異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
哨戒中に深海棲艦を発見し、私、陽炎の初陣となってしまった。その時は同じ部隊にいた隼鷹さんの艦載機による爆撃や、旗艦衣笠さんと沖波の砲撃により殆どの敵を撃沈し、残った手負いの1体を私が撃沈することに成功。初陣は勝利という形で幕を下ろした。
1体は私の手で倒すことが出来たのはとても大きな経験となった。勝利のイメージが身に付いたことにより、今後の活動に自信がつく。
その後の哨戒では深海棲艦の出現は無かった。一度出現したということで、隼鷹さんが念入りに哨戒機を飛ばしたが、何の反応も無し。1体現れたら何体も現れるという可能性も懸念していたが、今回は無し。
だが、それは今だけで後から現れる可能性もあるため、鎮守府経由で工場の方にも連絡してもらい、緊急時に備えてもらうことにしたらしい。それが命を守る一番の方法だろう。
「鎮守府が見えたね。これで午前中の哨戒はおしまいだよ」
水平線の向こうに見覚えのある建物が見えてくる。その存在が目に入ると、ホッとするような感覚。出て行ったのだから帰ってくるのは当たり前のことなのだが、命懸けの戦場から居場所に戻ってこれたことに心底安心出来る。
「陽炎、お疲れ様。いい初陣になったんじゃないかな」
「うん、ホントに。工場長に会えたことも良かったし、戦いに勝てたのも良かったかな」
衣笠さんに聞かれたため、素直な気持ちを言葉にした。おそらく悪いこと無しだ。
「今日は私達が哨戒当番って形になってるから、午後も同じメンバーでもう一周するよ。同じ方向でね」
「ん、了解。今からお昼休み挟んでもっかいってことね」
「そゆこと。お風呂も使っていいからね。お昼はガッツリ食べておいた方がいいよ」
戦闘を経験したということで、思った以上に消耗していると脅された。今は艤装の効果で空腹も最小限にしか感じないが、いざ外したら一気に感じるとのこと。戦闘中に邪魔になる感覚を一時的に薄めているというのは痛覚や疲労だけではないらしい。
「お帰り。じゃあ衣笠と隼鷹、ちょっと来な」
工廠に戻ると、先日のように空城司令が待ち構えていた。戦闘があったことを事前に聞いているため、その状況確認をするためだろう。旗艦の衣笠さんと、艦載機で確認している隼鷹さんが呼び出されたのだからその考えは間違っていなそう。
艤装を置いた衣笠さんと隼鷹さんを連れて奥の部屋に行く前に、初戦闘となった私の方へ。
「陽炎、哨戒中に戦闘になったようだね。どうだった、素直に言いな」
真剣な顔で問われた。もし嘘をついた場合は殴られるのではという威圧を感じる。そんな状態で私は隠し事なんて出来ない。隠すことなんて1つも無いが。
「……正直、最初は怖かったし、あいつらを斃さないとって気持ちでいっぱいになった。そのままにしたら工場の人達が危ない目に遭うわけだし、それに……私の仇みたいなものだし」
「ふむ……そうかい」
「けど、由良さんに落ち着けって言ってもらって、深呼吸して、冷静になれたと思う。手は震えてたけど、訓練を思い出してちゃんと戦えたんじゃないかな。怖かったけど」
私の回答は、満点とは行かないまでも空城司令には満足出来るものだったようで、ニンマリ笑って頭を撫でられた。
「その怖いって気持ちは絶対に忘れるんじゃないよ。乗り越えるんじゃなく、
「……了解。怖いから命が大切って思っていられるんだよね」
「そうだ。死ぬくらいなら逃げればいい」
恐怖を忘れるなと、空城司令直々のお言葉。忘れたら無茶無謀もやってしまいかねない。艦娘として、それが一番ダメだ。命懸けでも命を捨ててはいけない。
「よし、じゃあ今は身体を休めることだ。風呂と昼飯で回復出来る」
「うん、そうする。午後も頑張るよ」
「ああ、頑張んな」
空城司令の激励はそれだけで元気になるような感覚だ。精神的な疲労が掻き消えた。そしてその分、空腹感が倍増する。艤装も外したことで、腹の虫が鳴いてしまった。磯波が若干危険になりかけたが、生理現象であるためにツボにハマることは無かった。笑われても困る。
