回避するかもしれないが、ミコトの存在自体が想定外なのだから。
「沖波姉の戦い方は知ってるんだから!」
まずは大振りの尻尾による近接戦闘。自分の前を全て薙ぎ倒すためのそれは、紙一重で避けようとすると下がるしか無くなる。そうすると、『空』の回避のもう1つの弱点が露見するのだが。
紙一重で避けるということは、敵の攻撃をスレスレで避けるということ。その攻撃が強烈であれはあるほど、その衝撃は大きくなるのだから、回避になりきれなくなる。ミコトの尻尾は大質量の一撃であるため、紙一重なんてやろうものなら確実に体勢を崩すことになる。
「いくら深海棲艦だったとしても、そんな簡単には避けさせないよ!」
薙ぎ払いは回避されたが、その風圧で体勢を若干崩した。その隙を狙い、身体をもう1回転させて尻尾の照準を沖波の『影』にピッタリと合わせる。元レ級なだけあり、遠心力を感じさせないようなビタ止まりである。
真正面からの砲撃の構えに、沖波の『影』は即座に『空』の回避。放った時には既に避けた後という状況を作り出そうとしたが、ミコトはレ級なのだから、このモーションから複数個の攻撃パターンがある。今回選んだのは砲撃ではなく艦載機。
真正面に向けて艦載機を発艦させ、爆撃ではなく特攻させた。それはそれで質量兵器になる。しかも、艦娘の艦載機とは違う深海棲艦の艦載機に酷似しているため、まるで鳥の群れのように『影』を呑み込んでいく。
「これだけやれば、もう避けられないでしょ!」
群れがまとわりついているような状態なので、もう『空』の回避は不可能。こんな形で沖波を封じることが出来るのは、おそらくミコトしかいない。
普通の艦載機は低空で発艦したとしても、まとわり付くような飛行なんて出来ないし、そもそもその場に留まるということ自体ができない。しかし、ミコトの艦載機は深海棲艦準拠であるため、まるでドローンのような挙動である。
おそらくこれは、空母隊の面々が仕込んだ技。本来出来ない空母の技が出来るからこそ、自分達とは大きく差別化する方向で育て上げていた。
「沖波姉の顔を使うなんて許せない! そのままぶっ倒す!」
その状態を作り上げて、改めて照準を合わせた。こうなったら次に何が来るかは予想するまでも無い。
撃たれたら死ぬということが理解出来たからか、沖波の『影』がほんの少しだけ怯えたような表情を見せた。それがミコトの怒りにさらに火をつける。
「そんな顔したって許さない。みんなの、仲間の顔で悪いことしてるんだ。後悔して死んじゃえ!」
一切の容赦無く、主砲を撃ち放った。寸前で艦載機の群れが散り、砲撃に巻き込まれるのは沖波の『影』のみ。並の戦艦主砲の威力ではなく、掠るどころか直撃したのだから、駆逐艦の外見ならば消し炭すら残らない。
砲撃が通り過ぎたところには影も形も無く、粉々になった艤装の一部が浮かんでいるのみ。『影』を一撃の下で粉砕したことを如実に表していた。
「次、磯波姉の顔の奴」
怒りはまだ冷めないと言わんばかりに磯波の『影』の方を向く。磯波同士で激戦を繰り広げているようだが、案の定どっちつかずの攻防。お互いが観察力に長けていることで、戦いは嫌でも長期戦になる。沖波が加われる状況になってようやく押せ押せで行けるようになったが、それでもなかなかに厄介。
「沖波ちゃん、撃って」
「了解。どの辺?」
「左側」
ここで2人の連携。沖波が『影』の少し左側に撃った瞬間、磯波の砲撃が重なり『屈折』となる。私のように主砲を2つ持っているわけでは無いため、1人で屈折をすることは出来ない。それ故に、仲間の砲撃を無理矢理曲げて、敵にぶち込む。
磯波の『影』も、観察力が高かろうがこれは簡単には避けられない。曲がった砲撃はその肩を撃ち抜き、主砲を持つことが出来なくなった。
「人の顔であまり悪いことをしないでほしいです。ミコトちゃん、どうぞ」
「はぁい。磯波姉の顔を使うとか、許さないから!」
そこにミコトの魚雷が放たれた。普通の量ではない雷撃が全て磯波の『影』に向かって突き進み、避けられる範囲でも無く砲撃では破壊することも出来なくなったことで、その全ての爆発が『影』を呑み込んだ。
水柱が消えた時には、沖波の『影』と同じように影も形も無くなっており、艤装の一部が浮かんでいるのみ。
「よし、よしよしよし! 僕、出来たよ! みんなの役に立てた!」
「うん、本当にありがとう。ミコトちゃんがいなかったら、私達あのままジリ貧だったかも」
「成長出来ても相性が悪かったら……あそこまで苦戦するんだもんね」
ミコトの初陣は最初はガタガタだったもののしっかり勝利で幕を閉じそうだった。仲間がいたからこそ立ち直ることが出来たし、その存在が仲間の成長を促すことになる。
ミコトの存在は周囲にも影響を与えていた。陽炎の巫女として、確実に一歩以上の前進が出来ている。
残りは私と衣笠さんが相手をする自分の『影』。脱力回避まで備えた私の『影』と、全自動防衛まで備えた衣笠さんの『影』である。
攻撃が当たらず、当たる可能性のある攻撃は全自動防衛により無効化。そしてそれはこちらも同じという、沖波達の戦い以上に不毛な戦いになっていた。私達もこの場でさらに先へ進まなくてはいけない。『屈折』以外の攻撃の技が必要だ。
太陽の姫の対となる者として、奴に立ち向かえるようにするため、この場でもう一皮剥けなくては。