異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
木曾さんの叱咤激励により覚醒したミコトの奮闘により、沖波と磯波の『影』は撃破された。相性の悪かった戦いだったが、ミコトが加わることで沖波も磯波も成長を見せ、ジリ貧だった戦況を一気に引っくり返すことが出来たのだ。
これで残すは私、陽炎と衣笠さんの『影』のみ。自分で言うのも何だが、私達の『影』は非常に厄介で、こちらからの攻撃は脱力回避で避ける挙句、それ以前に衣笠さんの『影』の全自動防衛によって妨害されてしまい、攻撃が全く効いていない状態。
衣笠さんの『影』を優先して狙おうともしているのだが、今度は私の『影』がそれを妨害してくる。脱力回避どころか『蜃気楼』まで使われて翻弄され、『屈折』まで繰り出してくるのだから困った。幸い、衣笠さんのおかげで被弾は免れているが、気が気で無かった。
「私ってばホント厄介だね!」
「言えてる言えてる。衣笠さんたら敵に回すとこんなに厄介だなんてね!」
「訓練の時思い出すよ」
2人して自画自賛のような皮肉。話しながらも攻撃の手は緩めていないのだが、やはり私達の攻撃はまともに当たってくれない。
お互いに同じことをやり続けているため、不毛な戦いが続いている。強いて言えば、あちらは深海棲艦であるために、フィジカルはあちらの方が上。このまま続くとそのままジリ貧である。そうなる前に、私達も一皮剥けなければならなかった。
だが、何をどうすればこの状況を打破出来る。脱力回避よりも全自動防衛よりも速く力強く攻撃に転じることが出来れば、一矢報いる事ができるか。
「いつも無意識ばかりだったし、ちゃんと自分の意思で見てやりたいんだけど……」
「それ言ったらこの衣笠さんもなんだけどね。防衛は無意識だからさ」
脱力して艤装に全て任せることで、私の意思を無くして身体が勝手に移動する脱力回避と『蜃気楼』。意識はしているものの、曲げるための2撃目は艤装に任せた『屈折』。他者の危険を察知した瞬間に身体が動いて防衛する全自動防衛。私も衣笠さんも、全ての行動が無意識下で行なわれる。
重要な技に自分の意思が介入しないというのが、利点でもあり欠点でもあった。やりたいと思った時にやることが、それに対しての行動では無く自分の意思を無くすこと。それが一番反応速度も速くなり、考える前に動いているから勝てる。
「どうしたもんかね!」
またもや衣笠さんが動いて私を防衛。『屈折』を狙った私の『影』を事前に察知し、先んじて砲撃。衣笠さんの『影』もその危機に自動的に反応して衣笠さんを止める。だが、私の『影』は『屈折』をすることなく『蜃気楼』。こともあろうか衣笠さんに急速接近をした。
全自動防衛を誘発させ、それを衣笠さんの『影』がさらに全自動防衛、そこに重ねてさらに『蜃気楼』と、衣笠さん潰しに2人を同時に使ってきた。事実、衣笠さんの『影』の防衛は衣笠さん本人に当てるつもりはなく、私の『影』の行動をサポートするための威嚇射撃みたいなものだった。
衣笠さんは他者への防衛に特化しているため、自分の防衛は二の次。これが一番の弱点である。自分の防衛に特化している私には、それに即座に反応出来なかった。
反応出来ていたとしても、この一瞬の判断の遅れで衣笠さんはやられる。私の『影』に致命傷を与えることが出来たとしても、衣笠さんはまず間違いなく重傷、最悪死である。それだけは許されない。誰一人として死んではいけない。
「ちょっ!?」
振り向いて照準を合わせて撃つという段階を踏んでいては、私の『影』の攻撃をキャンセルするには間に合わない。私が『影』を撃ち抜いている頃には、衣笠さんはやられている。むしろ近付きすぎていて、精密射撃を繰り出したとしても衣笠さんに被害が及ぶ。
もうダメだなんて思っていない。助けなくてはと思考を巡らせる。だが、それでは
その瞬間、
光景に驚いている暇なんてない。神様がくれたかのようなこの時間に感謝しながら、私は衣笠さんに駆け寄る。衣笠さんも私の『影』も、私が動いている間は物凄くゆっくりと動いていた。衣笠さんの『影』が放った砲撃は、弾がどう動いているかが視認出来る程だった。
「衣笠さん!」