昼食後、改めて午後の哨戒が開始される。コースは午前中と全く同じとは行かず、少し大回りするルート。領海ギリギリまで進み、入念に調査される形になった。一度戦闘を行なった場所は特に入念に。
まずはあの工場の前をチラッと通るのだが、警戒態勢を要求されたからか人の気配が無いように思えた。危険を回避するために半ドンとなっているのかも。
「うん、あれなら安心だね」
「おっちゃんとは一緒に呑むのは楽しいんでね。路頭に迷わさせるわけにはいかないさぁ」
動機は少し不純ではあるものの、どんな理由であれ人を守るには変わりない。むしろ復讐よりは余程明るい内容かもしれない。褒められたものであるかはさておき。
そもそも一度倒したのだから、諦めてここに出なければいいのだ。二度と来なければ、工場の人達が危険な目に遭わなくなるのに。
「ちょいと念入りに確認するんだったね。じゃあ飛ばすぜぇ」
艦載機を飛ばすが、午前中よりも少し多め。万が一近くに深海棲艦の
深海棲艦に巣があることは、一般人にも浸透している事実。巣の主も当然深海棲艦。巣自体は陸上というか島として海面に突き出ているものもあれば、名前通り深海に存在しているものもあるそうだ。
化け物のような深海棲艦は、単発で現れる『野良』と、巣の主がコントロールする『斥候』の2種類に分かれる。前者ならさっき倒したことでもう何も起きないのだが、後者だった場合は困る。同じ場所に何度も何度も現れることが確定し、巣そのものを壊滅させなくては止まることを知らない。
酷いことに、巣の発生はランダム。何か法則性があるのではと研究されているらしいが、まだ答えは出ていない状態。そもそも島となった巣ならまだしも、海底の巣は調査することも難しいのだ。巣そのものが移動するという噂もあるくらいである。
「海の中は見えないからねぇ。少なくとも突然出来た島みたいなもんは無いね」
海底に巣が出来たというのなら、それこそ発見は困難だ。まずは近場で何度も深海棲艦を目撃したりすれば、近辺に巣があると見て間違いが無くなるのだが、今回はここいらで1回目の遭遇。野良か斥候かの判断は難しい。
「うちに潜水艦が居れば一発かもしれないけどね」
「そりゃあ無い物ねだりってやつだねぇ」
鎮守府にはいない潜水艦という艦種の艦娘で巣を探すとなると、相当危険な任務になるのだろう。
潜水艦というくらいなのだから、ダイバーか何かだろうか。実際に見たわけでは無いのでどんな人達なのかはわからないが、もしかしたら艤装を着けていたら無限に潜れるとか、水圧を受けても身体に影響が無いとか、そういう人達なのかなと思う。
「だから、整備員の人達がこういうの作ってくれたんでしょ」
そこで衣笠さんが手に取ったのが、小型の深海探査艇。艤装にくくりつけてあったのだが、それは海防艦達と対潜訓練をしたときに使っていた潜水艦ラジコンに酷似していた。
なるほど、潜水艦がいない鎮守府だから、こういう形で巣を探すわけだ。潜水艦にやってもらうよりは安全な気がするのだが。攻撃が出来ないため即座に巣を潰すということが出来ないので一長一短かも。
「それじゃあコレ潜らせるから、周辺警戒よろしくね」
対潜訓練で使ったそれと同じように、ラジコンのように操縦しながら海中を調査していく衣笠さん。深海探査艇からの映像を見なくてはいけないため、衣笠さんは殆ど目隠し状態。海の真ん中なのに視界を潰しているため、もしこの状態で確認している外から敵が現れようものなら、集中砲火を受けてしまう。
私達は衣笠さんを守るために周囲を回りながら警戒。若干緊張感が漂うが、まず隼鷹さんが艦載機で周囲を見てくれているため、敵が来ていないことは先んじてわかっている。
「うーん、今見てる感じ、午前中の奴らは野良っぽいね。巣っぽいものは見当たらないよ」
しばらく調査をしたが、巣らしきものは見つからないようだ。その巣がどういうものかはわからないが、哨戒の熟練者がそういうのだから、私には信じるしか無い。
「近場を念入りに見ていこう」
今度は午前中の戦場を通過して哨戒ルートを進んだ後、さらに海中を調査し続ける。その間、私達は常に周辺を警戒し続ける。