まだ私の『影』が砲撃を放つ前。おそらく直前。手持ちの主砲を持ち上げつつ、備え付けの主砲が衣笠さんに狙いを定めようとしている瞬間。まだ照準を合わせ切っていない。
食い止めるために私も動きながら主砲を構える。やたら主砲が重く感じたが、知ったことではない。衣笠さんを守るため、それくらい軽いものだ。
「っ!?」
私が放った砲撃は『影』の主砲を撃ち抜き、さらにはその速さのまま脇腹を蹴り飛ばす。その全てが見事に決まったおかげで、衣笠さんは無傷であり、私の『影』がその場から吹っ飛ぶことになった。
今の感覚は何だろう。衣笠さんを救おうとした瞬間に、周りの時間が遅くなったように思えた。やった後に自分が一番驚いていた。
「陽炎、『蜃気楼』の最中に砲撃出来るようになったの!?」
今までそんなことは出来なかった。回避のために力を全て抜いており、無意識の間に回避を全て終わらせるのがあの回避だ。砲撃なんて出来るわけが無い。そもそも照準を合わせるための意識が無いのだから。
なのに、衣笠さんからしてみたら、私は『蜃気楼』による高速移動を繰り出し、それが終わった時には『影』を蹴り飛ばすと同時に主砲を砲撃で破壊していた。
「い、今が初めて。というか、私『蜃気楼』やってた?」
「衣笠さんにはそうとしか見えなかったよ。助けてくれてありがとね!」
喜んでもらえたのなら何よりだし、救えたのだから私も嬉しいのだが、今の感覚はまだ謎。『蜃気楼』をしていたと言うのだが、私にその感覚は無かった。周囲の時間が遅く流れる中、衣笠さんを救うために出来ることを全てやったに過ぎない。
しかし、救うために行動したため、今の攻撃はまだ浅い。まだ『影』は戦える状態だ。しっかりトドメを刺さなければ。
「でも、またジリ貧に戻るんだよね。どうしたもんかな」
あちらも私の『蜃気楼』に追加で警戒するようになる。そうなると、いきなり攻め込んでくるということは無くなるだろう。
ならば、今の感覚の謎を解き明かして、この場で使いこなす。まだあちらが知らない私だけの特性、必殺技だ。奴らに勝つにはこれしかない。
「さっき、今までに無い感覚があったんだ。周りの時間がとんでもなく遅くなったような、そんな感覚」
戦いながらもヒントを掴むため、衣笠さんに説明をした。私とは違った視点から何かに気付いてくれるかもしれない。当事者と第三者なら、さっきの私の見え方が変わる。
「ならさ、もう一度『蜃気楼』を使ってみたらどうかな。陽炎って、一度使うと身体が覚えるでしょ」
確かに、今までもそうだった。一度使った技能は二度目以降もそれと同じになる。最初は海上移動の時からだった。脱力回避も、それこそ『蜃気楼』も『屈折』も、やれると思ったらもうやれた。身体がそのように動いてくれる。これも無意識のうちだとは思うが、今考えれば私の
艤装に引っ張られる脱力回避だって、まずそもそも力を抜くことを戦場のど真ん中で悠々とやれるというのが普通では無いのではと自分でも思った。力を抜けというアドバイスがあったとしても。
「よし、これが私の覚醒だというなら、もう一度やれるはず。やってみる……!」
言われるがままに脱力。『蜃気楼』をやる前提での行動。移動先は私の『影』の真正面であり、さっきと同じことが出来るのなら、私の動きを捉える間もなく撃ち抜く。
「っし」
再びあの感覚へ。やはりこの土壇場で『蜃気楼』が成長、進化している。きっかけは衣笠さんの危機。一度目覚めたものは、その前には戻らない。いいことか悪いことかはわからないが、今はいいことだと思いたい。
時間がゆっくりゆっくりと流れる。私の動きを見計らって、私の『影』も『蜃気楼』の体勢。おそらく、私と同時に海面を蹴っている。
無意識下で決めた場所に移動する技なのだから、その一点を見据えて超高速移動を実行する。それは私もだ。全く同じタイミングでそれを開始したのだから、本来なら私が向かいたいところから『影』はいなくなっており、『影』は私のいてもらいたくないところに移動している。
だが、今は違う。時間がゆっくりと流れているおかげで、その『蜃気楼』の移動経路から到着地点までもが、全て手に取るように理解出来た。『蜃気楼』をする『影』だけが普通の動きに見える。
「そうか、そういうことか」