改めて周りを見ても、本当に何もない。見晴らしもいいし、周囲全てが水平線に囲まれているというような場所だ。戦闘中は必死だったが、こうやって見ると思ったより癒されるような風景だ。仲間達が周囲にいるが、世界中に私達しかいないような錯覚を抱く。それがいろいろな感情を沸き立たせる。
「異常は無いねぇ。やっぱ野良っぽいかね」
「海中も異常無しかな。何の痕跡も無いよ」
衣笠さんと隼鷹さんが確認したことで今回は野良であったと結論づけて調査を終了することになる。この調査が行なわれたことで、哨戒の時間は既に倍近くになっているわけだが、これは仕方のないこと。
とはいえ、定期的に念入りな調査は必要だと思う。今この周辺には巣が無いというだけであって、領海内に何かしらの痕跡が残っている可能性はあるし、見過ごしたところで巣が出来てしまうなんてこともあり得る。それに、巣はさらに遠いところにあって、わざわざここまで足を延ばしてきた、なんてことだって考えられるだろう。
「よし、じゃあここからはまた午前と同じように進んでいくよ」
本来の哨戒任務に戻る。ここからはただただ何も無い海を眺めるだけの任務。それはそれで心が穏やかになる。戦闘さえなければここまで静かな海。
私達は、こんな風景を誰もが見える世界を取り戻すために戦っているのかもしれない。
鎮守府に戻ると、また衣笠さんと隼鷹さんが空城司令に連れて行かれた。今回の調査結果を理解しているのはこの2人。私達は周囲を警戒していただけなのだから、何も見えていない。
故に、私達はそのままお風呂に行くことになった。今回は戦闘をしていないため、艤装を下ろしても大きな疲労は無かった。疲れていないわけではないが。
「あ、帰ってきた!」
ちょうどそこで夕立とかち合う。ちょっと不機嫌そうな顔をしているのは、今回の哨戒に参加出来なかったことが不服であることを表しているのだろう。行けないことで駄々をこねたと言っていたし。
「夕立も行きたかったっぽい!」
「司令が決めたことなんだから諦めなよ」
「うー、ゲロちゃんの初陣に参加したかった!」
拳をブンブン振って感情を露わに。私と同い年だとは思うのだが、言動が子供っぽいのは夕立の可愛いところなのだろう。裏にいろいろありそうで触れるのが怖いが。パパとのあれそれが関わってそうだし。
それに対して、由良さんが頭を撫でながら宥める。飼い主とペットみたいに見えるのは流石に伏せておく。いくら夕立相手でも失礼な話になるので。
「はいはい、夕立ちゃん、今からお風呂行くから一緒に行こうね。ね?」
「むー……それで勘弁してあげるっぽい」
由良さんに言われて、お風呂に便乗することでとりあえず落ち着いてもらうことに。まだ少しご機嫌斜めなようだが。
「今日はゲロちゃんの部屋で寝る。今日の戦闘のこと細かく教えてもらうっぽい」
「まぁいいけどさ……パジャマパーティーみたいなことしたいってことでいい?」
「それでいいっぽい」
それで機嫌を治してくれるならいいか。私を犠牲にすることになるが、まぁそれで被害があるわけでもあるまいし。
「磯波と沖波も集合。4人で夜通し遊ぶっぽい!」
「遊びはしないけど……パジャマパーティーは参加してもいいよ」
「私も。夜通しもダメだよ? 明日休日じゃ無いんだし」
結果的に磯波と沖波も巻き込まれた。自分だけハブられたというのが気に入らないのだろうから、異端児駆逐艦4人で集まれば夕立だって楽しくなれるだろう。
「パジャマパーティーなんだから、何か着てきてよ」
「ん、夕立そういうの持ってない」
だが、また裸同然の姿で来られても困る。海防艦部屋で占守と大東にいろいろされてしまった事を忘れたか。私達はそんなことしないが。
「ならこの前みたいにシャツ着てきなよ。私のスパッツとか貸したげるから」
「締め付けがあると寝づらいっぽい」
「丸出しで寝られる方が嫌だっての」
結果的に、その日の夜は私のスパッツを貸し与えることで一緒に寝る方向に持っていった。結構ギリギリまで抵抗したが、いざ穿かせたらこれはこれでと少し満足したようなので、私としては安心。胸以外は私とサイズも似たようなものだったのが幸い。
今度の任務では夕立も行けるように頼んでおこう。毎回これだと困る。
今回の深海棲艦は、巣を作るということになります。姫はその巣の主人、つまり女王蜂みたいなものですね。