ここでようやくピンときた。私は『蜃気楼』をするときは基本的に無意識。脱力した瞬間に移動が終わっており、私の意思は関係なく始まりと終わりだけが私の中に残っていた。
なら今のこの空間は、その始まりと終わりの隙間。
この瞬間に意識があるということは、本来向かおうとしていた場所を急遽変えることだって出来る。さっきのように腕を動かし、移動中に砲撃をすることだって出来る。
「こっち!」
本来の移動先から急遽変更し、私の『影』の移動先へ向かう。あちらは無意識下なのだから、私がそうしたことには気付いていない。無論、衣笠さんも、その『影』にも知覚出来ていない。私だけの時間。代わりに身体への負荷が今までとは比べ物にならなかったが、身体が悲鳴を上げるほどではないのは脱力しているからかも。
移動の速度はあちらも普通に見えるのだが、私が向かっても避けようという意思が見えない。無意識なのだから当たり前。
衣笠さんの全自動防衛は、私の脱力回避や『蜃気楼』にも追いついてくる無意識の防衛なのだが、それはどちらも無意識だったからこそ出来た芸当。見てから動いているわけではない。
それ故に、本来の動きを私の意思でねじ曲げたことで、全自動防衛の矛先からも逸れてしまった。結果、私の『影』は衣笠さんの『影』に守られることはない。
「なるほどね、これでおしまい」
私が主砲を構えても、避けようとしない。こうなってしまうと、ただの訓練である。今までさんざんやってきた、移動する的に向かっての砲撃だ。
「アンタのおかげで、私はまた1つ強くなれたよ。アンタも私みたいなものなんだから、感謝だけはしておく」
頭を撃ち抜くように砲撃を放ち、『蜃気楼』は終了。私の周囲の時間が普段通りに流れ出したかと思うと、その空間中に放った砲撃が私の『影』の頭を吹き飛ばしていた。頭部を失った時点で消滅。これで私の『影』は撃破。
「衣笠さん、あとそっちだけ!」
しかし、身体にどっと疲れが来た。1回目はまだしも、2回目は意識してのそれだ。長門さんや陸奥さんがいうクールタイムの意味がわかったような気がした。
これはすぐに『蜃気楼』を使えるような状態ではない。数分数秒だとは思うが、身体を休ませる時間が必要。
とはいえ、残すは自己防衛に関しては平凡な衣笠さんの『影』のみ。これならば、言っては悪いが最も倒しやすい状態になっているだろう。仲間がいるからこそ光り輝く衣笠さんから仲間を奪ってしまえば、それはもう終わり。
しかし、私が離れたことで仲間が近くにいないのは衣笠さんも同じこと。単独戦闘ではまた不毛な戦いになる。
「俺が援護に入る。陽炎、安心しな」
そしてその瞬間、戦場を動き回っていた木曾さんが私の代わりに衣笠さんの側に立っていた。最初のきっかけを作り、ミコトが吹っ切れる助言をし、そして衣笠さんに必要な相方になる。
今回のMVPは間違いなく木曾さんだ。木曾さんがいなかったら、まだ戦闘は続いていただろうし、下手をしたら押し込まれて撤退を余儀無くされていたかもしれない。
「ガサさん、援護頼むぜ。さっさと終わらせる」
「了解。仲間がいないと輝けないからね衣笠さんは」
「いいことじゃないか。艦娘の心得を体現してるみたいで、カッコいいと思うぜ」
そのまま木曾さんが押し込んで衣笠さんの『影』を追い詰めた。木曾さんに対しての攻撃は全て衣笠さんが止めきり、衣笠さんを狙おうとするも木曾さんが近接戦闘を繰り返すためにそんな暇も与えない。
この2人は最も相性のいいコンビかもと思えた。2対1という状況もあるが、とにかく息が合っている。どちらもそういうことに適しているのか。
「終わりだ。コイツで最後だからな」
そして、トドメと言わんばかりに木曾さんの軍刀が衣笠さんの『影』の首を刎ねることでこの戦いは終わる。
これでようやく太陽の姫との決戦に向かえる。足止めとしては最上級の敵だったが、結果的に私達の成長を促したのだから、慢心か誤算かのどちらかであろう。太陽の姫のおかげで、太陽の姫を倒せる手段を増やすことが出来た。
支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/89554993
MMD静画のアイキャッチ風ネルソン。戦闘中は勇ましいけど、普段は何処か面白いお馴染み閣下。リンク先にはデキる女をスカウトする場面があるのでどうぞ。